社会選択論

【正義とは何か?】ロールズの『正義論』を分かりやすく解説!

「人が守るべき正義とは何か?」

1971年に出版された『正義論』が、どうしてここまで話題になったのか?

「ロールズの正義論」を簡単に分かりやすく解説!

ジョン・ロールズの『正義論』とは?

(Wikipediaより)

ジョン・ロールズはアメリカの政治哲学者。1971年に刊行された『正義論』が政治哲学という学問以外にも様々なジャンルの人々に影響を与えた。第二次世界大戦後、陸軍の兵士として日本を訪れて原爆被害の惨状を目の当たりにした経験から、1995年に原爆投下を批判的に論じた「Reflections on Hiroshima: 50 Years a fter Hiroshima」という論文を書いたこともある。

 

北国宗太郎
ロールズは、正義とは何か?を本でまとめたの?
うん、それが『正義論』だよ。解説していくね
牛さん

 

正義の二原理

ロールズは、公正な正義は次の2つの原理から成り立つと指摘しました。

 

第一原理

  • 「基本的自由の権利」が社会のみんなに平等に分配されること (社会的基本財の平等)

First Principle: Each person is to have an equal right to the most extensive total system of equal basic liberties compatible with a similar system of liberty for all.

「基本的自由の権利」とは、言論の自由・思想な自由・身体的な自由などのこと。ロールズは、こうした自由や権利などを社会的基本財と呼んだ。

 

しかし、基本的な自由・権利が平等に分配されても、社会的な格差が生まれてしまうため、第二原理が必要になります。

 

第二原理

  • 社会的・経済的な格差(不平等)は、次の2つの条件を満たす必要がある。

(a) 貧しい人が最低限の生活が出来るよう&最低限の権利が守られるように手を差し伸べることを条件に、裕福な人は自分の利益を追求する (格差原理)。

(b) ある職業や地位につくために、平等な機会が用意されている (機会均等の原理)。

Second Principle: Social and economic inequalities are to be arranged so that they are both: (a) to the greatest benefit of the least advantaged, consistent with the just savings principle, and (b) attached to offices and positions open to all under conditions of fair equality of opportunity.

社会の不平等を正すように努力するのは前提ですが、第二原理が満たされている限り、その不平等は容認できると考えました。ちなみに、(a)よりも「(b)の機会均等の原理」の方が重要です。

 

例えば・・

貧しい家庭から生まれて、お金がいないせいでいい仕事に就けない。

性別・人種が理由で働けない。

そんな格差があった場合、その人が自力で何とかできる範疇を超えてしまいます。

自分の力でどうしようもない状態にある人がいることは認められない、というのがロールズの考えです。

 

北国宗太郎
みんなが平等の機会が持てれば、本当の意味でその人の力が試されるね。
機会が平等じゃなきゃ、第一原理(基本的な権利)も守られていないと言えるしね。
牛さん

 

第一原理・第二原理が守られれば「公正な正義」だと言えるとロールズは考えましたが、どうしてこの話が話題を呼んだのでしょうか?

 

ロールズの正義論が話題になった理由

 

ロールズの『正義論』が注目されたのは、ある考えを否定することを書いていたからです。

 

北国宗太郎
ロールズは何か否定をしていたの?
うん。ロールズの「正義論」は、功利主義を否定するものだったんだ。
牛さん

 

①「功利主義」の否定

 

功利主義とは?

社会にいる人の”満足の総和”が最大となっていれば、その社会は望ましい (正義である)という考え方のこと。経済学では、この考えをもとに理論が作られている。

 

功利主義にはもともと問題点がありました。

 

たとえば・・

10人いて、1人に9万円配れば、社会全体で900万円の満足度になります。

でも10人いて、1人に901万円配ってしまえば、社会全体の満足度は901万円になります。

功利主義で考えれば、平等に9万円配るよりも、1人に901万円を配ったほうが望ましいという結論になってしまうのです。

 

ココに注意

功利主義では、富を分配するときの”正義”が無視されている。

 

北国宗太郎
たしかに結果的に良くてもその過程があれだね・・
その問題点を久方ぶりに指摘したのがロールズだったんだ。
牛さん

 

ポイント

ロールズの『正義論』では、第一原理・第二原理が満たされていなければいけない、と明確に「富をどうやって分配するのが公正な正義に繋がるのか」を指摘しました。

 

長い間議論されてこなかったポイントに焦点があたり、ロールズの正義論が一躍話題になったのです。

 

② 無知のヴェール

無知のヴェールとは?

自分の生まれ、社会的な立場、財産の状況などを全く知らない状態のこと。

 

ロールズの『正義論』が注目された理由に「無知のヴェール」という考え方があります。

 

北国宗太郎
無知のベール?
ロールズが何が正義なのかを決めるときに用いた考え方だよ。
牛さん

 

ココがポイント

「正義が何なのかを決めるのは、社会のみんなである」というのがロールズが意識していたことである。

 

正義を議論する?

正義についてみんなで議論する場面(原初状態)では、議論に参加する人が「無知のヴェール」に包まれるように、自分の立場などを知らないことが重要です。

自分の立場が分からなければ、貧しい家庭に生まれたら最低限必要なことは何なのか?を真剣に考えられるからです。

自分の立場が明確に分かっていれば、自分が得するような意識が働いてしまいます。

 

北国宗太郎
みんなで議論するのは良いけど、ロールズは自分で正義の原理を考えちゃってるよね?
そこが注目された理由だよ。
牛さん

 

実はロールズの『正義論』で登場する正義の原理は「無知のヴェール」でみんな議論すると行きつく結果を書いているものなのです。

 

ポイント

ロールズの「正義の二原理」は、社会の人が「無知のヴェール」で包まれている状態で議論すると、必ずみんなが納得する内容をまとめたもの

 

こうした、独自の過程で「公正な正義とは何か?」を考えたことで、議論を巻き起こしたのです。

 

さらに詳しく

ちなみに「無知のヴェール」に関しては批判もあります。例えば、自分がどんな社会にいるかが分からないような状態では、その社会で本当に善いとされるものは何かを判断できない、などです。

 

北国宗太郎
意外と批判も多いんだね・・
うん、新しいことを言うと批判はつきものだよ。
牛さん

 

正義の概念は、分かりきった前提・条件からは導き出せない。

そうではなくて、1つ1つの考慮すべき事柄が支え合って、1つのまとまりのある意見へと組み立てられることで、正義が正当化される。

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