募金・寄付活動を見て心が動いたことってありませんか?
実は、募金にもお金を集められるパターンがあります。
そんな募金と寄付の行動経済学を紹介!
募金・寄付の行動経済学
1人の死は悲劇だ。しかし100万人の死は統計上の数字にすぎない。
「募金・寄付が成功するか」を考える時に重要になるのが、上の言葉です。
(アイヒマン・Wikipediaより)
第2次世界大戦でユダヤ人大虐殺(ホロコースト)に関与したとされ死刑になった人物。心理学の世界では有名人です。アイヒマンのユダヤ人虐殺への関与は「権威への服従 (権威・権力者の前では、それに従って法律に反するようなことも平然と出来るようになる心理現象)」として分析されるようになりました。
先ほどの言葉は、このアイヒマンが第二次世界大戦後の裁判で述べたものです。
元ネタは『西部戦線異状なし』などで知られるドイツ人作家エーリヒ・マリア・レマルクの言葉だと言われています。
何故この言葉が重要?
- 人が募金や寄付をするときに重要となるのが感情移入(共感)
そして「1人の死は悲劇だ。しかし100万人の死は統計上の数字にすぎない」は、募金や寄付でも同じ現象が起こるのです。
この話が分かる実験があるので詳しく見ていきましょう!
実験
- 5ドルのうち、いくらを寄付するか?
実験の参加者にアンケートを答えてもらい、報酬として5ドルを渡します。
そして、その5ドルを食糧危機になっている国へいくら寄付するのかを調べました。その際に、2つのグループに分けます。
デボラ・スモール、ジョージ・ローウェスタイン、ポール・スロヴィックが行った実験
① マラウィでは、300万人を超える子どもたちが食糧不足に苦しんでいます。
(略)アンゴラでは400万人が家を追われて、エチオピアでは1100万人が食糧援助を必要としています。
② マリ共和国で飢餓に苦しむ「ロキア」という7歳の少女の写真を見せます。
あなたの寄付があれば「ロキア」の生活をより良いものに出来ます。
セーブザチルドレンは (略) ロキアに食べ物を与えて、教育を受けさせて、医療を受けられるようにするために活動しています。
① は統計的なデータを示した「統計的条件」、②は「顔のある条件」です。
実験の結果
①の「統計的条件」では、平均して1ドルちょっとの寄付額となりました。
しかし、②の「顔のある条件」では、平均で5ドルの約半分が寄付されました。
さらに詳しく
こうした「顔のある条件」の方が募金や寄付額が増える現象を「顔のある犠牲者効果」と呼ぶことがあります。
このように感情移入しやすい方が、みんなが募金や寄付をしてくれます。更に、この他にも募金・寄付額に影響を与える要因もあります。
「募金や寄付を減らす原因」は合理性?
先ほどの実験に、更にパターンを追加します。
追加実験
- 寄付の話題に入る前に計算問題を解く
計算自体はそこまで難しくありません。
(例) 1台1200ドルのパソコンを15台購入しました。合計でいくら支払いますか?
狙い
計算問題を解かせることで、脳を合理的な状態にするため。
結果
なんと、その後に「統計的条件」「顔のある条件」でいくら寄付をするかを聞いたところ、全然寄付してくれませんでした。
ココがポイント
ちなみに
この話を、先ほどの実験で再確認します。
「統計的条件」「顔のある条件」と2つのパターンで寄付を募っていましたが、2つ合わせるとどうなるでしょうか?
この2つの情報を両方等も実験の協力者に知らせます。
① マラウィでは、300万人を超える子どもたちが食糧不足に苦しんでいます。
(略)アンゴラでは400万人が家を追われて、エチオピアでは1100万人が食糧援助を必要としています。
② マリ共和国で飢餓に苦しむ「ロキア」という7歳の少女の写真を見せます。
あなたの寄付があれば「ロキア」の生活をより良いものに出来ます。
セーブザチルドレンは (略) ロキアに食べ物を与えて、教育を受けさせて、医療を受けられるようにするために活動しています。
単独で情報を提示した場合の寄付額はこちら
- ①「統計的条件」では約1.2ドル
- ②「顔のある条件」では2.5ドル
結果
③「両方とも」情報を提示された人の平均寄付額は、なんと1.5ドルです。
つまり、②「顔のある条件」を大幅に下回ってしまいました。
つまり、感情的な情報を見る時に、数字などの合理的なものを混ぜると気持ちが冷めてしまうことが分かります。
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「焼け石に水」効果
最後に、人が募金をしなくなる原因を、より詳細に考えていきます。
ここまで知っていれば、募金・寄付で通常よりも多くの金額を集めることに成功するかもしれません。
近接性(犠牲者との近さ)
- 人は、身近な物事の方が感情移入しやすい。
例えば、遠いアフリカで飢餓に苦しんでいる子どもをニュースで見るよりも、近所の貧しい子どもが栄養失調になっている方が心苦しくなります。
後者の方が、食べ物を恵んであげたい気持ちも湧きやすいはずです。
具体性
- 人は、具体的な被害が分かった方が感情移入しやすい。
例えば「アフリカで貧困で苦しんでいる子ども」よりも、「アフリカで、貧困のため目の病気を治療できず失明しかけている子ども」
後者の方が「可哀そう」などの感情を抱きやすいです。
なるべく少数に絞る
- 人は、被害者は少ない方が感情移入しやすい。
例えば「アフリカで貧困で苦しんでいる100万人の子ども」よりも、「アフリカで、貧困に苦しんでいるロキアという少女」
後者の方が「助けてあげたい」などの感情を抱きやすいです。
最後にあげたポイントは「焼け石に水効果」と呼ばれる事があります。
人は、被害が大きすぎると、自分が何かをしても大して変わらないだろう、という気持ちが働きやすくなり、具体的な行動を引き出しずらいです。
1人の人が苦しんでいたら、私たちは心を動かされて、命を懸けても助けるだろう。
しかし、大都市が崩壊して1億人の命が失われようとしている、と聞いても1億倍の苦しみは感じられない。
アルベルト・セント・ジェルジ
ちなみに
ここまでの話を聞いて分かる通り、たくさんの募金・寄付を集めるためには、情報がたくさんあれば良いというものではありません。
ココがポイント
訴えかける相手に「心理的な近さを感じさせ」「具体的な出来事として捉えてもらい」「自分が助けてあげられると感じる規模」で情報を伝えることが大切です。
募金や寄付では、統計上の命や被害より、個人の命や被害にスポットを当てるほうが無難かもしれませんね。