森嶋通夫という経済学者を知っていますか?
日本人でノーベル経済学賞の受賞候補に上がっていたと言われるほど優秀な経済学者でした(日本人のノーベル経済学受賞者は未だにいません)。
「なぜ日本が没落するか?」
彼の著書を参考に、私がこの本を読んだ時の印象と、今後の日本が没落する理由について触れていきます。
特徴的な分析手法だった「交響楽的社会科学」
この本は1998年に書かれた(岩波文庫より1999年に出版された)のですが、正直20年以上も前に掛かれた内容とは思えないです。
本題に入る前に、当時の私がこの本を読んだ時に感銘した話を1つ書きたいと思います。
この本は「将来の日本の没落を予測した」という点で、とても興味深い視点を与えてくれています。それが、この本が評価される理由の1つになっています。
書きぶり的に、違うところに感銘したのかな?
うん。その通りだよ。
私が感銘したのは、予想の内容というより、彼が「交響楽的社会科学」と呼んだ分析手法でした。
交響楽的社会科学とは
「経済理論のモデルを使って分析する」のではなく、経済学・人口動態学・教育学・宗教学・歴史学などの社会科学を総動員して分析をすることにチャレンジしました。これを森嶋通夫は「交響楽的社会科学」と呼びました。
ふつうは
経済学者は経済学を中心に物事を分析しますが、日本の未来を予測するためには、経済学にとらわれずに社会科学全般を総動員して考えるべきだ、と森嶋は考えていました。そのスケールや視座の高さに感銘を受けたわけです。
とくに
「人口動態史観的な考え方」は、当時とても興味深く感じました。
本を読んでいただけば分かりますが、森嶋はマルクスの考え方と比較して自身の考え方の根幹を示しています。
- マルクス(唯物史観):社会の土台は「経済」である。経済(生産力と生産関係)によって、政治や文化などの社会が構築される。
- 森嶋通夫(人口動態史観):社会の土台は「人間」である。社会も経済も「人間」という土台に建てられた上部構造に過ぎない。
森嶋は、マルクス経済学を数理化させたことで有名です(森嶋自身はマルクス主義者ではありません)。そのほか、ワルラスやリカードなどの分野でも功績があり、ノーベル経済学賞の候補に挙がっていました。
森嶋の考え方を示した一文があります。
人口の量と質が決まれば、それを使ってどのような経済を営めるかを考えることができる。重要なのは経済学ではなく、教育学である。
なぜ日本は没落するか?
一部に首をかしげる話がありますが、日本人なら考えるべき内容です。
ポイント
『なぜ日本は没落するのか?』では、日本の経済を支える人々の価値観・行動をもとに、2050年の日本はどんな状態になっているか?を鋭く考察しています。
経済を支える人の価値観?
うん。この本の中で重要なポイントだよ。
例えば
今から30年後を予想する。
- 今の10代~20代の価値観を分析します。
- 理由は、30年後に日本のリーダー的な立ち位置(会社の偉い人など)にいる人は、今の10代~20代だからです。
- なので、今の10代~20代が将来どんな世界を作りそうかを考えるのが重要。
理由が分かりました。
賛否が分かれるところだけど、話の内容が面白いから続けるね。
この分析をすると「日本が没落する理由」と「日本が発展した理由」というのは紙一重だということが分かります。日本が繁栄した要因が、なんと没落の原因に繋がるのです。
といわけで
日本が没落する理由を説明する前に、そもそも「なぜ日本は成長できたのか?」を話していきます。
なぜ日本は経済的に発展できたのか?

話は第二次世界大戦まで遡ります。
ポイント
戦争をしていた時の日本人は「天皇」に忠誠を誓って戦う。
この価値観で行動してきましたが、戦争に負けて天皇に忠誠を誓う生き方は出来なくなりました。
戦後は・・
戦争が終ってからは、みんなが復興を目標に動き出します。
そこで徐々に頭角を現したのが会社です。いままで「天皇に忠誠を誓う」という価値観だったけど、時代が変わるにつれて「天皇」の部分が「会社」にすり替わります。
ポイント
「天皇に忠誠を誓う」が「会社に忠誠を誓う」という価値観へ移った。
そして
上記の価値観をもとに「天皇に忠誠を誓って戦争で戦う」という行動が「会社に忠誠を誓って働く」という行動に移っていきます。
ごくり。
ごくり。
戦後まもなく、日本は経済発展の時代を迎えます。会社のために懸命に働いてくれる労働者がたくさんいる日本では、経済発展のスピードも一気に加速しました。
ポイント
経済発展期の日本にとっては、こうした価値観の移り変わりはとっても有効に働いたわけです。
この価値観の移り変わりが「日本が没落する理由」に繋がります。
日本が没落する理由

「会社に忠誠を誓って働く」という行動は日本経済には良く働きました。
転換点
しかし、時代が変わり、世代が変わると、この価値観のせいで社会が停滞し始めます。1990年くらいになると、社会で働き始める人の価値観が今までと変わり始めました。
若者
会社に忠誠を誓うって・・。
いままで当たり前だった「一生懸命に同じ会社で働き続ける」みたいな価値観が徐々に受け入れられなくなってきたのです。
なぜ価値観が変わってきたのかと言うと、学校でそういう教育を受けたからです。
※ちなみにゆとり教育がどうとかではありません。
戦争に負けた後、学校の教育はこんな風に変わっていました。
学校
みんな自分の考えをもって、好きなように生きてね。大切なのは個性だよ。
ただし
1970年~80年前半までは「昔の価値観」を知って育ってきた人が多かったです。
というのも 親の世代が古い価値観の人が多くて「家では昔の価値観」「学校では自由主義」みたいな二刀流として育てられてきた人が多数でした。
ポイント
戦争が終わった後の世代は、欧米風の考え方を受けてきたが、二刀流で育ってきた人が多かったため「会社に忠誠とかダサい」という価値観は主流になりませんでした。
しかし
1990年くらいになると、家庭教育で「古臭い価値観」で育ってきた人が減ります。2000年にはさらに減って2010年にはさらに減って・・、という風に価値観が移ろったというわけです。
なんとなく分かるけど、これが日本が没落する原因なの?
じつはこの話にもう一つ大事なことがあるんだ。
若者の価値観が変わる一方で、日本の社会では相変わらず「上の人に従って、会社のために働け!」「上下関係は絶対まもれ!」という感じです。
ポイント
若者の価値観は変化しているのに、日本社会の価値観は古臭いまま。ここで「若者の価値観」と「日本の社会・会社の価値観」に差が出てきます。学校でさんざん「自分が大事」「個性を大切に」という風に習ってきたのに、会社では、そんなことは要求されなかったのです。
この状態を森嶋通夫は著書の中でこう表現しています。
学校教育を終えた青年は、大人の社会の入り口で戸惑い、失望した。
そして
将来の日本を担うのはその若者です。若者はこうした現実に非常に冷めた目線を向けています。学校で綺麗ごとを習わされて、冷めた目で世の中を見る若者が、将来の日本を担います。
この現実に対して森嶋通夫はこう言っています。
現在の日本では彼らに正しい教育を施してない。
これではちゃんとした人間が育たず、ちゃんとした人間がリードしていかない日本は没落するのが当たり前である。
森嶋は若者批判をしているのではなく、教育体制や社会のあり方を批判しています。
他にも・・
- 日本の右傾化が加速する
- 不景気になって日本を褒めるような論調が増える
- 日本経済がどうなろうと国民は興味はないし無関心
- 政治家が適切な政策を打ち出す必要があるが、そんな政治家はいない
政治が悪いから国民が無気力であり、国民が無気力だから政治は悪いままでおれる。こういう状態は、今後50年近くは確実に続くであろう。
そのことから私たちが引き出さねばならない結論は、残念ながら、日本の没落である。政治が貧困であるということは日本経済が経済外的利益を受けないということである。
20年以上も前に、鋭い視点で日本の将来を考えていた人物がいたわけです。
日本経済の行く末は・・?
