政府が補助金政策を実施したときの余剰分析(余剰・死荷重)と事例を見ていきます。
- 補助金政策の目的
- 総余剰・死荷重の求め方
- 計算方法
- 現実の事例
政府の補助金政策
補助金政策
政府は、市場で取引を行った消費者・生産者に対して補助金を与えることがある。
ポイント①
- 政府が補助金を与える理由
ある特定の取引を保護したい場合、もしくは促進したい場合に、政府は補助金政策を実施する。現実の事例は後半で紹介します。
ポイント②
- 政府が補助金を与えると死荷重が発生する
補助金政策により、市場では経済効率性が失われて総余剰が最大化しません。このとき発生した社会的な損失は死荷重(デッドウェイトロス)となります。
補助金政策は、他の政府介入とは異なり市場均衡点を超える取引量が発生してしまうため死荷重が発生します。
総余剰と死荷重の決まり方
ポイント
補助金の支給により市場での取引量が均衡点よりも過大になるため死荷重が発生する。
グラフで見ると
補助金政策により取引量が過大になった結果、生産者は「P*1」で販売しようとしますが、補助金が支給されるため消費者は「P*2」の支払いを行います。
- 生産者は「P*1」
- 消費者は「P*2」
この差額(点A-点B)を補助金の支給で補填しているというイメージです。補助金により、取引量は「Q*」となり、均衡点と比べると取引量が過剰となっています。
CS・PS
消費者余剰(CS)と生産者余剰(PS)は‥
消費者余剰は
次の三角形で囲まれた部分
- 点PA
- 点B
- 点P*2
生産者余剰は
次の三角形で囲まれた部分
- 点P*1
- 点A
- 点PB
ポイント
市場均衡点(E)よりも取引量が多くなるので消費者・生産者どちらの余剰も拡大する。
死荷重
補助金によって市場均衡点よりも取引量が多くなるため死荷重が発生します。
- 均衡点E
- 点A
- 点B
この3つの点からなる三角形部分が死荷重(社会的損失)となります
社会的損失=「三角形E・A・B」
さらに詳しく
補助金の支給というのは「政府余剰のマイナス」です。
「点A-点B」の差額分の補助金を、取引量「Q*」の数だけ支給するので、補助金の合計額は「P*1・点A・点B・価格*2」となります。
つまり「P*1・点A・点B・価格*2」の分だけ政府余剰がマイナスとなります。
政府余剰のマイナス
ここで
グラフの赤色部分は、消費者余剰(CS)と生産者余剰(PS)がダブっている部分です。
赤色部分の余剰は2重で計算されていましたが、政府余剰のマイナスにより調整されます。
さらに
補助金によって拡大した青色部分・オレンジ部分の余剰も政府余剰のマイナスで打ち消されます。
最後に・・
ポイント
均衡点E・点A・点Bで囲まれた部分は、補助金の支給を行ったものの消費者余剰(CS)・生産者余剰(PS)の拡大に貢献できなかった部分(経済的に非効率な部分)として死荷重になります。
計算方法
例えば
- 財Aの需要曲線が「D=-20P+500」
- 財Aの供給曲線が「S=30P-150」
政府が財1単位あたり5の補助金を支給した場合の消費者余剰・生産者余剰・政府余剰・死荷重はいくらか?
はじめに市場均衡点を求めるために「D=S」として計算します。
- -20P+500=30P-150
次に均衡点における市場価格を計算します。
- 50P=650
- P=13
「S=30P-150」に市場価格のP=13を代入します。
- S=390-150=240
これで、市場均衡点における価格と供給量(生産量)が分かりました。
グラフで見ると
まずは2つの切片(?)の値が必要です。
- ①需要曲線「D=-20P+500」を「P=●●の形(逆需要関数)」にする
20P=-D+500
P=(-D+500)/20
切片なので横軸の需要量(D)は0となります
グラフの横軸は”生産量Q”という表記になっていますが、需要量(D)・供給量(S)と同じ意味です。
P=(-0+500)/20
P=(500)/20
P=25
- ②供給曲線「S=30P-150」を「P=●●の形(逆供給関数)」にする
30P=S+150
P=(S+150)/30
切片なので横軸の供給量(S)は0となります
グラフの横軸は”生産量Q”という表記になっていますが、需要量(D)・供給量(S)と同じ意味です。
P=(0+150)/30
P=(150)/30
P=5
以上より
次に
- 補助金5を考える
補助金が支給されたので供給曲線が下方向へ平行シフトすると考える。
補助金を支給した後の供給関数を考える
供給関数の切片を「?」とする
供給曲線「S=30P+?」
新しい供給関数は「P=0」のとき「生産量(S)=0」なので代入する
- S=0=30×0+?
- 0=0+?
- ?=0
以上より、新しい供給関数は「S=30P」となる。
グラフで見ると
「?①」「?②」「?③」を求める
- ②③を求めるために「D=S」として計算する
需要曲線「D=-20P+500」
補助金支給後の供給関数「S=30P」
-20P+500=30P
次に均衡点における市場価格を計算します。
- 50P=500
- P=10
「S=30P」に市場価格のP=10を代入します。
- S=30×10=300
これで、市場均衡点における価格と供給量(生産量)が分かりました。
- ②元の供給関数「S=30P-150」へ生産量300を代入
300=30P-150
450=30P
P=15
以上より
ポイント
後は「消費者余剰」「生産者余剰」「死荷重」を求めるだけ。
- 消費者余剰=P25・点B・P10
- 生産者余剰=P15・点A・P5
- 政府余剰=-(P15・点A・点B・P10)
- 死荷重=点E・点A・点B
消費者余剰は三角形の面積を求めるだけ
- 縦=(25-10)=15
- 横=300
三角形の面積=(縦×横)÷2
(15×300)÷2=2250
以上より、消費者余剰(CS)=2250
生産者余剰も三角形の面積を求めるだけ
- 縦=(15-5)=10
- 横=300
(10×300)÷2=1500
以上より、生産者余剰(PS)=1500
政府余剰は四角形の面積を求めてマイナス
- 縦=(15-10)=5
- 横=300
-(5×300)=-1500
以上より、政府余剰(補助金支給)=-1500
死荷重は三角形の面積を求めるだけ
- 縦=(15-10)=5
- 横=(300-240)=60
(5×60)÷2=150
以上より、死荷重=150
補助金政策の事例
補助金政策は、政府の経済刺激策として登場することが多いです。
補助金の具体例
- エコカー補助金
- 太陽光発電の補助金
- 震災後の宿泊補助やGoToキャンペーン
- キャッシュレス端末の導入補助
エコカー補助金は、リーマンショック後の景気刺激策として2009年4月に導入されました。環境対応車の購入に対して補助金を支給する政策です。
リーマンショック後の2009年3月期にトヨタ自動車は60年ぶりの営業赤字に転落するなど、世界経済は深刻な不景気でした。
為替レートも2008年~2012年の間は歴史的な円高(1ドル=80円台)で推移したこともあり、日本の製造業は致命的なダメージを受けました。
ちなみに、こうした不景気に自動車産業が優遇されるのには理由があります。日本の自動車関連産業は、国内GDPの約10%超で、自動車関連産業に従事する就業者は全体の約8%です(参考)。つまり、自動車産業は日本経済の10%を占める巨大産業なので、そこが沈没すれば日本経済全体に悪影響が及ぶため、政府は助けざるを得ないのです。
太陽光発電の促進のために、国・自治体の補助金制度があります。これは景気刺激策というよりも、再生可能エネルギーの普及を目指した補助金制度です。
この補助金は、発電の機器を設置するときの補助金です。電力の固定価格買取制度(FIT・国が定めた金額で電力会社が買い取る)とは別です(こちらは価格の下限規制に近いのでは?と思います)。
震災後などに、被災地への旅行に対して補助が出ることがあります。これは日本の特徴的な旅行業界・現地経済への刺激策です。
とくに2020年の感染症からの復興策「GoToキャンペーン」などはその典型例です。国が1.3兆円もの予算を使って、(国内旅行に限定して)宿泊補助やクーポン券などを配布します(参考)。
中小企業がキャッシュレス決済に対応するために機器を購入した際にも補助金が出されます(参考)。
これはイメージしやすいと思いますが、国がキャッシュレス決済を促すために補助金を出しています。
ポイント
冒頭に記載した通り、補助金は、景気刺激策 or 特定の産業の活性化(促進)などを目的に行われる。