多数決でいい決定が出来るための条件を求めた数学者がいました。
今から200年前のフランス、革命のさなかで民主政治に期待した男が多数決への信頼度を数学的に解明しようとしたのです。
しかし、あえて言いたい。
数学的に正しくても、行動経済学的には正しくない、と。
コンドルセの陪審定理
陪審定理とは?
多数決に参加する人が正しい決断をする確率が50%以上あれば、多数決に参加する人の参加者が多いほど正しい答えが出せる。
陪審定理を発見したのは、投票のパラドックスを発見したコンドルセです。
(Wikipediaより)
コンドルセは、18世紀フランスの数学者、哲学者、政治家。1774年から1776年(ルイ16世統治初期)にかけて財務総監ジャック・テュルゴーの片腕として政治改革に関わった人物。これから紹介する話は彼が提示したもの。
コンドルセが考えた「陪審定理」ですが、何故たくさんの人が多数決に参加すれば、正解に近づけると考えたのでしょうか?
ここからは、コンドルセの陪審定理を数学的な面、当時のフランス政治の影響の2つから見ていきます!
陪審定理の簡単な証明
まずは前提!
コンドルセが想定していた多数決は「YES・NO」で答えるタイプのものです。
次に2つの前提を考慮します。
- 多数決に参加する人が多い
- それぞれ他人からの影響を受けない
この前提があれば、つぎのことが言える。
「YES・NO」のどちらかが正解ならば、ランダムに投票すると正解が選ばれる確率は50%である。また、正解不正解の間は存在しない。
多数決で正解を選ぶためには、多数決に参加する人の正解率が50%を超える必要がある。
完全にランダムなら、正解が選ばれる確率は50%です。
逆に言えば、多数決の議題内容に詳しくない人が集まっても、間違ったほうが選ばれる確率は50%で、それは下回らない。
ただし、投票する人に内容を伝えて、しっかりと考えてもらえれば、正解を選ぶ確率は50%を超えると言える。
なので、さきほど多数決で正しい正解を選ぶために必要な条件
多数決で正解を選ぶためには、多数決に参加する人の正解率が50%を超える必要がある。
を満たすことは十分に可能だろうと、コンドルセは考えました。
さらに、多数決に参加する人が多ければ正解率は平均値になります。
みんなの正解率が60%なら、たくさんの人が投票することで多数決で正解を導ける確率を60%に近づけることが出来るという統計的な考え(大数の法則・極限定理)
また、他人からの影響を受けないと仮定すれば、この確率は揺るぎないものになると言えます。
他人が間違った答えを出しても、自分が正解だと思う方に普通は投票するので、他人の投票行動などの影響は受けない。
以上から、コンドルセは多数決で正解を導ける確率は50%を超えることが出来るので、信頼できる投票システムだと言えると考えました。
フランスの内政問題から受けた影響
コンドルセが「多数決は正解を導くことが出来る」と証明しようと思ったのには、当時のフランスの状況が影響しています。
(Wikipediaより)
こちらは社会契約説で有名な「ルソー」です。
社会の授業で聞いたこともあるかと思います。
当時のフランスは
コンドルセが活躍した1700年代のフランスは王政の時代。
国を統治するのは王様の役割だったわけです (フランス革命前はルイ16世が国を治めていました)。
しかし、時代は流れて「王政ではなく、民主制を!」という雰囲気が出始めます。
そこで哲学者のルソーが「社会契約説」を唱えます。
一般意志はつねに正しく、つねに公の利益を目ざす。
個人でも、自分の利害ではなく公共の利益を考えて行動できる(一般意思)。
このルソーの考えに影響を受けたのがコンドルセです。
ココがポイント
一般の人々でも多数決で正しい結論を導けると提示した陪審定理が、王政を変えて、フランスが民主的な国家になることに繋がればと考えていたのかもしれません。
さて、陪審定理が単なる机上の空論ではなく、そうした社会の在り方を変えようとしたコンドルセの思いが込められている事が分かったかと思います。
しかし、陪審定理が正しいのかと言えば、答えはNOです。
次に、陪審定理が正しくない理由を行動経済学の方面から見ていきます。
陪審定理は行動経済学で考えれば間違い?
さて陪審定理は、そこまで正しくないという意見は多いのですが、このブログで扱っている行動経済学から考えてみたいと思います。
①「他人からの影響を受けない」は無理
陪審定理の大きな前提として「他人からの影響を受けない」と想定していますが、実際はどうなのでしょうか?
行動経済学では「ハーディング効果」という現象があります。
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人は、周りと同じ行動を取って安心感を得ようとする群集心理が働くため、最終的に周りと同じ行動を取ってしまうことが多い。
バブル経済が発生する理由や、みんなが流行りのモノにあやかる理由として「ハーディング効果」が登場しました。
ポイント
つまり「他人からの影響を受けない」というのは、私たちが社会的な生き物である以上あり得ないのです。
ハーディング効果は「みんなで決めると失敗する理由」に繋がります。
感情的な人が周りに高圧的になり、それに従う方が良いような雰囲気になったら、あなたは自分の意見を貫けますか?
行動経済学的には言えば「それは意外と難しい」のです。
② 正解に投票する確率が50%以上あるかは状況次第
陪審定理で、もう一つ大きなポイントとなるのが「投票者の正解率が50%を超える」という点です。
残念ながら、こちらも状況次第で人が正しい選択をする確率が変わってしまうので、正しくありません。
例えば「フレーミング効果」です。
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人は、表現のされ方次第で受ける印象が変わる。その結果、選択肢の選び方も変わってしまう。
つまり、多数決の議題を相手にどう表現するかで投票者の選択が変わってしまう可能性があります。
他にも「双曲割引」などがあります。
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人はとにかく今が大事な生き物。なので将来よりも今を優先するような行動をとる。
議題が、将来のことを見据えた話になると、人によっては目先の利益を重要視した選択肢を選びかねないのです。
よく、多数決を過信して、なんでも多数決で決める流れがあります。
ココに注意
しかし、行動経済学から考えれば、陪審定理の前提などは成り立ちません。つまり、単純に多数決を過信するのは間違いなのです。
でわ、多数決は使ってはいけないのでしょうか?
実は多数決を、今以上に上手く機能させる方法があります。
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多数決を上手く進めるためには、どうしたら良いのでしょうか?
いろいろな方法がある中で、一番有力なものが「ボルダルール」です。
「ボルダルール」とは?
みんなで何かを決める時に「1位=3点」「2位=2点」「3位=1点」という風に、点数を付けて、一番点数が高かった選択肢を採用するという方法。
陪審定理は「YES・NO」だけの多数決を想定していましたが、多数決をすると言うと、たくさんの選択肢から1つを選ぶのふつうだと思います。
「ボルダルール」なら、多数決の選択肢が複数あっても問題ありません。
ボルダルールは、より多くの人の意見が投票結果に反映されるメリットがあります。
単純に多数決を過信するのではなく、どうすれば多数決を上手く機能させることが出来るのかが重要です。
あなたが組織の意見を取りまとめる時、コンペで何かを決めようとしている時、参考にしてみては?