「市場に任せていれば、すべてが上手くいく」
残念ながら、市場に任せると失敗するものがあります。
私たちの”良心”を壊す、お金の力を行動経済学で解説!
「社会規範」と「市場規範」とは?
市場規範と社会規範
社会規範とは、道徳や倫理的なルールのこと。犯罪ではないけど、社会的に認められていないものは、社会規範にあたる。
市場規範とは、市場の原理のこと。物のやり取りをお金で行って、需要と供給で価格が決まるような状態のこと。
あなたは学生ですか?社会人ですか?
学生なら「社会規範」の世界に住んでいます。
社会人なら「市場規範」の世界に住んでいます。
多くの学生
勉強することや集団行動を求められています。
つまり、道徳心や倫理観が重視されている世界で生活しています。
一方で社会人は
会社で利益を出すことを目的に働き、給与をもらうために働いています。
つまり、お金の力が重要な世界で生きています。
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学生が「お金を払うので遅刻します」「教室の朝礼は費用対効果が悪いのでやらない」「運動会は採算が合わないのでやらない」「ゴミ拾いはお金を貰わないとやらない」とかって言わないですよね?お金に関わらず、社会的に求められていることが社会規範です。
疑問
このお金に関わらず、道徳や倫理的に求められていること(社会規範)に、お金の力を持ち出すとどうなるでしょうか?
それを研究したのがダン・アリエリー教授です。
(Wikipediaより・ダン・アリエリー)
ダン・アリエリーの著書「不合理だからすべてがうまくいく―行動経済学で「人を動かす」」に、紹介されている、実験を紹介します。
イスラエルの保育園のはなし
- 保育園の閉園時間までに、子どもを迎えに来ない親
イスラエルのある保育園では、両親が仕事をしており、子どもを迎えに行くのが遅れてしまう親が多かったそうです。
カリフォルニア大学ニージー教授・ミネソタ大学ルスティキーニ教授による (Gneezy & Rustichini (2000a) )。
保育園はこの問題を解決するために、ある解決策を思いつきました。
解決策の案
閉園までに子どもを迎えに来なければ、罰金を取る。
※1時間あたり10ドル (約1,000円) の罰金
効果なし、むしろ・・
閉園時間までに迎えに来ない親が増えました。
母親
遅れると先生に申し訳ない気持ちがあったけど、罰金制度が始まって、その気持ちが薄れた。
父親
罰金を払えば、迎えに行くのが遅れても問題ないと思うようになった。
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罰金制度は「お金を払えば遅れていい」という気持ちを生み出した。「社会規範」が「市場規範」に置き換わったと言える。
こうして罰金制度は大失敗。もちろん、保育園はそれに気づきました。
わずか数週間で罰金制度を失くしたのです。
しかし
- 市場規範にすり替わると戻らない?
罰金制度をなくしても、迎えに来ない割合が減りませんでした。むしろ、少しだけ増えたのです。
注意ポイント
「社会規範」が「市場規範」に代わると、元に戻らなくなる。
ここから分かる通り、社会規範と市場規範の影響力には大きな違いがあります。
影響力:社会規範< 市場規範
市場の力・お金の力がどれほど強いかが分かるかと思います。人間関係や社会的なモノが、どれほど壊れやすく、修復するのが難しいかが分かるかと思います。
社会規範と市場規範は両立できる?
「社会規範」と「市場規範」は一見すると矛盾している存在に見えます。
しかし、2つを両立している例もたくさんあります。
例えば
大手食品会社を例に見てましょう。
食品会社は、ビジネスとして食べ物を扱っています。つまり「市場規範」の世界にいます。
そこに
西日本で豪雨災害が起こりました。
そのときに、その食品会社は、被災地に無償で食品を寄付しました。これは「社会規範」に合わせた行動です。
被災地の男性
あの食品会社の評価が上がった。今後も、あそこの食品を買い続けようと思う。
被災地の女性
今まで買ったことがなかったけど、今度からあそこの食品を買ってみようかしら。
市場規範の世界にいても、社会規範にもとづいた行動をすると、対立せずにむしろ相乗効果が得られることがあります。
重要
社会規範を市場規範に代えると、ダメになります。
しかし、市場規範に社会規範を足せば、良い影響をもたらす可能性があるのです。
ガリガリ君の値上げの例
- 25年ぶりに「ガリガリ君」の値上げに謝罪
2016年に「ガリガリ君」の価格が60円から70円に値上げしました。
その際に、ガリガリ君を製造している「赤城乳業株式会社」が謝罪広告を打ち出して話題になったことがあります。
この広告は、世界中で話題になりました。
この例を「市場規範」と「社会規範」で考えてみましょう。
アイスの価格が上がっても「値段が上がってるな~」とは思いますが、値上げした企業を評価することはありません。
しかし「ガリガリ君」の値上げは違いました。
「値上げに対して謝罪をする」という社会的な行動が評価され、むしろ値上げしたのに企業評価が上がったのです。
これは、市場規範に生きる企業が、社会規範的な行動をして、むしろ評価が上がった例と言えます。
ポイント
人々の道徳心に頼っていたものを、お金の力で解決しようとすると失敗します。
しかし、お金の世界に倫理観や道徳観を足し合わせれば、それは大きな力にもなるのです。
余談ですが、昔の人はこうした真理に気づいていたのかもしれません。
(Wikipediaより・渋沢栄一)
ちなみに
社会規範と市場倫理を応用すると「好きなこと」を仕事にすると嫌いになる理由も分かります。関連する話が多いので読んでみてください。
⇒「好きなこと」を仕事にして嫌いになる理由を行動経済学で分析!