森嶋通夫という経済学者を知っていますか?
日本人でノーベル経済学賞の受賞候補に上がっていたと言われるほど優秀な経済学者でした (日本人のノーベル経済学受賞者は未だにいません)。
「なぜ日本が没落するか?」
彼の著書を参考に、今後の日本が没落する理由を紐解いていきます。
なぜ日本は没落するか?
1998年に掛かれたこの本 (出版は1999年)。
正直20年以上も前に掛かれた内容とは思えないです。
一部に首をかしげる話がありますが、日本人なら考えるべき内容です。
ポイント
『なぜ日本は没落するのか?』では、日本の経済を支える人々の価値観・行動をもとに、2050年の日本はどんな状態になっているか?を鋭く考察しています。
例えば
今から30年後を予想するなら、今の10代~20代の価値観を分析します。
理由は、30年後に日本のリーダー的な立ち位置(会社の偉い人など)にいる人は、今の10代~20代だからです。
なので
今の10代~20代が将来どんな世界を作りそうかを考えるのが重要。
この分析をしていくと、「日本が没落する理由」と「日本が発展した理由」というのは紙一重だということが分かります。
日本が繁栄した要因が、なんと没落の原因に繋がるのです。
というわけで
日本が没落する理由を説明する前に、そもそも「なぜ日本は成長できたのか?」を話していきます。
なぜ日本は経済的に発展できたのか?
話は第二次世界大戦まで遡ります。
戦争をしていた時の日本人は「天皇」に忠誠を誓って戦う。
この価値観で行動してきましたが、戦争に負けて天皇に忠誠を誓う生き方は出来なくなりました。
戦後は・・?
戦争が終ってからは、みんなが復興を目標に動き出します。そこで徐々に頭角を現したのが会社です。
いままで「天皇に忠誠を誓う」という価値観だったけど、時代が変わるにつれて「天皇」の部分が「会社」にすり替わります。
ポイント
「天皇に忠誠を誓う」が「会社に忠誠を誓う」という価値観へ移った。
そして
上記の価値観をもとに「天皇に忠誠を誓って戦争で戦う」という行動が「会社に忠誠を誓って働く」という行動に移っていきます。
戦後まもなく、日本は経済発展の時代を迎えます。
会社のために懸命に働いてくれる労働者がたくさんいる日本では、経済発展のスピードも一気に加速しました。
経済発展期の日本にとっては、こうした価値観の移り変わりはとっても有効に働いたわけです。
そして
この価値観の移り変わりが「日本が没落する理由」に繋がります。
日本が没落する理由
「会社に忠誠を誓って働く」という行動は日本経済には良く働きました。
注意ポイント
しかし、時代が変わり、世代が変わると、この価値観のせいで社会が停滞し始めます。
大問題
1990年くらいになると、社会で働き始める人の価値観が今までと変わり始めました。
若者
会社に忠誠を誓うって・・
いままで当たり前だった「一生懸命に同じ会社で働き続ける」みたいな価値観が徐々に受け入れられなくなってきたのです。
まず
なぜ価値観が変わってきたのかと言うと、学校でそういう教育を受けたからです。
ちなみにゆとり教育がどうとかではありません。
戦争に負けた後、学校の教育はこんな風に変わってきました。
学校
みんな自分の考えをもって、好きなように生きてね。大切なのは個性だよ。
ポイント
戦争が終わった後の世代は徐々にこうした教育(欧米風の考え方)を受けてきた。
ただし
1970年~80年前半までは「昔の価値観」を知って育ってきた人が多かったです。
というのも 親の世代が古い価値観の人が多くて「家では昔の価値観」「学校では自由主義」みたいな二刀流として育てられてきた人が多数でした。
二刀流で育ってきた人が多かったため、あまり「会社に忠誠とかダサい」という価値観は主流になりませんでした。
しかし
1990年くらいになると、家庭教育で「古臭い価値観」で育ってきた人が減ります。
2000年にはさらに減って2010年にはさらに減って・・、という風に価値観が移ろったというわけです。
若者の価値観が変わる一方で、日本の社会では相変わらず「上の人に従って、会社のために働け!」「上下関係は絶対まもれ!」という感じです。
ココがポイント
若者の価値観は変化しているのに、日本社会の価値観は古臭いまま。
ここで「若者の価値観」と「日本の社会・会社の価値観」に差が出てきます。
この状態を森嶋通夫は著書の中でこう表現しています。
学校教育を終えた青年は、大人の社会の入り口で戸惑い、失望した。
学校でさんざん「自分が大事」「個性を大切に」という風に習ってきたのに、会社では、そんなことは要求されなかったのです。
「若者にこうしたチグハグな教育をしているようでは将来は危うい」というのが彼の意見ではないでしょうか?
そして、将来の日本を担うのはその若者です。
若者はこうした現実に非常に冷めた目線を向けています。学校で綺麗ごとを習わされて、冷めた目で世の中を見る若者が、将来の日本を担います。
この現実に対して森嶋通夫はこう言っています。
現在の日本では彼らに正しい教育を施してない。これではちゃんとした人間が育たず、ちゃんとした人間がリードしていかない日本は没落するのが当たり前である。
森嶋は若者批判をしているのではなく、教育体制や社会のありかたを批判しています。
ほかにもこんなことが
- 経済が下降している中で、政治家が適切な政策を打ち出す必要があるがそんな政治家はいない
- 日本経済がどうなろうと国民は興味はないし無関心
- 不景気になって日本を褒めるような論調が増える
20年前にこうした鋭い視点で日本の将来を考えていた人物がいたわけです。
日本経済の行く末は・・?
2020年 オリンピック後の日本経済は・・?
東京オリンピック(五輪)が決まってからの日本経済は、好景気に突入しました。しかしその効果は長くは続きません。人口も下降を初めて、国内の経済も縮んでいきます。
国内経済がだめなら、何か施策を打たないといけませんが・・。
- 経済が下降している中で、政治家が適切な政策を打ち出す必要があるがそんな政治家はいない
- 日本経済がどうなろうと国民は興味はないし無関心
- 不景気になって日本を褒めるような論調が増える
政治が悪いから国民が無気力であり、国民が無気力だから政治は悪いままでおれる。こういう状態は、今後50年近くは確実に続くであろう。
少子化対策や、オリンピック後の日本経済をどうするのか?
日本の政治家は将来を示す必要がありますが、これといった見通しはありません。
そのことから私たちが引き出さねばならない結論は、残念ながら、日本の没落である。政治が貧困であるということは日本経済が経済外的利益を受けないということである。
アジアで大した重要ではない国になる可能性がある日本が、今後どうなるのか?
あまり楽観はできないのかもしれません。
森嶋通夫の本は大学で経済を勉強した人なら手に取ってもらいたいです。(東アジア共同体の話は除きますが・・。)
変なビジネス書を読むくらいなら、この1冊を手に取ってほしい、そんな1冊です。