「独占的競争」の基本となる情報をまとめています。
- 独占的競争とは
- 寡占市場や完全競争市場との違い
- 独占的競争と製品差別化
- 独占的競争の短期均衡と長期均衡
- 独占的競争の問題点
教科書では情報が足りない人はこのページで理解を深めてもらえるはず・・。
独占的競争とは
(英語版 Wikipediaより E.チェンバリン)
はてな
不完全競争の一種。寡占市場よりもライバル企業が多い状態で、市場への参入・退出が自由なときに生まれる競争形態。
前提として各企業は自社製品の差別化を進めて競争を始めると考える(詳細はのちほど)。その結果、各企業の製品は(ブランドや品質によって)差別化されているため独自の価格設定ができる。
通常、市場価格を受け入れずに独自に価格設定をできるのは独占企業のみであるため、この点が「独占的」と表現される。
独占的競争という考えは、1933年にエドワード・ヘイスティングス・チェンバリンが著書『The Theory of Monopolistic Competition(独占的競争の理論)』で発表した。
各市場の特徴
完全競争 | 寡占 | 独占 | 独占的競争 | |
---|---|---|---|---|
企業数 | 多数 | 数社 | 1社 | 多数 |
参入障壁 | 容易 | 困難 | 不可 | 容易 |
価格支配力 | なし | なし | あり | あり |
超過利潤 | なし | 状況による※1 | あり | あり |
製品差別化 | なし | なし※2 | なし | あり |
その他 | 価格受容者 | 相互依存 | 価格決定者 | 独占と競争の性質 |
※1クールノー競争なら「あり」、ベルトラン競争なら「なし」など状況による。
※2製品差別化が行われるベルトラン競争などを想定することもある。
さらに詳しく
特に「寡占市場」と「独占的競争」の違いが最初はイメージしづらいので大きな違いを1つ記載します。
寡占市場はライバル企業が数社しかいないため、自社とライバル企業の行動が相互に影響を与えます。例えば「相手が値下げしたら、追随しないと顧客が全部流れていく」みたいに、ある1社の行動がライバル企業にダイレクトに影響を与えます。
しかし、独占的競争ではライバル企業は多数いるため、そのような状態にはなりません。仮に、相手が値下げしても多少の影響はありますが、寡占市場ほどの影響力は互いに持ちません。
とは言え
よく「寡占市場との違いが分からない」とか「急に製品差別化が出てきた」ことが分からずに「・・?」となる人が多いです。
混乱を解くには「独占的競争」が生まれた背景を知っておくとよいです。
「独占的競争」が生まれた背景
(Wikipediaより フォード・モーター社の車の生産ライン)
1933年年のチェンバリンの著書が世に出るまでは、経済学の主流の考えは「完全競争」です。例外的に「独占市場」があるようなイメージです。
そんな中で1900年代以降のアメリカでは近代化が進み「株式会社」が勢力を伸ばします。
1900年の初めはアメリカの株式市場は大いに盛り上がっており、その後の1929年に暴落して世界恐慌になるのは教科書で習う通りです(ジェシーリバモアなどの投資家が活躍した時代ですね)。
そして
資本力が強くなった企業が、独占企業みたいに市場への影響力を強める。
これまでの経済学では「完全競争市場」によって、企業は市場価格を受け入れて、その範囲内で利潤最大化を目指すと考えていました。
しかし、1900年代以降に成長を続ける「株式会社」は、従来の経済学の考えが通用しないほど影響力を持つ存在になります。ただし、まったく競争をしていないわけではなく、競争と独占の両方の特徴を兼ね備えている存在になっていきました。
ここでチェンバリンが登場します。
現実の価格システムは「独占的性質」と「競争的性質」の交錯であり、説明すべき現象のどちらか一方を切り捨てて「独占か」きもなくば「競争か」の理論に当てはめようとするのは誤りであり、事実について誤った結論が生じる。
※チェンバリンを中心とした独占理論(Ⅰ)より引用
ということで、チェンバリンは「競争と独占の2つの交錯している(=入り混じる)状態」こそが現実経済だと考えていました。
競争的性質
- 企業は価格支配力を持たない
「売り手がたくさん」「企業が売っているものは同質」が条件として必要
独占的性質
- 企業は価格支配力を持つ
競争的性質と逆に考える⇒「売り手が少ない」「企業が売っているものが異質(同じとは言えない)」
チェンバリンは、「競争と独占の2つが混じった状態が現実経済」だと考えました。
ポイント
はじめ、企業は「他社とは違った製品(製品差別化)」を販売して利益を出そうとします。このとき「独占的性質」が強く出ます。
その後、それを見た他社が真似たり、類似品を売り出すことにより「競争的性質」が強まっていくと考えます。
というわけで
ここに「独占的競争」という考えが打ち出されました。ちなみにチェンバリンは、現在マーケティングの分野で使われる「製品差別化」の概念を先取りしているので有名です。
独占的競争のグラフ(短期と長期均衡)
ポイント
独占的競争は、短期的には独占市場と同じ均衡点となるが、長期的には企業の利潤が0になる水準(平均費用と需要曲線の接点)で均衡点となる。
step
1独占的競争の短期均衡
前の段落で説明した通り、企業は「他社とは違った製品(製品差別化)」を販売して利益を出そうとします。このとき「独占的性質」が強く出ます。
なので独占市場と同じ市場状態を考える
覚えているかはわかりませんが、独占市場では「需要曲線の傾きを2倍にすると限界収入(MR)」になります(限界収入とは?の最後の段落「独占市場の場合/限界収入との関係について」を参照) なんで限界収入曲線(MR)が出てくるのかというと、独占市場の利潤最大化条件「限界収入(MR)=限界費用(MC)」を使って均衡点を探すためです。
以上より
独占市場の利潤最大化条件より これが独占的競争の短期的な均衡点です!
ちなみに企業の利潤は・・
いきなり平均費用曲線(ATC)が出てきましたが、考え方はシンプルです。
- 「価格」×「生産量※」=「売上」
- 「平均費用」×「生産量」=「総費用」
※生産したものは全部売る(生産量=販売量)と考える。
この2つの差し引きが利潤なので、グラフの青色部分が利潤となります
- (価格×生産量)-(平均費用×生産量)
- (価格-平均費用)×生産量
step
2独占的競争の長期均衡
前の段落で説明した通り、企業は「他社とは違った製品(製品差別化)」を販売して利益を出そうとします。このとき「独占的性質」が強く出ます。
その後、それを見た他社が真似たり、類似品を売り出すことにより「競争的性質」が強まっていきます。
ここで
類似品が出回ると需要曲線が変化します。
類似品が出回ることで、その企業が生産する商品以外にも消費者の選択肢が広がっていきます。すると、その商品の需要は小さくなっていきます。 ⇒需要曲線が内側に縮こまっていきます。その企業の熱狂的なファンは離れづらい(価格が高いところでも需要するような消費者は減少しづらい)と考えて、縦軸はさほど変化させていません。
以上より
独占市場の利潤最大化条件より これが独占的競争の長期的な均衡点です!
独占的競争の短期均衡・長期均衡ともに考え方は同じです。
ポイント
ただし、長期均衡では「企業は利潤が出なくなる」と考えます。
先ほどから記載しているように、短期的には製品差別化により市場は独占的性質を帯びていましたが、類似品が出回ると市場は競争的性質を帯びます。
ここで、類似品が出回り、自社製品の需要が減り続けると企業は利潤を出しづらくなる。つまり、最終的に利潤が出せなくなると考えるのが「長期均衡」の特徴の1つです。
この「利潤が出せなくなる」を平均費用曲線を使ってグラフに図示します
利潤が出ないので「販売価格」と「平均費用」が一致しています(製造費用100円のものを価格100円で売っても利益は出せません)。
そのためグラフでは需要曲線(D’)と平均費用曲線(ATC)が一致している点E’が均衡点となります。
比較
- 短期均衡と長期均衡を比べる
独占的競争の問題点
独占的競争は、大きく3つの問題点を抱えています。
マークアップによる非効率(死荷重)
ポイント
独占的競争では、限界費用(MC)よりも価格(P)が高くなる(この差をマークアップと呼ぶ)。マークアップがあると、独占市場と同様に市場は非効率となる。
完全競争市場では「価格(P)=限界費用(MC)」となります。
需要曲線(D)と限界費用曲線(MC)の交わるところで価格が決まります(定番のグラフ)。このとき、価格(P)=限界費用曲線(MC)となっており、緑色部分が余剰となっている。
一方で
独占的競争市場では
限界費用曲線(MC)よりも高いところで価格(P)が決まります(マークアップが発生している)。
このときの死荷重は
赤三角部分が死荷重となる。
マークアップが存在することで、価格が高止まり&生産量が完全競争よりも少なくなるため、独占的競争では市場に非効率さが生まれていることが分かる(独占市場と同じ)。
過剰生産能力(過剰能力定理)
ポイント
独占的競争では、企業は過剰な生産設備(生産能力)を保有しがちになる。これを「過剰能力定理」と呼ぶこともあります。
平均費用に注目します
独占的競争で長期均衡になったとき、上記のグラフのように均衡します。このとき、生産量「X*」が平均費用曲線の底部分で決まっていないことに注目します。
なぜ底部分で交わっているかが重要なのか
例えば
- 1個当たり150円で作れます
- 1個当たり100円で作れます
このとき、1個100円で作れる方が効率的です。つまり、平均費用曲線の底部分で生産した方が効率的です。
さらに詳しく
平均費用曲線はUの字を描いています。これは、生産規模を拡大させる方が生産効率が良くなるためです。だんだん過剰に生産すると効率が悪くなり平均費用が高くなっていきます。これをU字で表していいるのが平均費用曲線です。
独占的競争では、平均費用曲線のU字の手前で生産量が決まっているので「企業はもう少し生産規模を拡大させた方が、平均費用を低く抑えて効率的に生産できる」ことを表しています。
しかし、独占的競争では最も効率的ではない部分で生産量が決まるので「生産能力が最大限に発揮されていない」
⇒「生産能力が過剰に保有されている状態(どうせ使わないなら不要では?という状態)」と考えることができます。
以上を踏まえてグラフをもう一度見る
もっと生産規模を拡大すれば、もっと効率的になるはずなのに、その手前の「X*」で生産量が決まっている。 そのため、独占的競争では「企業は保有する設備の生産能力を最大限発揮できない数量しか生産しないため、余分な生産設備(生産能力)を保有している」と言える。 6畳なのに12畳用のエアコンを使っても、パワーを最大限発揮できない。
ポイント
「製品差別化(製品の多様化)」と「生産コストの効率性」の間にはトレードオフの関係※がある。
※どちらかを求めると、どちらかは諦める必要がある状態ということ。
独占的競争では「製品差別化」がポイントになっていました。ここで、企業が製品差別化を進めるほど多様な商品が生まれることになります。
つまり
同じものを大量に作るのではなく、色々な製品をバランスよく作る必要があります。これが「過剰生産能力」につながります。
「鳩サブレー」にカラスやツバメの形を混ぜると、工場に新しく型をたくさん用意する必要があります。しかし「サブレー」の需要自体はそこまで増えるわけではないので「鳩」「カラス」「ツバメ」に需要が分散してしまいます。これまで「鳩」の型を使っていた設備は生産量を落とす必要が出てきます。こんな感じで、製品を多様化すると効率性が犠牲になって、生産設備の能力を最大限発揮するのが難しくなります。
広告の助長
ポイント
これまでの話から「製品差別化を進めて独占的競争となれば、短期均衡により企業は超過利潤を得ることが出来ます」
当然、どの企業も製品差別化を進めようと躍起になります。
製品差別化を進めるには、技術開発や斬新な商品アイデアなどが思いつくかもしれません。
しかし
それをやったうえで、企業が必ず力を入れることがあります。
それが「宣伝」です。
さらに詳しく
途中で説明した通り、独占的競争の特徴は「短期では独自市場と同じように、企業は超過利潤を得られること」です。
つまり、競争的性質が帯びないよう(長期均衡へ移行しないよう)に、企業はあの手この手を打ちます。その代表的なものが「ブランド戦略」です。
同じような商品を作っていたとしても、その企業のブランドが好きで買うという人も多いはずです。このようにブランドは、製品差別化を進めるうえで非常に重要になってきます。
つまり、ブランド戦略のために大量の広告宣伝を行う必要があるわけです。
例えば
- 有名タレントを起用する
- 消費者の共感を得るようなコンセプトを伝える
- とにかく広告を出しまくって印象に残す
- バズるようなユーモアのある広告
こんな感じで、とにかく宣伝をして消費者に訴えかけます。
その結果
- 消費者は、その商品に対して独自の信頼感やブランドイメージを作り上げます
注意ポイント
大量の広告が打ち出されると、消費者は欲望を掻き立てられたり、ブランドへの忠誠心などが勝手に醸成されます。
これを「広告を通して、消費者は好き嫌いを操作されているのでは?」と考えることもできます。
つまり、広告は、商品の情報提供ではなく心理操作とも言える。その結果、消費者1人1人の需要曲線が変化して市場がゆがむ可能性がある。
広告により、消費者自身が気づいていない需要に気づいたり、的確な情報提供により買い物がしやすくなるなど…。
というわけで、独占的競争では「広告」が助長されるけど、善し悪しがあると知っておけばOKです。広告に関する議論は今も続いています。