直感的に行動したり、経験則で行動することを心理学・行動経済学の世界で「ヒューリスティック」と言います。
- 今までの経験上これはヤバい
- ○○だから○○に違いない
- テレビ・SNSに影響を受け行動した
多くの企業がマーケティングでも利用する「ヒューリスティック(経験則)」の事例を紹介していきます。
ヒューリスティックとは?
(ダニエル・カーネマン教授 TED.comより)
ヒューリスティックとは
人が情報を理解をするときに起こる短絡的なクセのこと。ヒューリスティックの影響から様々な認知バイアス(認知の偏り)が発生する。
2002年ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン教授とエイモス・トベルスキー(故人)が研究を進めた。
ヒューリスティックを簡単に言えば「人は、自分が生きてきた中で経験した事(経験則)を基準に物事を判断する。または直感的に行動する」というものです。
① 代表性ヒューリスティック(少数の法則)
代表性ヒューリスティック
少ない人生経験などを「社会の平均(的な現象)」として勝手に判断すること。自分の人生経験を社会では普通だと勝手に過大評価すること。
あなたの身の回りにも、自分の人生経験から色々と語りだす人がたくさんいるのでは?
例えば・・
日本は寿司で有名なので、日本人はみんな寿司が好き。
- 自分の人生は○○=世間でもきっと○○。
- 日本は寿司で有名=日本人はみんな寿司が好き
- ブラジルサッカーが強い=ブラジル人はみんなサッカーが上手い
などが代表性ヒューリスティックの典型例です。
ポイント
代表格ヒューリスティックの影響で、私たちには「少ない情報から勝手に全体を予測する癖」があります。
そんな「代表性ヒューリスティック」の有名な例がこちらです。
リンダ問題
- リンダという女性がいます
彼女は大学では哲学を専攻した。学生時代には差別や社会問題に深く関心を持ち、反核デモにも参加した。
彼女はどちらの可能性が高いと思いますか?
(1) リンダは銀行で働いている。
(2) リンダは銀行で働いていて、女性運動に参加している。
Tversky, A. and Kahneman, D. (1982) "Judgments of and by representativeness"やTversky, Amos; Kahneman, Daniel (October 1983). “Extension versus intuitive reasoning: The conjunction fallacy in probability judgment”を参照
この問題の答えは (1)です。
ココがポイント
上の説明の分で、哲学専攻・社会問題に関心を持った・反核デモに参加したなどの単語から「女性運動に参加している」というイメージが持ちやすくなります。
なので、何も考えないと(2)を選びやすくなってしまいますが、(1)の方が確率が高いのは言うまでもありません。
リンダが銀行で働いているうえに女性運動に参加している確率は、銀行に働いているだけの確率よりずっと低いです。
他にもこんな事が言える
- 代表性ヒューリスティック(少数の法則)は、心理学で登場する「確証バイアス」も関連しています。
「確証バイアス」とは、自分の考えが正しいかを検証する際に、自分都合が良い情報ばかりを探してしまい、反対意見を無視してしまうこと。
具体的には「大企業は安定している」とか「日本製は安全」とかです。
- 大企業だから安定するかはケースバイケースです
- 日本製だから安全というのもケースバイケースです
「少ない情報で判断してしまう」という代表性ヒューリスティックは、自分の考えが正しいのかを判断する際に、自分に都合が良い情報ばかりを集めて判断してしまう、という話に繋がります(幅広い情報を吟味しない)
ココに注意
人は、目先の都合が良い情報に注目して、反対意見など 情報を幅広く吟味して判断しない傾向がある。少ない情報で都合のいい情報ばかりで物事を判断していないか注意しましょう!
具体例はこちらで確認!
代表性ヒューリスティックの具体例を紹介!日常に潜むバイアスを知る
② 利用可能性ヒューリスティック(利用しやすさの法則)
利用可能性ヒューリスティック
イメージしやすい・思い出しやすい情報を中心に物事を判断してしまう現象のこと。
例えば
病死する人と事故死する人はどちらが多いですか?
多くの人が「どちらも多そうで半々くらいか・・?」と判断に迷うかと思います。
しかし
実際には「病死=約9割」「事故死=1割」です。ほとんどの人が、病気で亡くなりますが、どうして事故で死ぬ割合が高いと錯覚したのでしょうか?
それは「ニュースで事故に関する報道をたくさん見るから」です。
ココがポイント
私たちは普段見聞きする情報から、勝手に物事を判断するクセがあります。それを利用可能性ヒューリスティック(利用しやすさの法則)と呼んでいます。
ちなみに「病死する人は基本的にはニュースにならずにメディアで見かけないため」割合が少ないと勝手に判断しています。
そんな「利用可能性ヒューリスティック」の有名な例はこちらです!
有名な例
次の英単語のうち多いのはどちらですか?
- 7文字の単語で末尾が「ing」で終わる単語
- 7文字の単語で6番目が「n」の単語
答えは(2)です
Playing・Reading・Swiming など、普段使う英単語がイメージしやすいですよね?なのでイメージしやすいものがたくさんあるので(1)の方が多いと感じてしまいます。
ココに注意
しかし(1)なら、必ず(2)の条件を満たすので、(2)の方が多いです。学生などは普段使う英単語をイメージしやすいので(1)の方が多いだろうと誤解してしまうのです。
心理学との関係
利用可能性ヒューリスティック(利用しやすさの法則)は、心理学に登場する他の話にも関係します。
「初頭効果」や「親近効果」は、利用可能性ヒューリスティックの1つだといえる。
- 「初頭効果」は、最初に見聞きした情報に影響を受けること
- 「親近効果」は、最後に見聞きした情報に影響を受けること
ココに注意
人は、すぐに思い出せる(印象に残っている)情報をもとに物事を判断してしまうクセがある。大事なことは念入りに調べて判断しよう!
具体例はこちらで確認!
利用可能性ヒューリスティックの日常例を紹介!行動経済学を知る
③ 係留と調整ヒューリスティック (アジャストメント・アンカリング)
アンカリングとアジャストメント
アンカリングとは、はじめの情報で初期判断することで次に考える内容を規定してしまうクセ。(最初に見たり聞いたりしたモノに影響を受ける)
アジャストメントとは、その後の情報はその判断を調整するために用いられるクセのことを言います。(その後の情報は、最初の情報を修正するように働く)
例えば
- 牛丼の値段
あなたが「350円の牛丼(並)」を売りにしている牛丼屋に行ったときに「500円の豚丼(並)」を見たら、少し高いなと思うことでしょう。
しかし「700円のかつ丼(並)」を売りにしているかつ丼屋に行ったときに、「500円の豚丼(並)」を見たときは少し安く感じるはずです。
ココがポイント
これは、350円・700円というイメージ(初期情報)が基準となって、次の情報を処理しているので感覚が変わるためです。人は先に提示された知覚情報が、後から受ける知覚情報に影響を与えます(プライミング効果)。プライミング効果は無意識的に起こります。
アンカリングとアジャストメントを応用した例もあります。
応用例
松竹梅の法則
選択肢が3つある状態だと、真ん中の選択肢を選びやすくなる心理現象のこと。
例えば
- プレミアム牛丼(並):750円
- 牛丼(並):500円
- ミニ牛丼(並):350円
とあった場合は、真ん中(竹)の牛丼(並)を頼みやすくなるというもの。
これは、プラミアム牛丼(並)と比べて牛丼(並)がお手頃感がある。つまり、一番高いプラミアム牛丼(並)がアンカリングの役割を果たしているとも言えます。
さらに、人は極端なものを避けようとするので自然と「竹」に注文が集中します(極端回避性)
アンカリングの具体例はこちら
固着性(係留と調整)ヒューリスティックの例を紹介!最初の情報で変わる行動!
どうして人は「ヒューリスティック」に行動するの?
ヒューリスティックは心理学の言葉として捉えられがちです。
しかし
人がヒューリスティックな行動をするのは心理の問題ではありません。
正確に言えば、エネルギーの節約・脳への負荷を減らすことです。
私たちが生きる世界では「毎日が取捨選択」で溢れています。その都度「この判断は得か損か?正解か間違いか?」と厳密に考えていては脳が疲れ果ててしまいます。
ポイント
そこで、少ない情報で直ぐに判断しようとしたり(代表性可能性ヒューリスティック)、良く見聞きする情報で判断したり(利用可能性ヒューリスティック)して、脳の負荷を減らそうとしているのです。
それだけじゃない
「ヒューリスティック」があるからこそ人は可能性に満ちている!
ヒューリスティックで人が行動することはマイナス面ばかりではありません。
機械のようにすべての可能性と選択肢を洗い出していては、莫大なエネルギーが必要ですし、時間もかかります。
ヒューリスティックがあるからこそ、「結論を直ぐに出すための言わば近道になったり、少ない情報から有益な答えを出す場合」もあります。
「1を聞いて10を知る」そんな人間のポテンシャルを示すのがヒューリスティックではないでしょうか?
ヒューリスティックの関連書籍
最後にヒューリスティックに関する書籍を3つ紹介します。
初級(初心者向け)
代表的なヒューリスティックが網羅されており、とても簡単に紹介されています。
ヒューリスティックをもっと知りたい、人の思考の癖を知ってビジネスで生かしたい人はぜひ読んでみてください。
中級者(大学生くらい)
ヒューリスティックだけではなく、行動経済学の古典的な名著です。この分野の勉強をすると必ず登場する書籍なので、ちゃんと勉強したい人は読んで損はないです。
上級者(大学院生くらい)
カーネマンとトヴェルスキーの学術論文(もちろん英語原文)をまとめた書籍です。研究者のための参考書と言えます。
【おまけ】