多数決で勝つためにはどうすれば良いのか?
そんな疑問の答えが「中位投票者の定理」です。
多数決・選挙で勝つ選択肢を数学的に導き出したことで有名なこの定理を簡単に解説していきます!
中位投票者の定理とは?
中位投票者の定理とは?
選択肢のなかでも、中央値(中位数)にあたる意見を持つ投票者に好まれる選択肢が多数決では選ばれるという定理。
中央値(中位数)とは
例えば、日本の平均所得は約432万円(2017年)です。
国税庁:平成29年分民間給与実態統計調査より
しかし、この平均年収には、年収が1億円の人も入っています。
参考
仮に5人が350万円で1人が1億円だったら、平均所得は1950万円になります。
さらに詳しく
中央値は、データを小さい順に並べたとき中央に位置する値のこと。さきほどの例だと、350万円・350万円・・・1億円と並べると、真ん中にあるのが350万円です (データが偶数なので2つ中央値がありますが、その時は足して÷2すればOK)。
つまり「中央投票者の定理」は、中央値(中位数)にあたる多数決参加者の心をおさえれば、勝つことが出来るという考えなのです。
この「中位投票者の定理」が働くためにはいくつか条件が必要です。
- 多数決に参加する人の選好が単峰型(単峰型選好)
- 争点が1つだけ(2つ以上の争点ではダメ)
- 投票者が棄権出来ない
- ログローリング(票取引)がない
具体例
例えば、選挙をするときに所得が350万円の人にうけそうな政策を打ち出します。
「カップラーメンに消費税をかけません!」
敵対する相手は「フランス料理に消費税はかけません!」と提案してきました。
この時、中央値にあたる年収350万の人たちは、カップラーメン案に賛成します。⇒「中位投票者の定理」から、この案が勝ちます。
さて、問題はここから
敵対する相手が「カップ焼きそばの消費税を抜きにします!」と言ってきました。
年収350万円の人からすれば「カップラーメン」も「カップ焼きそば」もどっちでもいいと思ったとします。
この瞬間に、その人たちの選好が単峰型ではなくなってしまいました。
「単峰型(の選好)」とは、自分が一番好きなもの・意見がハッキリしている状態。
注意ポイント
「中位投票者の定理」が機能するためには「同率1位の意見が乱立していてはダメ」という事です。
さらに、ここに「所得税を安くするぞ!」という新しい敵が出てくると、消費税に所得税に論点がたくさん別れてしまいます。
そんな状態でも「中位投票者の定理」が機能しない原因になります。
さて「中位投票者の定理」について分かったところで、「アメリカ大統領選挙」を例にして、現実世界に応用してみましょう!
アメリカ大統領選挙と「中位投票者の定理」
アメリカ大統領選挙は、最後の方になると「中位投票者の定理」を意識した動きが見れるので良い例として扱われます。
アメリカ政治の特徴
アメリカは2大政党制です。
- 共和党 (保守的・白人主義的)
- 民主党 (リベラル・格差是正)
アメリカの大統領選挙の初めの方は、みんな好き勝手な意見をぶつけ合う傾向にあります。立候補者は、まず自分の政党の中で勝つ必要があります。
共和党なら保守的で論調。民主党なら格差是正を訴えます。
しかし
選挙の終盤になると段々と強い意見が無くなっていき、どちらも似たことを言い始めます。
共和党なのに格差是正のための提案をしたり、民主党なのに保守層に受けそうな意見を言ったり。
どうしてそうなるのか?
これには「中位投票者の定理」が関係しています。
選挙の最初の方では、自分の政党を支持してくれる人たちに受ければいいので、その政党に合った力強い意見を言えます。
しかし、選挙の終盤となると、全てのアメリカ国民に対して受け入れられる候補者となる必要があります。
例えば、保守派が3人・真ん中の人10人・格差是正の人が3人います。
ポイント
世の中、極端な意見を持っている人は限られているので、大体は中道的な意見を持っている人が大半です。
選挙の最初の方は、自分の政党を支持している人に受ければいいのですが、最後の一騎打ちとなると、真ん中の人10人が中位投票者です。
つまり「中位投票者の定理」から分かる通り、選挙終盤では彼らの心をつかまないと選挙には勝てないのがわかります。
ココがポイント
アメリカの大統領選挙に限らずに、2大政党制の選挙の最後の方は、どちらの政党も中位投票者を取り込もうと、政党の色が消えた似たり寄ったりの意見を言い出す。
立候補者は、選挙で勝つために専門家にコーディネートしてもらっています。
その専門家が「中位投票者の定理」を知っているのは当たり前で、中央値(中位数)にあたる投票者を取り込もうとするのは自然の流れなのです。
日本でも「中位投票者の定理」が見られる
日本の選挙に行く投票者の年齢の中央値(中位数)は50歳を超えています。
「中位投票者の定理」を考えれば、政治家は中央値(中位数)にあたる、50歳超の人たちに向けた政策を掲げると勝つことが出来ます。(シルバー民主主義)
重要!
選挙を例にすれば、アメリカの大統領選挙も日本の選挙も、当選のために「中位数(中位数)にあたる投票者」にうける政策を掲げるのが分かります。
「中位投票者の定理」の応用編:多数決で勝つために
中位投票者の定理を応用すれば、多数決で勝つため施策が見つかります。
例えば
晩ご飯に「麺類」と「ご飯とみそ汁系の和食」のどちらにするかを多数決で決める事になりました。
この時の中位的な意見がラーメンだったとします。
10対7で「麺類」が勝ちそうです。
「ご飯とみそ汁系の和食」を推したいあなたはこんな事を考えます。
あなた
よし、麺類のなかで争ってもらおう。
麺類を「ラーメン」「パスタ」「蕎麦」に分裂させました。
すると「麺類」は中位的ではなくなります。
- 「ラーメン」が5票
- 「パスタ」が4票
- 「そば」が1票
- 「ライスとみそ汁系の和食」が7票
こうして、晩ご飯は「ライスとみそ汁系の和食」に決定することに・・。
さきほどの、日本の選挙の投票者年齢の中央値(中位)が50歳超だと書きました。
仮にあなたが「若者向けの政策」を実現しようとしていた場合、まともに勝負すると負けてしまいます。
そこで、視点を変えて中央値(中位)を分解すればいいのです。
例えば
選挙の争点を、将来の街づくりとかにしてしまって、さきほどの50歳超という中央値(中位)の影響を弱めます。
将来の街づくりのが争点ならば、子どもがたくさんいる町とか、バリアフリーとかの論点が重視されます。
そうすれば同じ50歳でも、子持ち(もしくは孫もち)かそうじゃないか、健康体かそうじゃないか、で意見が割れます。
単純な闘いをすれば、ただ中央値(中位数)を追って、50歳にうける政策が並びますが、全体の論点を変えさせて戦えば、勝算が生まれます。
そこに「若者向けの政策」をねじ込めれば、タダ負けるよりも全然いい結果になるでしょう。
モラルに反しない中でやる分には私は良いと思っているので、人生の中で、そうした場面に遭遇したら参考にしてみてください!