固着性ヒューリスティック(係留と調整ヒューリスティック)ってどんな例があるの?
行動経済学でも重要となる固着性(係留と調整)ヒューリスティックについて、身近な例を紹介&解説していきます!
固着性ヒューリスティックとは?
初めての経験・始めの情報に影響を受けて物事を判断する現象のこと。途中の経験や情報は、最初の判断を修正するために使われることが多くなる。
初恋の人を引きずる
学生時代に恋したあの人、大人になった今でも引きづっている・・。
あなたもそんな一人ではありませんか?
例えば初恋の人と結ばれたけど、最終的に分かれてしまった経験がある人は、その後に付き合う相手の特徴に影響を及ぼすかもしれません。
- いい思い出だった人は、初恋の人の雰囲気を追い求める
- 悪い思い出だった人は、初恋の人と違う雰囲気の人を好きになる
いい思い出なら、その後の恋愛は初恋が基準になり、それと近いものを求めます。
初恋が悪い思い出なら、初恋の時とは全然違う恋愛をしていこうと考えるかもしれません。
ポイント
このように、初めての経験が、後の行動に影響を与えるのが固着性ヒューリスティック(係留と調整)の特徴の1つです。
初めての経験で嫌な思いをする
例えば、初めてのスキーで、雪山から転げ落ちてケガをしました。それ以来、スキーは危ないモノ、苦手なモノという印象を持ってしまいます。
ここで重要なのは「初めてスキーをしたときに」という点です。
この話に関連した、有名な実験があるので紹介します。
国連に参加しているアフリカの国
ヒューリスティックの理論をまとめたトベルスキーとカーネマンは、次の実験を行いました。
有名な実験
100名ほどの人々を2つのグループに分けて質問をします。
国連に参加している国で、アフリカ諸国が占める割合は何%ですか?
片方のグループには「45%より多いか少ないか」と聞きます。
もう片方には「65%よりも多いか少ないか」と聞きます。
実験の結果
45%という数字を出されたグループの方が、65%の数字を出されたグループよりも割合を少なく見積もる傾向があったのです。
ポイント
最初に提示された情報が基準となり、その後の回答に影響を与える心理現象を「アンカリング」と言います。
固着性ヒューリスティック(係留と調整)は、アンカリング効果の影響から発生するヒューリスティックだと言えます。
値引きの表現
ショッピングをすると、30%OFFといった表現をよく見かけるかと思います。
10,000円が今なら30%OFF!
ちなみに10,000円の30%OFFは7,000円です。
もしも
最初から7,000円と紹介されていたら、あなたはどう感じますか?
- 10,000円が30%OFFで7,000円!
- 7,000円
「10,000円が30%OFFで7,000円」の方がお得感があるのは、最初の10,000円という情報がアンカリングの役割を果たしているからです。
ポイント
最初に与えられた金額が基準になり、割引後の金額にお得感を感じる。
どのような情報を最初に与えるかで、消費者の購買意欲が変わったりするので、固着性ヒューリスティック(係留と調整)は、ビジネス・マーケティングの世界では重要な役割を果たします。
ココに注意
ただし、値引き前の金額で販売した期間が2週間未満で「10,000円が今なら7,000円!」という割引表現を使うのは景品表示法に違反します。割引表現が法律に反していないか確認しましょう。
旅行で無駄遣いを減らす
お金にまつわる話で面白い話があります。
あなたはフランスに旅行へ行こうと考えています。
予算をどのように決めるか
- 予算は20万円からスタートして、必要なお金を足していく
- 予算の上限を60万円として、要らないものを引き算していく
じつは、②で予算を決めるほうが、お金をたくさん使う傾向にあります。
さらに詳しく
②の場合、上限を60万円と先に決めると、予算を少しでも削れば上限を下回るので、すぐに満足してしまいがちです。しかし、①の場合、必要なものを足すたびに、予算の上限がどんどん膨れていくので、むやみに予算を増やさないように調整する心理が働きます。
先入観や思い込み
マーケティングの話以外でも、固着性(係留と調整)ヒューリスティックは、私たちの思考回路に影響を与えています。
例えば
初対面で、とても素敵な異性があなたに優しくしてくれました。
普段の生活で、異性から優しくされた経験のないあなたは、すぐに心を惹かれていきます。
どうして優しくしてくれるんだろうか?
普通に考えれば、そういう人は誰にでも優しいとか、人当たりが良いからです。
しかし、毎朝チェックしている占いで「今日は運命の出会いがあるかも!」という運勢だったことを思い出しました。
そして、その運勢と結びつけて「あの人は私のことが好きなんだ!」と勘違いします。
ポイント
人は、簡単に利用できる情報を基準(アンカー)として物事を判断する。そして、アンカーとなる情報は、客観的に正確な情報ではないことが多い。
その後の情報は判断を調整してくためのものになるが、おおよそ客観的な答えになる前に考えることを止めてしまう。
もしも
占いではなく、朝のニュースで「結婚詐欺」が話題になっていたら状況は変わっていたでしょう。
相手の心をだまして詐欺をする、というニュースだったら「あの人は何だか怪しい」と判断していたかもしれません。
確証バイアス
恋は盲目ではないですが、相手は自分のことが好きなんだ!と勘違いすると、根拠のない自信が湧いてきます。
そんな状態になると「相手が自分のことを本当に好きなのか?」という反対の情報を吟味できなくなります。これを確証バイアスと言います。
確証バイアス
人は、自分に有利な情報は積極的に探すが、反証となる情報は受け入れない性質がある。
固着性(係留と調整)ヒューリスティックで、最初の情報がアンカーとなってしまうと、確証バイアスによって、ますます最初の情報に影響を受けてしまう。
例えば
1個 1万円のメロンがあったとします。
メロンが1万円であると聞くと、自分から理由を考えるようになります。
最初に1個1万円と聞いたことで「そのメロンは1万円する」という基準が出来てしまったのです。後はそのメロンが本当に1万円であるかは疑わずに、1万円するという前提で理由を考えだします。
おまけに
このメロンの金額を問題形式で聞いたとします。
このメロンはいくらだと思いますか?結構高いですよ。
男性
1万円とかですか・・?
もし、これで1万円だと当ててしまうと、後知恵バイアスに陥ります。
後知恵バイアス
自分の予想が的中すると、自分の予想に自信を持つようになります。
その状態で別の問題を予想すると、強い確証バイアスが働きます。
さきほどの話に戻る
初対面で優しくされて「次に会う時も優しくされるに違いない」と予想しました。
そして、次に会ったときも優しくされました。
すると「自分の予想が当たった。これは間違いなく自分のことが好きなんだ!」と一層勘違いをする事になります。
ここに注意
最初の情報で、人の判断は大きく変ります。
他のヒューリスティックとは違い、固着性(係留と調整)ヒューリスティックはかなり強力に作用します。
ベタな言い方ですが、重要なことを決断する時は、色々な人の話を聞いて、たくさんの情報を吟味してください。
特に自分が固着性(係留と調整)ヒューリスティックの影響を受けていないかを意識することが大切です!
ヒューリスティックについてのまとめ記事!
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ヒューリスティックで人が経験則で行動する事例・心理学との関係
直感的に行動したり、経験則で行動することを心理学・行動経済学の世界で「ヒューリスティック」と言います。 今までの経験上こ ...
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