あなたが「失う」ことを嫌うのは何故か。
行動経済学の理論の多くが「損失回避の法則」と関係しています。
必ず知るべき「人の本質」を徹底解説!
損失回避性とは?
損失回避性とは?
「損をする」ことに対して過剰に恐怖を覚える人の性質のこと。
同じ金額ならば、利益を得る喜びよりも損をする苦痛の方が2倍以上大きいことが分かっている。こうした理由から、人は無意識に損を避ける行動を取る。
「損失回避の法則」や「損失回避バイアス」などと呼ばれることもある。
グラフで見てみると・・
例えば・・
あなたは、500円分の家電量販店のポイントが残っていることに気づきました。
有効期限が明日が近づいていることがわかり・・。
男性
もったいない!
もったいないので、とりあえずお店に行ってポイントを消費することにしました。
ポイント
欲しいものがないなら、ポイント500円分くらい消えても良いと思うかもしれません。
しかし、私たちはそれが出来ないのです。
たとえ500円以上の買い物になろうとも、なんとしてもポイントの有効期限が切れる前に使おうとします。
ポイントが消えることに対して凄く抵抗を覚えます
これこそが「損失回避性」という心理なのです。
損失回避性を脳の中から分析すると、更に面白いことが分かります。
脳科学の視点から
損=死の恐怖?
あなたが株式投資をしていると考えてみましょう!
自分が持っている株の価格が1,000円→900円に急落しました。
すると、あなたの脳の中では扁桃核(へんとうかく)と呼ばれる部位が反応します。
扁桃核(扁桃体)
人の感情的な反応に関わる部位。
特に不安や恐怖といったネガティブな感情と関係が深い。
扁桃核が反応すると、不安や恐怖など感じるようになっている。そのため、扁桃核が損傷すると、恐怖を感じなくなるなどの症例がある。
逆にうつ病の人は、扁桃核が過剰に反応するという症例もある。
ポイント
投資で損をした時の扁桃核の活動具合は、「死の恐怖」を感じた時に扁桃核が反応するのと同じくらいの強さ。
投資で損した時に扁桃核が反応している=「死の恐怖」を感じているのと同レベルの恐怖を感じていることになる。
野生の世界では
食べ物を失うことは死に繋がります。なので「失うこと」に対しては、ものすごく敏感に反応するように私たちの脳は設計されています。
人が損をすることに恐怖を覚えるのは、人間が動物から進化してきた名残(なごり)だと言えます。
損失回避性と関係が深い心理学
行動経済学では多くの心理学が登場します。
その中でも「損失回避性」と深く関係がある心理学が2つあります。
2つの心理学は、行動経済学では必須となる知識なので、損失回避性との関係を知っておきましょう!
(1) 保有効果(授かり効果)
保有効果(授かり効果)
自分が持っているものに高い価値を感じ、捨てることに抵抗を感じる心理現象のこと。
保有効果は、実物が存在していない場合でも働きます。たとえば、自分のアイディア・健康などでも保有効果が働きます。
人は何かを得るよりも、失うこと(手放すこと)に苦痛を感じます。
「失うこと=損すること(損失回避)」なので、私たちは捨てることを嫌います。
簡単にまとめ
人は、損することを避けようとする心理が働いています。なので、自分の所有物を捨てることにも抵抗を覚えます。
「損失回避性」⇒「保有効果」という関係性がある。
(2) 現状維持バイアス
現状維持バイアス
変化を嫌い、現状を維持したくなる心理現象のこと。
私たちは、自分の現在の状況を変えることに対して抵抗を覚えます。
現状を変えると、今までの環境(状況)を手放すことになります。
つまり「今の状況を手放す=失うこと (損失回避)」だと言えます。
さらに詳しく
先ほども紹介しましたが、自分のアイディア・健康などでも保有効果が働きます。なので、現状(今の環境)という抽象的なモノでも保有効果が働きます。
その結果、今のままでいいと思う気持ちが強まるのです。
簡単にまとめ
現状維持は、今の状況を手放したくない(失いたくない)という気持ちから生まれる。現状を失いたくない気持ちは「損失回避性」「保有効果」が働いている影響とも言えます。
「損失回避性」⇒「保有効果」⇒「現状維持バイアス」という関係性がある。
保有効果と現状維持バイアスは、身近な心理学で面白い話がたくさんあります。
詳しくはこちら!
⇒【保有効果と現状維持バイアス】プロスペクト理論で登場する心理学を紹介
損失回避性の具体例を紹介!
損失回避性は心理学だけに関係しているのではありません。行動経済学の理論とも深く関係があります。
さいごに、行動経済学との関係を紐解いて「損失回避性」の例を見ていきましょう!
ナッジ効果(ナッジ理論)
-
【ナッジ理論とは?】行動経済学で人の動きを思いのままにする方法
行動経済学で「人の動き(心)を操る魔法」と称される「ナッジ理論(ナッジ効果)」 普段の生活には「ナッジ」と呼ばれる技術が ...
続きを見る
ナッジは「選択肢を制限せずに、人の行動を促す(誘導する)」という行動経済学の分野です。
有名な話
有名なナッジ効果の1つとして、選んでほしい選択肢を最初から提示しておく(初期設定・デフォルトにしておく)というものがあります。
さらに詳しく
最初に提示されている設定(選択肢)を変更したがらない心理(保有効果)を利用している。「損失回避性」⇒「保有効果」の関係。
【臓器移植の意思表示(ドナーカード)】
(公益社団法人日本臓器移植ネットワークHPより)
日本でも免許証の裏面に臓器移植の意思表示をする欄があります。
さて、そんなドナーカードですが「脳死したら臓器提供をしてもいい」と答える割合が、国ごとに差があるという問題がありました。
- フランスやベルギーは90%が「臓器提供してもいい」と回答。
- ドイツやイギリスでは10%台に落ち込みました。
多くの研究者が、この差は何かを調べていたんですが・・。その結果驚くべき事実が分かりました。
詳しくはこちら
【ナッジ効果とは?】行動経済学で人の動きを思いのままにする方法
心の会計(メンタルアカウンティング)
-
心理会計「メンタルアカウンティング」とは?人が浪費する理由
お金がたまらない。 そんな悩みと関係が深い行動経済学の理論。 「心理会計・メンタルアカウンティング」を分かりやすく簡単解 ...
続きを見る
同じ金銭でもその入手方法や使途に応じて(時には無意識に)重要度を分類して扱いを変えることを「心の会計」と呼んでいます。
有名な話
「同じチケットを2回買う?」
① 160ドル(約1万8,000円)の前売り券を購入した女性が、チケットを失くしたことに気づきました。
当日券を買う?
② 160ドル(約1万8,000円)の当日券を購入する予定だった女性が、160ドルの現金を失くしたことに気づきました。
当日券をクレジットカードで買う?
「損失回避性」が強く働くのはどちらか?
詳しくはこちら
【セイラーの心の家計簿(メンタルアカウンティング)】なぜ人は浪費してしまうのか?
フレーミング効果
-
フレーミング効果「表現で選択を変える」マーケティング・行政の事例
あなたの選択は操(あやつ)られていると言われたら? 表現だけで人の感じ方は変わります。 コップに水がもう半分しかない コ ...
続きを見る
同じ選択肢でも、表現のされかた次第で選ばれる確率が変わる心理現象を「フレーミング効果」と呼んでいます。
有名な話
「アジア疾病問題」
600人の死亡が予想される伝染病の流行に備えて2つの対策があります。
【問題1】 (ポジティブフレーム)
対策案A: 200人が助かる
対策案B: 1/3の確率で600人が助かるけど 2/3の確率で誰も助からない
どちらの対策案が好まれるでしょうか?
【問題2】(ネガティブフレーム)
対策案C:400人が死ぬ
対策案D:1/3の確率で誰も死なないけど2/3の確率で600人が死ぬ
どちらの対策案が好まれるでしょうか?
ちなみに「対策案A=対策案C」「対策案B=対策案D」です。
問題1と問題2の2つの結果を並べると、そこにも損失回避性の影響が現れます!
詳しくはこちら
【フレーミング効果とは?】人の選択をあやつる心理学をマーケティングに応用しよう!
プロスペクト理論
-
【プロスペクト理論を分かりやすく】行動経済学で投資や恋愛で失敗する理由を知ろう!
お金を失うのは嫌、幸せは長くは続かないし、隣の芝生は青い 私たちの心の本質とは?をまとめた理論があるんです。 広告・マー ...
続きを見る
プロスペクト理論は、行動経済学では1番有名な理論です。プロスペクト理論の概要を見れば、損失回避性と関係があることが分かります。
プロスペクト理論の概要!
- 人は得をするよりも、損する方に敏感に反応する。
- 人は得られる利益は確実に得たいが、確実な損失は避けたがる(損失回避)。
- 損をしている場面だと、リスクのある行動を取りやすくなる。
- 人の喜びや悲しみは、参照点に依存する(相対評価)。
- 人の喜び・悲しみは長くは続かない(慣れる)。
ちなみに
フレーミング効果で登場した「アジア疾病問題」は、プロスペクト理論で説明が可能です。
プロスペクト理論の中には、損失回避性が含まれています。
さらに詳しく
プロスペクト理論は、行動経済学や心理学の知識を横断的に組み込んだ理論。その中核に「損失回避性」がある。
詳しくはこちら
【プロスペクト理論を分かりやすく】行動経済学で投資や恋愛で失敗する理由を知ろう!
一般的には「損失回避性」の話をすると、必ずプロスペクト理論が登場するので是非知っておきましょう!