ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンが語る「人間の科学」
行動経済学の第一人者であるカーネマン教授から学ぶ「人の心とは?」
カーネマン教授の研究から、仕事や日常生活に活かせる行動経済学を知ろう!
行動経済学の権威「ダニエル・カーネマン」
(TED.comより)
ダニエル・カーネマン
経済学に心理学などを応用して研究を進めて、行動経済学を確立した。
2002年には、その功績が認められてノーベル経済学を受賞している。
ダニエル・カーネマンは「行動経済学の権威」とまで言われるほどの人物です。
ここからは、ダニエル・カーネマンの研究してきた内容について紹介してきます!
カーネマン教授の研究を見るだけで、行動経済学について理解が深まること間違いなし!
年収800万円を超えると幸福感は変わらない?
「年収が高くても幸せとは限らない」
あなたも、そんな話を聞いたことはありませんか?
この問題を実際に研究したのがカーネマン教授です。
ダニエル・カーネマンは「人と幸せの関係」を積極的に研究してきた人物でもあります。
この疑問の答え
「半分は間違いだが、半分は当たっている」です。
分岐点は年収7万5000ドル
一定の金額までは、年収が上がれば幸福度も上がることが分かりました。
しかし、年収7万5000ドルを超えると、幸福度にほぼ変化が無くなります。
ポイント
年収が800万円くらいまでは、年収と比例して幸福感が増していきます。
しかし、日本円なら年収800万円以上になると、幸福度がほぼ変わらないのです。
この研究結果は、2010年に発表された「High income improves evaluation of life but not emotional well-being (高収入は人生の評価は上げるが幸福感は向上させない)」という論文に載っています。
当時はネットなどで話題になったりしました。今でも「年収と幸福」についての記事で引用されることもあります。
低所得は、離婚・体調不良・不幸などのマイナスな感情と関係しています。なので収入が触えれば満足度は増します。
ただし、ある一定のライン(年収800万円くらい)を超えると、幸福感は変わりません。つまり「高収入は人生の満足感をある程度買えるが、幸せまでは買えない」と言えるのです。
(原文)
We conclude that high income buys life satisfaction but not happiness, and that low income is associated both with low life evaluation and low emotional well-being.
https://www.pnas.org/content/107/38/16489.short より引用
次は、誰もが避けて通れない「思い込みと偏見」の話です。
「思い込みと偏見」の科学
第一印象は大切
よく聞く言葉ですが、どうして第一印象が大切かを考えたことがありますか?
カーネマン教授は、人が意思決定(何かを判断)するときの特徴を研究しました。
こうした癖を、行動経済学や心理学の世界では「ヒューリスティック」と呼んでいます。
ヒューリスティックとは?
情報を理解をするときに起こる短絡的なクセのこと。
何かを決断したり判断するときに、大きな影響を与える。
詳しくはこちら
-
ヒューリスティックで人が経験則で行動する事例・心理学との関係
直感的に行動したり、経験則で行動することを心理学・行動経済学の世界で「ヒューリスティック」と言います。 今までの経験上こ ...
続きを見る
人は最初に見聞きした情報によって考えが変わることをカーネマン教授は発見しました。
このような心理現象は「プライミング効果」として知られています。
有名な実験
- 100名ほどの人々を2つのグループに分けて質問をします
国連に参加している国で、アフリカ諸国が占める割合は何%ですか?
- 片方のグループには「45%より多いか少ないか」と聞きます
- もう片方には「65%よりも多いか少ないか」と聞きます
実験の結果
45%という数字を出されたグループの方が、65%の数字を出されたグループよりも割合を少なく見積もる傾向があったのです。
ココがポイント
つまり、最初の情報次第で相手の考え方が変わるので「第一印象は大切」です。良い印象を与えた方が、何かがあったときに自分が有利になります。
こうした人の癖は、思い込みや偏見が起こる原因にも繋がります。
他にも例があるので興味があれば読んでみてください!
⇒ 固着性(係留と調整)ヒューリスティックの例を紹介!最初の情報で変わる行動!
ちなみに
ヒューリスティックは、大きく3つあります。
ここで紹介したのは、一番下の「固着性ヒューリスティック」です。
ヒューリスティックを利用したマーケティングなどもあるので、この3つは知っておきたいところです。
記憶に残るのは○○だけ?
終わり良ければ総(すべ)て良し
誰でも聞いたことがある諺(ことわざ)ですが、果たして本当なのでしょうか?
カーネマン教授は、人が記憶を思い出すときの癖を見つけました。
1996年の実験
有名な大腸の内視鏡検査の実験です。
- 検査中に60秒ごとにどれくらい痛みがあるかを患者から聞きます
グループA
患者が痛がっている時に検査を終える。
グループB
グループAよりも検査が長いが痛みが小さかったときに検査を終える。また、ピーク時の痛みの強さはグループAとさほど変わらない。
実験の結果
検査について聞くとグループAの患者の方が「大変だった」と答えるのです。
カーネマン教授は、こうした実験から「ピークエンドの法則」を見つけました。
ピークエンドの法則とは?
ひとが過去の経験を思い出すときは、途中の一番盛り上がった瞬間(ピーク)と、終わり方がどんな感じだったか(エンド)で、過去の経験(記憶)を評価してしまう法則のこと。
ちなみに
ディズニーランドで、2時間も並んでいるのに素敵な記憶として残る理由は、ピークエンドの法則が関係しています。
最後の5分間のアトラクションの楽しさが重要な役割を果たしているのです。
詳しくは
-
【ピーク・エンドの法則とは?】あなたの記憶がコントロールされている理由
自分の記憶がどんな風に作られているのか知っていますか? あなたも普段の生活で記憶をコントロールされているかもしれませんね ...
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プロスペクト理論でノーベル経済学賞
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最後にカーネマン教授の最大の功績を紹介します。
というよりも、カーネマン教授と言えばこれです。
1979年
行動経済学の代表的な理論として有名な「プロスペクト理論」をエイモス・トベルスキー教授と発表します。
プロスペクト理論は、これまでの行動経済学の理論や心理学を集大成した理論です。
このあたりの話が関係しています
このプロスペクト理論により、2002年にはノーベル経済学賞を受賞します
プロスペクト理論により、投資をする人が負けてしまう理由が浮き彫りになりました。
人は損することに敏感
神経学でも分かっていることですが、人が損をすると「死の恐怖」を感じている時と同じくらいの苦痛を感じます。
投資で負ける人
株価が少し下がったくらいで、意味もなく焦ったり、売ったりして失敗します。しかし、プロスペクト理論から分かる通り、それは当たり前の話なのです。
投資をしている人は、そうした心理が働くことを知って行動することが大切
プロスペクト理論は、投資をする上で重要となる話が多く、投資家のバイブル的な地位を築いています。
プロスペクト理論:6つのポイント
- 人は得をするよりも、損する方に敏感に反応する。
- 人は得られる利益は確実に得たいが、確実な損失は避けたがる。
- 損をしている場面だと、リスクのある行動を取りやすくなる。
- 人の喜びや悲しみは、参照点に依存する(相対評価)。
- 人の喜び・悲しみは長くは続かない(慣れる)。
- 人は確率を正しく認識していない。
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むすび
ダニエル・カーネマンを知らなくても、研究結果はネットの記事で見たことがあると思った人もいたのではないでしょうか?
カーネマン教授の著書も有名です。
一時期、東大生に一番読まれた本として話題にもなりました。
⇒ ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
カーネマン教授の研究がたくさんの人に知られますように。
「合理性」が行動を説明するものとして妥当な領域もある。
しかし、まったく説明がつかない領域も多い。
ダニエル・カーネマン