「独占市場(独占企業)の利潤最大化」がイマイチ分からない人向けに
- 独占市場での利潤最大化
- なぜ限界費用=限界収入となるか
- 生産量・価格の決まり方
- 独占市場の余剰分析
- 独占利潤
- 計算問題の解き方
少しばかり迷ってしまう話を簡単にまとめています。
独占市場の利潤最大化
独占市場の利潤最大化
独占企業が自社の利潤最大化を実現するために、どのような行動をとるのか?を考えたもの。ライバル企業がいない独占市場では、企業の利潤最大化行動が完全競争市場とは異なる。
必ず知っておくこと
- [競争市場]企業はプライステイカー(価格受容者)
- [独占市場]企業はプライスメーカー(価格決定者)
競争市場の場合
価格が決まってから需要が決まります。価格⇒需要の関係は、市場によって決まるため、企業は市場価格を受け入れて生産量を考えます(プライステイカー・価格受容者)。
独占市場の場合
独占市場では企業が好きな生産量を決めて、それから価格が決まります。需要⇒価格の関係は、独占企業が生産量をどう調節するかで決まる。つまり、独占企業には間接的に価格の決定権がある(プライスメーカー・価格決定者)。
まとめると
完全競争市場では、ライバル企業がたくさんいるため、各企業には価格設定の自由がない(市場価格よりも高い価格だとライバル企業にも負ける)。
独占市場では、ライバル不在で1社しかいないため、独占企業は生産量と価格調節が可能となる(少し高い価格設定になろうとも、ライバル企業がいないので顧客が他社に流れる心配も不要)。
- 独占市場では、生産量を増やすと価格が下落する
- 価格が下落するため限界収入も右下がりになる
「限界収入」とは商品・サービスを1つ売ったときに得られる収入のこと。
例えば
トヨタが自動車を100万台増産しても、自動車の価格は下がらない(完全競争市場)
自動車市場が完全競争市場だった場合、世界中にある車の数を考えれば、1企業がどれだけ頑張って増産しても、市場価格に影響を与えるほどの生産は出来ないと考えます。
仮に増産した100万台を1台500万円で売れば、1台売るごとに常に500万円の収入が得られます(限界収入は常に変わらず500万円となる)。
トヨタが空飛ぶ車を量産した場合(独占市場)
世界でトヨタだけが販売している「空飛ぶ車」の量産を始めます。空飛ぶ車は、トヨタだけが販売している独占市場です(例えばの話)。 例えば1台2000万円くらいだった空飛ぶ車は、量産する(※1)ことで1台500万円になります(ライバル企業がいないため、生産数がもろに販売価格に影響を与えます)。 したがって、限界収入も2000万円から500万円程度になります(生産量が増えるほど限界収入が下がる)。 (※1)現実的に考えると、量産に成功する=コストが安くなっています。ここで企業は「2000万円で売るよりも、コストが安くなった分、販売価格を抑えて多くの人に買ってもらった方が会社としては利潤がたくさん出るな」とイメージすることも出来ます。その結果、独占市場では生産量が増えるほど、価格が下落すると考えます。
- 独占市場では「限界収入(MR)」が「需要曲線(D)」よりも右下がりの曲線になる
グラフで見ると・・
何でそうなるのか
このとき価格が250円なら2個の需要があるため「合計500円」です。 次に限界収入を考えます。2個売ると500円の収入になるのは需要曲線と同じです。しかし、1個目の需要曲線から1個目を販売したときに得られる収入は300円と考えて、2個目は「500円-300円=200円」と考えます。 つまり、需要曲線は1個当たりの平均「250円×2個=500円」で考える(〇個当たり)のに対して、限界収入は「300円(1個目)+200円(2個目)=500円」と1個追加で売ることを基準(〇個目)に考えているため「限界収入曲線(MR)<需要曲線(D)」となります。
さらに詳しく
また、数学的には需要曲線(D)の傾きを2倍すれば限界収入曲線(MR)になります。ただ、ここでは独占市場の利潤最大化の基本を押さえることを前提にしているので、数学的な話は別ページに譲ります。この話の詳細は「限界収入とは?独占市場の場合(限界収入との関係について)」で確認できます。
「限界費用(MC)=限界収入(MR)」で最大化する理由
ポイント
独占市場に関わらず、どの市場でも「限界費用(MC)=限界収入(MR)」のとき利潤最大化となる。
ちなみに、完全競争市場の利潤最大化が「限界費用(MC)=価格(P)」となっていますが、本来であれば「限界費用(MC)=価格(P)=限界収入(MR)」という風になっています。完全競争市場では「価格(P)=限界収入(MR)」となっていることに注意する。
何故この交点で利潤が最大化するのか
はじめに「利潤が最大化」する状況(数式)を考える
利潤が最大化するのは「利潤=総収入(TR)-総費用(TC)」が一番大きくなる時です
次に
「利潤=総収入(TR)-総費用(TC)」が一番大きくなるのはどういう時か?を考えます。
例えば
- 1台100万円で車を売る
- 製造費用は90万円
1台売るごとに100万円ずつ収入が増えていきます。また、製造費用は90万円なので1台作るごとに90万円ずつ費用がかかります。
このとき、1台生産販売することによる利潤は「100万円-90万円=10万円」です。
ここで
車をたくさん作ると置き場所に困ってきたので保管倉庫を借りました。
どの業種でも、製造しすぎると余計にコストが発生する。そのため、1台あたり90万円で製造していた車は、次第に1台当たり95万円くらいになります。
このとき、1台生産販売することによる利潤は「100万円-95万円=5万円」です。
これを繰り返した結果
1台あたりの製造費用が100万円になりました。すると、100万円で販売している自動車を、100万円かけて作っていることになります。
- 1台追加で販売したときの収入=100万円
- 1台追加で生産したときの費用=100万円
つまり、この1台追加で生産・販売しても利潤が0円になる。
グラフで見ると
ポイント
グラフより「1台追加で生産・販売しても利潤が0円」になる直前までは利潤が出ていることに注目する。つまり、1個追加で生産販売したときに利潤が出るなら、作り続けることで利潤が拡大する。なので、もう利潤が出ない0円まで作り続けることで利潤が最大化すると考える。
数式っぽく考えると「0円」=「1台追加で販売したときの収入」-「1台追加で生産したときに費用」のとき利潤最大化が実現すると考える。
この2つを理解する
- 限界収入(MR)
- 限界費用(MC)
限界費用(MC)と限界収入(MR)
- 限界収入(MR)は、商品を1つ売ったときに発生する収入の増加分。
- 限界費用(MC)は、商品を1つ生産するときに発生する費用の増加分。
経済学で登場する「限界」は、「1つ(1単位)変化すると、どうなるか?」という意味合いがある。
先ほど「1台追加で販売したときの収入」「1台追加で生産したときの費用」と表現していましたが、経済学では、この2つを下記のように表現します。
- 「1台追加で販売したときの収入」=限界収入(MR)
- 「1台追加で生産したときの費用」=限界費用(MC)
ここで
- 「0円」=「1台追加で販売したときの収入」-「1台追加で生産したときに費用」
この式を限界収入(MR)・限界費用(MC)に置きかえる
- 「0円」=「限界収入」-「限界費用」
ポイント
式を変形すると「限界費用(MC)=限界収入(MR)」となります。これが利潤最大化条件となります(これを満たせば利潤最大化する)。
※これ以上車を作っても利益が出せない状態を数式で表していることになります。
数学的に考える
- 先ほどと同じく下の式から考えます
利潤が最大化するのは「利潤=総収入(TR)-総費用(TC)」が一番大きくなる時です。
先ほど記載した通り「1個追加で生産販売したときの利潤が0円になるまで作り続ければ、利潤が最大化する」と考えます。ここで「利潤=総収入(TR)-総費用(TC)」から、この条件を計算します。
最初の式をそれぞれ生産量で微分する
「利潤=総収入(TR)-総費用(TC)」を微分する・・
- 利潤(π)’=1個追加で生産販売したときの利潤
- 総収入(TR)’= 1個追加したときの収入=限界収入(MR)
- 総費用(MC)’=1個追加したときの費用=限界費用(MC)
1個追加で生産販売したときの利潤=限界収入(MR)-限界費用(MC)
さらに詳しく
数学的に言えば、微分は「微小の変化に対して関数がどのような動きをするか」を計算している。
なので「利潤=総収入(TR)-総費用(TC)」の式を微分することで「1個追加で生産販売したときの利潤」「1個追加したときの収入・費用(限界収入・限界費用)」が求められる、という理屈です。
つまり
- 0円=限界収入(MR)-限界費用(MC)
- 限界費用(MC)=限界収入(MR)
微分の話が分からない場合は練習問題を解くことで慣れていきましょう。ここでは「限界費用(MC)=限界収入(MR)」で利潤最大化する、ということを理解すればOKです。
というわけで、次に独占市場で「限界費用(MC)=限界収入(MR)」を満たして利潤最大化するとき、どのように生産量と価格が決まるのかを考えます。
独占市場の生産量・価格の決まり方
「限界費用(MC)=限界収入(MR)」で利潤が最大化することが分かれば、どれくらいの生産量で価格はいくらになるかを考えます。
ここで
独占市場では限界収入曲線(MR)と限界費用曲線(MC)は上記のように描けます。
利潤最大化条件「限界費用(MC)=限界収入(MR)」より
「限界費用(MC)=限界収入(MR)」となる場所(交点)で生産量(Q1)が決まります。これが独占市場で利潤最大化するときの生産量となります。
価格の決まり方は間違いやすいので気を付ける
独占企業は「プライスメイカー(価格決定者)」なので「生産量⇒価格」となるようにグラフを見ていきます(知っておくこと①を参照する)。
ポイント
「限界費用(MC)=限界収入(MR)」となるように生産量を決めます(①)。そのまま、需要曲線(D)が伸びているところまで線を伸ばし、ぶつかるところで価格が決まります(②)。
気を付ける
限界費用(MC)=限界収入(MR)で利潤が最大化しますが、価格は限界費用(MC)と限界収入(MR)の交点ではありません。
この間違いは定番中の定番です。 「限界費用(MC)=限界収入(MR)」は、あくまで企業側の話です。必ず需要曲線とぶつかるところ(需要があるところ)で価格を決めるようにしましょう。
独占市場の余剰分析と独占利潤
独占市場の余剰と独占利潤を見ていきます。独占市場ではグラフのように生産量(Q1)と価格(P1)が決まるので、それを前提に考えていきます(戻って確認する)。
最初に余剰を見て、最後に独占利潤を考えます。
はじめに
独占市場の生産量(Q1)と価格(P1)を決定するときに重要となった限界収入曲線(MR)は、余剰分析では必要ないので灰色にしました。代わりに需要曲線(D)に注目します。
ここで
完全競争市場なら、需要曲線(D)と限界費用曲線(MC)の交点で市場価格と生産量が決まる
完全競争市場なら、価格(P2)と生産量(Q2)で市場価格と生産量が決まります。独占市場は生産量(Q1)と価格(P1)です。
独占市場では、矢印の通り「生産量は減少」して「価格が高止まり」していることが分かります。つまり、完全競争市場が最も効率的な状態と考えると矢印の分だけ市場が非効率的になっていることが分かります。
つまり
点A・点B・点Cに囲まれた赤い三角形が、独占市場によって市場が非効率的になった部分(死荷重)となります。
次に
- 消費者余剰を考える
消費者余剰は簡単です。まずは価格(P1)と需要曲線(D)に注目します。
価格(P1)よりも高いところにある需要曲線(D)は得した人の集まりです
本当なら150円でも欲しいと思っていたのに、独占価格(P1)が100円なら50円分も得した気分になります。つまり、このお得感の集まりが消費者余剰です。
グラフでは、価格(P1)・点A・点Dの三角形部分が消費者余剰です。
最後に
残りの「価格(P1)・点A・点C・0」の四角形部分は、すべて生産者余剰になります。
念のため、少し詳しく書きます。
- 価格(P1)で販売するので「P1・点A」
- 生産量は(Q1)なので「点A・Q1」
この2つに囲まれた部分が生産者の総収入になります。
- しかし「限界費用(MC)」があるので「0・点C・生産量(Q1)」の三角形部分は余剰から差し引きます。
最後に残る「価格(P1)・点A・点C・0」の四角形部分が生産者余剰となります。
まとめ
独占利潤
- 最後に独占企業が実際に得る利潤について考えます
生産者余剰と独占利潤は異なる考えなので注意する。
はじめに独占利潤を見てから、最後に生産者余剰との違いについてまとめます。
余剰と同じく、独占市場では上記のグラフのように生産量(Q1)と価格(P1)が決まることを前提に考えていきます(戻って確認する)。
ここで
- 平均費用曲線(AC)を加える
ここからは限界費用曲線(MC)と平均費用曲線(AC)があればいいので、限界収入曲線(MR)と需要曲線(D)は灰色にしています。
ポイント
独占利潤を理解するために「限界費用曲線(MC)」と「平均費用曲線(AC)」の違いを抑える。
- 限界費用(MC)=商品を1つ生産するときに発生する費用の増加分
- 平均費用(AC)=「総費用÷生産量」
例えば、100万円で100個生産したとき
●平均費用(AC)は「100万円÷100個=1万円」です。しかし、限界費用(MC)はこの情報では求められません。もし、101個目を生産したときに2万円かかったのなら101個目の限界費用が「2万円」となります。
2つは違うことを言っているので違いを理解しましょう。また、2つの違いを理解するうえで決定的に異なる部分があるので、独占利潤を見たあとにまとめます。
続き
- 平均費用(AC)=「総費用÷生産量」
式を変形すると「総費用=平均費用(AC)×生産量」となる
グラフで考えると「AC・Q1」で囲まれたピンク色の四角形部分が総費用になる。
さらに生産者の総収入を考える
価格(P1)で(Q1)だけ生産販売すると考えると「P1・Q1」の部分が総収入となる。
以上より
・総収入=「P1・Q1」の部分
・総費用=「AC・Q1」の部分
差し引きすると独占利潤になる
四角形「P1・点A・点F・AC」に囲まれた部分が独占利潤となる。
生産者余剰と独占利潤の違い
固定費用を考えるか、考えないか
- 生産者余剰=固定費用を考えない
- 独占利潤=固定費用を含めている
ここで重要になるのは「限界費用曲線(MC)」は固定費用を考えていない点です。
固定費用(Fixed Cost)は生産量に関わらず固定的に発生する費用のことです。例えば工場の家賃です。家賃は生産量が0だろうと1億だろう、同じ金額発生します。このような費用を固定費用(FC)と呼びます。
例えば
- 工場の家賃が100万円かかる
このとき、商品を1個生産するのに1万円かかった場合、限界費用(MC)は1万円です。なぜなら「0台→1台」と生産を1つ増やしたときに発生した費用が1万円だからです。
つまり、生産量が0のときに既に発生していた家賃100万円(=固定費用)が限界費用(MC)に含まれることはない。
平均費用(AC)なら
- 家賃=100万円
- 追加コスト=1万円
100万円+1万円=101万円
101万円÷1個=101万円
平均費用(AC)を計算するときは総費用(TC)を生産量で割るので、固定費用(AC)も考慮した金額が求まります。
まとめ
- 限界費用(MC)には固定費用が含まれていないため「生産者余剰では固定費用が考慮されていない」
- 平均費用(AC)は固定費用を含んでいるため「独占利潤は固定費用を含めた、独占企業の実際の取り分」を表している。
「独占市場の利潤最大化」の基本はこれで以上です。最後に計算問題を載せます。
計算問題
いま、プライスメイカーの企業の費用関数が「C=12y+10(※y=生産量を表す)」であり、市場の需要曲線が「D=20-P」で表されるとき、次の問いに答えよ。
- この企業の利潤が最大化するとき、利潤はいくらになるか
- 上記のとき、生産量と価格はいくらになるか
- 上記のとき、生産者余剰と死荷重はいくらになるか
ポイント
「プライスメイカーの企業」と書かれていたら独占市場の企業だと理解する。ちなみに「プライステーカーの企業」と書かれていたら完全競争市場の企業となる。
はじめに
どう計算してもよいですが需要曲線(D)を逆需要関数「P=~」の形にします。
- D=20-P
- P=20-D
ここで、市場では「需要(D)」と「生産量(y)」は一致したところで生産量と価格が決まるため「D=y」と考える
よって「P=20-y」
次に
限界収入(MR)と限界費用(MC)を求める
限界収入(MR)は、逆需要曲線の傾きを2倍すればOK
この話は「限界収入」の最後段落(独占市場の場合~)で確認できます。
限界費用(MC)は、費用関数を生産量(y)で微分する
- C=12y+10
- MC=12
微分は、1つの変化に対して関数がどのような動きをするかを計算している。限界費用は「生産(y)が1単位増えたときの費用の増加分」を表すので費用関数を生産量(y)で微分すれば求まる。
また、微分は乗数を1減らして手前に持ってくるだけ。生産量(y)で微分するので「y」の乗数を減らします。また「y」がついていない部分は無視します。
「12y+10」なら「12y」の乗数を減らして手前に持ってきます。12yを「yの1乗」と考えて「1×12×yの0乗」とします。0乗=1なので「12」となり、10はyがついていないので無視します。
以上より
独占市場の利潤最大化条件「MC=MR」より
- 限界収入=20-2y
- 限界費用=12
20-2y=12
2y=8
y=4
生産量が「4」と分かったので需要関数(D)に代入する
P=20-y
P=20-4
P=16
企業の総収入と総費用を求める
- 生産したものを全て販売すると考えて「価格16×生産量4=64」
- 総費用は費用関数「12y+10」に「生産量4」を代入して「12×4+10=58」
利潤(π)=総収入64-総費用58=6
以上より
利潤最大化時の利潤は「6」
そのときの生産量は「4」/価格は「16」
また生産者余剰と死荷重は
グラフより
- 消費者余剰=(20-16)×4×1/2=8
- 生産者余剰=(16-12)×4=16
限界費用(12)=需要曲線(20-y)より「y=20-12=8」
- 死荷重=(8-4)×(16-12)×1/2=8
生産者余剰は「16」
死荷重は「8」