需要曲線が右上がりになる「ギッフェン財」
- ギッフェン財とは?
- ギッフェン財の実例
- じゃがいも飢饉
- 米(コメ)
- ブランド品や株式など
ギッフェン財の経済学上の定義や、具体例を考えていきます。
ギッフェン財(超下級財)とは?
(hetwebsite.net/het/home.htmより・ロバート・ギッフェン)
ギッフェン財とは
価格が上がっているのに、消費量が増加する財のこと(価格が下がっているのに、消費量が下落する財のこと)。
発見者ロバート・ギッフェンの名前にちなむ。ギッフェンのパラドックスとも言う。
定義
- 価格が上昇(下落)したときに、最終的な財の消費量が増加(下落)する
- 下級財である
- 代替効果よりも所得効果の方が大きい
まずは
- ギッフェン財の需要曲線を見てみる
ギッフェン財の「価格が上昇したときに、最終的な財の消費量が増加する」という特徴を反映させた需要曲線です。
見ての通り、右上がりの需要曲線になります。
お気づきの通り、経済学で登場する一般的な需要曲線は右下がりです。
ギッフェン財の需要曲線は右下がりにならない珍しいタイプというわけです。
次に
- 代替効果と所得効果でギッフェン財を判別する
ギッフェン財を正確に判断する場合は、代替効果と所得効果を使う必要があります。
ここからは、代替効果と所得効果を理解している前提で話を進めます。分からない人は確認⇒【代替効果・所得効果】グラフで視覚的に理解する
ここでは、X財がギッフェン財で、価格が上昇した時を考えてみましょう。
この動きを代替効果と所得効果で分析します。
ここではY財は関係ないので省略します。X財の価格が上昇したので、予算制約線が内側へ移動します。
最初に
- 代替効果から見る
代替効果はマイナスになります。
次に
- 所得効果を見る
所得効果はプラスになります。
最後に
- 代替効果<所得効果を確認する
ギッフェン財の代替効果と所得効果を分析すると「代替効果<所得効果」となる。
おまけ
おまけで価格消費曲線を見てみましょう。
価格消費曲線は、X財・Y財の2財があったときの最適消費点の軌跡を結んだものです。⇒【価格消費曲線と需要曲線】求め方やグラフの書き方を分かりやすく解説
予算制約線が内側に移動(X財の価格上昇)して、X財の消費量が増加しています。
価格消費曲線の情報から「X財の価格」「X財の消費量」の関係を抜き出すと「右上がりの需要曲線」が描けます。
ギッフェン財は現実に存在するのか?
最初に断っておくと、ギッフェン財が現実世界で存在することは証明されてはいません。経済学者の間でも意見が分かれています。
あるかもしれないし、ないかもしれない、ギッフェン財はそんな立ち位置です。
ここでは
ギッフェン財の例として上げられるものを3つ見ていきます。もちろんギッフェン財として認めれているわけではないので注意して下さい。
ジャガイモ飢饉
(英語版Wikipediaより・アイルランド首都タブリンにある飢饉の記念碑)
ジャガイモ飢饉
1845年~1849年(19世紀)にアイルランドで発生したジャガイモの飢饉。ジャガイモの疫病が広がり、ジャガイモの生産量が激減した。
当時のアイルランド人は、ジャガイモが主食だった一方で、肉などの食材は価格が高くて購入できなかった。その結果、多くの人が飢餓に苦しみ、人口の20%以上が餓死(または病死)した。
ここでは、当時のアイルランドのジャガイモが「ギッフェン財」だったとして、話を進めていきます。
ポイント1
- 飢饉によりジャガイモの価格が高騰した
ジャガイモの価格が高騰したことから、代替効果がマイナスになります。
「代替効果がマイナス」⇒「ジャガイモの消費量が落ちる」
ポイント2
- 他に購入できる食べ物がない
肉などは高級食品のため、ジャガイモの価格が高騰したところで、肉を食べることも出来ません。
所得がひっ迫している中で、代わりに買える食材がないため、やむを得ずジャガイモを購入する事になります。つまり、所得効果はプラスになります。
「所得効果がプラス」⇒「ジャガイモの消費量が増える」
ポイント3
- 代替効果< 所得効果
価格高騰でジャガイモの消費量が減少する(代替効果が-)。一方で、肉や野菜は高級食材です。家計が苦しくなったことで、なおさら、肉野菜は買えずに主食のジャガイモを買う事になります(所得効果が+)。
これまでなら、肉や野菜を少しは食べれていたのに、ジャガイモだけを購入しないと生活が出来なくなります。つまり、所得のほとんどをジャガイモの購入に充てます。その結果、最終的に価格が上がる前よりもジャガイモの消費量が増えます。(代替効果< 所得効果)
所得減少したことで消費量が増える財を下級財(劣等財)と呼びます。下級財の例としては、生活が苦しい時のカップ麺などが当てはまります。
食費をおさえるためにカップ麺ばかり食べるようになります。しかし、たくさん食べると言っても限度があります。現代人なら、カップ麺のほかに、安いパンを買ったり、もやしを買ったりします。
ポイント
アイルランドのジャガイモも同じく下級財です。
生活が苦しくなってジャガイモの消費量が増えます。ここで重要なのは、現代人と違って他に買える食べ物がなかった点です。
例えば
カップ麺の価格が高くなったとします。すると安いパン・もやしを食べればOKです。なので、カップ麺の消費量は減ります。
生活が苦しいとカップ麺の消費量が増える(下級財)と書きましたが、そもそも他の食材を買う方がお得なので、価格の上がったカップ麺の消費量は減少するのが普通です。
代替効果 >所得効果
しかし
「ギッフェン財」の大きな特徴は、価格が上がったにもかかわらず、他の財を買わずに、その財の消費量が増えることです。
飢饉のときのジャガイモは、まさに上の条件を満たしたギッフェン財だったのでは?と考えられたわけです。
代替効果< 所得効果
コメ(米)
2008年の論文で、ギッフェン財の存在を示唆する実験結果がまとめられました。
中国の湖南省(Hunan)と甘粛省(Gansu)の農村地域に住む貧困層をターゲットにした実験です。
we studied two provinces of China: Hunan in the south, where rice is the staple good, and Gansu in the north,where wheat is the staple.
湖南省(Hunan)は米が主食の人々、甘粛省(Gansu)は小麦が主食の人々がいます。
2つの地域の人々に、主食を食べるための資金援助を行う
主食を購入するための資金援助なので、実質的に主食(お米・小麦)の価格が下がります。この時の消費行動を追っていくのが今回の実験です。
結果
実験の結果として2つ面白いことが分かりました。
1つ目は、どちらの地域でも、資金援助を受けたことでお米・小麦の消費量を減らしたことです。特に湖南省のお米の消費量の減り具合が大きかったことが分かりました。
2つ目は、貧困の度合いによって実験結果が変わったことです。日常生活で8割以上を主食だけで生活している貧困層(肉を買う余裕が全くない)では、お米の消費量を増やしました。
貧しすぎると、余裕が出来た分だけ、栄養補給するためにお米を買い増す。ただし、少しだけ肉を買えるような家は、余裕が出来たことで、米よりも肉の消費量を増やしたのです。
ポイント
実験の結果から、お米などは、適度な貧困具合でないとギッフェン財的にならない、というわけです。
実験からも分かる通り、貧しすぎず、豊か過ぎず、しかも選択肢が少ない状況じゃないと、ギッフェン財は現れないのかもしれません。
ちなみに、ギッフェン財がある可能性を示した論文ですが、ギッフェン財は存在すると認められたわけではありません。
ブランド品や株などは?
ギッフェン財の例として、ブランド品や株式などのバブル期の話を考える人がいますが、それは間違いなので注意してください。
ポイント
ギッフェン財の定義
- 価格が上昇(下落)したときに、最終的な財の消費量が増加(下落)する
- 下級財である
- 代替効果よりも所得効果の方が大きい
「価格が上がってるのに、消費量が増える」という面ばかりに注目が行くため、勘違いが生まれます。
確かにブランド品は、価格が高い方が魅力的になり販売数が増える傾向があります(ウェブレン効果)。しかし、「ギッフェン財は下級財」であるという条件は満たしていません。
通常、ブランド品などは所得が多いほど購入頻度が増えます。つまり「所得が増える⇒消費量が増える」ため、ブランド品は上級財です。
逆に「所得が増える⇒消費量が減る」のが下級財です。
注意ポイント
ギッフェン財は、3つの条件を満たす必要がある。
- 価格が上がって、最終的な消費量が増える
- 所得が増えて、消費量が減る(下級財)
- 2の大きさ(所得効果)が普通よりも大きい(代替効果<所得効果)
ブランド品は下級財の条件を見てしていないため、ギッフェン財ではない。
株式も同様です。
普通に考えると、所得が少ないほど株式を買うというよりも、所得が増えるほど株式を購入できるようになります。
そう考えれば「所得が増える⇒消費が増える」という流れになるので、株式も上級財です。
さらに詳しく
株式以外の投資商品でも同じことが言えます。所得が減れば、土地を買ったりする余裕がなくなり消費量は減ります。お金がある人ほど、投資にお金を費やしているはずです。
また、バブル期も同様です。「”将来の価格が今よりも上がりそう”という観点で買われる→需要が増える→価格が上がっている」のであって、今現在の価格が上がっている→消費量(需要)が増えた、とかではありません。