「今100万円を失う」のと「1年後に100万円を失う」ならどっちがいいですか?
この質問の答えが、私たちが将来のために行動できる理由を示しています。
符号効果を分かりやすく簡単解説!脳科学の視点からも紹介!
符号効果とは?
符号効果とは
利益よりも損失に対する時間割引率が小さくなる心理現象のこと。
割引効用アノマリー・異時点間選択アノマリー呼ぶこともある。
たとえば
- 今100万円を失う
- 1年後に100万円を失う
どちらが嫌ですか?という質問
どちらも嫌!
この質問、どちらも100万円失うことになるので、当然どちらも嫌ですよね。
次の質問
- 今100万円をもらう
- 1年後に100万円をもらう
先ほどとは違って、100万円を貰うという質問です。
ここに注目
100万円を失う時は、今でも1年後でも嫌な気持ちになります。
しかし、100万円を貰えるなら、多少なりとも早めに欲しい気持ちが湧いてきます。
ポイント
つまり、損失と利益では、時間による価値の感じ方が異なる。
損失の価値:今 ≒ 将来
利益の価値:今 >将来
なぜ損失の価値は一定なのか
仮に、将来の損失の価値が減っていくと考えましょう。
損失の価値:今 > 将来
将来の損失の価値が低く感じると、こんなことが起こります。
男性
よーし、借金して今は遊ぼう!1年後に返済するなんてどうでもいいよ。
女性
これ食べると太るんだよね~。でも将来太るなら別にいいや。
将来の損失の価値が低くなると、私たちは将来のために行動出来なくなります。
それ以上に、将来の自分にとってマイナスになってしまうような行動をしてしまうのです。
損失に対して常に同じような価値を感じる理由は、まさにコレです、
さらに詳しく
「今の損」でも「将来の損」も同じように苦痛に感じるのは、将来を忘れて破滅してしまうような行動を取らないために重要な役割を果たしている。
復習
損失と利益では、時間による価値の感じ方が異なる。
損失の価値:今 ≒ 将来
利益の価値:今 >将来
このように感じる心理現象を符号効果と言うわけですが、この心理現象は誰にでも当てはあるわけではありません。
符号効果がない人
世の中には、符号効果が働かない人がいます。
損失の価値:今 > 将来
さきほど紹介したように、符号効果が働かない(将来の損失を割引く)人は、将来を忘れて行動をしてしまいます。
ポイント
最近では、肥満・喫煙・多重債務との関係も指摘されているのです。
2014年
そんな中で、日本の研究機関の実験が話題になりました。
符号効果を脳科学で解明!?
実験
- すぐに小さい利益 (損失)
- 時間がかかるけど大きい利益 (損失)
画面上にモザイク図形が2つ出ます。2つのモザイク図形は、時間と共にモザイクが消えるようになっています。
完全にモザイクが消えると、得られる金額(または損失)が確定します。
モザイクが消える時間が早い方は少ない金額(±10円)
逆に、モザイクが消えるのに時間がかかる方は大きめの金額(±40円)
実験に参加する人は、限られた時間内で「多くの利益 (または少ない損失)」になるようにどちらかの図形を選択しつ続けてもらいます。
実験している時の脳の様子を観察しました。
米国科学雑誌「ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス (The Journal of Neuroscience)」(2014年4月16日発行、米国東部時間) 掲載
実験の結果
損失をこうむる時だけ「符号効果があらわれる人」と「そうではない人」の脳の活動に違いがある事が分かりました。
まずは符号効果がある人から
符号効果がある人は「今の損失」も「将来の損失」も同じくらい嫌だと感じる人のことです。(損失に対する時間割引率が小さい)
ポイント
符号効果がある人は、損失までの時間遅れ(図形のモザイクが消える時間)が長いほど「線条体(せんじょうたい)」の活動が大きくなりました。
(Wikipediaより・線条体)
符号効果が出ない人
「将来の損失」の価値を小さく見積もる人(損失に対する時間割引率が高い)は、さきほどの「線条体(せんじょうたい)」と呼ばれる脳の部位が、逆に活動しなくなるという結果が出ました。
ココがポイント
符号効果は、脳の「線条体(せんじょうたい)」よ呼ばれる部位が関係している。ちなみに「線条体」は、報酬系と関係があったり、意思決定にも深く関係している部分になります。
符号効果が出る人のもう1つの特徴
ポイント
符号効果がある人は、損失が大きいほど「島皮質(とうひしつ)」と呼ばれる脳の部位の活動が大きくなりました。
(Wikipediaより・島皮質の一部)
「島皮質(とうひしつ)」は、人の情動的なものと関係が深い部位です。また”痛み(精神的なものを含む)”にも深く関係してると言われています。
符号効果が出ない人
線条体のときと同じく、損失が拡大すると「島皮質体(とうひしつ)」は活動が低下するという結果が出ました。
まとめ
符号効果がある人(今の損失≒将来の損失)は、損失までの時間が長いほど「線条体(せんじょうたい)」の活動が、損失が拡大すれば「島皮質(とうひしつ)」の活動が大きくなる。
一方で、符号効果がない人(今の損失>将来の損失)は、まったく逆の反応になる。
この実験の意味
この実験の結果を見ても「ふ~ん」って感じかもしれません。
しかし、この結果はとても重要です。
さきほど「符号効果がない人は、肥満・喫煙・多重債務などと関係がある」と触れました。つまり、肥満・喫煙・多重債務などを抱えている人の脳の特徴の1つが分かったのです。
どうして、脳の活動の違いが生まれたのか
遺伝なのか、食べているものなのか、その原因が分かれば、通常の人と同じように符号効果を働かせることが出来るかもしれません。
または、薬などを開発できるかもしれません。
そういった意味で、この実験の結果はとても重要だといえます。
近年は、脳科学の視点を取り入れた「神経経済学」という分野も広がっています。
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