グラフの見方が分かりづらい「エッジワース・ボックス」についてまとめています。
- エッジワース・ボックスとは?
- エッジワース・ボックスの前提など
- エッジワース・ボックスのグラフの見方
- 予算線・限界代替率・初期保有との関係
- エッジワース・ボックスの計算方法
メモ
関連する契約曲線・オファー曲線は別記事でまとめています。
エッジワースのボックスダイアグラムとは?
(Wikipediaより・フランシス・イシドロ・エッジワース)
エッジワース・ボックス
複数の無差別曲線を1つの枠内に描き、どのような資源配分を行うとパレート効率的な状況を達成できるかを考察するための図。枠内(ボックス)内で、各々の効用水準やパレート効率的な状態を描いていくことが出来るため、提唱した経済学者の名前からエッジワース・ボックス・ダイアグラム(※)と呼ばれる。
※エッジワースの箱・エッジワースボックス(エッジワース・ボックス)などと言うことがある。
エッジワース・ボックスのグラフを見る前に、前提となる考え方を知っておきましょう。
前提①
- 交換経済(純粋交換経済)
エッジワース・ボックスでは、財は生産されずに、消費者が保有しているものを交換する、もしくは存在する財の総量が一定になっていることが前提となっている。
前提②
- 2人2財
エッジワース・ボックスでは、消費者は2人で、消費される財は2種類と仮定しています。
現実の経済を考える時に、たくさんの消費者とたくさんの財を考える必要があります
ここで、「複数人・複数財の経済」という条件を満たす最小の単位が「2人・2財」です。つまり、現実の経済状態を極限までに縮小したモデルが「2人・2財」というわけです。
また、現実世界では生産者が登場しますが、ここで消費者だけに焦点を当てることで資源配分が最適に行われる(パレート効率性が実現する)過程を考えることが出来ます。
もちろん、最終的には生産者と消費者の関係をまとめていく必要がありますが、ここでは資源配分に注目していると考えてください。
グラフの見方
step
12つの無差別曲線の合体
- エッジワース・ボックスは2つの無差別曲線を合体させていることを理解する
片方の無差別曲線を反転させます。
反転させたら、2つの無差別曲線を1つにまとめます。
- 縦軸=「Y財の消費量」
- 横軸=「X財の消費量」
- Aさんの無差別曲線は右上に行くほど効用が高くなります
- Bさんの無差別曲線は左下に行くほど効用が高くなります
Bさんの無差別曲線が左下に行くほど効用が高くなるのは反転させて合体したからです。通常の無差別曲線は右上に行くほど効用が高くなります。
step
2具体的な数字でグラフを見る
①エッジワースボックスの横の長さ
ボックスの横の長さはX財の総量を表す。ここではX財の総量を15とする。
また、少し難しく書くと「X財の総量」=「AさんのX財の保有量(消費量)+BさんのX財の保有量(消費量)」となる
②エッジワースボックスの縦の長さ
ボックスの縦の長さはY財の総量を表す。ここではY財の総量を10とする。
また、少し難しく書くと「Y財の総量」=「AさんのY財の保有量(消費量)+BさんのY財の保有量(消費量)」となる
例えば
- Aさん「X財=9・Y財=4」
- Bさん「X財=6・Y財=6」
2人が2財をこのように保有していた場合のエッジワースボックスは‥?
無差別曲線を追記してみると‥
step
3パレート効率的
実は、先ほどのAさん・Bさんの財の配分は非効率です。
ポイント
無差別曲線は同じ曲線上なら同じ効用水準となることを思い出す。
Bさんの無差別曲線を固定した場合を考えます。
このとき、Aさんの無差別曲線をより右上へ移動させると、Bさんの効用水準を維持したまま、Aさんの効用水準を高めることが出来ます。
最初に書いたとおり、無差別曲線は右上に位置する方が効用水準が高くなります
最初の点より「点A」の方がAさんの効用水準が高いです
ここで、Bさんの効用水準を変えずに、Aさんの効用水準を高めることが出来たためパレート改善したことが分かります(参考:パレート効率性)
具体的な数字で見ると
- Aさん「X財=9・Y財=4」
- Bさん「X財=6・Y財=6」
だった財の配分を
- Aさん「X財=8・Y財=5」
- Bさん「X財=7・Y財=5」
という風に変更しました。交換経済なのでAさんとBさんで財を交換したとイメージしてください。
ポイント
これ以上はパレート改善できないため、この状態がパレート効率的となります。
ポイント
- 2つの無差別曲線が接するような状態
2つの無差別曲線がグラフのように接するときにパレート効率的となる(例外あり)。
逆に・・
上記のグラフのような交わり方だと非効率です。さきほどの例のように、Bさんの無差別曲線を固定して(=効用水準を変えずに)Aさんの無差別曲線を右上に移動させることで、Aさんの効用水準を高めることが出来るためです。
予算制約線と限界代替率
ここからはエッジワー・スボックスと予算制約線や限界代替率(MRS)との関係を見ていきます。
はじめに
通常の無差別曲線を思い出す
ポイント
消費者が合理的に行動するとき、無差別曲線と予算制約線が接した点が最適消費点(効用最大化)となります。
このように、消費者が効用最大化を目指して行動することを考えれば、エッジワース・ボックスの無差別曲線も上記のグラフと同じように予算制約線が描けます。
ここで重要①
グラフの見方で説明した通り、エッジワース・ボックスでパレート効率的となるとき、2つの無差別曲線は次のようなグラフとなります。
つまり・・
グラフで考えればどちらの無差別曲線も予算制約線に触れているはずです。
ここで重要②
グラフを見れば分かる通り、同じ直線(予算制約線)なので傾きが同じになります。
上側の傾きと下側の傾きは同じです(平行線の錯角は等しい←小学校位で習うやつ)。
ちなみに
予算制約線の傾きは「相対価格」と呼ばれるように2財の価格比で表せます。
- X財の価格=Px
- Y財の価格=Py
とするとき、予算制約線の傾き(相対価格)は「Px/Py」となります。←この関係は計算問題で必要になることがあるので復習しましょう(予算制約線)
さらに「予算制約線の傾き」は「限界代替率(MRS)」と同じです
以上より
- パレート効率的ならば、エッジワース・ボックス内の2つの無差別曲線の限界代替率(MRS)は一致する
この話は厚生経済学の第一基本定理と関係しています。
「予算制約線の傾き(相対価格)と限界代替率が等しい」というのは、消費者理論の最適消費点を求めるときに登場する話です。
この部分まで理解していないと、エッジワース・ボックス内での話が理解できなくなるので、予算制約線・限界代替率・最適消費点の関係をしっかりと理解しましょう。
ちなみに、エッジワース・ボックスの計算問題では、予算制約線や限界代替率が等しいという関係を使って計算を進めるので、問題を解く必要がある人は学習が必要です。
まとめ
エッジワース・ボックス内でパレート効率的な状態では、次の3つが等しくなる。
- 予算制約線の傾き(Px/Py)
- Aさんの限界代替率(MRS)
- Bさんの限界代替率(MRS)
予算制約線と初期保有点
初期保有点
エッジワース・ボックスで、最初の資源配分を表した点のこと。
※初期保有を初期賦存(ふぞん)と呼ぶこともあるので「初期賦存点」や「初期賦存量」という単語で登場することもあります。
例えば
- Aさん「X財=9・Y財=4」
- Bさん「X財=6・Y財=6」
2人が2財をこのように保有していたとき‥と冒頭で上記のような説明をしましたが、この最初の資源配分の状態を初期保有(初期賦存)と呼びます。
エッジワース・ボックスでは、財の交換を通じて「初期保有の状態」から「パレート効率的な状態」が実現する過程をグラフ化しています。なので、初期保有点を分析のスタート地点と捉えると分かりやすいかもしれません。
ポイント
予算制約線は、初期保有点を通る。
グラフで見ると
初期保有点を通過するように予算制約線が描かれる。
理由
途中で説明した通り、エッジワース・ボックス内でパレート効率的な状態が実現するとき「予算制約線の傾き」と「限界代替率」が等しいです。
ここで、限界代替率が2財の交換比率ということを思い出します。
例えば
Aさんが「X財・Y財」なら「Y財」の方が好きだとします。比率にすると、Aさんは「Y財」には「X財2個分」の価値があると考えています。
つまり、X財をY財に交換するとき、Aさんは「Y財を手に入れるためなら、X財を2個を差し出す」ことになります。
グラフで見ると‥
グラフの通り、初期保有点が決まると、それを通過する予算制約線上でしか交換が行われない。
以上より
予算制約線は初期保有点を通るため、パレート効率的な状態は初期保有点に影響を受けることが分かります。
予算制約線は初期保有点を通るため、初期保有点の場所によってパレート効率的が実現するポイントが左右されます。
ここで重要
- 初期保有点を動かすには政府介入などが必要
初期保有点が偏っているため、パレート効率が実現しても2人の効用の大きさには格差が生まれてしまいます。
- Aさんの効用はかなり高い
- Bさんの効用はかなり低い
確認ですが「パレート効率性」は、効率性を考えてはいますが公平性は考慮されていません。
注意ポイント
初期保有点が偏っている場合、自由な交換経済に任せることで効率性は実現できますが、富が偏っているなどの公平性への配慮が行われないことが分かります。
つまり、公平性を考慮するためには、政府などが介入して初期保有点を動かす必要があります。
政府が介入して富の再分配を行うと、自由な交換経済によって再びパレート効率的な状態へと移行しますが、消費者間の大きな格差が無くなることが分かります。
この話は厚生経済学の第二基本定理と関係しています。
計算方法(例題)
いま、2人の消費者(Aさん・Bさん)が2種類の財を保有している。
- AさんはX財20個・Y財80個
- BさんはX財80個・Y財20個
また2人の効用関数は以下の通りである。
- Aさん「U=3xy」
- Bさん「U=2xy」
- Aさん・Bさんの各財の最適消費(需要関数)を求めよ
- 競争均衡における均衡価格はいくらか※
- パレート最適な消費の組み合わせを1つ示せ
※競争均衡とはワルラス均衡を意味します。なので「消費者の効用最大化(生産者の利潤最大化)が実現して、全市場の需要と供給が一致したとき」の均衡価格は?と解釈します。
step
1限界代替率を求める
はじめに2人の限界代替率が知りたいので、問題文で与えられている効用関数(U)から求めます。
ポイント
効用関数(無差別曲線)を微分すれば「傾き(限界代替率)」が求められます。
参考:最適消費点の計算方法
- Aさんの効用関数「U=3xy」より
「y=U/3x」とする
「y=U/3x」を微分すると⇒「U/-3xの2乗(=U・-3xの-2乗)」
ちなみに分数は「(1/2)=2の-1乗」なので注意しましょう。
ここで
「U」という文字が邪魔なので、Uを「xとy」に置き換えます。
「U=3xy」を「U/-3xの2乗」に代入します。
「U(=xy)/-3xの2乗」⇒「3xy/-3xの2乗」=「-(y/x)」
Bさんの限界代替率も同様に求めると「-(y/x)」となります。
以上より
- Aさんの限界代替率=「-(y/x)」
- Bさんの限界代替率=「-(y/x)」
次に最適消費が実現する=パレート効率的な状態(競争均衡)なとき「予算制約線の傾き=限界代替率」が等しいということを思い出します。
- X財の価格=Px
- Y財の価格=Py
とするとき、予算制約線の傾きは「Px/Py」となる。
以上より、Aさん・Bさん共に(Px/Py)=(y/x)
限界代替率は厳密にはマイナスが付きますが、計算上は不要になるので外します。
これを需要関数(需要量を価格の関数で表したもの)の形にします。
- x=(Py/Px)y
- y=(Px/Py)x
step
2最適消費量(需要関数)を求める
予算制約線は「I=xPx+yPy」と表すことが出来ます。
ここで、通常の最適消費(効用最大化)を求めるのと同じように、Aさんは予算上限まで消費を行っていると想定します。
- Aさんの初期保有「X財20個・Y財80個」より
予算制約線を使って「xPx+yPy=20Px+80Py」と表すことが出来ます。
最初の説明でまとめた通り、初期保有点は予算制約線上にあるため上記の式を作ることが出来ます。
それぞれ「x=」「y=」の形に変形します。
- xPx+yPy=20Px+80Py
- xPx=20Px+80Py-yPy
- xPx=20Px+(80-y)Py
- x=20+((80-y)Py)/Px
- xPx+yPy=20Px+80Py
- yPy=20Px+80Py-xPx
- yPy=(20-x)Px+80Py
- y=((20-x)Px)/Py+80
ここから
はじめに下記のように求めたのでイコールで結びます。
- x=(Py/Px)y
- y=(Px/Py)x
「x=(Py/Px)y」
「x=20+((80-y)Py)/Px」より
- (Py/Px)y=20+((80-y)Py)/Px
(両辺にPx/Pyをかける)
- y=20(Px/Py)+80-y
- 2y=20(Px/Py)+80
- y=10(Px/Py)+40
「y=(Px/Py)x」
「y=((20-x)Px)/Py+80」より
- (Px/Py)x=((20-x)Px)/Py+80
(両辺にPy/Pxをかける)
- x=20-x+80(Py/Px)
- 2x=20+80(Py/Px)
- x=10+40(Py/Px)
Bさんも同様に
- Bさんの初期保有「X財80個・Y財20個」より
予算制約線を使って「xPx+yPy=80Px+20Py」と表すことが出来ます。
それぞれ「x=」「y=」の形に変形します。
- xPx+yPy=80Px+20Py
- xPx=80Px+20Py-yPy
- xPx=80Px+(20-y)Py
- x=80+((20-y)Py)/Px
- xPx+yPy=80Px+20Py
- yPy=80Px+20Py-xPx
- yPy=(80-x)Px+20Py
- y=((80-x)Px)/Py+20
「x=(Py/Px)y」
「x=80+((20-y)Py)/Px」より
- (Py/Px)y=80+((20-y)Py)/Px
(両辺にPx/Pyをかける)
- y=80(Px/Py)+20-y
- 2y=80(Px/Py)+20
- y=40(Px/Py)+10
「y=(Px/Py)x」
「y=((80-x)Px)/Py+20」より
- (Px/Py)x=((80-x)Px)/Py+20
(両辺にPy/Pxをかける)
- x=80-x+20(Py/Px)
- 2x=80+20(Py/Px)
- x=40+10(Py/Px)
以上より
Aさんの最適消費量(需要関数)
- x=10+40(Py/Px)
- y=10(Px/Py)+40
Bさんの最適消費量(需要関数)
- x=40+10(Py/Px)
- y=40(Px/Py)+10
step
3価格を求める
市場に存在する2財の総量(供給量)は
Aさんの初期保有「X財20個・Y財80個」
Bさんの初期保有「X財80個・Y財20個」
なので合計でX財=100個・Y財=100となる。
Aさん・Bさんの最適消費量の合計は各100個になるはずなので「(AさんのX財の最適消費量)+(BさんのX財の最適消費量)=100」として価格を求める(Y財も同様)
「X財=100」より
「10+40(Py/Px)」+「40+10(Py/Px)」=100
- 50+50(Py/Px)=100
- 50(Py/Px)=50
- (Py/Px)=1
「Y財=100」より
「10(Px/Py)+40」+「40(Px/Py)+10」=100
- 50(Px/Py)+50=100
- 50(Px/Py)=50
- (Px/Py)=1
上記2つから
(Py/Px)=1
(Px/Py)=1より
均衡価格は「(Px/Py)=1」となる。
この問題の場合は具体的に「Px=~」「Py=~」という答えは出ません。価格比(相対価格)が求められればそれでOKです。ちなみに、上の答えの意味は「価格の比率が1:1となる組み合わせなら何でもOK」です。例えば「Px=500円ならPy=500円」「Px=1,000円ならPy=1,000円」などが考えられます。
また
パレート最適なとき、2人の限界代替率は一致するので
Aさんの限界代替率=y/x
Bさんの限界代替率=y/x
より「(y/x)=(y/x)」でX財・Y財ともに「1:1」の比率になります。それぞれの財の総量は「X財=100個・Y財=100」なので「1:1」で按分すると
X財は「Aさん50・Bさん50」
Y財は「Aさん50・Bさん50」となるため
- Aさん「X財50:Y財50」
- Bさん「X財50:Y財50」
がパレート効率的な財の消費の組合せの1つとなる。