企業が赤字になるか、企業が生産を続けるか、を判断するために「損益分岐点・操業停止点」を使います。
- 損益分岐点・操業停止点の意味
- 平均費用と限界費用の交点
- 平均可変費用と限界費用の交点
- 求め方や計算方法
損益分岐点と操業停止点の基礎情報を簡単にまとめています。
損益分岐点・操業停止点とは?
損益分岐点・操業停止点とは
- 企業が赤字になるかのポイントを損益分岐点と呼ぶ
- 企業が生産を続けるかの判断ポイントを操業停止点と呼ぶ
ポイント
短期的には企業は赤字になっても生産を続けることがあるため、損益分岐点と操業停止点が異なる。
例えば
赤字の飲食店を考える
- この飲食店は家賃が10万円かかる
このとき「家賃さえなければ黒字だったのに‥!」という状態を考えます。
難しく書くと可変費用(変動費)の回収は出来ている状態です。
この飲食店は、全体で見ると赤字なので営業を止めるのか?
この場合、飲食店は赤字でも営業を続けます。
理由
ミクロ経済学では、この「家賃」を固定費用(FC)と考えます。
例えば、最低1年間の家賃契約をしているため今すぐに解約できません。⇒12カ月分の家賃は必ず支払わなければいけません。
契約してしまった以上どうすることも出来ないため、短期的にはこの家賃を無視して考えるのが合理的だと言えます。
ポイント
つまり、短期的に営業を続けるかは、固定費用(家賃)を無視して利益が出ているかが重要です。
家賃はどうせ支払わなければいけないので、それ以外で利益が出ているなら、営業を続けて少しでも利益を出す方が合理的というわけです。
まとめ
- 赤字になるかの基準である「損益分岐点」は総収入と総費用(家賃なども含む)で考えている
- 営業を続けるかの基準である「操業停止点」は固定費用(家賃など)は無視して、それ以外で利益が出ているか?を考えている
ココに注意
もちろん長期的に考えると、この飲食店は営業を止めます。この例なら、家賃契約の1年を過ぎたタイミングなどに店じまいをする、と考えます。
損益分岐点・操業停止点をグラフで考える
ポイント
- 損益分岐点=平均費用曲線(AC)と限界費用曲線(MC)との交点。
- 操業停止点=平均可変費用(AVC)と限界費用曲線(MC)との交点。
グラフで損益分岐点と操業停止点を簡単に考えてみましょう。
損益分岐点
- 平均費用曲線(AC)を考える
平均費用(AC)は、製品1個あたりの費用です。ふつう、規模を拡大して効率的に生産を行うと、1個当たりの費用を小さくすることが出来ます。逆に生産が過剰になると、生産効率が悪くなり1個当たりの費用が大きくなります。以上の理由から、平均費用曲線(AC)はU字型になるのが一般的です。
企業は平均費用(AC)が一番小さくなるポイントで生産を行います
ここでは「Q1」という生産量のとき、平均費用が一番小さくなります。
例えば
- Q1=100個
- 価格(P)=300円
1個あたり300円費用がかかる商品なので、1個300円以上で売らないと利益が出ないことも分かります。
つまり‥
ポイント
企業は、製品1個当たりの費用が一番小さくなるポイントまで生産規模を拡大させる。そのため、平均費用(AC)のU字のポイントが生産量となる。
このとき、1個当たりの平均費用(AC)より高く売らないと赤字になるため、平均費用曲線のU字の底部分が損益分岐点となる。
供給曲線を重ねると
企業は損益分岐点より左下部分では赤字になるので、損益分岐点の右上部分で生産販売を行うことを目指す。
さらに詳しく
ここでは「損益分岐点」に限って話をしているため「供給曲線=限界費用曲線」「平均費用曲線のU字部分で供給曲線(限界費用曲線)が交わる理由」などの細かな説明は省いています。
詳しくはこちらで確認してください⇒【費用曲線の要点を分かりやすく】総費用・固定・可変・平均可変・限界
操業停止点
- 平均可変費用曲線(AVC)を考える
平均可変費用(AVC)は、製品1個あたりの可変費用(変動費)です。総費用から固定費用を除いていること以外は平均費用(AC)と同じ性質があります。そのため、平均費用曲線と同様に平均可変費用曲線(AVC)はU字型になるのが一般的です。
ちなみに
固定費用を除いて考えているため、平均可変費用曲線(AVC)は平均費用曲線(AC)よりも低い位置に描かれます。
企業は平均可変費用(AVC)が一番小さくなるポイントで生産を行います
ここでは「Q1」という生産量のとき、平均可変費用が一番小さくなります。
例えば
- Q1=80個
- 価格(P)=250円
固定費用を除いても1個あたり250円の費用がかかる商品なので、固定費用を除いて考えても1個250円以上で売らないと利益が出ないことも分かります。
つまり‥
ポイント
企業は固定費用を除いて考えた場合でも、製品1個当たりの費用が一番小さくなるポイントまで生産規模を拡大させる。そのため、平均可変費用(AVC)のU字のポイントが生産量となる。
このとき、1個当たりの平均可変費用(AVC)より高く売らないと固定費用を除いて考えても赤字になるため、平均可変費用曲線のU字の底部分が操業停止点となる。
供給曲線を重ねると
ポイント
企業は、操業停止点より左下部分では固定費を除いて考えても利益が出ないので生産を止める。
⇒企業は可変費用の回収すらも出来なくなるため生産活動を停止する。これは、作って売れば売るほど赤字が広がることを意味する。
ちなみに
損益分岐点より左下部分(赤線部分)は「作って売れば利益は出るけれど、固定費用を回収するほどの利益は出ていない(可変費用の回収は出来ている)」が、操業停止点より左下部分(灰色線部分)では「そもそも作って売っても利益が出ない(可変費用の回収も出来ていない)」ことを意味している。
さらに詳しく
ここでは「操業停止点」に限って話をしているため「供給曲線=限界費用曲線」「平均可変費用曲線のU字部分で供給曲線(限界費用曲線)が交わる理由」などの細かな説明は省いています。
詳しくはこちらで確認してください⇒【費用曲線の要点を分かりやすく】総費用・固定・可変・平均可変・限界
求め方・計算方法
完全競争市場において
ある企業の費用関数(C)が
と与えられているとき、次の2つを求める。
- 損益分岐点価格
- 操業停止点価格
ポイント
- 損益分岐点⇒「限界費用(MC)=平均費用(AC)」を使う
- 操業停止点⇒「限界費用(MC)=平均可変費用(AVC)」を使う
グラフで見る
先ほど説明した通り
- 平均費用曲線(AC)と供給曲線(限界費用曲線)が交わる点が損益分岐点
- 平均可変費用曲線(AVC)と供給曲線(限界費用曲線)が交わる点が操業停止点
となることを押さえる⇒戻って確認する
まずは
- 限界費用(MC)を求める
費用関数(C)を生産量(Q)で微分すれば限界費用になる
こちらの「限界費用曲線」の項目で総費用との関係性を知りましょう⇒【費用曲線の要点を分かりやすく】総費用・固定・可変・平均可変・限界 ※特に「接線の傾き」がポイント
「」
をQで微分すると
step
1損益分岐点価格を求める
次に
平均費用(AC)を求める。
費用関数(C)を生産量(Q)で割ると平均費用になる
「」
をQで割ると
損益分岐点⇒「限界費用(MC)=平均費用(AC)」なので
これを計算して、損益分岐点の生産量(Q)を求める。
- 因数分解する
Q=3となるため、損益分岐点の生産量は3と分かる。
ここで
限界費用(MC)へ「Q=3」を代入する
ポイント
完全競争市場における利潤最大化条件より「価格(P)=限界費用(MC)」を使う。
今回は利潤最大化を求める問題ではないが、ミクロ経済学では「企業は利潤最大化を目指して経済活動を行う」と想定しているため上記の条件を使って計算を進める。
・【完全競争・利潤最大化】条件や求め方・計算方法をグラフを使って理解する
・【価格=限界費用=限界収入】なぜ完全競争市場で「P=MC=MR」となるのか
Q=3より
=15
損益分岐点価格は15
step
2操業停止点価格を求める
次に
平均可変費用(AVC)を求める。
費用関数(C)から固定費用を引いて生産量(Q)で割ると平均可変費用になる
「」
18を引いてQで割ると
操業停止点⇒「限界費用(MC)=平均可変費用(AVC)」なので
これを計算して、操業停止点の生産量(Q)を求める。
Q=2となるため、操業停止点の生産量は2と分かる。
※Q=0も成立しますが、限界費用曲線(MC)と平均可変費用曲線(AVC)は生産量=0で必ず一致するので、操業停止点の生産量としては扱いません。
ここで
限界費用(MC)へ「Q=2」を代入する
ポイント
完全競争市場における利潤最大化条件より「価格(P)=限界費用(MC)」を使う。
今回は利潤最大化を求める問題ではないが、ミクロ経済学では「企業は利潤最大化を目指して経済活動を行う」と想定しているため上記の条件を使って計算を進める。
・【完全競争・利潤最大化】条件や求め方・計算方法をグラフを使って理解する
・【価格=限界費用=限界収入】なぜ完全競争市場で「P=MC=MR」となるのか
Q=2より
=8
操業停止点価格は8