神経経済学・脳科学 行動経済学

【遅延報酬割引とは?】目先の欲望に負ける人の脳はどうなっているの?

2019年6月16日

将来の利益のために行動できる人は何が違うのでしょうか?

遅延報酬割引を分かりやすく簡単解説!

後半は脳科学の視点からも分析します。

遅延報酬割引とは?

 

遅延報酬割引とは?

「遅延報酬(ちえん・ほうしゅう)」とは、将来的に得られる利益のことを言う。

私たちは、将来の利益(遅延報酬)を時間に応じて低く見積もる傾向があります。その傾向の強さを遅延報酬割引と言います。

 

北国宗太郎
北国宗太郎
牛さん、もっと分かりやすくお願いします。
簡単な例をもとに考えてみよう!
牛さん
牛さん

 

分かりやすい例

今から1年後に100万円を貰えるとします。

遅延報酬割引が5%なら「その100万円の今の価値は95万円」ということになります。

 

さらに詳しく

今100万円が貰えるのと、1年後に100万円が貰えるなら、大半の人が早く100万円が欲しいと思います。つまり、同じ金額なら将来もらえる利益(遅延報酬)は、今もらえる利益よりも必ず価値が低くなるのです。それを遅延報酬割引と呼んでいます

 

北国宗太郎
北国宗太郎
なんとなく分かってきた。これはどんなことを意味しているの?
将来のために頑張れる人と怠けてしまう人の差が分かるんだ。
牛さん
牛さん

 

有名な実験

  • マシュマロ実験(1968年)

4歳児を小さな部屋に入れて、マシュマロを目の前に置きました。

  • 15分間マシュマロを我慢出来たら、もう1つマシュマロをあげる
  • 我慢できなければ食べてOK,もう1つのマシュマロはなし

実験をした心理学者ウォルター・ミシェルは、どれくらいの4歳児がマシュマロを我慢できるのか?を調べた。

 

結果

だいたい、平均で2分間マシュマロを我慢できることが分かった。

それから12年後にアンケート

 

マシュマロの実験に参加した4歳児の12年後について調べると、面白い関係が分かります。保護者や学校関係者にアンケートを送付して、実験に参加した子どもたち日常生活を調べました。

 

1分以内にマシュマロを食べた子ども

マシュマロを1分以上我慢することが出来なかった4歳児は、12年後に学校や家庭で問題を抱えている率が高かった。

逆に、15分待てた4歳児は、大学進学適性試験(SAT)のスコアが平均して210点高かった。

 

北国宗太郎
北国宗太郎
マシュマロ恐るべし。これと遅延報酬が関係あるの?
マシュマロを我慢できなかった理由を遅延報酬割引で考えてみよう!
牛さん
牛さん

 

遅延報酬割引でマシュマロ実験を考えてみます。

まず

将来のマシュマロ(遅延報酬)のために、目の前のマシュマロを我慢するというのが今回の実験です。

 

ということは、マシュマロを我慢できなかった子どもは、こんな状態です。

目の前のマシュマロ(合計1個) > 遅延報酬(将来のマシュマロ・合計2個)

⇒ 遅延報酬割引が50%以上だという事が分かります。

 

マシュマロ1個 >(将来のマシュマロ2個 × 割引50%超)=マシュマロ1個以下

 

北国宗太郎
北国宗太郎
遅延報酬割引が50%超ってどんな状態ですか・・?
将来貰える100万円を50万円以下の価値しかないと認識している状態だね。
牛さん
牛さん

 

ココがポイント

「マシュマロ実験」と「遅延報酬割引」を合わせて考えると、遅延報酬割引が高い人ほど、将来のために行動出来ないことが分かります。逆に遅延報酬割引が低い人は、将来の利益をちゃんと見積もることができるので、勉学や社会的な成功を収めやすいということが、マシュマロ実験で示されています。

 

次に、脳の中ではどんなことが起こっているのかを見ていきましょう!

遅延報酬と脳の働き

 

遅延報酬(将来の報酬)のために、あなたの脳はどのような働きをしているのでしょうか?

 

続・マシュマロ実験

  • 子どもたちの40年後の脳を調べる

「Behavioral and neural correlates of delay of gratification 40 years later」より

マシュマロ実験に参加した60名に人間の顔写真を見せます。

悲しい顔をしている時だけ、スペースキーを押すように指示しました。

 

結果

なんと、4歳の時にマシュマロを我慢できた人の方が、このお題の成功率が高かったのです。

 

北国宗太郎
北国宗太郎
この実験結果はどんな意味があるの?
感情的な顔を見分ける、というのがポイントだよ。
牛さん
牛さん

 

人が喜んだり、悲しんだりしている顔を判断するというのは、想像以上に高度な脳の仕組みです。さらにスペースキーを押すかの判断も必要です。

 

つまり、感情的な情報を冷静に判断して、自分の脳をコントロールすることが出来るかがポイントになります。

 

北国宗太郎
北国宗太郎
言いたい事が分かってきました。自分の脳をちゃんとコントロールできる人は、マシュマロを我慢できる人だったわけだね?
その通りだよ。将来のために行動できる人は、この実験の成功率が高いんだ。
牛さん
牛さん

 

さらに詳しく

逆に、4歳の時にマシュマロを我慢できなかった人は、このお題の成功率が低かったです。

 

脳の中を見てみる

この実験を脳の様子を観察しながら行ったところ、重要なことが分かりました。

 

ポイント

お題の成功率が高い人のほうが、衝動をコントロールする脳の部位「下前頭回 (かぜんとうかい)」が活動していた

(Wikipediaより・下前頭回)

 

さらに

逆に、お題の成功率が低かった人にも、脳内の特徴がありました。

 

ポイント

お題の成功率が低かった人は、悲しい顔を見たらスペースキーを押すというお題にも関わらず喜んでいる顔を見た時に、短期的な報酬に反応する脳の部位「腹側線条体 (ふくそくせんじょうたい)」が活動していた

これは、他の誘惑に反応しやすいことを意味している。

(Wikipediaより・腹側線条体)

 

北国宗太郎
北国宗太郎
脳の活動がこんなに違うなんて面白いね。
そうだね。どうしてこんな差が出るのかは、研究が進められている途中だよ。
牛さん
牛さん

 

ギャンブルとも関係あり

この話、実はギャンブルをしている時の脳内と関係があります

 

ギャンブルをしている時

ギャンブルを繰り返すと、衝動をコントロールする脳の部位が活動しなくなることが分かりました。

「下前頭回」を含む「前頭葉」が活動しなくなる。

 

(Wikipediaより・前頭葉)

 

ちなみに、衝動をコントロールする「下前頭回(かぜんとうかい)」はここにありました。

(下前頭回)

 

ココがポイント

ギャンブルを続けると、衝動的なコントロールする部位が弱くなるため、目先の利益を求めるようになって、遅延報酬(将来の報酬)が待てなくなる=遅延報酬割引が高くなる

 

更に

先ほど紹介した「腹側線条体(ふくそくせんじょうたい)」と隣接する「扁桃核(扁桃体・へんとうかく)」が活発に活動するようになります。

 

扁桃核(扁桃体)は、人間の快・不快の感情と関係があります。

さらに詳しく

「扁桃核」は情動に関する情報を「腹側線条体」に送っています。その情報に反応すると、報酬を期待した動機づけが起こります。ギャンブルなどの目先の利益を追い求める状況では「扁桃核」と「腹側線条体」は関係が深いといえます。ギャンブル以外でも、薬物依存との関係も指摘されています。

 

(Wikipediaより・扁桃核)

ちなみに、短期的な報酬に反応する脳の部位「腹側線条体 (ふくそくせんじょうたい)」はここにありました。

(Wikipediaより・腹側線条体)

 

まとめ

遅延報酬割引が低い(将来にために行動できる)人は、下前頭回や前頭葉などの活動が優位になる。

一方で、遅延報酬割引が高い(将来のために行動出来ない)人は、腹側線条体や扁桃核の活動が優位になる場面がある。

 

他の行動経済学の話とも関係あり?

プロスペクト理論」で言われているように、損失を抱えていると、ハイリスクな博打をしてしまう傾向にあります。

行動経済学では、その理由を損失回避性で説明してきました。

損を抱えていると、損をしている状態を嫌って、損を取り返そうとする動きが強くなります。すると、目先の利益がより重要になります (遅延報酬割引が高くなる)。

 

この理由は、さきほどの脳内の活動と関連しているかもしれません。

 

北国宗太郎
北国宗太郎
遅延報酬割引から、色々なことが分かったね!
そうだね。この話は双曲割引にも関係しているから確認してね。
牛さん
牛さん

 

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