外部要因によって、消費者の需要曲線を変化させることを「需要曲線のシフト」と言います。
- 需要曲線のシフトとは?
- 所得変化
- 代替財の価格変化
- 補完財の価格変化
- 消費者の嗜好の変化
- 技術革新
- 人口の変化
- 気候・災害・事件
需要曲線がシフトする要因を、例を交えてまとめています。
需要曲線のシフトとは?
需要曲線のシフト
需要曲線が、何らかの要因によって移動(シフト)すること。
需要曲線がシフトする要因は様々ですが、注意点があります。
注意
- その財の価格が変化する
- その財の消費量が変化する
この2つは、需要曲線上の変化なので、需要曲線がシフトすることにはなりません。
需要曲線は、価格と消費量(需要量)の対応関係を表しています。つまり、対象となる財の「価格の変化」と「消費量の変化」だけの話なら、需要曲線上の動きだけで完結します。
ポイント
需要曲線のシフトは、外部要因の変化によって引き起こる。
需要曲線がシフトする例は大きく次の通りです。
- 所得の変化
- 別の財(代替財)の価格が変化
- 別の財(補完財)の価格が変化
- 消費者の嗜好が変化
- 技術革新
- 人口変化
- 天候・災害・事件など
それでは早速、需要曲線がシフトする例を見ていきましょう!
所得が変化した場合
消費者の所得が変化すると、消費量に影響を及すため、需要曲線がシフトする要因となります。
消費者の所得が・・
所得が増えれば、下級財を除いて需要量が増えます。
そのため、それに合わせて需要曲線が右側・上側にシフトします。
グラフで確認
右にシフト、上にシフトで「所得増加⇒需要増加」が表現できる。
厳密に分析すると「右にシフト」「上にシフト」は異なるかもしれませんが、一般的なミクロ経済学でそのようなことを考慮することはないので、あわせて「右上にシフト」で構いません。
日本では、所得が増えるなんて話はイメージできないかもしれません。しかし、身近な話に置き換えることも可能です。
給与日
日本の会社は、給料日を25日と設定しているところが多いです。(もちろん15日や月末もありますが、あくまで割合的に25日が多い程度の話です。)
特に25日が多いため、25日~31日の金曜日は、飲み屋の需要が増加していると考えることが出来ます。
そのため
日本では25日の給料日後に「居酒屋の需要曲線が右上にシフトしている」と言えます。
実際にデータを取ったわけではないので、外れているかもしれないので注意してください。
代替財の価格が変化した場合
他の財の価格変化の影響(外部要因)を受けることで、需要曲線がシフトすることがあります。
代替財の価格が・・
例えば
バターとマーガリン
食パンに塗るのは、バターかマーガリンのどちらか1つで十分です。
バターとマーガリンのように、どちらか1つを消費すれば、もう片方は必要ない。逆に、片方の財が消費できなくなったら、もう片方の財で代替できる商品を「代替財」と言います。
ここでは、マーガリンに焦点を当てて考えてみましょう。
いま、TPP(環太平洋連携協定)によって、安いバターが輸入できるようになったとします。すると国内のバターの価格が安くなっていきます。
このとき
代替財であるマーガリンは、マーガリン自体に価格変動が無くても、バターの価格変動の影響(外部要因)を受けて、需要が減ります。
マーガリンはバターの代替財なので、バターが安くなれば、マーガリンよりもバターを使う人が増えます。先ほど言ったように、バターとマーガリンは、どちらか1つあれば十分なので、バターが使われる分、マーガリンは消費量が減ります。
つまり
バターの価格下落は、マーガリンの需要曲線を左下にシフトさせます。
補完財の価格が変化した場合
代替財と同じように、補完財と言われるようなものでも需要曲線がシフトすることがあります。
補完財の価格が・・
例えば
いま、自動車の価格が上昇しているとします。このとき、車に使うタイヤの需要曲線を考えてみましょう。
車のタイヤは、自動車がないと必要ありません。逆に、自動車もタイヤがないと道路を走れません。
このように、2つは別の商品なのに、両方ないと機能しないような財を「補完財」と言います。よく「左足の靴」「右足の靴」が補完財の例として挙げられます。片方ないと使い物になりません。
価格が上昇すれば、車の購入量は落ちるので、タイヤの需要もその分だけ減っていきます。
つまり
自動車の価格上昇によって、タイヤの需要曲線が左下にシフトしたと言えます。
消費者の嗜好が変化した場合
消費者の好みが変わった時にも、需要曲線がシフトする原因となります。
例えば
「○○ブーム」
ここでは、朝食バナナダイエットが流行ったときを考えてみましょう。
テレビで「朝食にバナナを食べるとダイエットになる!」という番組がやっていて、それに影響を受けた消費者が「朝にバナナを食べたい」と思うようになります(=消費者の嗜好の変化)。
すると、バナナの価格などは、何も変わっていないのに、テレビで番組を見た人たち(外部要因)のバナナ需要が突発的に生まれます。
朝食バナナダイエットが流行ったときは、バナナの需要が増加するので、需要曲線が右上にシフトする要因となります。
技術革新が進んだ場合
技術革新により新しい製品が主流となり、旧型の製品の需要曲線がシフトします。
例えば
2007年6月29日、アップルからiPhoneが発売されました。
iPhoneが発売されてから1年、2年と経過していく中で、パカパカする折り畳み式の携帯(ガラパゴス携帯)は姿を消していきます。
つまり
スマートフォンの登場で、折り畳み式の携帯電話の需要曲線は、どんどん左下にシフトしていった事になります。
携帯電話市場以外でも
- 白黒テレビ→カラーテレビ→薄型
- ガソリン車→ハイブリッド車
- 紙の書籍→電子書籍
技術進化により、古い時代の商品やサービスの需要曲線は左下へシフトしていきます。特に、インターネットの登場により、その流れは顕著になっています。
人口が変化した場合
人口が変化すれば、市場全体の消費者数が変化するので需要曲線がシフトします。
例えば
今後、日本の人口は減少し続ける。
耳に胼胝ができるくらい聞いている話です。人口が減っている国内市場では、大半の商品やサービスの需要が減少することになります。
これは、日本の人口減少により「(あらゆる)需要曲線が左下へシフトしている(現在進行形)」と言えます。
一方で
高齢化が進むことで、高齢者向けの市場は拡大する可能性があります。高齢者の人口増により「需要曲線が右上にシフトしている(現在進行形)」という市場もあるはずです。
『我が国における総人口の長期的推移(総務省)より』
なんだかんだで、後20年~30年は1億人前後の人口をキープします。
一気に人が減るのが2050年~2100年の間です。2100年には、5,000万人を下回っているという予想なので、この50年間は、10年で1,000万人ずつ日本の人口が減少していきます。こうした急激な人口減少は、日本国内の需要曲線を(一気に)左下へシフトさせる要因となります。
天候・災害・事件など
天候・災害・事件などの影響により、需要曲線がシフトすることもあります。
例えば
春夏秋冬で、需要が変化します。夏に清涼飲料水の需要が増える。寒い日が続くと、冬物の服の需要が増える。
気温の変化は、需要曲線をシフトさせる要因となります。
夏の暑い日(暑すぎない程度に)は、飲み物・アイスの需要が増加するので「需要曲線は右上にシフトしていく」と言えます。
ただし、これが暑すぎて外にも出られないような状況になると「需要曲線が左下にシフトしていきます」。外に出て買い物するという気力さえなくなってしまいます。
「酷暑が続いて売上が下がり始めた」という話は、経済ニュースなどに登場することがあります。
ちなみに
台風で、農作物がだめになって、野菜の価格が上がったので・・と考える時は注意が必要です。
「台風の被害で、野菜の価格が上がった」というのは供給側の話なので、需要曲線に直接影響を与えてはいません。なので「供給曲線のシフト」にという方が正確です。
他には
災害の場合は、台風の被害にあった地域では、軍手や工具の需要が増加します。(後片付けをするために必要なモノ)
これも「需要曲線が右上にシフトしている」と言えます。
申し訳ないのですが、これも調べたことがないので、実際にどうなっているかは分かりません。
事件と需要曲線の話で有名なのは「2001年9月11日 アメリカの同時多発テロ事件」です。
テロ事件後に、飛行機に乗るのを避け始めて、需要が一気に減ったという話があります。つまり、テロ事件の影響で「(航空券の)需要曲線が左下へシフトした」と言えます。