負の外部性(外部不経済)の解決策として有名なピグー税
- ピグー税の概要
- 具体的な例
- 問題点
ピグー税について具体的な例も紹介しつつ、分かりやすく解説!
負の外部性の解決策「ピグー税」とは?
ピグー税とは
負の外部性(外部不経済)が発生している場合に、生産者へ負担させる費用・税金のこと。
この費用・税金の金額は、私的費用と社会費用の差額分となる。
ピグー税を知るには、負の外部性を知っている必要がある
ピグー税は、負の外部性(外部不経済)の延長線の話です。ということで、負の外部性(外部不経済)から解説していきます。
代表的な例
- 公害
公害とは、企業の活動による騒音・煤煙(ばいえん)・廃液・廃棄物、地下水の大量採取から起こる地盤沈下などが原因で、一般住民の生活に及ぶ害のこと。
企業は、利益を出すために様々な生産活動を行います。
その過程で、環境に悪影響を与えるなどして、生活環境を破壊することがあります。生活環境を破壊されて困るのは、その企業とは関係のない一般の人々です。
こうした企業は、一般の人々に外部不経済(負の外部性)を与えている
問題点
- 「負の外部性」があるものは、供給が過剰になる(傾向がある)。
ココがポイント
公害により、健康を害した人は病院に通うなど、余計に費用を支払うことになります。公害を引き起こした企業は、病院代を負担することはありません。
その結果
社会全体で考えたコストよりも安い費用で企業が生産を行うため、生産が過剰になります。
本当なら病院代などのコストも企業が負担すべきなのに、負担していないため、割安で生産が行われている状態。
グラフで書くと・・
この時、社会的限界費用 (SMC)の「負の外部性で第3者が負担するコスト」は市場では無視されています。(先ほどの例なら病院代など)
公害により悪い影響を与えて余計に費用が発生してるはずです。しかし、企業がそれを無視した生産活動を行うことに「負の外部性」の問題点があります。
ポイント
「負の外部性」では、「公害などで社会が被った損失」は市場で無視されている。その損失を「費用として企業側に認識させて、企業に負担させる」ことが重要になります。
この時、「市場で無視されている損失を費用として認識させること」を内部化と呼び、「企業に負担させる費用」をピグー税と呼びます。
※つまりピグー税は内部化の方法の1つ。
グラフで見ると
ここまで抑えれば、ピグー税の問題でつまずくことは少なくなるはずです。
さらに詳しく
経済学の専門用語を使えばこんな説明になります。
ピグー税は、社会的限界費用と私的限界費用の差額を税額とした生産物課税である。
外部不経済(負の外部性)では、社会的限界費用が市場では評価されていないため、財の供給が過剰になる。この問題を解決するために、私的限界費用と社会的限界費用を一致させる必要があるが、その手段としてピグー税が用いられる。
ピグー税の具体例
ピグー税について簡単に解説してきましたが、具体的な例も紹介します。
ココに注意
後ほど紹介しますが、現実世界でピグー税を実施するのは困難です。そのため、定義の通りピグー税を導入できているケースはほぼありません。そのため、ピグー税っぽい例を紹介します。
ピグー税的な例
- ガソリン税
- 自動車グリーン税制
- 産業廃棄物税
- たばこ税
- 混雑税
ガソリン税・自動車グリーン税制
ガソリン税
車のガソリン等に課される税金のこと。正式には「揮発油税及び地方揮発油税」という。
自動車はガソリンを使って動きますが、その際に排気ガスなどを排出します。ガソリンに課税することで、自動車の運転距離を抑えて、排気ガスの排出を抑制する可能性があります。
日本のガソリン税は道路の修繕を行うための財源として生まれました。そのため「負の外部性」を抑えるという趣旨は本来ならありません。
自動車グリーン税制
自動車税について、環境負荷の小さい自動車には軽い負担、環境負荷の大きい自動車には
重い負担を課す税政策の総称。
一般的には「エコカー減税」などと言われている。
こちらも、燃費効率が悪い車に重い税金を貸すことで、燃費のいい車の購入をうながすという趣旨で考えれば、ピグー税的な側面があります。
エコカー減税は、燃費の悪い車の登録数を減少させることができたので、一定の効果があったと言われています。
『環境税の位置付け - 環境省』より
産業廃棄物税
産業廃棄物税
産業廃棄物に応じて課税される税金。通称「産廃税」
産業廃棄物の排出抑制、減量化、リサイクルの向上を目的として導入されています。
(「産廃.com」より)
産廃税はイメージの通りの税金です。産業廃棄物の排出量を抑えるという目的もあり、ピグー税的な意味合いも強いです。
しかし、現実には完ぺきなピグー税とは言えません
ココに注意
税金が課されることで、不法投棄を行うインセンティブが働く。
税金を支払うのが嫌な人が、不法投棄をするリスクが生まれています。
さらに、税額自体もそこまで高くないため、企業側が排出を抑制しようとするインセンティブが少なくなります。
ここにも注目
お金を支払っているから、産廃をたくさん出しても問題ないという誤った認識につながる。行動経済学では、このような「金を払えば、何をしてもよい」という考えが広がる現象を指摘しています。
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たばこ税
たばこ税
タバコに対しての税金。
タバコは、本人の体に悪影響を及ぼすだけではなく、副流煙による被害もあります。
しかし
タバコ税自体に、副流煙を抑えるために税金を課しているという意味合いはほぼありません。
タバコなどは、一度吸い出すと簡単には止められないため、税額をいくら高くしても、効果があまりありません。
混雑税
混雑税
高速道路や電車など、混雑時には高い料金を課す制度。
英国ロンドンでは、渋滞税として導入されている。
2019年には米国ニューヨーク市で混雑税が導入されるなど、混雑に対してお金を徴収する動きが活発です。今のところ、日本では混雑税の導入はありません。
問題点
一見すると、いい方法のように見えますが課題がたくさんあります。
まずは、導入にあたり、システムの改修などの費用が莫大にかかることが言われています。他にも、いくら混雑税を課しても、他に移動手段がなければ渋滞や混雑は緩和されないというものです。
そのため、本来の意味合いでピグー税を課すことは難しいのです。
ピグー税の問題点
ピグー税の例を紹介してきましたが、どれもピグー税の本来の趣旨とは異なっていることが分かります。
どうしてピグー税を導入するのが難しいのでしょうか
ピグー税を導入するには、前提条件があります。
注意ポイント
ピグー税は、私的限界費用と社会的限界費用の差額分を課税する。
しかし、現実にこの金額を算定するのは困難である。
他にも
産業廃棄物税など、ピグー税に見えるものも、現実には財源を確保するための手段として利用されています。
このように、ピグー税は良い解決策として見えるかもしれませんが、現実世界で導入するのは実質的には難しいというわけです。