ノーベル経済学賞を受賞したこともある経済学者アローは、私たちにこんな問いかけをしました。
「公正な選挙って実現できるの?」
ニュースとかで「アメリカの大統領選挙」「イギリスのEU離脱の国民投票」の話を見るけど、いい結果にならなかったようにも見える・・。
今回はアローが考えた有名な定理を初心者でも分かるように簡単解説!
「アローの不可能性定理」とは?
(Wikipediaより)
アローの不可能性定理とは?
多数決(投票)に参加する人が2人以上で、選択肢が3つ以上ある時は、公正な投票制度が存在しないという定理。
そもそも多数決や選挙は、みんなの意見を集約して社会が良い方向に進むために行います。
その時にどんなルールで多数決・選挙をすれば公正になるのかは重要ですよね?
例えば
明日の晩ご飯は「ラーメン」と「焼きそば」どちらにしますか?選んでください。
という話になったときに、みんな「ラーメン」が良いと思っていれば、独裁者がいなくても投票結果でちゃんと「ラーメン」が正しく選ばれるようなイメージです。
こうした公正な多数決や選挙をするためには4つの条件が必要だとアローは言いました。
公正な多数決をするための「4つの条件」
① 独裁的ではないこと (非独裁制)
ちゃんとみんなの意見で結果が決まること。誰か1人の力で結果が操作されない。
② 全員の意見が同じなら、それが結果になる (全員一致制)
みんなが「A」を望んだときに、ちゃんと「A」という投票結果になること。
③ 他の選択肢に影響を受けないこと (無関係な選択肢からの独立性)
「A >B」だったのに、「選択肢C」が追加されても「B >A」にはならない。
④ 選択肢がAとBなら、個人の意見は「A >B」か「B >A」のどちらかである (完備性)。
また、選択肢がA・B・Cとあったときに「A >B」「B >C」という投票結果があれば、もちろん「A >C」も成り立つ (推移性)。
まとめ
① 非独裁制
② 全員一致性
③ 無関係な選択肢からの独立性
④ 社会の選好関係の完備性と推移性
この4つに条件を満たすと公正な投票制度となります。
しかし、アローは「全部の条件を満たす投票制度は作れない」ということを数学的に証明してしまいました。
それが「アローの不可能性定理」というわけです。
ちなみに、特に③と④が成り立たなくなるケースがあります。③の場合はよくニュースで聞く「立候補者が乱立して票が割れる」という状況が起きます。④は「コンドルセのパラドックス」として有名です。
コンドルセのパラドックス
(Wikipediaより)
コンドルセは、18世紀フランスの数学者、哲学者、政治家。1774年から1776年(ルイ16世統治初期)にかけて財務総監ジャック・テュルゴーの片腕として政治改革に関わった人物。これから紹介する話は彼が提示したもの。
選択肢にA・B・Cの3つがあります。
投票者は3人です。
それぞれ、どの選択肢が良いと思っているかは次の通り。
Aさん:A >B >C
Bさん:B >C >A
Cさん:C >A >B
多数決(選挙)をすると、A・B・Cが同率1位になるので結論が出ません。
そこで、選択肢を2つずつで比べてみます。
まずは「A・C」から比べます
- 「A >C」となっているのはAさんだけ
- 他の2人は「C >A」となっている
なので、全体的には「C >A」と言えそうです。
2つずつ見ていったところで、答えは出せません。「C >A」「B >C」「A >B」「C >A」・・・
さきほどの公正な投票制度の条件の1つを思い出してください。
④ 選択肢がAとBなら、個人の意見は「A >B」か「B >A」のどちらかである (完備性)。
また、選択肢がA・B・Cとあったときに「A >B」「B >C」という投票結果があれば、もちろん「A >C」も成り立つ (推移性)。
これに当てはめると循環してしまうのです。
解決方法はただ1つ
誰かが独断で決めてしまうか、最初にAとBだけで投票して、勝ち残ったほうとCで投票するみたいな感じにするしか方法はありません。
ここに注目
この場合、投票の手続きの決定権を握っている場合は結果を操作できるとも言えます。
最初に「AとBで投票してから、勝ち残った方とCで投票しようよ」という決定をした場合を考えてみましょう。
AとBで投票すると、Bさん以外の2人がA >BなのでAが勝ちます。
次に、勝ち残ったAとCで投票するとAさん以外がC >AなのでCが勝ちます。
こんな感じで、最初にどれと戦わせるかを決められる人が結果を操作できるのです。
さらに詳しく
ちなみに、AとCで最初に投票すれば、Cが勝ちます。最後にCとBで投票してBが最終的に勝ち上がります。BとCで最初に投票すれば、最後はAが勝ちます。
なので、最初に決定権を持っている人とかが、結果を操作できると言えるので、独裁制を排除できていません。
どうすればより良い投票ルールが作れるのか?
アローの不可能性定理から「民主主義なんて無理だったんだ」とかの意見を言う人がいます。
アローは、あくまで4つの条件を満たす投票制度がないという事を示しただけで、民主制が実現できないことを証明したわけではありません。
アローの不可能性定理では、公正な投票ルールを実現するための4つの条件がありました。
その4つの条件の1つを少しだけ弱めると、多少は現実的な投票制度が作れるのでは?という意見があります。
ボルダルール
- 選択肢に点数を付けるやり方で投票する
4条件の1つである「他の選択肢に影響を受けない (無関係な選択肢からの独立性) 」を少し和らげて解釈する。
さきほどまでは「A >B >C」と順番を付けていました。
ボルダルールでは「A=3点、B=2点、C=1点」という風に点数を付けていきます。
そして、最後に点数が一番大きかった選択肢が勝者となります。
普通の投票制度と何が違うの?
例えば、こんなケースを見ていきましょう!
Aさん:A >B
Bさん:A >B
Cさん:B >A
Dさん:B >A
Eさん :B >A
この時に、選択肢Cが追加されることになりました。
アローの条件では「選択肢Cが追加されても、A >BだったものがB >Aになったりしない」というものがありましたが、ボルダルールではその逆転現象が発生します。
選択肢Cが追加された場合も見ていきます。
Aさん:A >C >B
Bさん:A >C >B
Cさん:B >A >C
Dさん:B >A >C
Eさん:B >A >C
この状況で普通の投票をすると「選択肢Bが3票なので勝ちになります」
しかし、これをボルダルールで集計すると・・
点数は次の通り。
1位:3点
2位:2点
3位:1点
Aは12点、Bは11点、Cは7点になり、選択肢Aが勝利します。
ココがポイント
なんと選択肢Cが追加されたことで、最初のB >Aという結果が、A >Bになってしまいました。
「アローの不可能性定理」は、民主主義が無理なんじゃなくて、4つの条件があると仮定した場合に、全部の条件を満たす投票制度が作れないという定理です。
その条件をちょっと変えれば、現実的な制度が作れるかもしれない可能性はまだある?のです。
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