将来の利益のために行動できる人は何が違うのでしょうか?
遅延報酬割引を分かりやすく簡単解説!
後半は脳科学の視点からも分析します。
遅延報酬割引とは?
遅延報酬割引とは?
「遅延報酬(ちえん・ほうしゅう)」とは、将来的に得られる利益のことを言う。
私たちは、将来の利益(遅延報酬)を時間に応じて低く見積もる傾向があります。その傾向の強さを遅延報酬割引と言います。
分かりやすい例
今から1年後に100万円を貰えるとします。
遅延報酬割引が5%なら「その100万円の今の価値は95万円」ということになります。
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今100万円が貰えるのと、1年後に100万円が貰えるなら、大半の人が早く100万円が欲しいと思います。つまり、同じ金額なら将来もらえる利益(遅延報酬)は、今もらえる利益よりも必ず価値が低くなるのです。それを遅延報酬割引と呼んでいます。
有名な実験
- マシュマロ実験(1968年)
4歳児を小さな部屋に入れて、マシュマロを目の前に置きました。
- 15分間マシュマロを我慢出来たら、もう1つマシュマロをあげる
- 我慢できなければ食べてOK,もう1つのマシュマロはなし
実験をした心理学者ウォルター・ミシェルは、どれくらいの4歳児がマシュマロを我慢できるのか?を調べた。
結果
だいたい、平均で2分間マシュマロを我慢できることが分かった。
それから12年後にアンケート
マシュマロの実験に参加した4歳児の12年後について調べると、面白い関係が分かります。保護者や学校関係者にアンケートを送付して、実験に参加した子どもたち日常生活を調べました。
1分以内にマシュマロを食べた子ども
マシュマロを1分以上我慢することが出来なかった4歳児は、12年後に学校や家庭で問題を抱えている率が高かった。
逆に、15分待てた4歳児は、大学進学適性試験(SAT)のスコアが平均して210点高かった。
遅延報酬割引でマシュマロ実験を考えてみます。
まず
将来のマシュマロ(遅延報酬)のために、目の前のマシュマロを我慢するというのが今回の実験です。
ということは、マシュマロを我慢できなかった子どもは、こんな状態です。
目の前のマシュマロ(合計1個) > 遅延報酬(将来のマシュマロ・合計2個)
⇒ 遅延報酬割引が50%以上だという事が分かります。
マシュマロ1個 >(将来のマシュマロ2個 × 割引50%超)=マシュマロ1個以下
ココがポイント
「マシュマロ実験」と「遅延報酬割引」を合わせて考えると、遅延報酬割引が高い人ほど、将来のために行動出来ないことが分かります。逆に遅延報酬割引が低い人は、将来の利益をちゃんと見積もることができるので、勉学や社会的な成功を収めやすいということが、マシュマロ実験で示されています。
次に、脳の中ではどんなことが起こっているのかを見ていきましょう!
遅延報酬と脳の働き
遅延報酬(将来の報酬)のために、あなたの脳はどのような働きをしているのでしょうか?
続・マシュマロ実験
- 子どもたちの40年後の脳を調べる
「Behavioral and neural correlates of delay of gratification 40 years later」より
マシュマロ実験に参加した60名に人間の顔写真を見せます。
悲しい顔をしている時だけ、スペースキーを押すように指示しました。
結果
なんと、4歳の時にマシュマロを我慢できた人の方が、このお題の成功率が高かったのです。
人が喜んだり、悲しんだりしている顔を判断するというのは、想像以上に高度な脳の仕組みです。さらにスペースキーを押すかの判断も必要です。
つまり、感情的な情報を冷静に判断して、自分の脳をコントロールすることが出来るかがポイントになります。
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逆に、4歳の時にマシュマロを我慢できなかった人は、このお題の成功率が低かったです。
脳の中を見てみる
この実験を脳の様子を観察しながら行ったところ、重要なことが分かりました。
ポイント
お題の成功率が高い人のほうが、衝動をコントロールする脳の部位「下前頭回 (かぜんとうかい)」が活動していた。
(Wikipediaより・下前頭回)
さらに
逆に、お題の成功率が低かった人にも、脳内の特徴がありました。
ポイント
お題の成功率が低かった人は、悲しい顔を見たらスペースキーを押すというお題にも関わらず、喜んでいる顔を見た時に、短期的な報酬に反応する脳の部位「腹側線条体 (ふくそくせんじょうたい)」が活動していた。
これは、他の誘惑に反応しやすいことを意味している。
(Wikipediaより・腹側線条体)
ギャンブルとも関係あり
この話、実はギャンブルをしている時の脳内と関係があります。
ギャンブルをしている時
ギャンブルを繰り返すと、衝動をコントロールする脳の部位が活動しなくなることが分かりました。
「下前頭回」を含む「前頭葉」が活動しなくなる。
(Wikipediaより・前頭葉)
ちなみに、衝動をコントロールする「下前頭回(かぜんとうかい)」はここにありました。
(下前頭回)
ココがポイント
ギャンブルを続けると、衝動的なコントロールする部位が弱くなるため、目先の利益を求めるようになって、遅延報酬(将来の報酬)が待てなくなる=遅延報酬割引が高くなる。
更に
先ほど紹介した「腹側線条体(ふくそくせんじょうたい)」と隣接する「扁桃核(扁桃体・へんとうかく)」が活発に活動するようになります。
扁桃核(扁桃体)は、人間の快・不快の感情と関係があります。
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「扁桃核」は情動に関する情報を「腹側線条体」に送っています。その情報に反応すると、報酬を期待した動機づけが起こります。ギャンブルなどの目先の利益を追い求める状況では「扁桃核」と「腹側線条体」は関係が深いといえます。ギャンブル以外でも、薬物依存との関係も指摘されています。
(Wikipediaより・扁桃核)
ちなみに、短期的な報酬に反応する脳の部位「腹側線条体 (ふくそくせんじょうたい)」はここにありました。
(Wikipediaより・腹側線条体)
まとめ
遅延報酬割引が低い(将来にために行動できる)人は、下前頭回や前頭葉などの活動が優位になる。
一方で、遅延報酬割引が高い(将来のために行動出来ない)人は、腹側線条体や扁桃核の活動が優位になる場面がある。
他の行動経済学の話とも関係あり?
「プロスペクト理論」で言われているように、損失を抱えていると、ハイリスクな博打をしてしまう傾向にあります。
行動経済学では、その理由を損失回避性で説明してきました。
損を抱えていると、損をしている状態を嫌って、損を取り返そうとする動きが強くなります。すると、目先の利益がより重要になります (遅延報酬割引が高くなる)。
この理由は、さきほどの脳内の活動と関連しているかもしれません。
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