あなたの心は確率を正しく認識していません。
「ほぼ0%」や「ほぼ100%」なのに、その確率を信じることが出来ないのは何故なのか?
アレのパラドックスを分かりすく解説!
アレのパラドックスとは?
アレのパラドックスとは?
1953年 ニューヨークの会議にて、経済学者モーリス・アレが会議の出席者へ宝くじの質問をした。
その質問の回答結果が、それまでの経済学では説明がつかなかったことからパラドックスと言われた。
元の論文:Allais,M. (1953) Le comportement de l'homme rationnel devant le risque, critique des postulates et axiomes de l'ecole americaine. Econometrica, 21,503-546.
(モーリス・アレ Wikipediaより)
モーリス・アレは、フランス出身の経済学者。1988年にノーベル経済学賞を受賞している。
宝くじの質問
- アレは、2つの宝くじに関する質問をしました。
【1回目のくじ】
選択肢A:確実に1,000ドルがもらえる。
選択肢B:10%の確率で2,500ドル・89%で1,000ドル・1%は賞金なし。
【2回目のくじ】
選択肢A:11%の確率で1,000ドル・89%は賞金なし。
選択肢B:10%の確率で2,500ドル・90%は賞金なし。
それぞれどちらの宝くじを選びますか?
ちなみに、1,000ドルは日本円で1万1,000円くらい。2,500ドルは2万7,000円くらい
結果
ほとんどの場合
1回目のくじでは、選択肢Aが選ばれる。
2回目のくじでは、選択肢Bが選ばれる。
期待値を計算する
【1回目のくじ】
選択肢A:確実に1,000ドルがもらえる。
選択肢B:10%の確率で2,500ドル・89%で1,000ドル・1%は賞金なし。
選択肢A:期待値=1,000ドル
選択肢B:期待値=1,140ドル
【2回目のくじ】
選択肢A:11%の確率で1,000ドル・89%は賞金なし。
選択肢B:10%の確率で2,500ドル・90%は賞金なし。
選択肢A:期待値=110ドル
選択肢B:期待値=250ドル
ここで、奇妙な事実が浮き彫りになります。
- 1回目のくじでは「期待値の低い方を選択」
- 2回目のくじでは「期待値が高い方を選択」
なぜ期待値の低い方が選ばれたか
これまでの経済学では「人は自分の利益が最大になるように行動する (期待効用理論)」という理論が主流だったため、1回目の結果が説明できませんでした。
こうして、この宝くじの質問は「アレのパラドックス」として有名になります。
ちなみに
補足①
この質問の「1,000ドル」というの1953年当時の1,000ドルです。2018年のドル価値に置き換えると、約9,500ドル(=約100万円)
つまり、1回目のくじは・・
【1回目のくじ】
選択肢A:確実に100万円がもらえる。
選択肢B:10%の確率で250万円・89%で100万円・1%は賞金なし。
補足②
この質問は会議で行われました。
皆さんは文章を読んでじっくりと考える時間がありますが、質問をされた人たちは、必ずしもそのような状況ではありません。
いま、学校で「アレのパラドックス」の話をすると、1回目の宝くじも選択肢Bを選ぶ人が大半かと思いますが、この質問をされた人たちは違う状況だったことも忘れないでください。
補足①と補足②を合わせて考える
【宝くじ1】は、確実に100万円を貰えるけど、確率○○%でなんとかで・・1%で賞金は0円です。と質問されたような感じです。
ごちゃごちゃ期待値を考えるよりも「絶対に100万円を貰えるなら、選択肢Aで良いか」的な感じで選ばれたとイメージすれば、違和感は減るのではないでしょうか?
それでも「1回目の宝くじ」で選択肢Aが選ばれる理由が分からないという人は、「自分は選択肢Bの方を選ぶけど、選択肢A(期待値が低い方)が選ばれることもあるんだ」程度に考えてください。
アレのパラドックスとプロスペクト理論の登場
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【プロスペクト理論を分かりやすく】行動経済学で投資や恋愛で失敗する理由を知ろう!
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「アレのパラドックス」は、従来の経済学では説明が出来ませんでした。そこで、行動経済学から分析がされるようになりました。
ココがポイント
そして、アレのパラドックスが発生する原因を説明できる理論が登場します。それが「プロスペクト理論」です。
プロスペクト理論とは?
人の選択・行動を分析した理論。
プロスペクト理論によれば「人は得をするより、損をする方が2倍以上苦痛を感じる」ことが分かっています。
つまり、100万円を失った苦痛と同じ程度の喜びを感じたければ、200万円以上得しないといけません!
もう一度考えてみる
プロスペクト理論を参考に、1回目の宝くじを考えてみましょう!
【1回目のくじ】
選択肢A:確実に1,000ドルがもらえる。
選択肢B:10%の確率で2,500ドル・89%で1,000ドル・1%は賞金なし。
選択肢A:期待値=1,000ドル
選択肢B:期待値=1,140ドル
ポイント
ここで重要となるのは、期待値ではなく「確実に1,000ドル」と「1%は賞金なし」という点です。
プロスペクト理論によれば「人は損を嫌います」
つまり「選択肢Aで確実に1,000ドルを手に入れられるのに、選択肢Bで何も手に入れられない(1,000ドルを失う)リスク」を背負うのを人は嫌うのです。
ちなみに
プロスペクト理論では「人は曖昧なものを嫌うため、確実な利益を求める」ということも指摘しています。
選択肢Aは、確実に得られる利益のため、通常よりも好まれやすいのです。
こうして、アレのパラドックスで「期待値が低い方が選ばれた理由」が行動経済学のプロスペクト理論から説明されるようになりました。
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アレのパラドックスの日常例
アレのパラドックスは「宝くじ」の話だけではありません。
確率を正しく認識できないという問題は、あなたの日常でも引き起っています。日常に潜むアレのパラドックス(に似た問題)を紹介!
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1利用可能性ヒューリスティック
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利用可能性ヒューリスティックの日常例を紹介!行動経済学を知る
日常生活にはどんな利用可能性ヒューリスティックがあるのか? 具体的な事例と、なぜ利用可能性ヒューリスティックが起こるのか ...
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利用可能性ヒューリスティックとは
イメージしやすい・思い出しやすい情報を中心に物事を判断してしまう現象のこと。
例えば
例えば、飛行機テロのニュースを見ると、飛行機に乗ると事故が起こるのではないか?と考えてしまいがちです。
その結果、飛行機に乗るのを辞めて、電車や車を使うなんて行動を取る人もいます。
ポイント
イメージしやすい記憶をもとに意思決定をしているため、正しい確率(期待値)を無視して行動している日常例です。
詳しくはこちら
利用可能性ヒューリスティックの日常例を紹介!行動経済学を知る
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2代表性ヒューリスティック
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代表性ヒューリスティックの具体例を紹介!日常に潜むバイアスを知る
代表性ヒューリスティックって具体的にはどんなものがあるの? 行動経済学で登場する代表性ヒューリスティックについて、普段の ...
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代表性ヒューリスティックとは?
イメージしやすい・記憶に残りやすい情報を平均的なものだと勘違いして、他の物事にも当てはめて判断する現象のこと。
例えば
リンダ問題
リンダという女性がいます。
彼女は大学では哲学を専攻した。学生時代には差別や社会問題に深く関心を持ち、反核デモにも参加した。
彼女はどちらの可能性が高いと思いますか?
(1) リンダは銀行で働いている。
(2) リンダは銀行で働いていて、女性運動に参加している。
この問題は、確率的に簡単に計算できるはずなんですが、多くの人が答えを間違います。
詳しくはこちら
「人は確率を計算して、合理的に行動している」という、従来あった経済学の誤りを指摘したアレ。
日常生活に視点を広げれば、私たちは確率・期待値などを計算せずに、雰囲気で行動していることが分かったのではないでしょうか?