学歴はどんな意味があるのか?
昔から話題になる問題を「就職」という視点から分析したシグナリング理論を分かりやすく解説!
シグナリング理論とは?
シグナリング理論とは
2001年にノーベル経済学賞を受賞したマイケル・スペンスが、教育の価値を分析したシグナリング(※)に関する理論。
※シグナリングは、情報を持っているものが、情報を持っていない側へ、自分の情報を伝えることを言う。
シグナリング理論には次の前提があります。
- 就職市場には「情報の非対称性」がある
企業側
採用担当者
この学生を採用しても大丈夫だろうか・・?
- 仕事が出来る学生なのか?
- うちの会社でやっていけるか?
就職市場では、企業側は就活生の情報を知りません。
一方で、学生は「自分は、これくらいの能力がある」ことを、ある程度は理解しています。
「学歴」にはどんな価値があるのか?
学歴は「いい大学を卒業したので、私は優秀な人材です」ということをアピールするための価値があります。
つまり学歴は、良い仕事を手に入れる可能性を高める価値があると言える。
ポイント
シグナリング理論では、学歴は、いい仕事を手に入れるための投資だと考えています。
「学歴は就活で役に立つ」という視点を重要視しているのが特徴です。
「学歴」が就活で役に立つ理由
学生は、次の2つのグループに分けられます。
- 生産性が高いグループ(H)
- 生産性が低いグループ(L)
某漫画のように、みんなで東京大学を目指す
すると、次のことが言えます。
ポイント
生産性が高いグループ(H)は、効率的に勉強を進められます。
しかし、生産性が低いグループ(L)は、ものすごい労力が必要です。
つまり、生産性が高い学生ほど、高学歴になるための費用が少なくなります。
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逆に、生産性が低い学生は、労力に見合わなくなり、良い学歴を取ることを諦めてしまいます。すると、高学歴には自然と生産性が高い人が集まります。
次に企業側の視点で考えてみます
企業側
採用担当者
学生の実力を1人1人確かめるのはコストが掛かり過ぎるな・・。
ここで、企業側は「学歴」を見ていきます。
先ほども書いたように、生産性が高い学生の方が、高学歴になりやすいです。
そのため、企業が「仕事が出来る学生」を採用したければ、高学歴の学生を採用する方がコストが掛かりません。
しかし
高学歴に仕事が出来ない学生が混じっていても、生産性が高い人は高学歴に集中するので、費用対効果は十分にあると考えられます。
さらに詳しく
有名企業で、大卒しか採用しないのは、こうした理由から説明が出来ます。高卒よりも、大卒の方が生産性が高い人が多いと企業が考えているわけです。
学歴は「仕事ができる・生産性が高い」ことのシグナルとなる
シグナリング理論では、この考えのもとで学歴の価値を見出しました。
注意ポイント
この話を進めると、そもそも教育には価値があるのか?という話に繋がります。
教育の価値は?
シグナリング理論では「生産性が高い人は、高学歴になりやすい」という前提で話を進めていました。
しかし
- 教育によって生産性が変わる
- 生産性の低い人が教育を受ければ、良い人材になる
こんな考えだって出来ると思いませんか?
(Wikipediaより・マイケル・スペンス)
ポイント
教育によって生産性は変化しない、と考える。
シグナリング理論では、教育を受ければ個人の能力が上がるわけではないと考えています。
ココがポイント
教育で良い人材が育つのではなく、自分の生産性の高さを証明するためのツールに過ぎない。学生は、就職活動を有利に戦うために高学歴を目指すが、教育を受けて能力が上がったのかは重要ではない。
あらためて・・
先ほども書いたように、学生は「良い教育」を受けるために「良い大学」に入るのではありません。学生は「良い学歴」が欲しいのです。
このことからも、「教育には、自分の生産性を高める価値がある」などと学生も考えていないことが分かります。
就職市場に「情報の非対称性」がある限り、このような学生の考えは変わることがありません。
教育の価値に重きを置いていないのがシグナリング理論の特徴の1つです。
教育の価値をそこまで重視していないため、シグナリング理論は、教育の価値を重視する考えとよく比較されます。
最後に、比較対象として有名な「人的資本」についても、簡単に触れておきます。
「人的資本理論」との違い
人的資本とは
働く人が持っている、スキルや知識などの総称のこと。
人的資本理論では、教育は「労働者の生産性を高める」と考えています。
教育水準が高い労働者の方が、一般的に賃金が高い傾向にあります。その理由を「教育により人的資本が蓄積された結果」だと考えているのが特徴です。
人的資本理論では、教育には生産性を高める以外にも価値があると考えています。
例えば
- 満足感が得られる
- 人脈を作れる
- 経済成長をもたらす
- 治安維持につながる
個人が得られるメリットから、社会全体で得られるメリットもあります。
共通点
シグナリング理論と人的資本理論では、共通点もあります。
それが「教育は投資」という考えです。
シグナリング理論では、教育(学歴)は、学生が良い仕事得るために行う投資だと考えていました。
人的資本理論では
- 個人の能力を開発するための投資
- 社会的な便益を受けるための投資
どちらの理論も重要
- 片方だけの理論を重視すると変なことになる
シグナリング理論・人的資本理論のどちらも、現実的な話をしている側面があります。
ポイント
学生は「いい大学に入って、いい仕事を手に入れたい」のも事実です。しかし、教育には、人脈を作ったり、社会的に意味があったりするのも事実です。
そのため、片方の理論だけを取り上げると問題が生まれます。
例えば
教育は「生産性の高い学生」と「生産性の低い学生」を判別するためのツールなので、教育に税金を投入しない方が良い。
生産性の低い学生が良い大学に入ると、企業が採用の時に困る
例えば・・
教育を受けさえすれば「人的資本」が蓄積されるので、会社は学生をオープンに採用して、会社で教育してください。
教育は、生産性の高い学生を区別する手段なのか?
教育は、生産性を高めるための手段なのか?
「シグナリング理論」と「人的資本理論」、2つの側面を考えなければ、本当の意味で教育の価値を見つけることは出来ないのでは?と筆者は考えています。
大きな問題点
そもそも、就職市場に「情報の非対称性」が発生していると、学歴=仕事が出来るかの指標になってしまいます。
情報の非対称性を、どのように解消していくかも忘れてはいけません。
どちらにせよ
教育は重要です。