ミクロ経済学

費用逓減産業とは?具体例とグラフを交えて分かりやすく解説!

2019年9月1日

巨大なインフラ設備を必要とするビジネスは、費用逓減産業と呼ばれます。

  • 費用逓減産業の概要
  • 費用逓減産業の問題点

費用逓減産業について、経済学で頻出する話をまとめています。

費用逓減産業とは?

 

費用逓減産業とは

多額の初期投資が必要だけど、一度設備が完成すれば、その後の生産コストがあまりかからない産業のこと。電気・水道・通信・電鉄など、社会インフラを担う産業に多い。

経済学的には、初期の固定費(FC)が大きく、生産量が増加すると平均費用(AC)が減少していく産業のことを言う。

 

北国宗太郎
「逓減」これって何て読むの・・?
「ていげん」と読みます。経済学では良く登場するよ。
牛さん

 

「逓減(ていげん)」とは、段々と減っていくこと。逆に「逓増(ていぞう)」は、段々と増えていくこと。

 

「費用逓減」は費用が段々と減っていく、という意味

 

例えば

 

  • 鉄道を例に考えてみる

鉄道を走らせるためには、土地の権利関係をまとめる必要があります。次に、線路を敷いて、駅を作ります。

 

既にお分かりかもしれませんが、この段階で、1000億円単位でお金がかかります

つまり、鉄道事業を開業するには、とてつもない初期投資が必要なのです。

 

しかし

線路を敷いて駅まで完成すれば、その後に発生する費用は、初期投資に比べれば小さいことが分かります。

土地の買収費用・線路を敷く費用 > 日々の営業で発生する費用

 

顧客1人あたりの費用で考えてみる

 

費用逓減産業では、初期投資が終われば、顧客が増え続けることで顧客1人あたりの平均費用が減少していきます

 

グラフで見てみる

 

ポイント

費用逓減産業では、莫大な初期投資が必要な一方で、一度設備投資が終わると、顧客を増やし続けることで、顧客1人あたりの平均費用は減少する

市場で顧客を獲得すればするほど平均費用が減少するため、初期投資を乗り越えた企業は、規模を拡大させて市場での優位性を一気に高める。

また、莫大な初期投資が必要なため、参入障壁が高く、ライバル企業が生まれにくい。

 

北国宗太郎
費用逓減産業の特徴が分かってきました。
次に問題点を見ていこう。
牛さん

 

費用逓減産業で発生する問題

 

費用逓減産業で発生する問題点は、大きく2つあります。

  • 自然独占
  • 料金設定(価格設定)

この2つを順番に解説していきます。

 

自然独占

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自然独占

「規模の経済」「範囲の経済」「資源の希少性」がある産業分野では、競争が生まれず、必然的に独占状態となること。※費用逓減産業は「規模の経済」に該当する。

「規模の経済」は生産すればするほど効率的になる状態のこと初期投資が終われば、顧客が増えるほど平均費用が減少していくため、費用逓減産業は規模の経済に該当する。「範囲の経済」は経営学の言葉で、事業を多角化した時に、これまでのノウハウが他の事業でも活きること。「資源の希少性」は、資源に限りがあり、全ての需要を見当たすことが出来ないものを言う。

 

メモ(最近の経済学では)

  • 規模の経済
  • 範囲の経済

この2つの言葉の意味を含んだ「費用の劣加法性」という単語が注目されています。

 

費用の劣加法性

  • 2社以上よりも、1社で生産する方が効率的

ある生産量を生産するのに2社以上の企業が生産するよりも、1社の企業が生産した方が総費用が小さくなる時、費用の劣加法性があるという。

最近では、自然独占の1番の原因として扱われることがある。

 

例えば

  • JR東日本

JR関東・JR北陸・JR東北など、複数社で市場を分け合うよりも「JR東日本」とした方が平均費用が安く済みます。つまり、JR東日本とした方が、線路の管理や、運営コストが効率的になっていると言えます(費用の劣加法性)。

 

「規模の経済」が働いて生産効率が高まっている、「範囲の経済」が働いて経営効率が高まっている。この2つが同時に働いているのが「費用の劣加法性」というわけです。

 

注意ポイント

このように、1社で生産したほうが効率的なので、自然の流れで、独占的に市場を支配する企業が誕生します(自然独占)。

最初に市場シェアを獲得した企業は、大きな影響力を持つため、市場が非効率的になっていきます。これが費用逓減産業の大きな問題点です。

 

北国宗太郎
競争がないと、価格が安くならなかったり、ユーザーが不利だね。
そうだね。他にも費用逓減産業の問題点があるよ。
牛さん

 

費用逓減産業は赤字になる

 

費用逓減産業は、自然独占になるため価格競争に巻き込まれません。その結果、本来あるべき価格水準よりも、高い価格でサービスが提供される傾向にあります。

 

仮に

本来あるべき価格水準でサービスを提供すると、費用逓減産業では赤字になります。

 

北国宗太郎
どうして赤字になるの?
費用逓減産業の特徴に注目です。
牛さん

 

ポイント

費用逓減産業は、莫大な初期投資が必要になる。更に、効率的な経営をするめには、たくさんの顧客が必要になる。

 

例えば

  • JR北海道

最初に登場したこの列車は、JR北海道の「スーパーカムイ」です。

JR北海道は「本来あるべき価格水準でサービスを提供すると、費用逓減産業では赤字になる」という特徴を説明するには、分かりやすい例です。

 

ご存知かは分かりませんが、JR北海道は道内で運営している全路線が赤字です

ちなみに、新千歳空港は、羽田空港の次に売上をあげているドル箱空港です。その新千歳空港と札幌を結ぶ路線ですら赤字になっています。

 

この原因が鉄道需要が少ないためです。北海道の人口は関東圏よりも少なく、車社会で鉄道の利用数も高くありません。

 

ココに注意

費用逓減産業では、企業が一番効率的にサービスを提供する段階に到達する前(平均費用が一番低くなる前)に、需要が頭打ちになる。

 

JR北海道で考えると

 

北海道全体に鉄道網を走らせて、駅をたくさん作った方が効率的に運営(1人あたりの平均費用を低くすること)が出来ます。

しかし、鉄道網を作ったところで利用者数が遥かに少ないため、採算が取れないのです

北海道の人口は約500万人。ちなみに新宿・池袋・東京・横浜・品川・渋谷の1日の平均乗車数を合わせると軽く200万人くらいです。北海道では、ほとんど自動車で移動するので、はるかに鉄道需要がないことが分かります。

 

詳しくはこちら

自然独占とは?費用の劣加法性と規制方法をグラフで解説!

 

北国宗太郎
でも、他の費用逓減産業って黒字のイメージがある。
そうだね。次にその問題を取り上げるよ。
牛さん

 

料金設定

 

費用逓減産業では自然独占になる一方で、あるべき価格水準でサービスを提供すると需要が足りずに赤字になる

 

しかし

現実の費用逓減産業では、赤字の企業はそこまで多くありません。

その理由が、料金設定にあります。

 

費用逓減産業では、自然独占のため価格を自由に決められる

 

普通の競争市場では、ライバル会社がたくさんいます。そのため、高い価格設定だとお客さんが他社へ流れてしまいます。

しかし、費用逓減産業では、自然独占になるため、ライバル企業がいません。ライバル企業を意識せずに、自由に価格水準を決められます。

 

ポイント

また、費用逓減産業では、社会インフラに関するサービスが大半を締めます。利用者は、インフラとなるサービスを必要としているため、高い価格設定でも利用せざるを得ないのです。

 

北国宗太郎
確かに、ライバル企業が居ないから高くても大丈夫だね。
そうだね。高い価格を設定すれば赤字も回避できる。
牛さん

 

このように、費用逓減産業では、あるべき価格水準でサービスを提供をすると赤字になります。しかし、自然独占という状態を活かして、割高に価格設定をすることで、赤字を回避しているのです。

JR北海道は、それを凌駕するほど鉄道需要が少ないため赤字に陥っています。

 

政府が規制する場合も

  • 社会的に必要とされる産業は、国が価格規制を行う場合がある

企業側が高い価格設定をするのではなく、政府が料金制度を提示することがあります。

例えば「このサービスは○○円で販売する」のようなもの。鉄道なら1キロあたり○○円と運賃が決まっている。

 

電力・水道・鉄道・通信などは、生活には必須の社会インフラです。そのようなサービスは、政府が無理やりにでも、価格規制を行って企業を存続させる必要があります。

国の政策的の1つとして、費用逓減産業が赤字に陥らないように対応しているのです

 

どちらにせよ

企業が高い価格設定で赤字を回避したり、政府が価格規制を行うなど、費用逓減産業では赤字を回避するために、あるべき価格水準よりも高い料金設定がされています

 

注意ポイント

つまり、効率的な価格水準にならない。価格水準が効率的ではないので、市場では社会的な損失が発生しています

 

北国宗太郎
市場が効率的にならないのが費用逓減産業の問題にもなっているんだ。
うん。よく言う「市場の失敗」の1つだね。
牛さん

 

費用逓減産業では、社会が必要とするサービスが多いため、何らかの形で企業を存続させる必要があります。しかし、規制のやり方次第では、市場の非効率さが増していくので注意が必要です。

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