このページでは「完全競争市場ならば生産経済(消費と生産が行われる経済)はパレート効率的」となる様子をグラフを用いて解説します。
思い出す
エッジワース・ボックスを使って、完全競争市場における消費者・生産者のパレート効率的な資源配分について分析することが出来ました。
しかし、上の2つの分析では「消費者」と「生産者」がそれぞれ単独で分析されているため「生産者が作ったものを消費者が購入する」という現実の流れが再現できていません。
そこで、この2つの分析をさらに発展させて”市場では総合的にパレート効率性が実現するのか(=完全競争市場によって実現する資源配分(市場均衡)はパレート効率的か)?”について考えていきます。
4つのポイント
「市場では総合的にパレート最適が達成されるのか?」を考えるときに、次の4つの条件が重要です。言い換えると、次の4つの条件を達成していれば「完全競争市場で実現した資源配分(市場均衡)はパレート効率的である」と言えます。
4つのポイント
- 消費者間の資源配分が効率的か
- 産業間(異業種間)の生産要素の配分が効率的か
- 同一産業内の生産要素の配分が効率的か
- 生産物と消費者間の整合性が取れるか
step
1消費者間の資源配分の効率性
- 完全競争市場では、財の配分がパレート効率的になるのか?
市場がパレート効率的だと判断するためには、市場を通して消費者が満足する商品・サービスの配分が実現できるのかが重要です。
例えば
Aさん「お茶より、コーヒーが欲しいな‥」
Bさん「コーヒーより、お茶が欲しいな‥」
このとき「Aさんはお茶」「Bさんはコーヒー」しか手に入らないなら、市場は非効率です。市場が効率的なら、AさんもBさんも、より欲しいと思った方を手に入れることが出来るはずです。
これをミクロ経済学の項目で考えるなら、市場では「消費者の効用最大化」が実現できるのか?という意味合いです。
step
2産業間(異業種間)の生産要素の配分の効率性
- 完全競争市場では、生産要素の配分がパレート効率的になるのか?
市場がパレート効率的だと判断するためには、生産者が商品を製造するときに、異なる業種(企業)間で市場を通して生産要素(労働力・資本)が効率的に配分されるのかが重要です。
例えば
農業「畑を耕すのに人が欲しいな‥」
工業「工場の設備を新しくしないと‥」
このとき農業部門に大量の機械(資本)が投入されると
農業
こんなに機械があっても、使い切れないな‥それよりも人が欲しい
工業
農業に資本が集中していて、工業にはちっとも流れてこない。人手だけだと効率も悪い‥
このような状況なら、市場は非効率だと分かります。市場が効率的なら、農業-工業間での生産要素(労働・資本)の配分が最適になるはずです。
これをミクロ経済学の項目で考えるなら、市場では「生産者の費用最小化・利潤最大化」が実現できるのか?という意味合いです。
step
3同一産業内の生産要素の配分の効率性
- 完全競争市場では、生産要素の配分がパレート効率的になるのか?
市場がパレート効率的だと判断するためには、生産者が商品を製造するときに、同じ業種(企業)内で市場を通して生産要素(労働力・資本)が効率的に配分されるのかが重要です。
例えば
お米農家のAさん・Bさんがいます
農家A
Bさんに負けないように効率的にお米を作るぞ!
農家B
うちも負けないように効率さを追い求めよう!
その結果
農家A「機械1台・作業2人で100kgのお米が作れた!」
農家B「うちも機械1台・作業2人で同じくらいお米が作れた!」
つまり、同じ業種内なら、生産要素がパレート効率的に配分されて、各生産者が効率的に生産活動を行えば、生産性は似たり寄ったりになるはずです。
例えば、田んぼ1ヘクタールなら、機械1台・作業員2人くらいが一番効率的に生産できる⇒機械2台だと狭くて作業しづらい・作業員3人もいらないetc。この場合、お米農家業界では田んぼ1ヘクタールなら「機械1台・作業員2人」がパレート効率的。つまり、同じ業界内で各生産者が効率性を求めた結果、パレート効率的な資源配分を実現していれば同じような生産性にたどり着くというイメージ。
これをミクロ経済学の項目で考えるなら、市場では「生産者の費用最小化・利潤最大化」を目指した結果、同じ業種内(企業間)の限界生産力が一致している状況です。
step
4生産物と消費者間の整合性
- 完全競争市場では、需要と供給が一致するのか?
市場がパレート効率的だと判断するためには、消費者側と生産者側で資源配分が効率的で、かつ、需要と供給が一致している必要があります。
例えば
消費者「欲しいモノも手に入って満足」
生産者「効率的に生産ができて満足」
このとき、消費者はX財をたくさん消費したいと考えているのに、生産者がY財を大量生産してしまうと商品・サービスが余ります。
市場が効率的なら、需要と供給が一致するので無駄が無くなるはずです。言い換えれば、需要と供給が一致しなければ、経済の流れとしては整合性が取れなくなります。
次からは、それぞれのポイントをより経済学の視点で考えていきます。
消費者間の資源配分の効率性
ポイント
完全競争市場では、自由な財の取引を通じて消費者間の財の配分がパレート効率的になるのか(=均衡点ではパレート効率的になるのか)を考える。
思い出す
いま、2財・2人の消費者がいる純粋交換経済を考える。
- この経済では財の生産は行われていない
- 消費者は財の交換を行うことが出来る
2人の消費者は、初期保有量をもとに予算制約線の傾きに沿って財の交換を行います。
⇒それぞれが自身の効用最大化を目指して財の交換を行うため、自然とパレート効率的な状態になるまで財の交換が行われる。
細かな分析はこちらの記事で確認してください⇒【エッジワース・ボックスと純粋交換経済】グラフの見方や計算方法など
ポイント
エッジワース・ボックスで分析すると「2財・2人の消費者がいる純粋交換経済では、2人の限界代替率(MRS)と予算制約線の傾き(Px/Py)が一致するまで財の交換が行われて、このときパレート効率的になる」ことが分かる。
以上より
- Aさんの限界代替率(MRS)=Bさんの限界代替率(MRS)=予算制約線の傾き(Px/Py)
エッジワース・ボックスの分析より、自由な財の交換を通じてパレート効率を実現できるが、そのとき上記の条件を満たすことが分かる。
産業間(異業種間)の生産要素の配分の効率性
ポイント
完全競争市場では、生産者の生産活動を通じて、産業間(企業間)の生産要素の配分がパレート効率的になるのか(=均衡点ではパレート効率的になるのか)を考える。
思い出す
いま、2企業・2種類の生産要素がある経済を考える。
- 生産者は生産要素を組み合わせて財を生産する
- 生産者は効率的に生産するために生産要素の配分を調整する
⇒それぞれが費用最小化・利潤最大化を目指して生産要素の配分を考えるため、パレート効率的な状態になるまで生産要素の調整が行われる。
細かな分析はこちらの記事で確認してください⇒生産のパレート効率性・生産の契約曲線(効率軌跡)「エッジワース・ボックス」を使った生産活動の分析
ポイント
エッジワース・ボックスで分析すると「2企業・2生産要素の経済では、2企業の技術的限界代替率(MRTS)と等費用線の傾き(w/r)が一致するまで生産要素の配分が行われて、このときパレート効率的になる」ことが分かる。
以上より
- 企業Aの技術的限界代替率(MRTS)=企業Bの技術的限界代替率(MRTS)=等費用線の傾き(w/r)
エッジワース・ボックスの分析より、生産活動を通じた生産要素の配分でパレート効率を実現できるが、そのとき上記の条件を満たすことが分かる。
ここで
- 企業Aにより生産された財を「X財」
- 企業Bにより生産された財を「Y財」
として生産可能性曲線・限界変形率を考えると‥
step
1エッジワース・ボックスと生産可能性曲線(PPF)の関係
いま、点Eは生産要素がパレート効率的な配分となっています(2つの生産要素が企業A・企業Bへ効率的に配分されている状態)。
このパレート効率的な配分ですが、2企業の技術的限界代替率(MRTS)・等費用線の傾きが一致する点は全てパレート効率的になります。
そして
パレート効率的な生産要素の配分が実現する点を結ぶと「生産の契約曲線」ができます。
生産の契約曲線を使って生産可能性曲線を考えます。
いま、右上のパレート効率的な点を考えます。このとき、生産要素の多くは企業Aに配分されていることが分かります。
当然ですが、生産要素(労働・資本)をたくさん保有している方が、たくさんの商品を生産できます。
これを生産可能性曲線で表現すると・・・
以上より
「エッジワース・ボックスのパレート効率的な点」と「生産可能性曲線」の関係は‥
- エッジワース・ボックスの右上の点になるほど企業Aの生産量(商品X)が増える。そのため、生産可能性曲線の右側の点に対応する。
- エッジワース・ボックスの左下の点になるほど企業Bの生産量(商品Y)が増える。そのため、生産可能性曲線の上側の点に対応する。
※同じ色の点が対応しています。
上記のグラフは、エッジワース・ボックス内のパレート効率的な生産要素の配分により、X財・Y財の生産量はどのような関係になるのかを生産可能性曲線に描き直しています。
労働量・資本量には限りがあります。片方にたくさん配分すれば、もう片方には少ししか配分されません。そして、X財を生産する企業Aにたくさん配分すれば、X財の生産量は増えます。逆にY財を生産する企業Bにたくさん配分すれば、Y財の生産量が増えます。
step
2限界変形率(MRT)と限界生産力(MP)
次に、2財の生産量が生産可能性曲線の黄緑色の点で決まるときの限界変形率(MRT)を考えます。
限界変形率は「商品Yの生産量の変化分(ΔY)/商品Xの生産量の変化分(ΔX)」です。
詳しい理由はこちら⇒生産可能性フロンティア・限界変形率とは?
ここで「商品の生産量の変化分」というのを「生産要素の増減に対して生産量がどれくらい変化するのか?」と考えます。
例えば
企業Aに投入される生産要素が減少していくと‥
企業Aが使える生産要素が減少する⇒商品Xの生産量が減少する
ポイント
以上より「生産要素の投入量に応じて生産量が変化する」ことが分かります。そして、この「生産要素の投入量が増減した時に、生産量がどれくらい変化するのか?」を限界生産力(MP)と言います。
まとめると
「商品の生産量の変化分」は、生産要素の投入量によって変化する。そのため「生産要素の投入量の変化分⇒生産量の変化分」という関係がある。
つまり、限界変形率は「(生産要素の投入量を変化させたときの)商品Yの生産量の変化分/(生産要素の投入量を変化させたときの)商品Xの生産量の変化分」と言い換えることが出来る。
「生産要素の投入量に応じて生産量がどれくらい変化するのか」=限界生産力(MP)であるため、最終的に限界変形率(MRT)は次のように表現できる。
限界変形率(MRT)=「企業Bの限界生産力(MPb)/企業Aの限界生産力(MPa)」
step
3限界変形率(MRT)と限界費用(MC)
つぎに、限界変形率と限界費用(MC)との関係を考えます。
そもそも、エッジワース・ボックスでは「自由な取引が行われる経済」を想定しているので完全競争市場です。
ここで
完全競争市場では企業は利潤最大化を目指して生産活動を行っているので利潤最大化条件(P=MC)を満たすことを思い出します。
完全競争市場の利潤最大化条件(P=MC)より
- P=賃金(w)/労働の限界生産力(MPL)=MC
- P=レンタル料(r)/資本の限界生産力(MPL)=MC
さらに詳しく
利潤最大化条件を考える過程で「w/(ΔY/ΔL)」「k/(ΔY/ΔK)」というのが出てきます。※「ΔY/ΔL・ΔY/ΔK」がそれぞれ限界生産力を表す。
詳しくは完全競争・利潤最大化の「②数式で考える」の段落を参照(そこで「P=w/(ΔY/ΔL)=限界費用」という計算結果が出てきます)。
以上より
- X財の価格(Px)=要素価格(w・r)/企業Aの限界生産力(MPa)=企業Aの限界費用(MCa)
- Y財の価格(Py)=要素価格(w・r)/企業Bの限界生産力(MPb)=企業Bの限界費用(MCb)
ちなみに
「P=(w・r)/MP=MC」を使っているのには理由があります。
限界変形率(MRT)は次のように表現されます。
限界変形率(MRT)=「企業Bの限界生産力(MPb)/企業Aの限界生産力(MPa)」
この式を「限界費用(MC)」を使ったバージョンに変形することで、後の説明が簡単になります。
本題に戻ります
完全競争市場の利潤最大化条件より、下記の式が出てきます。
- X財の価格(Px)=要素価格(w・r)/企業Aの限界生産力(MPa)=企業Aの限界費用(MCa)
- Y財の価格(Py)=要素価格(w・r)/企業Bの限界生産力(MPb)=企業Bの限界費用(MCb)
この式を「限界生産力(MP)=」の形に変形します
- 企業Aの限界生産力(MPa)=「要素価格(w・r)/企業Aの限界費用(MCa)」
- 企業Bの限界生産力(MPb)=「要素価格(w・r)/企業Bの限界費用(MCb)」
念のためですが、Pは無視して「(w・r)/MP=MC」の両辺にMPを掛けます。その後、両辺をMCで割ると上記の式になります。
ここで
限界変形率=「企業Bの限界生産力(MPb)/企業Aの限界生産力(MPa)」へ代入します。
代入すると‥限界変形率(MRT)=
要素価格(w・r)/企業Bの限界費用(MCb) /要素価格(w・r)/企業Aの限界費用(MCa)
「要素価格(w・r)」を消すために、分母分子に「企業Aの限界費用(MCa)/要素価格(w・r)」を掛けます。
※分母分子に同じ値を掛けても、最終的な値は変化しない。
計算すると‥
「(企業Aの限界費用(MCa)/企業Bの限界費用(MCb))/1」
⇒「企業Aの限界費用(MCa)/企業Bの限界費用(MCb)」となります。
以上より
限界変形率(MRT)
=「企業Bの限界生産力(MPb)/企業Aの限界生産力(MPa)」
=「企業Aの限界費用(MCa)/企業Bの限界費用(MCb)」
ポイント
限界変形率=「MPb/MPa」=「企業Aの限界費用(MCa)/企業Bの限界費用(MCb)」
更に
「P=MC」より
- X財の価格(Px)=企業Aの限界費用(MCa)
- Y財の価格(Py)=企業Bの限界費用(MCb)
だと分かるので‥
限界変形率(MRT)=「MPb/MPa」=「MCa/MCb」は
限界変形率(MRT)=「MPb/MPa」=「MCa/MCb」=「Px/Py」となる。
まとめると
完全競争市場では、市場を通して異業種間(企業間)の生産要素の配分が効率的になるのかを考えてきました。
エッジワース・ボックスの分析により、完全競争市場では企業の生産活動を通じて生産要素の配分がパレート効率を実現することが分かりました。そのとき下記の条件を満たします。
- 企業Aの技術的限界代替率(MRTS)=企業Bの技術的限界代替率(MRTS)=等費用線の傾き(w/r)
さらに、企業は利潤最大化を目指して生産活動を行うので「完全競争市場の利潤最大化条件」を満たすと考えて、下記の式が成立します。
- 限界変形率(MRT)=「MPb/MPa」=「MCa/MCb」=「Px/Py」
同一産業内の生産要素の配分の効率性
ポイント
完全競争市場では、生産者の生産活動を通じて、同一産業内(企業間)の生産要素の配分がパレート効率的になるのか(=均衡点ではパレート効率的になるのか)を考える。
先ほどまで
異なる産業間(企業間)で生産要素の配分がパレート効率的になる様子を見てきました。
ここでは、異なる産業間(企業間)で生産要素が配分された後、同一の産業内(企業間)でもパレート効率的な資源配分が実現するかを考えます。
例えば
農業・工業を考えます。
農業「畑を耕すのに人が欲しいな‥」
工業「工場の設備を新しくしないと‥」
などなど、それぞれの業界では問題を抱えています。
しかし、1つ前の見出しで分析したように、異なる産業間(異業種の企業間)では、生産要素は市場を通じてパレート効率的な配分が実現します。
農業
工業で人が余っていたみたいで、農業で働きたい人がいたから助かった。
工業
人件費が浮いたし、新しい設備を購入できるな。
という感じで「市場を通じて、農業-工業間(異業種の企業間)に生産要素が効率的に配分される」のが先程までの話です。ここからは、この後の話をします。
農業と工業のうち、農業の生産状況を考えます。
- ある農家はお米を育てている
農業内のお米を育てている農家を考えます。
お米を育てるときは、労働力(人手)と資本(土地&機械)を使います。
ポイント
このとき、農家は利潤最大化を目指して労働力・資本を効率的に利用することでお米の生産を行います。
つまり
この農家も利潤最大化条件(P=MC)を満たすと考える。ここで、利潤最大化条件は下記のように表記できることを思い出します。
- 労働の限界生産力(MPL)=w/P
- 資本の限界生産力(MPK)=r/P
完全競争・利潤最大化の「②数式で考える」の「限界生産力・要素価格との関係」を参照してください。
例えば
- お米「1グラム=100円」
- 賃金「1時間=1000円」
このとき1時間の労働で、お米をどれくらい生産できるのかが労働の限界生産力(MPL)です。
「労働の限界生産力(MPL)=1000円(w)/100円(P)=10」となるので、1時間当たりの労働でお米10グラムを獲得できなければ非効率となります。
ここで注目
お米の値段(P)も賃金率(w)も、だいたい相場が決まっている
ふつうのアルバイトなら時給1000円前後ですし、お米1袋数千円程度です。
異業種の自動車産業なら、期間工の月収は数十万円、車1台数百万円が相場です。
さきほどの
- お米「1グラム=100円」
- 賃金「1時間=1000円」
が相場だと考えると、お米農家の「労働の限界生産力(MPL)」を考えるとき、お米農家みんなが「1000(w)/100円(P)」に影響を受けることが分かります。
ポイント
つまり、お米農家が利潤最大化を目指すとき、その業界の相場に影響を受けるため「労働の限界生産力(MPL)=1000円(w)/100円(P)=10」に落ち着く。
以上より
- 同じ産業内でも企業は利潤最大化を目指すため「限界生産力(MP)=要素価格(w・r)/価格P」が満たされる
- よって、同じ産業内(企業間)では、限界生産力(MP)が一致する※
※例えば、お米を育てる農家がa・b・cの3人がいれば「MPa=MPb=MPc」となる。
生産物と消費者間の整合性
ポイント
完全競争市場では、消費者側と生産者側の資源配分がパレート効率的な状態のまま両者の整合性がとれるのか(需要と供給が一致しているのか)を考える。
①消費者側がパレート効率的な資源配分を実現しているとき
- Aさんの限界代替率(MRS)=Bさんの限界代替率(MRS)=予算制約線の傾き(Px/Py)
②生産者側がパレート効率的な資源配分を実現しているとき
- 企業Aの技術的限界代替率(MRTS)=企業Bの技術的限界代替率(MRTS)=等費用線の傾き(w/r)
- 限界変形率(MRT)=「MPb/MPa」=「MCa/MCb」=「Px/Py」
- 限界生産力(MP)=要素価格(w・r)/価格P
- (消費者)Aさんの限界代替率(MRS)=Bさんの限界代替率(MRS)=予算制約線の傾き(Px/Py)
- (生産者)限界変形率(MRT)=「MPb/MPa」=「MCa/MCb」=「Px/Py」
思い出す⇒「Px=X財の価格」「Py=Y財の価格」
グラフで確認すると‥
消費者と生産者がパレート効率的な資源配分を実現しているときの、エッジワース・ボックス(左のグラフ)と生産可能性曲線(右のグラフ)です。
ここで
企業がX財100個・Y財100個を生産して、市場を通して消費者の手元へ届くとします。
そのときの様子をグラフで表すと‥
さきほどの2つのグラフが1つにまとまりました(消費者のエッジワース・ボックスが、生産者の生産可能性曲線の中にすっぽりと納まります)。
このとき、消費者がパレート効率的な資源配分を実現しており、また、生産者もパレート効率的な資源配分を実現していると仮定すると「2人の消費者の限界代替率(MRS)」と「生産者の限界変形率(MRT)」が一致していることが分かります。
たしかに、2つの傾きが一致していれば効率的に見えますが、実際問題として、これで整合性が取れているのか(需要と供給が一致しているのか)?を少し補足します。
補足
- まず、「2人の消費者の限界代替率(MRS)」と「生産者の限界変形率(MRT)」が一致していればパレート効率的になります。
- 次に、消費者・生産者が自由な経済活動(消費・生産)を行うと、この条件を満たすのか(矛盾が生じないか)?を考えます
注目するのは「2財の価格(Px・Py)」です。
まずは、消費者側で考えてみましょう。
消費者2人の限界代替率(MRS)は、予算制約線の傾き(Px/Py)と同じになります。つまり、消費者の好み(2財をどのように消費するのか)は、X財・Y財の価格に影響を受けることが分かります。
ここで、財の価格は、全体の需要量や原材料費など様々な要因を受けて決定されるため、消費者が自由に決めるものではありません(消費者は市場で決まった価格を受け入れる・消費者はプライステイカー)。
⇒以上より、完全競争市場で消費者が効用最大化を目指すとき、2人の消費者の限界代替率(MRS)が一致するポイントまで財の交換(売買)が行われる。同時に、2人の消費者の限界代替率(MRS)は市場価格(Px・Py)に影響を受ける。
次に、生産者側で考えてみましょう。
各企業の限界変形率(MRT)は、財の価格比(Px/Py)と同じになります。つまり、各企業がどれくらい商品を製造するか(2財をどれくらいの量で生産するのか)は、X財・Y財の価格に影響を受けることが分かります。
ここで、財の価格は、全体の需要量や原材料費など様々な要因を受けて決定されるため、生産者が自由に決めるものではありません(生産者は市場で決まった価格を受け入れる・生産者はプライステイカー)。
⇒以上より、完全競争市場で生産者が費用最小化・利潤最大化を目指すとき、各企業の限界変形率(MRT)が一致するポイントで2財の生産が行われる。同時に、各企業の限界変形率(MRT)は市場価格(Px・Py)に影響を受ける。
ポイント
消費者・生産者ともに、財の価格(Px・Py)は市場価格を受けいれている。
以上より
完全競争市場で消費者・生産者が自由な経済活動(消費・生産)を行うと、消費者・生産者ともに市場価格(Px・Py)を受け入れる。
このとき、市場価格(Px・Py)により以下の2つが定まる。
- 2人の消費者の限界代替率(MRS)=Px/Py(予算制約線の傾き)
- 生産者の限界変形率(MRT)=Px/Py(2財の価格)
つまり、「2人の消費者の限界代替率(MRS)」と「生産者の限界変形率(MRT)」が一致するという条件は、消費者・生産者が市場で取引をする限り、市場価格(Px・Py)を通じて自然と満たされる(なぜなら、両者は市場で決まった価格を受け入れることしかできず、「Px/Py」という同じ値を受け入れることになるため)。
数式で見ると
- MRS=Px/Py=MRT
消費者・生産者は市場価格を受け入れるため、完全競争市場では、上記の式が市場を通じて満たされることになる。
ちなみに‥
各生産者が「合計でX財100個・Y財100個」生産して、2人の消費者が「合計でX財10個・Y財10個」消費しても「2人の消費者の限界代替率(MRS)」と「生産者の限界変形率(MRT)」が一致するから、この条件を満たしても必ず整合性がある(需要と供給が一致する)ことにはならないのでは?と思った人もいるかもしれません。
グラフはこんなイメージ
消費者のグラフを1/10にしてしまえば、傾きは変えずに、全体のパイが小さくなったと考えることが出来る。
たしかに傾きは変わっていませんが、この状態は引き起こりません。
そもそも
2企業・2消費者の生産経済を考えていることを思いだす。
ポイント
2企業・2消費者の生産経済では、消費者の2人が企業へ労働力・資本を提供しています。
現実世界を考えると分かりますが「消費者=労働者」でもあります。つまり、企業が生産を行うために必要な労働力は2人の消費者が提供しています。さらに、2企業へは2人の消費者が資本提供しており株主となっています。
ここで、あることに気がつきます
消費者
製品をたくさん作っても自分たちで消費しきれないし、そんなに働かずに、出資している金額も小さくしても良いのでは‥?
ということで
最終的に、グラフのように数量的な需給は一致するはずです。
完全競争市場のパレート効率性(まとめ)
完全競争市場で自由な経済活動を行ったときの資源配分(市場均衡)がパレート効率的となるのか?を考えてきました。結果としては「パレート効率的になる」のですが、考え方をまとめていきます。
ポイント
完全競争市場がパレート効率的だと判断するためには、4つの前提を満たしているかを確認します。
①消費者間の資源配分が効率的か
〈条件①〉MRSa=MRSb
完全競争市場がパレート効率的なら、各消費者の限界代替率(MRS)が一致します。
〈結果〉MRSa=MRSb=Px/Py
エッジワース・ボックスの分析等から上記の式が導き出されるためパレート効率になる。
②産業間(異業種間)の生産要素の配分が効率的か
〈条件②〉MRTSa=MRTSb
完全競争市場がパレート効率的なら、各生産者の技術的限界代替率(MRTS)が一致します。
〈結果〉MRTSa=MRTSb=w/r
エッジワース・ボックスの分析等から上記の式が導き出されるためパレート効率になる。
③同一産業内の生産要素の配分が効率的か
〈条件③〉各企業の限界生産力(MP)の一致
完全競争市場がパレート効率的なら、同じ業種内では各生産者の生産性は一致します。
〈結果〉限界生産力(MP)=要素価格(w・r)/価格P
利潤最大化条件などから上記の式が導き出されるためパレート効率になる。
④生産物と消費者間の整合性が取れるか
〈条件④〉MRS=MRT
完全競争市場がパレート効率的なら、消費者の限界代替率(MRS)と生産の限界変形率(MRT)が一致します。
〈結果〉MRS=Px/Py=MRT
エッジワース・ボックスや生産可能性曲線などから上記の式が導き出されるためパレート効率になる。
以上より、完全競争市場によって実現した資源配分(市場均衡)はパレート効率的になる。これを厚生経済学の第一基本定理と呼びます。
よく「経済活動は自由に行うべきだ」的な論調の根拠は、この分析の結果から来ています。見ての通り、完全競争市場で自由に経済活動を行えばパレート効率的になります。
ただし
現実の世界では、話はそう簡単ではありません。いわゆる「市場の失敗(外部性・情報の非対称性・公共財などの存在)」があるため、完全競争が必ず実現できるわけではないのです。
そして、格差の問題もあります。エッジワース・ボックスの分析から分かる通り、完全競争市場ではパレート効率的になりますが、あくまで初期保有量に依存した効率性となるため、格差の問題(公平性)は無視されています。
完全競争市場による市場均衡が効率的なのか?というのは、大きめのトピックなのでボリュームが多くなりました。でも、今いる世界(自由経済)が肯定されている根拠になるので、しっかりと理解したいところです。