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シグナリング理論とは?大学は何のために卒業するのかをゲーム理論で説明

2019年8月4日

学歴はどんな意味があるのか?

昔から話題になる問題を「就職」という視点から分析したシグナリング理論を分かりやすく解説!

シグナリング理論とは?

 

シグナリング理論とは

2001年にノーベル経済学賞を受賞したマイケル・スペンスが、教育の価値を分析したシグナリング(※)に関する理論

※シグナリングは、情報を持っているものが、情報を持っていない側へ、自分の情報を伝えることを言う。

 

北国宗太郎
人類普遍のテーマ「学歴」の話ですね。
さっそく、学歴の価値を分析していこう!
牛さん

 

シグナリング理論には次の前提があります。

  • 就職市場には「情報の非対称性」がある

 

企業側

採用担当者

この学生を採用しても大丈夫だろうか・・?

  • 仕事が出来る学生なのか?
  • うちの会社でやっていけるか?

就職市場では、企業側は就活生の情報を知りません。

一方で、学生は「自分は、これくらいの能力がある」ことを、ある程度は理解しています

 

北国宗太郎
これが「情報の非対称性」がある状態だね。
この時に「学歴」にはどんな価値があるのかを指摘したんだ。
牛さん

 

「学歴」にはどんな価値があるのか?

学歴は「いい大学を卒業したので、私は優秀な人材です」ということをアピールするための価値があります。

つまり学歴は、良い仕事を手に入れる可能性を高める価値があると言える。

 

北国宗太郎
他にも価値がある気がするけど、どうですか・・?
シグナリング理論では「就活で役に立つ」が結論だよ。
牛さん

 

ポイント

シグナリング理論では、学歴は、いい仕事を手に入れるための投資だと考えています

「学歴は就活で役に立つ」という視点を重要視しているのが特徴です。

 

「学歴」が就活で役に立つ理由

 

学生は、次の2つのグループに分けられます。

  • 生産性が高いグループ(H)
  • 生産性が低いグループ(L)

某漫画のように、みんなで東京大学を目指す

 

すると、次のことが言えます。

ポイント

生産性が高いグループ(H)は、効率的に勉強を進められます。

しかし、生産性が低いグループ(L)は、ものすごい労力が必要です。

 

つまり、生産性が高い学生ほど、高学歴になるための費用が少なくなります

 

北国宗太郎
生産性が高い人が、高学歴になりやすいってことかな?
うん、その通りだよ。
牛さん

 

さらに詳しく

逆に、生産性が低い学生は、労力に見合わなくなり、良い学歴を取ることを諦めてしまいます。すると、高学歴には自然と生産性が高い人が集まります。

 

次に企業側の視点で考えてみます

企業側

採用担当者

学生の実力を1人1人確かめるのはコストが掛かり過ぎるな・・。

 

ここで、企業側は「学歴」を見ていきます。

先ほども書いたように、生産性が高い学生の方が、高学歴になりやすいです。

そのため、企業が「仕事が出来る学生」を採用したければ、高学歴の学生を採用する方がコストが掛かりません

 

北国宗太郎
これも絶対ではないよね
うん。高学歴が100%仕事が出来るわけではないよ。
牛さん

 

しかし

高学歴に仕事が出来ない学生が混じっていても生産性が高い人は高学歴に集中するので、費用対効果は十分にあると考えられます。

 

さらに詳しく

有名企業で、大卒しか採用しないのは、こうした理由から説明が出来ます。高卒よりも、大卒の方が生産性が高い人が多いと企業が考えているわけです。

 

学歴は「仕事ができる・生産性が高い」ことのシグナルとなる

シグナリング理論では、この考えのもとで学歴の価値を見出しました。

 

注意ポイント

この話を進めると、そもそも教育には価値があるのか?という話に繋がります。

教育の価値は?

 

シグナリング理論では「生産性が高い人は、高学歴になりやすい」という前提で話を進めていました。

しかし

  • 教育によって生産性が変わる
  • 生産性の低い人が教育を受ければ、良い人材になる

こんな考えだって出来ると思いませんか?

 

北国宗太郎
確かに。教育って色々と価値があるよね。
シグナリング理論を作ったマイケル・スペンス教授の考えはこうだよ。
牛さん

 

(Wikipediaより・マイケル・スペンス)

ポイント

教育によって生産性は変化しない、と考える。

 

シグナリング理論では、教育を受ければ個人の能力が上がるわけではないと考えています。

ココがポイント

教育で良い人材が育つのではなく、自分の生産性の高さを証明するためのツールに過ぎない。学生は、就職活動を有利に戦うために高学歴を目指すが、教育を受けて能力が上がったのかは重要ではない。

 

あらためて・・

 

先ほども書いたように、学生は「良い教育」を受けるために「良い大学」に入るのではありません。学生は「良い学歴」が欲しいのです。

 

このことからも、「教育には、自分の生産性を高める価値がある」などと学生も考えていないことが分かります。

就職市場に「情報の非対称性」がある限り、このような学生の考えは変わることがありません。

 

教育の価値に重きを置いていないのがシグナリング理論の特徴の1つです。

教育の価値をそこまで重視していないため、シグナリング理論は、教育の価値を重視する考えとよく比較されます

 

最後に、比較対象として有名な「人的資本」についても、簡単に触れておきます。

「人的資本理論」との違い

 

人的資本とは

働く人が持っている、スキルや知識などの総称のこと。

 

人的資本理論では、教育は「労働者の生産性を高める」と考えています。

教育水準が高い労働者の方が、一般的に賃金が高い傾向にあります。その理由を「教育により人的資本が蓄積された結果」だと考えているのが特徴です。

 

北国宗太郎
世間一般で言われているような事だね。
そうだね。ちなみに教育には他にも価値があると考えているよ。
牛さん

 

人的資本理論では、教育には生産性を高める以外にも価値があると考えています。

例えば

  • 満足感が得られる
  • 人脈を作れる
  • 経済成長をもたらす
  • 治安維持につながる

個人が得られるメリットから、社会全体で得られるメリットもあります。

 

共通点

シグナリング理論と人的資本理論では、共通点もあります。

 

それが「教育は投資」という考えです。

シグナリング理論では、教育(学歴)は、学生が良い仕事得るために行う投資だと考えていました。

 

人的資本理論では

  • 個人の能力を開発するための投資
  • 社会的な便益を受けるための投資

 

北国宗太郎
「教育は投資」とは言っているけど、意味は全然違う・・。
そうだね。どちらも背景の考え方が違うからね。
牛さん

 

どちらの理論も重要

  • 片方だけの理論を重視すると変なことになる

 

シグナリング理論・人的資本理論のどちらも、現実的な話をしている側面があります。

ポイント

学生は「いい大学に入って、いい仕事を手に入れたい」のも事実です。しかし、教育には、人脈を作ったり、社会的に意味があったりするのも事実です。

 

そのため、片方の理論だけを取り上げると問題が生まれます。

 

例えば

教育は「生産性の高い学生」と「生産性の低い学生」を判別するためのツールなので、教育に税金を投入しない方が良い

生産性の低い学生が良い大学に入ると、企業が採用の時に困る

 

北国宗太郎
さすがに、それは無いよって感じ。
逆の話だってあるよ。
牛さん

 

例えば・・

教育を受けさえすれば「人的資本」が蓄積されるので、会社は学生をオープンに採用して、会社で教育してください

 

北国宗太郎
教育を妄信している感じがする。
うん。だからこそバランスが大事なんだ。
牛さん

 

教育は、生産性の高い学生を区別する手段なのか?

教育は、生産性を高めるための手段なのか?

 

「シグナリング理論」と「人的資本理論」、2つの側面を考えなければ、本当の意味で教育の価値を見つけることは出来ないのでは?と筆者は考えています。

 

大きな問題点

そもそも、就職市場に「情報の非対称性」が発生していると、学歴=仕事が出来るかの指標になってしまいます。

情報の非対称性を、どのように解消していくかも忘れてはいけません

 

どちらにせよ

教育は重要です。

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