支出関数(E)と補償需要関数の関係を示した「マッケンジー(シェパード)の補題」
- マッケンジー(シェパード)の意味は?
- マッケンジー(シェパード)の証明
意味が分からずに、混乱してしまう人が多い「マッケンジー(シェパード)の補題」を分かりやすく簡単に解説していきます。
マッケンジーの補題(シェパードの補題)とは?
(hetwebsite.net/het/profiles/mckenzie.htmより・ライオネル W.マッケンジー)
マッケンジーの補題とは
支出関数を価格で偏微分すると、ヒックスの補償需要関数になることを証明したもの。
※企業理論(費用関数)の話は企業理論のシェファードの補題を簡単に証明するで確認してください。
「マッケンジーの補題」と「シェパードの補題」の違い
この補題は、1953年にロナルド・シェパードが自身の著書※で触れた企業の費用最小化問題についての補題が元になっています(企業理論のシェパードの補題)。
『Theory of Cost and Production Functions』
1957年に、ライオネル.W.マッケンジーが、この補題を消費者理論に応用しました。その内容が、この記事で紹介する「財の価格に関する支出関数の偏微分は、関連する財のヒックスの需要関数に等しい」というものです。
消費者理論で登場する場合、元の証明がシェパードの補題なので、マッケンジーの補題と呼ばずにシェパードの補題と呼ぶことも多いです。この記事内では「マッケンジー(シェパード)の補題」と呼ぶことにします。
簡単な意味合い
マッケンジー(シェパード)の補題では「支出関数からヒックスの補償需要関数を求めること」が出来ると証明しました。
通常の支出関数の求め方
- 「補償需要関数(D’)」
↓ - 「支出関数(補償所得関数)(E)」
マッケンジー(シェパード)の補題により「支出関数」→「補償需要関数」という流れも可能だということが証明されたわけです。
ミクロ経済学の消費者理論では、効用関数から需要関数を求めることを前提に話が進みます。
しかし
現実世界で人々の効用関数が分かっている状態というのは存在しません。一方で、市場のデータを分析すれば、市場の需要の状態は分かります。
つまり、市場の分析を行ってから需要関数を推定、その後に効用関数を求めるという流れの方が自然なわけです。効用関数の形が理解できれば、適切な経済政策を打てるようになるので有益と言えます。
そのため「効用関数→需要曲線」の流れを逆から追っていく「需要曲線→効用関数」の流れを説明できる証明は経済学的には意義のあるものと言えます。
マッケンジー(シェパード)の補題では「支出関数→補償需要関数」という流れですが、本質的な意義は同じです。他には、顕示選好理論なども同様の意義があります。
マッケンジーの補題(シェパードの補題)の証明
企業理論(費用関数)のシェパードの補題の証明はこちらで確認してください。⇒企業理論のシェファードの補題を簡単に証明する
X財・Y財の2財を考えます。
- X財の価格=Px
- Y財の価格=Py
- X財の消費量=x
- Y財の消費量=y
効用関数(U)=xyのとき、支出関数(E)を価格(Px・Py)で偏微分すると、補償需要関数(D')になることを証明する。
まず
効用関数(U)=xyから、補償需要関数(D')と支出関数(E)を計算します。
- X財の補償需要関数「x=(Py/Px)y」
- Y財の補償需要関数「y=(Px/Py)x」
- 「支出関数(E)=xPx + yPy」
計算の過程はヒックスの補償需要曲線・支出関数(補償所得関数)を参照。
step
1「効用関数(U)=xy」に補償需要関数(D')を代入する
①「x=(Py/Px)y」を代入する
②「y=(Px/Py)x」を代入する
ポイント
以上より「効用関数(U)=xy」のときの、補償需要関数(D’)は「x=√U・(√Py/√Px)」「y=√U・(√Px/√Py)」と表すことが出来る。
step
2「支出関数(E)=xPx + yPy」に上の計算結果を代入する
「x=√U(Py/Px)」
「y=√U(Px/Py)」を代入する
計算過程が理解できない人向けに「(√U・√Py/√Px)・Px」の部分だけ計算過程を残しておきます。
「(√U・√Py/√Px)・Px」=「√U・√Py・Px/√Px」
分母分子に√Pxを掛ける。
→「(√U・√Py・Px)・√Px/√Px・√Px」=「√U・√Py・Px・√Px/Px」
分母分子のPxを消す→「√U・√Py・√Px」
※「(√U・√Px/√Py)・Py」の方も同じように計算できる。
ポイント
以上より「効用関数(U)=xy」のときの、支出関数(E)は「2√U・√Py・√Px」と表すことが出来る。
step
3「支出関数(E)=2√U・√Py・√Px」を価格で微分する
微分しやすいように式を変形
①価格(Px)で偏微分する
②価格(Py)で偏微分する
ポイント
[Step1]で求めた補償需要関数(D’)と比べてみる。
補償需要関数(D’)
偏微分した後の支出関数(E’)
ポイント
見ての通り「価格で偏微分した後の支出関数(E’)」と「ヒックスの補償需要関数」が同じになるため、題意は証明された。