「供給曲線」が右上がり・限界費用と一致するのは何故か。
- 供給曲線が右上がりの理由
- 完全競争市場とプライステイカー
- 限界費用(MC)との一致
「右上がりの供給曲線」を簡単に説明して、最後に限界費用との関係をまとめています。
供給関数の求め方はこちらで確認してください⇒【生産関数】費用関数・利潤最大化・供給関数の求め方を分かりやすく※「生産関数と供給関数の求め方」を参照
「右上がりの供給曲線」簡単な説明
右上がりになる理由
価格が高くなるほど儲かるため、市場に参入する企業が増えて供給が増える。その関係を表すと供給曲線は右上がりになる。
右上がりの供給曲線については、定番の間違いがあるので先に紹介します
よくある勘違い
供給量が増えれば、市場に商品がたくさん出回るので価格は下がる。なので、供給曲線(S)は右下がりになる。
勘違いポイント
- グラフの見方が違う(完全競争市場の特徴を理解できていない)
「供給量が増える→価格が低くなる」というのは、グラフで言えば「横軸(生産量)→縦軸(価格)」となるが、この考え方は誤り。
大事な前提
- 供給曲線が右上がりというのは、完全競争市場を想定している
ポイント
完全競争市場では、企業がいくら生産供給しようと市場価格に影響を与えることが出来ない。企業はプライステイカー(価格受容者)。
よくある間違いの「供給量が増えると、価格が安くなる」というのは独占市場の話です。
更に付け加えると、独占市場では企業は生産量をコントロールして価格を吊り上げようとします。そのため、ここで言う供給曲線はそもそも登場しません。
一般的に供給曲線が右上がりというのは、完全競争市場を想定しています。
例えば
- カップ麺市場を考える
カップ麺市場は、多数の企業が参入している競争市場です。
※完ぺきな完全競争市場とは言えませんが、現在ではコンビニなども自社製のカップ麺を投入していることから、ここでは完全競争市場だとして話を進めます。
ここで、どの企業から発売されているカップ麺も、値段が1個当たり100円~200円程度になっていることに注目します。
ポイント
カップ麺の価格帯である100円~200円は、原材料・加工・輸送費など、あらゆる製造費用が考慮されて、企業が利益を享受できるギリギリの価格帯となっています。
また、独占市場とは異なりライバル企業がいるため安易に値上げすることがも出来ません。
つまり、100円~200円という価格帯は、市場の原理によって辿り着いた市場価格と考えることが出来ます。
ここで
日清がカップ麺の製造数を2倍にしたとき、この100円~200円の価格帯が50~100円程度になるのかを考えます。
カップ麺市場が完全競争市場だと想定すると、日清が製造数を倍にしても、カップ麺の価格は変わりません。
どうして変わらないのか?
日清は競争市場を生き抜くために、すでに最適な生産規模で費用最小化を実現させていると考えられます。今さら製造数を2倍にして規模を拡大させても、製造費用を安くすることは困難です。
いくら工場設備を効率的にしても、原材料費や輸送費などは自社ではどうにもなりません。
製造数が安くならないのに、販売価格を半分にしたら赤字になります。
そのため
- 結局、市場に出回るカップ麺の値段は100円~200円程度になる
日清はライバル企業がいるため値上げできません。かと言って、値下げすると利益が出なくなります。⇒要するに、日清は市場価格を受け入れるしかないと言えます。
完全競争市場では価格が先
カップ麺の例から分かる通り、完全競争市場では「市場価格」を企業が受け入れます。
⇒このように完全競争市場では、売り手(企業)は市場価格を受け入れるため「価格受容者=プライステイカー」と呼ばれます。
ココがポイント
「企業が生産量(供給量)を増やす⇒価格が安くなる」ではなく、市場価格をもとに企業は生産活動を行っているので「市場価格⇒企業がそれを受け入れて生産活動を行う」が正しい。
グラフでは見ると
ここで
- カップ麺の価格が300円~400円になったとき
これまで100円~200円の価格帯で販売していたものを、300円~400円で売ることが出来るようになったら、当たり前ですが儲かります。
企業
カップ麺は結構儲かるな、うちでも販売しよう!
ポイント
製造費用が変わらなければ、価格が高いほど、企業がより多くの利益を得られる。その利幅に目を付けた企業がカップ麺市場に参入してきて供給量が増加する。
⇒価格が高いほど供給量が増加するため、供給曲線(S)は右上がりとなる。
注意
①もちろん、どの企業も市場の競争に巻き込まれて、最終的に価格は調整されていきます。その過程で脱落していく企業もいるので、価格が下落して供給量も適切に減少していきます。
②ここではカップ麺市場に注目して話をしています。たとえば自動車市場は別物なので「カップ麺より自動車の方が価格が高いけど、自動車ってカップ麺より供給量が多いかな?」と考えるのは間違いです。
ここからは、大学でミクロ経済学の勉強をしている人・公務員試験の勉強をしている人向けに、限界費用(MC)と供給曲線の関係について話を進めます。
限界費用を使って供給曲線を導出
ポイント
企業の限界費用曲線(MC)は、供給曲線(S)となる。
はじめに
- 限界費用(MC)について思い出す
限界費用(MC)
追加的な生産を行うことで発生する費用の増加分のこと。
重要
- 企業は販売価格(P)=限界費用(MC)になるまで生産を続ける
話を簡単にするために作ったものが全て売れると仮定します。
思い出す
限界費用は、生産を追加的に行ったときに発生する費用の増加分です。
例えば
車を製造している企業が、もう1台追加で生産を行います。この時に、追加で50万円の費用がかかりました。この50万円が限界費用にあたります。
販売価格と限界費用の関係
- 先ほどの企業が、自動車を100万円で販売していた場合
販売価格=100万円
追加費用(限界費用)=50万円
利益=100万円-50万円=50万円
ここで
車の増産を永遠と繰り返していきます。すると…
- 人材を集めるのに人材紹介料
- 人件費も高騰
- 原材料などの枯渇
- 新たな製造拠点が必要
ポイント
過剰生産になると、費用がかさんでくる。
限界費用が増加し始めると‥?
車もう1台生産するのに50万円の費用だったものが、追加費用60万円70万円…とかさんでいきます。いずれ追加費用が100万円になります。
販売価格=100万円
追加費用(限界費用)=100万円
利益=100万円-100万円=0円
ポイント
追加費用(限界費用)が100万円になると、100万円で売っても利益がでなくなる。
重要
- 逆のことを言えば「販売価格=限界費用」になるまで製造販売を続ければ利益が出る⇒企業は製造を続ける
「価格(P)=限界費用(MC)」を完全競争市場における利潤最大化条件と呼びます。⇒【価格=限界費用=限界収入】なぜ完全競争市場で「P=MC=MR」となるのか
先ほどの話をグラフで
価格(P)が100万円なので、限界費用が100万円になるまで企業は製造を続ける。
ポイント
企業は「Q1」という生産量まで製造を続けます。つまり「Q1」までの生産物が市場に供給されることになります。そのため「限界費用曲線=供給曲線」となります。
ただし「Q1」より右上は企業の利益が出なくなるので、販売価格100万円という場合においては供給曲線にはなりません。もちろん、販売価格が200万円・300万円と吊り上がれば「Q1」より右上でも供給曲線となるので、一般化されたグラフでは上限なく描かれます。
ちなみに
最初の段落で、供給曲線が右上がりになる理由を「価格が高いほど儲かるので、たくさんの売り手が参入するため供給量が増加する」とまとめました。
これをミクロ経済学的に説明すると「限界費用(MC)が生産量とともに増加するため、供給曲線は右上がりになる」とも言えます。
ここで
- 更に厳密に供給曲線を求める
ここからは
平均費用・平均可変費用を含めて考えていきます。
平均費用・平均可変費用についてはこちらで確認する⇒【費用曲線の要点を分かりやすく】総費用・固定・可変・平均可変・限界
例えば
60万円で販売する
- 価格60万円で200台を販売
- 初期費用に1億円
- 可変費用の累計が2000万円だった場合
総売上=60万円×200台=1億2000万円
原材料などの可変費用総額=2000万円
初期費用(固定費用)=1億円
※1台当たりの平均費用=60万円
200台販売すれば、なんとか収支は±0円になる。
つまり
ポイント
生産量が「Q2(200台)」を下回ると損をするので、企業は「Q2(200台)」より右上の製造販売を目指す。
更にこんなケースを考える
- 価格20万円で100台を販売
- 初期費用に1億円
- 可変費用の累計が2000万円だった場合
総売上=20万円×100台=2000万円
原材料などの可変費用総額=2000万円
初期費用(固定費用)=1億円
※1台当たりの平均可変費用=20万円
初期費用は回収できていない。可変費用の回収がかろうじて出来ているライン。
ポイント
初期費用(固定費)を回収できないので長期的にはアウトですが、短期的には可変費用を回収しているため、企業は一時的に製造販売を続けます。
このポイントを操業停止点と呼びます。詳しくはこちらで確認⇒【損益分岐点・操業停止点】求め方や計算方法を分かりやすく簡単に
つまり
ポイント
生産量が「Q3(100台)」を下回るまでは企業を一時的に製造販売を続けるので、「Q3」より右上は短期の供給曲線となる。
また、価格が20万円を下回ると操業が停止されるため、価格20万円より下側は生産量=0として短期の供給曲線が描かれる。
さらに詳しく
後半は、限界費用・平均費用・平均可変費用の知識がないとイメージし辛いです。3つの費用についてはこちらで再確認できるので復習しましょう。⇒【費用曲線の要点を分かりやすく】総費用・固定・可変・平均可変・限界。
また、3つの費用は理解できているけど、製造販売を続ける基準が良く分からない人は、この記事を確認してください。⇒【損益分岐点・操業停止点】求め方や計算方法を分かりやすく簡単に
市場の供給曲線
- 各企業の供給曲線を足しあわせていく
全社の供給曲線を足していくと‥
よく言われる供給曲線は、個別供給曲線を無数に足し合わせた市場供給曲線のことです。
個別供給曲線→市場供給曲線という流れは飛ばされることが多いので、最終的な市場の供給曲線が、個別供給曲線の無数に足し合わせたものだ、ということだけ簡単に知っておけば十分です。
ちなみに、これは短期供給曲線となりますが、長期限界費用曲線(LMC)を使えば長期供給曲線となります。考え方は短期も長期も同じです。