中級以上のミクロ経済学で登場する「ホテリングの補題」
証明は教科書にも載っていますが、それでは理解できない人向けに詳しい説明を加えて、出来るだけ簡単な証明を行っていきます。
ホテリングの補題の簡単な証明
(Wikipediaより)
ホテリングの補題とは
利潤関数(π)を「生産物の価格(P)」で偏微分したものが「供給関数(生産量)」に等しく、「生産要素の価格(w・r)」で偏微分したものは「生産要素の投入量(L・K)のマイナス」に等しいことを証明したもの。
実際にそうなるのか確認してみます。
利潤関数(π)を「生産物の価格(P)」で偏微分
はじめに
- 利潤=π
- 生産物価格=P
- 生産量(供給量)=Y
- 賃金=w
- 労働の投入量=L
- レンタル料=r
- 資本の投入量=K
このとき、利潤を「利潤(π)=PY-(wL+rK)」と表せます。
確認する
まずこの2つに注目します。
- 労働の投入量=L
- 資本の投入量=K
利潤が最大化するときの「労働の投入量」「資本の投入量」は要素需要関数と言われています。
要素需要関数は、価格(P)・賃金(w)・レンタル料(r)の3つの文字で表記します。
すると
- 労働の投入量=L(p,w,r)
- 資本の投入量=K(p,w,r)
L・Kのカッコ内の(p,w,r)は、価格(P)・賃金(w)・レンタル料(r)の3つの要素で構成される(置き換えることが出来る)という意味です。
次に確認する
- 生産量(供給量)=Y
利潤が最大化するときの「生産量」は供給関数と言われています。
供給関数は、生産関数に含まれるL・Kを要素需要関数に置き換えます。
すると
生産量=Y(L(p,w,r), K(p,w,r))
例えば「生産関数(Y)=LK」と与えられているとき「LK」に要素需要関数を代入することで供給関数が求められます。
つまり、生産量(Y)はさきほど登場した「L(p,w,r)」「K(p,w,r)」の2つによって構成される(置き換えることが出来る)ことが分かります。
それを「Y(L(p,w,r), K(p,w,r))」と表しています。
ちなみに
- 生産物価格=P
- 賃金=w
- レンタル料=r
この3つは、市場価格を受け入れるのでそのままです。
まとめると
- 利潤=π
- 生産物価格=P
- 生産量(供給量)=Y(L(p,w,r), K(p,w,r))
- 賃金=w
- 労働の投入量=L(p,w,r)
- レンタル料=r
- 資本の投入量=K(p,w,r)
このとき、利潤を「利潤(π)=P・Y(L(p,w,r), K(p,w,r))-(wL(p,w,r)+rK(p,w,r))」と表せます。
証明
「利潤(π)=P・Y(L(p,w,r), K(p,w,r))-(wL(p,w,r)+rK(p,w,r))」を価格(P)で偏微分して、供給関数になるかを確認する
注意点
微分のやり方に気を付けましょう
「利潤(π)=PY-(wL+rK)」なので、価格(P)で微分して「利潤(π)=Y」とすると話が終ってしまいます。
ここで思い出すのが‥
- 生産量=Y(L(p,w,r), K(p,w,r))
- 労働の投入量=L(p,w,r)
- 資本の投入量=K(p,w,r)
ポイント
Y・L・Kを構成する要素にも価格(P)が含まれているため、それらも微分します。
緑丸の部分を微分します。
①まずは「P・Y(L(p,w,r), K(p,w,r))」の部分
「∂Y/∂L・∂L/∂P」は「∂Y/∂P」じゃないの(分母分子に∂Lがあるので消せる)?と思うかもしれませんが、この形は後で役立つのでそのまま進みます。
②次に「-(wL(p,w,r)+rK(p,w,r))」の部分
まとめると
ここで黄色・青色の枠に注目します
どちらも「∂L/∂P」「∂K/∂P」が含まれているため式をまとめます。
ここに注目
ちなみに
利潤最大化条件についてはこちらで確認してください。【完全競争・利潤最大化】条件や求め方・計算方法をグラフを使って理解する※②数式で考えるを参照
以上より
0に何を掛けても0なので、黄色枠と青色枠は消えます。
残ったのは・・
- 生産量(供給量)=Yだけ!
最初に説明したとおり、この「Y(生産量・供給量)」は「Y(L(p,w,r), K(p,w,r))」と表記できます。
今さらですが、利潤最大化が実現するときの生産量(供給量)を表しているため、これが供給関数となります。
利潤関数(π)を「生産要素の価格(w・r)」で偏微分
ここでは「w」で偏微分してみます
さきほどと同じ
- 利潤=π
- 生産物価格=P
- 生産量(供給量)=Y(L(p,w,r), K(p,w,r))
- 賃金=w
- 労働の投入量=L(p,w,r)
- レンタル料=r
- 資本の投入量=K(p,w,r)
このとき、利潤を「利潤(π)=P・Y(L(p,w,r), K(p,w,r))-(wL(p,w,r)+rK(p,w,r))」と表せます。
緑丸部分を微分していきます
①まずは「P・Y(L(p,w,r), K(p,w,r))」の部分
②次に「-(wL(p,w,r)+rK(p,w,r))」の部分
まとめると
ここで黄色・青色の枠に注目します
どちらも「∂L/∂w」「∂K/∂w」が含まれているため式をまとめます。
利潤最大化条件より
残ったのは・・
- -L(労働の投入量のマイナス)だけ!
最初に説明したとおり、この「L(労働の投入量)」は「L(p,w,r)」と表記できます。
利潤関数(π)を要素価格(賃金:w)で偏微分した結果、利潤最大化が実現するときの労働の投入量(要素需要関数)にマイナスを付けたものとなりました。
ちなみに
要素価格(レンタル料:r)でやっても同様の結果が得られます
その場合は「∂π/∂r=-K(p,w,r)」となります。
これで証明完了です。