たくさんの人の意見をどうやってまとめるか?ルールの決め方は?
学校や会社でも問題になる「決め方の経済学」
そんな近頃話題になっている「社会選択理論」を簡単に解説!
はじめての「社会選択理論」とは?
社会選択理論とは?
たくさんの人の意見をどうやってまとめるのが一番いいのかを科学する学問。
ポイント
身近な話だと、多数決・選挙・コンペ、いろいろな人の意見や評価をまとめて1つの結論を出さなきゃいけない時ってありますよね・・。
社会選択理論では、どんな決め方が良いのかを教えてくれます。
みんな自分の意見が通るように、考えを凝らして、ズルしてなんて良くありますよね。
社会選択理論では、個人が自分が得するように戦略的に行動すると仮定して、意見をどうやってまとめるのかを考えます。
他にも・・
多数決で決めたけどみんなが納得できないような感じになったりすることってありませんか?
経済学でいう「市場の失敗」的な感じが生まれないようにするために、どんな決め方が良いのかを考えたりもします。(市場をデザイン)
ここからは
社会選択理論を
- 「どんな決め方が良いか?」
- 「そもそも、みんなが良いと思うモノとは何なのか?」
という2つの切り口で見ていきます!
まずは「どんな決め方が良いのか?」という話からです。
① 社会選択理論的に「どんな決め方が良いのか?」
社会選択理論で一番のメインとなる話です。
どんな方法で、たくさんの人の意見をまとめるのが良いのか?
step
1アローの不可能性定理
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【アローの不可能性定理を分かりやすく】どうすれば選挙は上手く機能するのか
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社会選択理論が「みんなの意見をどうやってまとめるのが良いのか」を考える学問と言ってきましたが・・
公正な多数決が出来ないことを証明してしまう
社会選択理論では、こうした「これは無理」「パラドックスが起きる」みたいな話がたくさんあります。
ココがポイント
まずは無理なものを無理と考えて、そこからどうやって現実的な話にしていくかが醍醐味です。
ちなみに・・
アローの不可能性定理は、公正な多数決をするためには4つの条件が必要だと考えました。
その4つの条件を同時に満たす多数決は出来ないということを数学的に証明したものになります。
この定理を見つけた経済学者のアローの名前から”アローの不可能性定理”と呼ばれています。アローは経済学で多くの功績を残しており、ノーベル経済学賞を受賞しています。
多数決がダメなら、どうすればいいのでしょうか?
じつは、多数決よりもいい方法があります。
なんとその方法は18世紀に考えられていた方法なのです・・。
アローが「公正な多数決は出来ない」と証明する約200年前、同じようなことを考えていた人がいました。
step
2多数決の代替案「ボルダールール」
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多数決の代替案「ボルダルール」のメリット・デメリットを分かりやすく
多数決以外に良い決め方ないかな~ たくさんの人を取りまとめる役割の人は大変ですね。 じつは多数決以外の方法で「みんなの意 ...
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ボルダールールは、社会選択理論では有名な話になります。
「ボルダルール」とは?
みんなで何かを決める時に「1位=3点」「2位=2点」「3位=1点」という風に、点数を付けて、一番点数が高かった選択肢を採用するという方法。
多数決とは違い、点数を付けていくのが大きなポイントです。
ボルダールールでみんなの意見をまとめると、普通の多数決よりもみんなが納得する結果になります。
ちなみにこの方法を考えた人がフランスのボルダさんです。
(Wikipediaより)
1770年に多数決には欠陥があることを指摘して、新しい投票の仕組み(ボルダルール)を考案した。この仕組みが注目されるのは20世紀に入ってから。
⇒ 多数決の代替案「ボルダルール」のメリット・デメリットを分かりやすく
ちなみに
多数決が良いか悪いかという話は、フランス革命(1789年~)の直前などは活発に議論されていました。
当初は、一般の人々も選挙に行くことが出来なかったため、大勢で選挙をするために「多数決は有効だ!」と唱えた人もいます。
コンドルセという有名な学者 (←超有名です) は
YES・NOで答える多数決なら、多くの人が社会的に正しい選択肢を選ぶことが出来る。
なので一般の人も選挙に参加できるようにすべき。
多数決の問題は、民主政治の是非を問う問題でもあったので、活発に議論されていたというわけです。
この話は「コンドルセの陪審定理」として有名です。
さらに詳しく
陪審定理では、YES・NOの単純なかたちの多数決なら、みんなにとって良い選択肢が選ばれることを数学的に証明した定理です。
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コンドルセの陪審定理は正しいのか?みんなで決めると失敗する理由
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次からは、社会選択理論の2つめ「そもそも、みんなが良いと思うものって?」という話です。
これは、決め方をどうするか以前に「そもそもどんな基準で、良いものと悪いものを判断するのか?」という話になります。
② 社会選択理論的に「みんなが良いと思うものって?」
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みんなの意見を上手くまとめることが出来るかという視点の話が多かったですが、そもそも自分が好きなものを主張することが良いことなのでしょうか?
注目
「自分の権利が守られ・自由に考えたり意見が言える社会(自由主義)」に私たちは生きています。
自由に色々と考えて、自分にとって良いものを選ぶ。
当たり前なことですが、じつは”あるパラドックス”を抱えています。
それが「自由主義のパラドックス」です。
自由主義のパラドックスとは?
個人が自由に意思決定できること(リベラリズム)と、社会のみんなが納得する意思決定をする(パレートの原理・全員一致の原理)は、両立できないというパラドックス。
多数決などで「自由に意見を表明する」しても「社会のみんなが納得する結論は出せない」という話になります。
ココがポイント
みんなが自分基準で考えると、みんなが納得する意見をまとめることが出来なくなる可能性がある。なので、客観的に、みんなにとって良いものは何か?を考えて行動することが重要。
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「ロールズ」は社会選択理論のひとではありませんが、この話は有名なので紹介。
さらに詳しく
ロールズは「正義とは何か?」という疑問に答えを出した人です。その本「正義論」は有名になりました。
ロールズは、ある2つの条件を満たせば、それが「公正な正義」を満たしていると考えています。
多数決でどの選択肢が良いかを考える時に、この基準を満たしている選択肢が、みんなにとって良いんじゃないか?とも言えます。
社会選択理論の今後やおすすめ本
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社会選択理論は、普段の生活でも登場しています。
例えば・・
上の「中位投票者の定理」などは「日本のシルバー民主主義」が生まれる理由として説明できます。
中位投票者の定理とは?
選択肢のなかでも、中央値(中位数)にあたる意見を持つ投票者に好まれる選択肢が多数決では選ばれるという定理。
アメリカの大統領選挙や、自分の意見を多数決で優位にするために秘訣などもあり、有名な話です。
こんな感じで社会選択理論は、近年注目されることも多くなっています。
ポイント
今後はチームをまとめたり、イベントでみんなの意見をまとめたり、プロジェクトのリーダーや、管理業務をする人にとっては必須の科目となるかもしれません。
というわけで社会選択理論の書籍を2つ紹介します!
1つは一般の人向け、もう1つは学生向け(数学的な証明とかに興味がある人向け)
こちらは一般の人でも読み物として楽しめる内容です!
もちろん「社会選択理論」の話ですが、普段の生活で登場するような議題を取り上げて分かりやすいです。
公平な決め方を装い、「みんなの意見」を誘導できることが理解できる。
本書を読んだ学級委員長は、学級会でこっそり実践してクラスを支配してみよう。
担任の先生は委員長をたしなめ、ボルダルールで決める方向に導いてあげてほしい。
(Amazonのレビューより)
そして、もう1つは「数学的な証明に興味がある人向け」
この本ですが、コンドルセやボルダーの話がしっかりと書かれており、数学的な証明も多くのページが割かれています。
よりアカデミックな内容と言っていいです。本当に教科書的な側面が強い。もちろん数式を読み飛ばしても、十分に読み応えのある内容になっています。