日常生活でも登場するオークション。ネット広告もオークション方式で落札されています。
1996年&2020年のノーベル経済学賞もオークションに関する研究が受賞しました※。そんなオークションを経済学で考えましょう!
1996年は第二価格方式・2020年はオークション理論で登場する「勝者の呪い」や、理論を発展させて電波オークション(周波数オークション)等を実現させるための仕組みを理論化したことに対しての功績。
ちなみに
2020年のノーベル経済学賞に関係するのは
- オークション参加者のベストな戦略(勝者の呪いの部分)
- 同時競り上げ式オークション
順番に読まないと、意味が分かりづらいかもしれませんので順番に読むことをお勧めします。
オークション理論とは?
オークション理論とは
落札の過程をゲーム理論などで分析して、適切な価格で、望ましい人へ商品・サービスが落札されるためにはどうすれば良いかを考えるミクロ経済学の分野。
例えば
公共工事では、オークション方式で入札が行われます。一番安く入札した会社が仕事を請け負いますが、この時、その会社がちゃんと工事をできるのかが重要です。
安く落札したせいで社員への給料が払えず工事がストップ。
これでは、工事を依頼する方も困ってしまいます。
この場合、安い価格だけど、ちゃんと仕事もしてくれる会社が1番望ましいと言えます。
ポイント
オークションでは、適切な価格で望ましい相手が落札する仕組みが重要になります。
オークションの種類
「オークション”理論”」の概要が分かったところで、実は「オークション」には種類があります。
オークションには大まかに4つの種類がある。
① 公開入札
- (1) 競り上げ方式 (イギリス式)
- (2) 競り下げ方式 (オランダ式)
② 封印入札
- (3) 第一価格方式
- (4) 第二価格方式
ここからは、それぞれのオークションの特徴を見ていきます。
① 公開入札方式
公開入札方式とは
公の場所で行われる競売のこと。周りの参加者が提示している価格が分かる。
(例)豊洲市場で行われるマグロの競(せ)り
公開入札方式は2つの種類に分かれます。
競(せ)り上げ方式 (イギリス方式)
よくある普通のオークション方式。オークションの主催者が最低価格を設定して、参加者が価格を叫んで競(せ)り上げる。
最後に1番高い落札価格を言った人が落札できます。
競(せ)り下げ方式 (オランダ方式)
通常のオークションとは反対に、価格を下げていく方式。
オークション開始と同時に、徐々に価格が下がっていきます。
途中で買い手が現れれば取引成立。
価格が下がりきっても入札がなければそこで終了。
オランダの生花市場で行われているので「ダッチオークション(オランダ方式)」と呼ばれている。
② 封印入札方式
封印入札方式とは
オークションの参加者は周りの人の提示価格を知ることが出来ない。
最初に紹介した公共工事のオークションは封印入札です。企業は、いくらで落札したいと主催者に伝えて結果を待つことになります。ビジネス系の競売に多い方式。
封印入札方式は2つの種類に分かれます。
第一価格方式 (ファーストプライス・オークション)
公開入札方式の競り上げオークションと同じく、1番高い価格を提示した人が落札する方式。
第二価格方式 (セカンドプライス・オークション)
第一価格方式と同じく、1番高い価格を提示した人が落札する。
ただし、支払金額は2番目に高い価格 (自分以外のライバルが提示していた最高落札額)となる方式。
経済学者のウィリアム・ビックリーが考えた方法です(ビックリーは1996年にオークション理論の分野でノーベル経済学賞を受賞しています)。
彼の名前にちなんで「ビックリー入札」とも呼ばれています。
ちなみに
「第二価格方式 (セカンドプライス)」は、ネット業界で浸透している入札方法になります。
例えば、ウェブ検索をすると広告が出てきますが、その広告は「第二価格方式(セカンドプライス)」によって入札が行われています。
2002年2月にGoogle(グーグル)が自社の広告サービス「Google Adwords(グーグル・アドワーズ)」に第二価格方式(セカンドプライス)の入札を始めたことは話題になりました。
オークション参加者のベストな戦略
オークションに参加する時にどんな戦略なら損をしないか?
オークション理論では、オークションの種類によって最適な戦略が異なると分かっています。
① 競り上げ方式・第二価格方式の場合
- 競り上げ方式 (通常のオークション)
- 第二価格方式 (2番目に高い金額を支払う)
この2つのオークションでは、損をしない戦略は同じです。
例えば
インターネットで美術品を落札しようと考えています。
その絵に10万円支払ってもいいと考えたら、10万円まではオークションに参加します。もし価格が10万円を超えたら、オークションから降りるのが最善な戦略になります。
この戦略をとるのが難しい理由
オークションで勝つことにこだわり、想定以上の金額で落札してしまう。
勝ちにこだわる理由
-
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行動経済学の分野で「保有効果」という話があります。
保有効果とは?
自分が所有しているモノを、普通より高い価値があると思ってしまう心理現象のこと。
この保有効果ですが、自分が落札者になりそうになっても働きます。
例えば、インターネットオークションで自分が一瞬だけ最高金額を提示しただけで、自分が保有しているものだと感じてしまうのです。
少しでも自分が保有したと感じると、通常よりも価値を高く見積もってしまうので、どんどん想定していた価格よりも高い金額を提示してしまいます。
更に、人は自分のものを失うことに抵抗を覚えます(損失回避性)。そのため、一瞬手に入れたものを失いたくない気持ちが働き、勝ち(落札)へのこだわりが強くなるのです。
実はこの話、これで終わりではありません。
「自分が支払ってもいいと思った金額までオークションに参加する」というのは、ある前提があります。
ここに注目
普通のオークションでは、絵画や雑貨など個人的に価値を決めることが出来るものを取り扱っています。このように、個人が自由に価値を評価できるものを「私的価値(Private Value)」といいます。
今紹介した戦略は、この「私的価値」に分類される商品を落札するときにベストな戦略になります。
例えば
- 油田の採掘権
- 温泉が出る土地
- スポーツの試合の放映権
ビジネスで競売(オークション)にかけられるものには、私的価値ではなく「共通価値(Common Value)」と呼ばれる商品があります。
さらに詳しく
「共通価値」の商品は、自分だけでは価値が決められません。例えば油田の採掘権は、本当に油が出るかわからず、ベストな価値が決められないのです。
「共通価値」の商品をオークションで落札する時は、自分が想定している価格で落札すると、損をする可能性があるので注意が必要です。
これを「勝者の呪い」と言います。勝者の呪いを定式化したウィルソン教授は2020年のノーベル経済学賞を受賞しました。
実際に引き起った「勝者の呪い」
米国の油田採掘権のオークションで、採掘権を得た企業が軒並み損失を被った事例があります。
第二価格封印入札が採用され、各企業が自身の推定値を入札したとしましょう。そうすると、最も高い推定値を持つ企業が、2番目に高い推定値で落札することになります。
各企業の持つ推定値が、正しい価値よりも楽観的で高すぎることもあれば、悲観的で低すぎることもあると‥(略)このため、落札額は正しい価値よりも高すぎることになり、落札した企業は損失を被ってしまいます。
引用元:日経新聞「オークション理論の基礎(8) 「勝者の呪い」考慮が必要」 より(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27691610V00C18A3SHE000/ )
例えば
企業Aと企業B「この油田は間違いなく石油がたくさん出る!とてつもなく価値が有るぞ!」と思っています。
一方で、他の企業は「この油田は採掘するのが大変だし、そこまでの価値がない」と考えています。
企業Aと企業Bだけが、この油田を過大評価していることになります。すると、油田を過大評価したプレイヤーが競(せ)り合うため、落札金額が過剰になり採算が合わなくなる企業が頻出します。
「勝者の呪い」は第二価格方式(封印入札)だと、さらに注意が必要です。
ここにも注目
通常のオークション(競り上げ方式)ならば、周りの評価額がある程度分かります。どれくらいの金額で落札しようとしているかは、オークション中の競(せ)り具合で判断すればいいのです。
しかし!
第二価格方式(封印入札)では、周りからの情報が全くありません。入札終了後、結果を見てみないと自分の評価が周りとズレているのかが分からないのです。
自分が100万円の価値だと想定しても、周りの評価額は10万円程度という可能性もあります。
もし、自分と別のもう1人が高く評価しすぎていた場合、周りの評価額よりも高い金額を支払う羽目になります。(勝者の呪い)
このように「共通価値」のオークションは難しく、オークション理論でも研究があまり進んでいない状況です。
② 競り下げ方式・第一価格方式の場合
- 競り下げ方式 (ダッチ・オークション)
- 第一価格方式
この2つのオークションでは、2つの戦略があります。
例えば
- オランダの生花市場を考える
チューリップを100円以下で落札しようと考えています。
価格は徐々に下がっていき、100円になりました。ここで落札すると、100円の価値のモノを100円で購入することになります (利益が0円です)。
- 早めに落札するか
- 更に安くなるのを待つか
通常のオークションの場合、価格が徐々に競(せ)り上がります
100円でチューリップを落札しようとした場合、100円になるまでオークションに参加すれば損をすることはありませんでした(最適戦略)。
80円で落札する可能性も、90円で落札する可能性も残っています。仮に90円で落札すれば、想定していた価格より10円安く落札できて得をします。
※第二価格方式(セカンドプライス)で落札した場合は、支払金額は自分の提示した金額より必ず低くなるので、間違いなく得をします。
しかし
競(せ)り下げ・第一価格方式の場合は状況が変わります。
「100円まで」ではなく「100円より下」で落札しないといけません。
第一価格方式はイメージしやすいと思います。100円の価値があると考えているものを100円で落札しても1円も得しませんが「無難に100円で落札するか」それとも「100円より下の価格を提示して少しでも得しようとするか」
競り下げの場合、オークションの参加者は「早めに落札するか」「更に安くなるのを待つか」2つの選択肢を強いられます。例えば100円から95円になったとき、もっと安くなる可能性もありますし、他のプレイヤーに落札されるのが嫌なので95円を受入れて落札することも出来ます。
ライバルの落札金額を考える
例えば、ライバルが50円で落札したがっていれば、60円くらいになったら落札してしまえばいいです。
もし90円で落札しようとしていれば、早めに落札する方が良いです。
「トレードオフ」とは、一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないという状態や関係のこと。「すぐ落札するか」「安くなるのを待つか」は、まさにトレードオフの関係です。
売り手側から見るオークション
これまでは、買い手側 (オークションの参加者側) の話をしてきましたが、売り手側の話も見ていきましょう。
オークションに出品する場合、どのオークション方式が一番利益が出るのか?
オークションに出品する以上、やっぱり高い金額で落札してくれる方が嬉しいものです。
収入同値定理
「私的価値」のオークションならば、どんなオークション方式であっても売り手の期待収益は同じ金額にあることを証明した定理。
第二価格方式を生み出したビックリーが、この定理でノーベル経済学賞を受賞(1996年)している。
「収入同値定理」で証明された通り、
- 競り上げ方式
- 競り下げ方式
- 第一価格方式 (ファーストプライス)
- 第二価格方式 (セカンドプライス)
では売り手側の期待収益は同じです。
ただし
さきほど紹介した「保有効果」などの心理的な影響があるため「第二価格方式(セカンドプライス)」よりも通常の「競り上げ方式」の方が高い金額で落札され、売り手の収益が高くなることもあります。
他には
- 「共通価値」の場合、競り上げ方式の方が高い落札額になる傾向※
- 商品が分割できたり、複数の商品を扱ったオークションでは「収入同値定理」が当てはまらない(株式市場など)
※皆がオープンに落札価格を提示するため、周りが思った以上に高い評価をしていることに気づくため価格が吊り上がる傾向にある。
同時競り上げ式オークション
最近では「ウェブ広告の入札」以外にも、「電波(周波数)オークション」がアメリカで行われています。さらに、一度に複数商品を扱うようなオークションは、ネットの発達で拡大していくと考えられます。
2020年のノーベル経済学賞では「勝者の呪い」のほかに、これまで登場したオークション方式を発展させた「同時競り上げ方式」を考案して理論化したミルグロム教授がノーベル経済学賞を受賞しました。
1つ前の段落で「複数の商品を扱ったオークションでは収入同値定理が当てはまらない」と書きましたが、その問題を解決したのが同時競り上げ方式です。
この話は電波オークション(周波数オークション)を例に見ていきましょう。
電波オークション
- テレビや携帯の電波で実施されるオークション
電波には周波数があり「1つの周波数には1つのサービス」が普通です。携帯電話の周波数で考えると「KDDI・NTTドコモ・ソフトバンク」は、それぞれ違う周波数を使っています。
また、一般に周波数が高いほうが通信速度が速くなります。
ここで「1~100」の周波数をオークションに掛けます。
同時競り上げ方式では「1~100」の周波数を同時にオークションします(普通なら1つずつ順番にオークションします)。
ポイント
最大のポイントは、全ての周波数帯で競(せ)りが完了しないとオークションが終らない点です。オークションが終らない限り、他の周波数帯へ乗り換えて競(せ)り続けることも可能です。
例えば
企業A「うちは高速通信ができる91~100の周波数帯がどうしても欲しい」
企業B「91~100の周波数帯が欲しかったけど、価格がどんどん吊り上がっていくし、81~90で良いか。」
企業C「50~80は意外と人気がなくてラッキー」
企業B「81~90が良いと思ってたけど、60~80も安いし落札しようかな」
企業C「う~ん、企業Bが60~80で高い価格を提示してきたな‥」
という風に、全ての電波帯で落札者が定まるまで、全ての電波帯でオークションが続きます。最終的に、全ての企業が競(せ)りを終えた段階でオークションが終了します。
ポイント
個別にオークションをするよりも、同時競り上げ方式によるオークションの方が、より効率的に資源配分が実現する(売り手も買い手も得をする)。
この電波オークションは、米国や欧州で行われています(日本では行われていません)。
ミルグロム教授は、オークション理論をより実用的に発展させて定式化しました(ここで話した以上に数学的に、そして電波オークション以外の様々な分野でも!)。それが2020年のノーベル経済学賞の受賞理由になっています。
最近のノーベル経済学賞のトレンドは、理論を作って、かつ、それが実用的か(現実で使われているのか)?が重要なポイントになっています。
さらに詳しく
日本で携帯電話などの利用料金が高止まりしている理由の1つが、電波を国が割り当てていることがあげられます。
欧米では、電波オークションにより自由な競争を経てから電波が割り当てられているので効率的です。日本では「国から企業へ割り当てる」という過程を経ているため、適切な競争原理が働いていません。これが携帯電話の利用料金が高止まりしている理由の1つかもしれません(競争原理が働かず企業努力が働かない)。