2012年にノーベル経済学賞に輝いた「マッチング理論」
結婚相手を選ぶとき、相手の収入だけが重要ですか?
価格(お金)で解決できない「需要と供給」の問題を分かりやすく簡単に解説!
マッチング理論とは?どうやってカップリングするか
マッチング理論
複数の人の好み・希望を考えて、最適なペアづくりを考える経済学の分野。
価格だけでは需給が決まらない市場で、最適な資源配分(マッチング)を目指すのが大きな特徴の1つである。
マッチング理論は、おもにゲーム理論と深く関係があります。
マッチング理論で扱う話は、みんなが1番利益を受けられるように (時には競争的な状況下で) 戦略的に行動するケースがほとんどです。
ゲーム理論では、そうした状況に応じて「協力ゲーム(非協力ゲーム)」などの呼び名があります。
マッチング理論でよく登場する話
- 男女のパートナー選び
- 学校選択の問題
- ドナー制度
- 医師臨床研修マッチング
まずは、男女のパートナー選び(結婚相手を選び)を例に、マッチング理論がどういったものかを紹介します。
後半は、マッチング理論が現実の世界では、どのように活用されているのかを解説します!
こんな場面を想定
男女3人ずつでパートナー選びをします。
素敵な女性が3人いて特徴はこんな感じ。
- Aさん:美人で性格も良い
- Bさん:美人
- Cさん:性格が良い
次に3人の男性はこんな感じです。
- Aさん:年収2,000万円
- Bさん:年収1,000万円
- Cさん:年収500万円
この話、これまでの経済学で考えると、一番お金を持っているAさんが最初にパートナーを選べることになります。
男性Aさんが他の男性陣よりも一番高い金額を提示できるためです。
ポイント
しかし、結婚相手を選ぶときに、すべてが年収(価格)で決まるわけではありません。
こんな状況を考えます
- 男性Aさん ⇒女性A(美人・性格いい)
- 男性Bさん ⇒女性A(美人・性格いい)
- 男性Cさん ⇒女性A(美人・性格いい)
男性Aさん・男性Bさん・男性Cさんは、全員女性A(美人・性格いい)さんと結婚したいと考えました。
これまでの経済学だと「男性A(2,000万円)さん⇔女性Aさん」というカップリングがベストになってしまいます。
しかし、女性Aさんの気持ちはこうです。
女性Aさん
わたしは男性C(年収500万円)さんが良いです。
すると「男性A ⇔ 女性A」はベストな組み合わせではなくなります。
ココがポイント
この時に、ちゃんと女性Aさんの気持ちも考えて「男性C ⇔ 女性A」というペアが生まれるようにするのがマッチング理論です。
この組み合わせが最適であると言えるには、他の男女2人の組み合わせも重要になってきます。
どうすれば「男性C ⇔ 女性A」の組み合わせが出来るようになるでしょうか?
マッチング理論では、最適なペアが生まれるためには重要な2つの条件があると考えています。
重要な2つの条件
- 安定性
- 対戦略性
① 安定性のあるマッチング
安定性があるというのは次のような状況を言います。
マッチングの結果に、不満を持つ人が居なくなる。
先ほどの例で見ていきましょう。
例えば、男性Aさんは、顔が良ければ何でもいいような人だったとします。
男性Aさん
女性Aさんの次は、女性B(美人)さんが良い
このとき、女性B(美人)さんも男性Aを1番の候補としていれば「男性A⇔女性B」でペアが決まります。
マッチングの結果
- 男性C(年収500万円) ⇔ 女性A(美人・性格いい)
- 男性A(年収2000万円) ⇔ 女性B(美人)
- 男性B(年収1000万円) ⇔ 女性C(性格いい)
でカップリングが成立して、安定的になります。
さらに詳しく
なぜ安定的かと言うと、「男性C⇔女性A」さんは第1希望通りで相思相愛です。仮に男性Aさんが割り込んでもはじかれます。その男性Aさんは第2希望の女性Bさんとのペアが最適になります。残った男性Bさんは、女性A女性Bが良いと思っても入り込めません。こんな感じで、割り込む余地がないような状態なので安定的だと言えます。
逆に不安定なマッチングとは?
男性Aさん(年収2,000万円) ⇔ 女性C(性格いい)さんとのペアが誕生したとします。
しかし
- 男性Aは、女性B(美人)さんの方が良いと考えています。
- 女性B(美人)は、男性Aさんが1番いいと思っています。
つまり「男性A(年収2000万円)⇔女性B(美人)」の方が良いです。
このように、改善の余地があるにもかかわらず、ベストな組み合わせになっていないような状況を不安定なマッチングと言います
ココに注意
不安定なマッチングだと、マッチング自体が崩壊しかねません。男女間のはなしなら、せっかくペアが決まっても、男性A⇔女性Bで浮気に走る原因になります。
安定的なら
安定的なマッチングなら「男性C(年収500万円)⇔女性A(美人・性格いい)」で相思相愛のペアがあるので、男性A(年収2,000万円)さんが入り込む余地がありません。
男性Aさんは、第2希望の女性B(美人)とのマッチングできれば、浮気をする理由はなくなります。
② 対戦略性のあるマッチング
対戦略性があるというのは次のような状況を言います。
嘘をつく理由がなくなる。
嘘をつく理由とは?
たとえば「本当の第1希望を言わずに、あえて第2希望を言う」です。
例えば
男性C (年収500万円) はこんなことを考えます。
男性C
他の人は年収1000円以上・・・。本当は女性A(美人・性格いい)が良いけど、勝てなさそうだから違う人にしよう。
こうして男性C(年収500万円)は、女性C(性格いい)を選びました。
ポイント
あえて第2希望を”第1希望”にして、戦略的にマッチングを終わらせようとする。この戦略を取らせないことが「対戦略性」です。
偽りの希望を書かれてしまうと、不安定なマッチングを踏み出す原因にもなります。
「対戦略性のあるマッチング」をするにはどうすれば良いか?
ココがポイント
嘘をつく一番の理由は「第1希望が叶わないと、他の候補が埋まって、選べるものが無くなる」です。
つまり、素直に第1希望を言っても、第2希望がちゃんと考慮されるようなシステムにすることが重要です。
例えば
男性C(年収500万円)が、女性Aさん(美人・性格いい)を第1希望にします。
残念ながらカップル成立ならず。
しかし、他の男性A・男性Bは成立しました。
- 男性A ⇔ 女性A
- 男性B ⇔ 女性C
- 男性C ⇔ ・・・
しかし、女性Cさんは、実は男性C(年収500万円)の方が良いと思っていました。
じつは、男性Bさんが、先に女性Cさんを第1希望にしていたので、それを女性Cさんが渋々受け入れていたのです。
ココに注意
多くのカップリングでは、早いもの順みたいになっており、男性C(年収500万円)は残念ながら女性Cさんとは結ばれません。
このような仕組みだと・・
この時、男性C(年収500万円)は嘘をついて、女性Cさんを第1希望として言うインセンティブが生まれます。
男性C
第2希望のCさんが取られると第3希望しか残らない。それなら、より確実なCさんを第1希望にしよう・・。(本当は女性Aさんがいいけど)
この状況を回避するためには、早いもの順をやめることが重要になります。
具体的には、全てのペアを保留状態としてマッチングを続ければいいのです。
具体的には
女性Cさんは最初に男性B(年収1000万円)を受け入れましたが、男性C(年収500万円)を選び直す機会があればいい。
このように、全てのペアが最適な状態に落ち着くまで、ペアが確定しない(選び直すことが出来る)方法を「受入保留方式」と言います。
最初の希望で「男性A⇔女性A」で揺るぎないカップルが生まれます。それ以外は、相思相愛ではありません。
次にベストカップルなのは「男性C ⇔ 女性C」です。
ポイント
「男性C ⇔ 女性C」が実現するように、「男性A⇔女性A」以外を暫定的なものとして扱います。
そうすれば、男性Cが嘘をつく理由が無くなります。
男性C
第1希望の女性Aさんと結ばれなくても、ちゃんと第2希望の女性Cさんと結ばれる可能性が残るから、そのままの希望順位を言えばいいんだ!
マッチングの仕組み次第で、嘘をつく必要が無くなりますが、もう1つ重要なポイントがあります。
それが「信用」です。
さきほどの例だと
男性C
第2希望もちゃんと考慮されるって本当かな・・嘘くさいから、第2希望の女性Cさんを第1希望って書いておこう・・。
この「受入保留システム」が機能するためには、マッチングに参加する人から「信用」してもらうことが重要になってくる。
さらに詳しく
このように、ベストなマッチング制度・ルールを考えたりする分野を「メカニズムデザイン」と言います。メカニズムデザインは、社会選択理論やマーケットデザインなどでも登場します。
まとめ
価格だけでは需要と供給が決まらない市場(結婚など)では、安定性・対戦略性がある状態でペアを探すことが重要になる (マッチング理論)。
その仕組みをどうやって作るかは、メカニズムデザインという分野が関わってくる。
マッチング理論の現実の応用例
ここまで「マッチング理論」ってどんなもの?というのを見てきました。次にマッチング理論が実際にどんな風に応用されているかの例を紹介します。
- 学校選択の問題
- ドナー制度
- 医師臨床研修マッチング
有名な例として3つ紹介します。
step
1学校選択の問題
こちらはアメリカの高校選択で起こっていた問題です。
ココがポイント
どの公立高校へ、誰が進学するのかはマッチングの問題として扱われます。「学校⇔生徒」のマッチングです。そして、学校への進学は基本的にお金を積めばいいという話ではないので、需要と供給が価格以外の要因で決まる市場でもあります。
アメリカでは、学生は高校進学にあたり、進学希望の順位・成績を提出します。
この時、進学希望の順位を、みんな嘘をついて提出していました。
進学予定の学生
少し上を目指して○○高校がいいな~。でも落ちたら第5希望の高校くらいしか残っていないから、無難なところを第1希望にしておこう。
このような状況を改善するため、学校選択制度を新しく作り直すときにマッチング理論が登場しました。
具体的には、どうすれば対戦略性のある高校選択制度を作れるか?という話です。
step
2ドナー制度の問題
腎臓の臓器移植を必要としている人は、自分の体にあう腎臓を提供してくれるドナーと巡り合わなければ手術が出来ません。
ココがポイント
腎臓もお金で買えるようなものでありません。さらに体に適合する腎臓が必要で、かなり厳しい条件が付きます。どうすればドナー移植が今以上に行えるようになるか?を考えたマッチングの話です。
問題点
この話には問題点がたくさんあります。
- ペアを探すのが困難であること
- 移植手術を同時に受ける必要がある
- 病院側が意図的にドナー情報を提供しない
ペアを探すのが困難なのは皆さんもイメージ出来ると思います。これを解決するために、考えられたのが「臓器移植のチェーン」を構築する方法です。
よくある親子間でマッチングを試みるやり方を見ていきましょう!
例えば・・
- Aさん ⇒ A息子さん
- Bさん ⇒ B息子さん
残念ながら適合しませんでした。
しかし、こんなことが分かりました。
- Aさんの腎臓は、B息子に適合
- Bさんの腎臓は、A息子に適合
このような状況なら、A息子さん・B息子さんも手術を受ければOKな気がしますが、問題は簡単ではありません。
次に問題となるのは、手術を同時に受ける必要性です。
仮に
先にAさんがB息子に腎臓を提供したとします。
その後、BさんがA息子に腎臓を提供する時になって「やっぱり・・」と提供を拒否すると終了です。
つまり、手術が同時に行って、どちらか片方が ”後になって断る” 可能性を潰さなければいけません。
これを解決するためには、死亡したドナー(臓器提供者)のほか、善意で臓器提供をしてくれる人がカギになります。
こんな問題も
厄介なのが病院側が自分の病院で手術をしようと、ドナーの情報を隠すことが指摘されました。
なんでもかんでも情報を提供していたら、自分の病院のドナーなのに、他の病院で手術が決まってしまうリスクがある。
腎臓移植のマッチングの話は、マッチング理論で登場する「安定性」「対戦略性」はもちろん、どうすればドナー移植に関わる人の利益を損なわずに、マッチングを実現させるかというハードな話になっています。
step
3医師臨床研修マッチング
研修医が就職するまえに、必ず参加する研修プログラムがあります。
その研修プログラムでは、どの病院に、どの研修医が配属されるかで問題が発生していました。
例えば
この研修プログラムでは、病院側が医師の卵である研修医を囲い込もうと、医学部に入学したばかりの何も適正が分からない状態でマッチングが行われていたのです。
蓋を開けてみると外科手術には向かないような研修医だったりと、マッチングが機能していないことが多々ありました。
ココがポイント
病院側が不毛な獲得競争をせずに、どうすればベストなマッチングを実現することが出来るのかが重要です。
2012年
「アルビン・ロス教授」「ロイド・シャプレー教授」がこの分野でノーベル経済学賞を受賞しました。今回紹介した例は「アルビン・ロス教授」が関わった話になります。
- 学校選択の問題
- ドナー制度
- 医師臨床研修マッチング
彼の著書「マッチメイキングとマーケットデザインの経済学 」に詳細が載っています。
Who Gets What(フー・ゲッツ・ホワット) マッチメイキングとマーケットデザインの経済学 (日経ビジネス人文庫)
先ほど紹介した3つの例以外にも、様々なマッチングの問題を紹介しています。
ロス教授が、どのようにマーケットをデザイン(設計)していったのかも詳細に記載されています。
マッチング理論は、コンピュータ・ネットの発展で重要性が増しています。
これまでは、諦めていたことが、コンピュータで計算すればすぐにベストなマッチング結果を算出できるからです。
今後もマッチング理論は注目の分野なので、ぜひ知っておいてくださいね!