企業が生産活動をする上で重要となる「費用最小化」
- 費用最小化とは
- 費用最小化の求め方
- 費用最小化化条件・計算方法
- 費用最小化問題の解き方
最小費用を求める問題の意味が分からない人、解き方が分からなくなる人に向けて、簡単にまとめています。
費用最小化とは?
費用最小化とは
企業が一定の生産量を維持するとき、費用が最小化する生産要素の組合わせを費用最小化という。その費用最小化を求める問題を「費用最小化問題」と呼ぶ。
※問題を解くとき、等費用線に接する等量曲線上の生産要素の組合わせ(=点)を求めるため、費用最小化点と表現されことがあります。
ポイント
ミクロ経済学では、企業が生産活動を行うなかで、生産に関わる費用は最小化させようと行動すると考えています。
この分野では
- 「生産関数」
- 「等量曲線」
- 「等費用線」
などが出てきましたが、これらを使って企業がどのように支出(費用)を決定しているかを理解するのが目標です。
費用最小化の求め方
費用最小化を求める際に重要となる「考え方」「計算式」「計算方法」を順番に見ていきましょう。
考え方
① 企業がある一定の生産を行うとする。その生産量を実現させる生産要素の組合わせは「等量曲線」で表されているため「等量曲線上」で費用の最小化が実現する。
② 生産要素のコストは「等費用線」で表されるため「等費用線」=「等量曲線」となる部分で費用が決まる。
③ このとき、数学的に考えると等費用線と等量曲線の傾きが等しい。
④ 等量曲線の傾きは技術的限界代替率なので「等費用線=技術的限界代替率」となる。
ポイント
費用最小化を求める時は「等費用線=技術的限界代替率」となる生産要素の組合わせを求める。
確認しよう!
グラフで見ると
式で考える(費用最小化条件)
①等費用線
等費用線の式
「C=rK+wL」⇒ 傾き「-(w/r)」
※等費用線の傾きは、2つの生産要素の価格比(要素価格比)になっている。
②技術的限界代替率
技術的限界代替率
技術的限界代替率(MRTS)=「-(ΔK/ΔL)」
③限界生産力
2つの限界生産力との比
技術的限界代替率(MRTS)=「-(ΔK/ΔL)」=「MPL/MPK」
技術的限界代替率は、2つの生産要素の限界生産力(MP)の比になっている。
3つをまとめると
費用最小化点
「-(w/r)」=「-(ΔK/ΔL)」=「MPL/MPK」が成り立つ。
「生産要素の価格比(要素価格比)=技術的限界代替率=2つの限界生産力の比」
※これを「費用最小化条件」と呼ぶこともある。
確認する
等費用線の傾きが「-(w/r)」になる理由が分からない人
⇒【等費用線】式の意味・傾きと生産要素の価格比との関係
技術的限界代替率「-(ΔK/ΔL)」=「MPL/MPK」が分からない人
⇒【技術的限界代替率・技術的限界代替率の逓減の法則】意味や計算方法・求め方
計算方法
費用最小化点
「-(w/r)」=「-(ΔK/ΔL)」=「MPL/MPK」が成り立つ。
「生産要素の価格比(要素価格比)=技術的限界代替率=2つの限界生産力の比」
計算問題は「費用最小化点では上の式が成立する」ことを使って解いていきます。
よくあるパターン
- 費用が最小化する最適投入量を求める
- ○○単位の生産を行う時の最小費用を求める
パターンとしては「①最小費用が実現する資本量(K)・労働量(L)を求める」「②そこから費用がいくらになるか求める」のどちらかです。
例題
次の条件のとき、費用最小化が実現する「①生産要素の投入量」と「②最終的な費用額」を求める。
- 生産関数「Y(K,L)= K・L」
- 製品の生産量=300
- 資本のレンタル料(r)=20
- 賃金(w)=60
step
1生産関数に生産量を入れる
- 「生産量(Y)=300=K・L」⇒「300=KL」
「生産関数=Y(K, L)=K・L」は「Y=KL」という意味です。Yは生産量を意味しているので「生産量(Y)=300」
step
2技術的限界代替率(MRTS)を求める
- 生産関数(等量曲線)から「傾き=技術的限界代替率」を求めます。
ポイント
生産関数(等量曲線)を微分すれば「傾き」が求められます。
傾きを求めるために微分をする理由
- 生産関数(等量曲線)は緩やかなカーブを描いているため、普通の計算では傾きを求めることは出来ません。
そのため、生産関数(等量曲線)上に、ある特定の点に接線を引いて「接線の傾き」を求めます。微分は文字通り、グラフを細かく分けて1つの点として処理する方法なので、微分をすることで生産関数(等量曲線)の傾きを求められます。
今から求めるのはコレ
なので
「生産関数:Y=KL」を微分して傾きを求めます。
改めてですが「生産関数=Y(K, L)=K・L」は「Y=KL」という意味です。
計算方法
生産関数を「K(縦軸)=●●」の形にする
- 「Y=KL」から「K=Y/L」とする
「K=Y/L」を微分します。
注意ポイント
「1/L」を微分するときは注意です。通常の微分の通りに計算すると「1/1」などと計算してしまう人がいます。
「1/L」は微分すると「-(1/Lの2乗)」となります。
分数は「Lの-1乗」と表記されるため「-1」を手間に持ってきて乗数を1減らします。「-(Lの-2乗)」⇒「-(1/Lの2乗)」となります。
- 話を戻して「K=Y/L」を微分します。
「K=Y/L」⇒「-(Y/Lの2乗)(=-(Y・Lの-2乗))」となります。
ここで
「Y」という文字が邪魔なので、Yを「KとL」に置き換えます。
「Y=KL」を「-(Y/Lの2乗)」に代入します。
「Y(=KL)/Lの2乗」⇒「-(KL/Lの2乗)」=「-(K/L)」
グラフのまさにコレを求めたことになる
step
3「等費用線の傾き」を求める
- 資本のレンタル料(r)=20
- 賃金(w)=60
という情報から「等費用線(C)=20K+60L」となる。
等費用線の傾きは「要素価格比」とも表現されます。
今から求めるのはコレ
「-(w/r)」なので「-(60/20)」
念のため計算すると‥
等費用線も「K(縦軸)=●●」の形に変形します。
計算すると
- C=20K+60L
- 20K=-60L+C
- K=-(60/20)L+(C/20)
傾きは「-(60/20)」
step
4「等費用線の傾き=技術的限界代替率」で投入量を求める
- 等費用線の傾き「-(60/20)」
- 技術的限界代替率「-(K/L)」
今はこの状態
「-(60/20)」=「-(K/L)」
「-3」=「-(K/L)」
① 両辺にLを掛ける
K=3L
最後に
- 生産関数「300=KL」に「K=3L」を代入します
300=3L・L
300=3・(Lの2乗)
100=(Lの2乗)
L=√100=10
- 今度は生産関数にL=10を代入して計算します
300=K×10 =10K
K=30
したがって費用最小化が実現するときの資本(K)投入量は「K=30」、労働(L)の投入量「L=10」※(K, L)=(30, 10)とも表記できる。
step
5等費用線に「K=30・L=10」を代入して費用額を求める
- 資本のレンタル料(r)=20
- 賃金(w)=60
という情報から「等費用線(C)=20K+60L」なので
C=(20×30)+(60×10)
C=600+600
C=600
最小費用は600となる。
ちなみに
費用最小化を求める問題は、他にも解法パターンがあるので最後に紹介していきます。
費用最小化問題の解法パターン
有名な解法を4つ紹介します。
順番に見ていきましょう!
等費用線・技術的限界代替率を使った解法
オーソドックスな解き方です。
「等費用線の傾き(要素価格比)」=「技術的限界代替率」という関係を使って計算します。
上で例題を解いた時の手順です。
戻って確認してみる
⇒確認する
生産関数の代入法
この方法は、生産関数(Y)を等費用線に直接代入して計算する方法です。
先ほどの例をもとに計算をしてみます。
- 生産関数「Y(K,L)= K・L」
- 製品の生産量=300
- 資本のレンタル料(r)=20
- 賃金(w)=60
※等費用線(C)=20K+60L
生産関数を「K(縦軸)=」の形にする
- Y=KL
- K=Y/L
「製品の生産量(Y)=300」より「K=300/L」
ポイント
この式を等費用線の式「C=20K+60L」に代入します。
C=20K+60L
C=20(300/L)+60L
C=6000/L+60L
この式では「K」がなくなり、生産要素が「L」だけになります。
ポイント
この式では、生産要素が1つの状態として計算できるので、そのまま「労働の限界生産力を使って費用が最小化する投入量」を求めれば良いことになります。
ちなみに
「費用が最小化する2つの生産要素の組合わせ」を求めるのに、どうして限界生産力が登場するのか?と疑問に思った人のために、簡単に補足です。
ポイント
限界生産力は、労働力(L)を追加で投入したときの生産量の増加分です。
決められた生産量を実現させるとき、労働を追加投入しても、それ以上は生産量が増えないライン(限界生産力=0)になるまで労働を投入することが出来ます。
※ここで、生産関数(生産量)に関する情報を等費用線に代入しました。等費用線へ代入しているので、あくまで費用の範囲内で上記の条件を満たす労働の投入量が求まります。
労働を追加投入しても、それ以上は生産量が増えなければ、後は資本量を増やすことになるので、この時点で労働の投入量は一番効率化されています。
つまり
- 限界生産力を求めるため、Lで微分
- 更に「=0」とします
C=6000/L+60L
⇒「-(6000/Lの2乗)+60=0」
限界生産力を求めるときに微分する意味などが分からない人はこちらで確認⇒【限界生産力・限界生産力逓減の法則】求め方・収穫逓減は当てはまらない?
計算すると
- -(6000/Lの2乗)+60=0
両辺に(Lの2乗)を掛ける
-(6000/Lの2乗)+60=0
60・(Lの2乗)=6000
(Lの2乗)=100
L=√100
L=10
次に「L=10」を生産関数に代入します。
Y=300=KL
K=300/L
K=30
したがって費用最小化点は「K=30・L=10」※(K, L)=(30, 10)とも表記できる。
次に
- 等費用線「C=20K+60L」に「K=30・L=10」を代入
C=(20×30)+(60×10)
C=600+600
C=600
最小費用は600となる。
加重限界生産力均等の法則
この方法は、よく試験問題を解くときに使われることが多い印象です。
ポイント
費用が最小化するとき、2つの生産要素の組合わせでは「2つの生産要素の1円当たりの限界生産力が一致する性質」を使って問題を解いていきます。
数学的に解いていくため簡単に解くことが出来ますが、この法則をちゃんと理解できない人も多いです。(費用最小化問題は、数学的には数理計画問題に該当しており、線形計画法で解くことが出来る。)
消費者行動の「加重限界効用均等の法則」と同じです。
- 効用関数⇒生産関数
- 予算制約線⇒等費用線
- 限界効用⇒限界生産力
などと読み替えて参照してください。
詳しくはこちら
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与えられた条件からラグランジュ関数を作って解く方法です。
ポイント
ラグランジュ未定乗数法は、「制約条件がある関数」の極値を求めることが出来る計算方法のことです。
費用最小化の問題は、まさに「制約条件がある関数の極値」を求めていることになるので応用されます。
消費者行動の「効用最大化問題」を解くときと理屈は同じです。
- 効用関数⇒生産関数
- 予算制約線⇒等費用線
- 限界効用⇒限界生産力
などと読み替えて参照してください。
詳しくはこちら
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