漫画などで登場する「公共財ゲーム」
最近では「ライアーゲーム」「賭ケグルイ」などでも公共財ゲームと称したゲームが登場しています。
公共財ゲームの内容から、私たちがどうして社会の秩序を保っていられるのかを神経経済学の視点からも解説!
公共財ゲームの概要
公共財ゲーム
公園・行政サービスなど、お金を支払わなくても使える「公共財」を使って、参加者の行動を観察するゲーム。おもにフリーライダー問題を分析するために行われる。
公共財がタダで利用できるのは、税金によって運営されているからです。
ポイント
なので、公園や行政サービスを受けるためには、みんなが税金を支払う必要があるのですが・・・世の中にはズルい人もいるので、税金を払わない人が出てきます。
それを分析するのが公共財ゲームの醍醐味です。
漫画などで題材にもなります
「公共財」についてはこちら
公共財とは?「財の4つの分類」引き起こる問題点を分かりやすく解説!
まずは簡単にゲームの設定です。
ゲームの設定
- 参加者は5人
- 最初に1人100ドルずつ配布
みんなで税金を10ドルずつ納めます。
集めた税金で、ゴミの収集を行ったり、道路を整備したりします。
「みんなの生活が便利になる」
=「集まった金額は2倍になってゲームの参加者に配られます」
ゲームのポイント
- 誰が税金を納めたのかが分からないため、あなたがズルをしてもバレません
- 10ドル全額を納める必要はありません (1ドルだけとか、税金を払わないとかもあり)
あなたは、いくら税金を支払いますか?
良くあるアレンジ
- ゲームを複数回繰り返す
- 初期保有額やリターンの金額を変える
- 税金を払うかの意思決定を順番にするか、一斉にするか
- 誰がどの程度貢献しているかが分かる(ズルをしている人が分かる)、または全体の平均貢献度が分かる
- 途中で誰がズルをしているかの話し合いの時間がある
公共財ゲームのやり方はこんな感じになります。
参加者は、だいたい初対面が多いですね(あえて顔見知りでやったりもします)。
公共財ゲームの大事なポイント
- ある町に10万人いて、1人だけズルをして税金を支払わなくても行政サービスは問題なく提供されます。
つまり
ズルをして税金を支払わないほうが断然お得です。ズルをした1人は、税金を払っていなくてもタダで行政サービスを利用できます。
経済学では、このズルをした人を「タダ乗り=フリーライダー」と言います。
1人だけなら問題ないですが、みんな便乗して税金を払わないと社会がダメになります。でも、税金を払わないほうが得をする。
ポイント
たくさんの人が「どうやって相手に納税させるか」「どうやって周りを出し抜いてやるか」を考えつつ、社会が破綻しないように交渉していく様子が、とても社会性のある状況になっています。
注目
公共財ゲームについて知ったところで、実際にやってみましょう~!と言いたいところですが、実は公共財ゲームは、大体同じような結果になります。
公共財ゲームの結果は、だいたい決まっている?
公共財ゲームは、だいたい決まった結果になります。
先ほど紹介した条件で、ゲームを10回ほど繰り返します。
すると・・
最初の方は、ゲームの参加者はある程度の税金を納めてくれます。しかし、ゲームを繰り返していくうちに、段々と支払われる税金が減っていきます。
公共財ゲームでは、ゲームの初回の方では参加者は協力的です。
最初は善意のある行動をするのですが、段々とその気持ちが薄れて最終的に税金を支払う方が損するみたいな展開になります。
このルールだと、最終的にみんなが税金を支払わなくなるのです
はてな
でも、現実の世界ではちゃんと税金を支払っている人がたくさんいるのは何故でしょうか?
ルールを追加する
- 各ゲームの終わりに、税金を支払わない人へ罰(ペナルティー)を与える機会を作る
罰の内容
- 税金を支払わなかった人に対して3ドルの罰金
- ただし、罰を与えるには、誰かが1ドル支払う必要がある
ここで疑問に思った人もいるかもしれません
- 参加者は5人
- 最初に1人100ドルずつ配布
みんなで税金を10ドルずつ納めます。
罰金3ドルなら、何も支払わないで、罰金3ドルだけを支払い続けた方が得する
ゲームの回数にもよりますが、罰金だけ支払ったほうが前半は確実に得をします。
他にもこんな意見が
ゲームの参加者
わざわざ、1ドル支払って罰を与えようとする人なんているの?
色々と疑問がありますが、じっさいに罰(ペナルティー)を与える機会を作ると、公共財ゲームの状況は一気に変わります。
ポイント
罰(ペナルティー)を与える機会を作ると、みんな税金を支払うようになった。
ちなみに
わざわざ自分が1ドル支払って、罰(ペナルティー)を与えようとする人がいるのか?という疑問ですが・・なんとみんな積極的に1ドルを支払おうとします。
不思議なことに、ゲームに罰(ペナルティー)を与える機会を作ると、ゲームの参加者は積極的に税金を支払うようになりました。
さらに詳しく
このようにズルをするやつに罰を与える機会がある公共財ゲームを「罰のある公共財ゲーム」と言います。罰のある公共財ゲームでは、協力する割合が高まることが分かっています。
罰することの快感
「罰のある公共財ゲーム」をすると、なぜかみんな協力的になる。そして、誰かがズルをすると、自分がお金を支払っても積極的に罰する人が出てくる。
ズルい奴を罰したくなる理由
- 人がズルをするやつ(税金を支払わないやつ)を罰している時の脳の様子を見るとその理由が明確になります。
公共財ゲームは「ゲーム理論」や「行動経済学」でよく取り扱われる話ですが、ここからは「神経経済学」の分野。
罰するのは男性の特権?
男性ホルモンの1つに「テストステロン」というものがあります。この「テストステロン」の値が高い人ほど、悪い奴を罰する気持ちが高まることが分かっています。
さらに詳しく
「テストステロン」は競争を掻き立てる男性ホルモンです。テストステロンが高いと、競争的で冒険的で色恋が多い、いわゆる男性的な人になります。
直感的にも理解できる
態度の悪い店員に説教を始めるのは男性、近所でバカ騒ぎをしている人を注意するのも男性が多いでしょう。男性は生まれながらにして、社会の執行者になるように設計されているのです
男性と言っていますが、実際に女性よりも男性の方が悪い相手を罰する傾向が強いです。ただしホルモン多寡によるので、テストステロンが高ければ人を罰する気持ちが強い女性もいます。
ここが一番重要
テストステロンが高いと人を罰する気持ちが高まりますが、実際に人に罰を与えている時の脳の様子も注目です。
ポイント
罰を与えている時の脳の様子を観察したところ、ドーパミンが分泌されて脳の報酬系が強く活性化していることが分かりました。
つまり「人を罰することは快感につながる」のです。
これは言葉の通りの意味です。人を罰することで、脳の報酬系が満たされて満足します。
ここに社会の秩序を守るための脳の仕組みがあります。
step
1テストステロンにより、ずるい奴を罰する気持ちを高める
step
2人を罰するとドーパミンが分泌、脳の報酬系が活性化する
step
3自ら進んで罰を与えることは快感に繋がっている
step
4周りは罰を受けないようにルールを守るように行動する
step
5罰を受けて集団から排除されると自分の生活に関わるため
ちなみに
チンパンジーにも同じ機能があります。
エサを獲得したのに、周りの仲間にちゃんと分け与えないやつは、次から他の仲間が獲得したエサを分けてもらえなくなります。
漫画などで登場する公共財ゲームで、社会の秩序が保たれる理由まで解明できました。
経済学では、こうした行動の理由を説明できなかったんですが、脳の視点から見れば簡単に説明がつくのが「神経経済学」の面白いところです。
この話の元ネタはこちらの本です。
⇒経済は「競争」では繁栄しない――信頼ホルモン「オキシトシン」が解き明かす愛と共感の神経経済学
興味があれば読んでね!