行動経済学で「人の動き(心)を操る魔法」と称される「ナッジ理論(ナッジ効果)」
普段の生活には「ナッジ」と呼ばれる技術が使われています。
- スーパーの並ぶところになる足跡
- メニュー表にある「おすすめ」の文字
- 飲食店のカロリー表示
何気ない日常を行動経済学の「ナッジ理論・ナッジ効果」の具体例を用いて解説。
「ナッジ」とは?人の行動を思いのままに促す技術
ナッジ理論(ナッジ効果)とは
「ナッジ(NUDGE)」は英語で「ひじでそっと相手を突(つ)く」という意味の単語です。
行動経済学では「選択肢を制限せずに、人の行動を促す(誘導する)方法」という意味で使われます。
「ナッジ」は、2017年にノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラーの考え。セイラー先生は行動経済学の権威です!
(Wikipediaより リチャード・セイラー)
ナッジのポイントは次の2つ
- 相手に強制はしない
- 相手が自分から良い行動をするように促す
この2つの条件を満たす、デザイン・仕組み・制度を「ナッジ」と呼びます。
例えば
社会的距離が求められる現在、レジでこのような足跡マークを見かけませんか?
このマークを見ると”この場所で並ばないといけない”という気持ちが湧いてきます。思い出してみてください。お店の人に言われなくても、あなたもこの足跡に沿って並んでいるのではないでしょうか。
このように無意識的に行動を促すような仕組みをナッジと呼んでいます。
具体事例 ①デフォルト
ナッジ・デフォルト
選んでほしい選択肢を、最初から提示しておく(初期設定にしておく)。
※最初に提示されている設定(選択肢)を変更したがらない心理(保有効果)を利用している。
例えば、スマホやパソコンの「初期設定」は、ナッジ効果が効いています。
設定を変更しようと思えばできます。しかし、意外と多くの人は初期設定を変更しません。
そんな「デフォルト」で有名な話はこちらです!
【臓器移植の意思表示(ドナーカード)】
(公益社団法人日本臓器移植ネットワークHPより)
日本でも免許証の裏面に臓器移植の意思表示をする欄があります。
さて、そんなドナーカードですが「脳死したら臓器提供をしてもいい」と答える割合が、国ごとに差があるという問題がありました。
なぜか両極端だった
- フランスやベルギーは90%が「臓器提供してもいい」と回答
- ドイツやイギリスでは10%台に落ち込みました
はてな
多くの研究者が、この差は何かを調べていたんですが・・。その結果驚くべき事実が分かりました。
それが臓器移植の意思表示をしてもらう際の質問文です。
「臓器移植をしてもよいと多くの人が答えている」国では「臓器移植に反対の場合は〇を付けてください」という質問方式 (オプトアウト方式)。
「臓器移植への賛同が得られていない」国では「臓器移植に賛成の場合は〇を付けてください」という質問方式 (オプトイン方式)
これは、最初の質問設定で回答が変わってしまう典型例です。
「臓器移植に反対なら・・・」としておけば、わざわざ反対に〇を付けるのが面倒なので〇をしない。というわけです!
ポイント
このように「最初の設定次第で、相手の行動(回答) を誘導できる」のがデフォルトです。
具体事例 ②フィードバック
ナッジ・フィードバック
ある行動をすると特定の反応が返ってくる仕組みを作る。その行動が良いことなのか悪いことなのかを直ぐに分かるようにする。
※相手に命令されていると感じさせないで、行動を誘導することが出来る。
たとえば、冷蔵庫を開けっぱなしにすると「ピーピー」と音がなるものがあります。
これは「冷蔵庫の扉を開けっ放しにしないでね」という意味で私たちは解釈しますが、言葉で説明されているわけではありません。
フィードバックで有名な話はこちら!
イギリス政府の税金滞納者へ通知
(Wikipediaより・イギリス国旗)
税金を納めない人から、どうやって税金を支払うように促す?という問題です。
この問題に対して、イギリス政府はナッジを効かせます。その方法と結果は以下の通り。
税金を支払わない人へ送る通知に「同じ地域に住む人々の納税率を記載」しました。
「あなたの住む地域のほとんどの人は期限内に納税しています」というメッセージを暗に伝えているわけです。
結果
納税率は68%から83%に改善、年間3000万ポンド(約45億円)の回収に成功しました。
この結果をみたイギリス政府は、2012年からこの方法で納税通知書を作成することを決めて、1年で2億ポンド(300億円)の税収の増加を実現しています。
自民党の小泉進次郎議員も注目するナッジは、こうした事例をもとに2019年から日本の年金はがきにも応用されています。
具体事例 ③インセンティブ
ナッジ・インセンティブ
ある行動をすると得をする仕組みを作る。その行動を繰り返したいと思うようにする。
※今ならポイント2倍!みたいなキャンペーンなどが当てはまります。
たとえば、一昔前にあった「エコポイント」や「企業向けに補助金を出します」というような政策も、インセンティブに分類されるナッジ効果です。
ポイントがもらえるなら買おうかな、補助金が出るなら今のうちに・・。という心理が働き行動が促されます。
インセンティブで有名な話はこちら!
大腸がんの検診
2016年に東京都八王子市で行われた実験。
行政は、大腸がんの検診をたくさんの人に受けてもらい、事前予防につなげたいと考えていました。
そこで、送付する検査キットと一緒に、ある通知を送ります。
片方は、マイナス面を強調
- 今年度受診した人は、来年度も検査キットを送ります
- 今年度受診しないと、来年度は検査キットをお送りできません
はてな
「がん検診を受信しないと、次回から検査キットが貰えなくなる」と分かれば、行動が促進される・・?
結果
(2)の方が、がん検診の受診率が7.2%高かった。
(1)では受診率が22.7%でしたが、(2)だと29.9%になったのです。
さらに詳しく
このような心理を「損失回避性・損失回避の法則」と呼びます。
具体事例 ④選択肢の構造化
ナッジ・選択肢の構造化
選択肢を分かりやすくすることで、ある行動や特定の選択肢に導く仕組みを作る。
※選択肢が複雑すぎると、人は選択しないという特徴があるので分かりやすい選択肢に置き換えてあげる。
例えば
メニューなどに「オススメ」とか「期間限定」と掲載すると選択しやすくなります。
おススメと分かりやすく表示されていると「おすすめならこれで良いか」と考える負荷が減って行動が促されます。
選択肢の構造化で有名な話はこちら!
サブウェイでの実験
(Wikipediaより・SUBWAY立命館大大学BKC店)
サンドウィッチで有名なサブウェイで実験が行われました。
実験の内容は凄く簡単。
メニューにカロリーを表示するとどうなるのか?です。
女性
とりあえずカロリーが少ないものにしよう。
結果
カロリーを表示したほうが摂取カロリーが減少しました。
病院などでも同じ実験が行われましたが、同様の結果が得られています。
他にも、商品の配列を変えるだけで、注文量が変わるという話もあります。
さらに詳しく
アメリカのシカゴで行われた実験では、野菜などの商品を取りやすい位置に置くだけで、野菜を選択する人が35%も増えたそうです。
ちなみに
アメリカではカフェテリア式(バイキング形式)の給食が主流なので、学生に自然と健康的な料理を取らせる方法としてナッジが使われています。
日本でも、コンビニのレジに100円くらいのお菓子が置いてあるのは、お会計の時に取りやすい位置にあるので「ついで買い」が促されるからです。
ナッジへの批判・問題点
ここまでくると「ナッジ理論・ナッジ効果」は万能じゃないか!みたいな錯覚に陥りそうですが、批判もあります。
その批判とは、ナッジが得意としている無意識に相手の行動を誘導する力です。
さらに詳しく
ナッジは、強制もしないし自由放任(レッセ・フェール)もしない、新しい思想が中心にあります (リバタリアン・パターナニズム)(リバタリアンは自由主義・パターナニズムは父権主義)。
そもそも、相手が知らないうちに相手の行動を誘導しているなんて倫理的にどうなんだ?
「奨学金」という名称の問題
日本では、学校に入るため・授業料を払うために「奨学金」を借ります。「奨学金」と言いますが、英語では「ローン」です。
つまり
「教育ローン」を組まされているわけですが、学業を奨励するようないい感じの名前を使うことで「ローンを組んだ」という感覚を失くさせています。
まるで奨学金を借りることが良いことのように感じさせてしまっています。
奨学金の返済で苦しむ学生が増えるなかで、ナッジ (名称を変えて相手の行動を促す) を悪用しているようにも取れますよね?
重要!
このように、ナッジを利用する際には倫理観に反していないか?などを考えなければいけないというわけです。
ナッジを使う人 (選択アーキテクト=設計者) には倫理観が必要ですが、そもそもナッジを使う人が必ず言い行動を取るという確証はないので難しいところ。よく議論になります。
ナッジにより様々な社会的な利益が生み出されている事実もあります。用は使い方!
ポイント
ビジネス・行政・医療など、様々な場面で活躍するナッジですが、特にマーケティングなどで応用されることが多いので、そうした仕事をする人は必修科目です。
ナッジなど、行動経済学は「人を動かすためにどうすれば良いのか?」という重要な視点を与えてくれます。
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