独占企業は、市場価格を受け入れる必要がない「プライスメイカー(価格決定者)」であるため、独自の価格戦略を取ることが可能です。
- 独占企業の価格差別
- 第1種(完全価格差別)
- 第2種(数量割引・二部料金・抱き合わせ)
- 第3種(市場分割)
- 計算問題の解き方
初学者向けに代表的な独占企業の価格戦略をまとめています。
独占企業の価格差別
はてな
独占企業は市場価格を受け入れる必要がないため、独自の価格戦略を取ることが出来る。そのような独占企業の価格戦略を「価格差別(差別価格戦略)」と呼ぶ。
価格差別は「消費者の性質や条件に応じて、同じ商品・サービスを異なる価格で販売する戦略のこと」を言い、第1種価格差別から第3種価格差別までがある。
独占企業は、市場競争をしないで済むため価格も自由に設定することが出来ます。この特徴から独占企業を「プライスメイカー(価格決定者)」などと呼びます。
この特徴を生かして、独占企業はさらなる利潤を求めて価格戦略を実行することがあります。
ポイント
独占企業が価格差別戦略を実施すると、実施前に比べて利潤を拡大できる。
独占企業は何でもありだね。
うん。だからこそ独占禁止法が世界中にあるんだよ(余談)
ちなみに
独占企業が価格差別戦略を取るためには、次の条件を満たしている必要があります。
条件
- 転売できない(転売ヤーが存在しない)
- 市場支配力がある(市場価格よりも有利な価格設定や取引条件が設定できる)
2はイメージできると思いますが、1については簡単に補足します。
- 転売ヤーが買い占める ⇒もともと欲しかった人が買えない
- 転売ヤーが高値で売る ⇒安い価格で買いたい人が買えない
こんな感じで、独占企業が価格差別戦略を取っても、転売ヤーが乱立すると市場が歪んで独占企業が得られるはずの利潤が得られなくなります。ようは、せっかく価格差別戦略を取っているのに、転売ヤーが買い占めて高値で売るので価格差別もクソもない。
市場を独占する企業にも影響を与えるとは、、転売ヤー恐るべし
転売ヤー、ダメ絶対。
第一種価格差別(完全価格差別)
はてな
消費者の支払意欲額(その商品に支払っても良いと考える金額)に等しい金額を販売価格とする価格差別のこと。「第一級価格差別」や「第一次価格戦略」と呼ばれることもある。
例えば
企業がコーヒーを売るとき、第1種価格差別(完全価格差別)を実施します。また、A~Cさんはコーヒーに対して、次の金額を支払っても良いと考えています。
- Aさん「100円」
- Bさん「70円」
- Cさん「50円」
A~Cさんが支払っても良いと考えている金額(支払意思額)でコーヒーを販売します。企業は「販売価格(P)-限界費用(MC)=利益」なので、赤い矢印部分が企業の利益を表します。
まるで理想の世界だね。
うん。理想の世界が実現すると経済学的にはどんなことが言えるのかを確認しよう。
ポイント
第1種価格差別(完全価格差別)が実現すると、独占市場による非効率さ(死荷重)がなくなり、総余剰が最大化する。
もしも
コーヒー1杯を100円で販売していたら‥?
Bさん・Cさんはコーヒーを購入しません。赤い三角部分だけ企業は利益を出し損なう(経済全体で考えると死荷重が発生している)。限界費用よりも高い価格で売れば企業は利益が出るので、Bさんには70円・Cさんには50円でコーヒーを売っていれば企業は利益を出していた。
ここで
価格100円以上でコーヒーを買っても良いと思っていた人がいたとします。
企業はもっと高い価格でもコーヒーを売れていたはずなので損をしている。ただし、先ほどと違い、一部の消費者が支払意思額よりも安い価格でコーヒーを購入できているので消費者は得をしています(消費者余剰になる)。
以上より
価格差別を行わずに、一定の価格だけでコーヒーを販売すると独占企業は損をする(逆に言えば価格差別をすれば利益が最大化する)
「第1種価格差別(完全価格差別)」を実現したときの総余剰
すべての消費者の支払意思額と同価格で財を販売できれば、独占企業の利潤は最大化する。経済全体の総余剰は最大化するが、余剰はすべて独占企業に帰属する(生産者余剰となる)ことに注意する。
ここまで「第1種価格差別(完全価格差別)が実現したら」という話をしてきましたが
もちろん現実では無理ってオチが付くんだね。
その通りです・・。
第一種価格差別(完全価格差別)が実現すれば、市場の非効率性を打ち消す効果があるが、現実的には実現が不可能である。
⇒企業が、消費者の支払意志額を正確に把握することなんて出来ません。なので、第一種価格差別(完全価格差別)は、実現不可能と考えるのが一般的です。
現実と折り合いをつけるのって難しいよね。
そういうわけで、第二種価格差別を見ていこう!
第二種価格差別(第二次価格戦略)
はてな
その商品・サービスの消費量に応じて異なる販売価格を設定する価格差別のこと。「第二級価格差別」や「第二次価格戦略」と呼ばれることもある。
第1種価格差別(完全価格差別)とは違って、第2種価格差別は大きく3つの種類があります。
- 数量割引
- 抱き合わせ
- 二部料金制
ここからは日常生活でも見かける価格差別の話だね。
うん。まずは特徴を知っておこう!
ポイント
第2種価格差別は、企業は、価格や数量の組合せが異なる複数のメニューを提示して、消費者に自己選択してもらうのが大きな特徴。企業が消費者の性質・嗜好を見分けるのが難しいときに用いられる。
ちなみに、第2種価格差別では消費者が自己選択できるが、第3種価格差別は企業側が線引きする点が異なる。
教科書では「自己選択」という単語が登場しますが、消費者が自分で好きな選択肢を選べるような価格差別のことです。
ここだけ読んでも分かりづらいと思うので、3つの価格差別を順番に見ていきましょう!
数量割引(大量購入の割引)
はてな
その商品・サービスをある一定量を超えて購入するときに、割引を適用させる価格差別。
例えば
- 2個以上で10%割引(まとめ買いがお得系の割引)
- おかわり2杯目から20%OFF(喫茶店とかジーンズであるやつ)
- 回数券(銭湯・飲食店など普通に買うよりも安くなっている)
ポイント
需要の価格弾力性の高い消費者の消費量が増えるため、独占企業の利益を拡大させることが出来る。
価格弾力性と需要曲線の関係
- 価格弾力性が高いと需要曲線が水平に(横に平べったく)なります
- 価格弾力性が低いと需要曲線は垂直になります
例えば
アウトレットのファッション店を考える。
- ジーンズ1枚=1,000円
- ジーンズ2枚以上買うと10%引き
この情報から2つのことが分かります。
「需要の価格弾力性」が
- 低い人は、不必要に2枚目を買ったりはしない
- 高い人は、値引きにひかれて2枚目を買う可能性が高い
なぜ「需要の価格弾力性が低い人」は2枚目を買わないのか
ジーンズ1枚買ったときの消費者余剰は黄色部分です。
もしも2枚目を買ったら
ジーンズ2枚目を買うことで黄色部分が増えますが、赤色部分が登場します。この赤色部分は、本来の需要よりも多く消費してしまったため、消費者余剰をマイナスにする部分です。現実で考えれば「ジーンズ2枚も要らなかったな‥」という感じ。
以上より
2枚目のジーンズを買うことで10%割引になっても、「需要の価格弾力性が低い人」は消費者余剰が減少してしまうので2枚目のジーンズは購入しない。
次に
独占企業の利潤がどれくらい増えるかを考えます
左側には価格弾力性が低い人の需要曲線、右側には価格弾力性が高い人の需要曲線を描きます。先ほど書いた通り、価格弾力性が低い人はジーンズの購入量は1枚(Q1)で1000円のままです。価格弾力性が高い人は値引きにつられて2枚以上買うと考えて10%引きの900円と考えています。1つのグラフにまとめると分かりづらくなるので左右対称のグラフで両者の比較を行っています。
余剰は・・
- 黄色部分=消費者余剰(CS)
- 青色部分=生産者余剰(CS)
- 赤色部分=死荷重(社会的損失)
これと数量割引しない時を比べるのかな?
その通りです!
もしも
数量割引をしなかったら・・
価格差別(数量割引)をしないと‥
- 消費者余剰(CS):減少▲
- 生産者余剰(CS):減少▲
- 死荷重:増加⇧
価格弾力性が高い人の消費量が「Q2」⇒「Q3」へ減少するため消費者余剰(CS)が減少&死荷重が増加します。グラフの作り方が微妙だったかもしれませんが、数量割引をしないと生産者余剰は減少します。
ポイント
数量割引で生産者余剰(PS)がどれくらい増減するかは、割引に釣られる消費者(価格弾力性が高い人)がどれくらい価格変化に敏感なのかに影響します。価格弾力性が高い消費者がいるほど、数量割引によって生産者余剰(独占企業の利益)が大きくなる。
⇒ 現実で考えると、価格変化に敏感な消費者(価格弾力性が高い消費者)なら、少しの割引でも敏感に反応して大量購入してくれるので独占企業の利益もたくさん増える。なので、消費者の価格弾力性が高いほど生産者は数量割引をするメリットがある。
数量割引で企業がどれくらい得するかは、消費者次第なところがあるってことだね。
うん、とりあえず、数量割引をすると独占企業は利益を増やせることをイメージ出来ればOKです。
少し細かいですが、数量割引にも種類があります。
「2個以上で~○○%割引(階梯法)」「2個目からは~○○%割引(累加法)」などは非累積的数量割引と呼ばれます(1回の取引数量を基準に割引を実施する)。
逆に「回数券」などは累積的数量割引と言います(ある期間内での取引数量を基準に割引を実施する)。ジーンズの例は非累積的数量割引(階梯法)です。
抱き合わせ(セット販売)
はてな
ある財・サービスを販売するとき、補完的な財・サービスも一緒に販売することを抱き合わせ(販売)と呼ぶ。
一般的には「売れない商品」を処分するために、売れる商品とセットで販売することも抱き合わせと呼びますが、ここでは売れない商品を処分するのではなく、補完的な財を販売することを目的にしたセット販売を考えます。ちなみに「売れない商品」を抱き合わせ販売すると独占禁止法違反になる恐れがあります。
例えば
- ゲーム機とゲームソフト
- スマホと端末保障サービス
- 機械と保守サービス(メンテナンス)
ポイント
抱き合わせで販売することで、需要の取りこぼしを防ぎ、独占企業の利益を拡大させることが出来る(ただし、消費者余剰が増加するかは場合による)。
企業は得するからセット販売しているんだろうけど、消費者は得しないこともあるの?
うん。グラフを使って考えていこう。
はじめに
(単純なケース)鉛筆を消しゴムを販売します。
えんぴつ | 消しゴム | |
Aさんの支払意思額 | 110円 | 90円 |
Bさんの支払意思額 | 90円 | 110円 |
企業は「鉛筆100円」「消しゴム100円」で販売する。
(えんぴつ)
(消しゴム)
Aさんは消しゴムを、Bさんは鉛筆を購入しません。
- Aさんは110円支払うつもりの鉛筆を100円で購入できるので=10円得する
- Bさんは110円支払うつもりの消しゴムを100円で購入できるので=10円得する
- 企業は100円+100円=200円の利益
話を分かりやすくするため限界費用(MC)は考えない。
ここで
企業は、鉛筆と消しゴムをセットにして200円で販売します。
AさんとBさんの支払意思額を足すと‥
えんぴつ | 消しゴム | 鉛筆と消しゴム | |
Aさんの支払意思額 | 110円 | 90円 | 200円 |
Bさんの支払意思額 | 90円 | 110円 | 200円 |
鉛筆と消しゴムをセットで買うなら200円支払っても大丈夫になります。
グラフで見ると
Aさん・Bさんは鉛筆と消しゴムの両方を購入する。
- 2人とも200円支払うつもりの鉛筆&消しゴムを200円で購入するので得しない
- 企業は400円の利益
抱き合わせ販売により、AさんとBさんの消費者余剰を独占企業が吸収して、なおかつ、利益を最大化させた。
企業は得するけど、消費者が必ず得をしているわけではないんだね。
うん。発展バージョンも見てみよう!
発展バージョン
抱き合わせ販売で単価を安く見せる
例えば、1個100円の商品を「3個で290円!」と売っているようなイメージ。単価で考えると1個当たり約97円になるので少し安く見えるのが特徴。
例えば
マイクロソフトのOffice(ワードとかエクセル)
ワードだけでライセンスを購入すると約1万6,000円です(エクセルも同様)。しかし、Word・Excel・Powerpointなどがセットになったパッケージを買えば約32,000円です。実際には数百円くらいパッケージの方が高いですが、PowerpointやOutlookなどのおまけがついているので、単価で考えるとお得に見えます。このように抱き合わせの価格差別により、お得感を感じさせる場合を考えます。
次のケースを考える
ある飲食店で、ハンバーガと飲み物のセットが390円で販売されていました。
それぞれ個別に買うと
- ハンバーガ1個=300円
- 飲み物1杯=100円
ここでは、セット購入すると飲み物が10円お得と考えます。ハンバーガはセットでも1個300円として考える。話を分かりやすくするため限界費用(MC)は考えない。
もともとの飲み物の余剰
- 黄色の部分=消費者余剰
- 青色の部分=生産者余剰
セット販売したとき
(消費者余剰)
(生産者余剰)
抱き合わせ販売により、単価90円になった飲み物は「Q2」まで消費される。
- 消費者余剰は、黄色三角形から、過剰に消費されるようになった部分(赤枠の黄色三角)を引きます。
- 生産者余剰は、価格90円×Q2の四角形部分です。
2つをまとめると
赤枠黄色三角形部分が生産者余剰へ変わり、消費者余剰が減少していることが分かります。何を意味しているのかと言うと「飲み物を買わないで水でも良かった消費者が、セット販売のお得感から過剰に飲み物を消費するようになってしまった ←無駄に消費した分は企業の利益になる」
消費者は養分なのか・・
ただ、これもケースバイケースだよ。
ポイント
今回は抱き合わせ販売により、消費者余剰が減少する場合を考えました。しかし、消費者余剰がどのように変化するのかは、価格設定や消費行動次第です。そもそも抱き合わせ販売で必ず過剰消費が起こるわけでもありません。
個別のケースごとに、どのような状況が考えられるかを判断しながら分析するのが好ましいです。
ここでは、抱き合わせ販売により、過剰消費されて消費者余剰が減少することもある程度に認識してもらえればOKです。
「抱き合わせ販売」は独占禁止法が適用されます。いわゆる「不公正な取引方法等の行為」に該当する恐れがある。
企業が独占的な地位を乱用して、消費者に不要な商品を販売していると考えられる(売れない商品を抱き合わせて自由な選択を妨げている)場合、独占禁止法の第19条に違反すると判断されます。
違反しないのは「①ある財と補完的な財(密接に関係している財)を一緒に販売する」場合や「②個別に販売できる選択肢が残されている」など。抱き合わせ販売で消費者余剰が生産者余剰へ吸い取られると表現しましたが、法律があるので独占企業が好き勝手できないようになっているわけです。
この記事内で紹介したのは独占禁止法に違反していない①のケースです。
二部料金制
はてな
あるサービスを利用するときに、固定料金(基本料金)と利用料に応じで料金が発生する従量料金に分ける価格設定を二部料金制という。
例えば
- スマホなどの通信費
- 居酒屋のお通しやチャージ量
- 電気料金や水道料金などの社会インフラ系
- 遊園地などで入場料を取ってからアトラクションの料金を別に取るタイプ
ポイント
二部料金制で抑えるのは2つ。
1.独占企業が利潤を最大化させるために行う価格差別の1つという側面(他の価格差別と同じ)
2.自然独占が発生したときの対策の1つとして有名(全員に固定料金を要求)
二部料金制もよく見かける価格差別だね。
うん。グラフを見ながら確認していこう!
ここからは①と②を順番に解説していきます
それでは①の説明からします。
例えば
ある温泉施設の会員制度には、次の価格設定が行われている。
- 会員:1日の利用料は500円
- 非会員:1日の利用料は1000円
- 会員になるための年会費は5000円
※施設の運営に関わる限界費用は200円とする。
この温泉に年10回以上行く人は会員になった方が得
- 会員と非会員の料金差「1000円-500円=500円」
- 年会費=5000円なので「5000円÷500円=10回」
ポイント
具体的な数字はさておき、以上の話から分かることは温泉施設にたくさん行く予定がある人は会員になるはずだということが分かります。
⇒会員になる消費者の需要曲線は、非会員の消費者の需要曲線よりも右側に位置する。
会員と非会員の需要曲線
会員になる人の方が需要曲線が大きくなる(右側に位置する)ことを前提に、二部料金制の説明を進めていきます。
二部料金制を導入した価格設定をします
右側には年会費5000円を支払って価格500円で温泉施設を利用しようとしている人の需要曲線。左側には非会員で1000円支払って温泉施設を利用しようとする人の需要曲線を描いています。1つのグラフにまとめると分かりづらくなるので左右対称のグラフで両者の比較を行っています。
余剰を確認する
はじめに固定料金を除いて考える
- 黄色部分=消費者余剰(CS)
- 青色部分=生産者余剰(CS)
- 赤色部分=死荷重(社会的損失)
ここで
グラフの右側については消費者が年会費を支払うため、年会費部分が消費者余剰→生産者余剰へと変化します。
今回は青色太枠部分が独占企業の年会費収入だったとして、消費者余剰→生産者余剰へ変化したと考えます。
最終的に
二部料金制(第二種価格差別)を導入した場合の余剰は上記の通りです。
- 黄色部分=消費者余剰(CS)
- 青色部分=生産者余剰(CS)
- 赤色部分=死荷重(社会的損失)
もしも
二部料金制を導入しなかったら
〇二部料金制を導入時
〇一律1000円の場合
- 消費者余剰(CS):変化なし
- 生産者余剰(CS):減少▲
- 死荷重:増加⇧
〇二部料金制を導入時
〇一律500円の場合
- 消費者余剰(CS):増加⇧
- 生産者余剰(CS):減少▲
- 死荷重:減少▲
ポイント
基本的には、二部料金制を導入する方が独占企業の利益(生産者余剰)は大きくなる。ただし、固定料金や従量料金の価格設定によって消費者余剰・生産者余剰・死荷重の増減は変化する。
二部料金制で独占企業は得をしているんだね。
うん。この後の計算問題で具体的な数字でも確認してみてね。
ここまで二部料金制の基本的な考え方を説明してきました。
次に
②自然独占の解決策として二部料金制が登場する場合の話をします。
自然独占が何なのかという話はここではしませんが分からない人は確認してください。⇒自然独占とは?例を交えて「市場の失敗」が起こる理由・規制方法をわかりやすく
ポイント
自然独占の場合は先ほど異なり、全ての消費者に固定料金の支払いを要求します。
グラフ
会員・非会員の話と違って、すべての消費者に固定料金を要求するため、もともと固定料金を支払うつもりの消費者しか存在しません。つまり、先ほどと違って需要曲線は1つだけで描きます。
現実の話に置き換えると、電気料金は固定費用(基本料金)がかかるけど、それを理由に電気を使わない人はいません。居酒屋もお通しやチャージ料があることを前提に行くので、お通しの有り無しを理由に居酒屋へ行くかの判断はしません(←もちろん例外はありますが大体の人はという話)。
ただし、スマホの通信料などはユーザーごとに「スマホはあまり使わないので固定料金を低くしてほしい(従量料金は高くてもいい)」「スマホで動画をたくさん見るのでデータ容量(GB)は無制限にしてほどほどの固定料金にして欲しい」など多種多様で、需要曲線が複数描けるケースもあります。ここでは扱いません。
(1)従量料金のみで考える
例えば、電気1kWh(キロワット)あたりの価格を限界費用(MC)と同じに設定します。
この段階での余剰は・・
黄色部分がすべて消費者余剰になります。
(2)従量料金のみで考える
ここで、固定料金を消費者に支払ってもらいます。先ほど書いた通り、もともと消費者は固定料金を支払う前提でサービスを使うため、需要曲線の形状が変わるとか、特別な処理は不要です。
固定料金を支払ったあとの余剰は・・
消費者余剰分の固定料金を請求できると、消費者余剰はすべて生産者余剰に変わります。ここで、消費者余剰がどれくらい生産者余剰に切り替わるかは、固定料金の設定次第です。今回は分かりやすいケースとして、たまたま、消費者余剰をすべて吸い上げる固定料金の価格設定に成功していると考えてください。
ちなみに公共料金などで固定料金を設定するとき、法律によって固定料金の基準が決まっており、グラフのように全ての消費者余剰が生産者余剰(独占企業の利益)になることは無いです。
具体的にどれくらいの固定料金を設定するのか‥?
自然独占に陥っている市場では「平均費用(AC)-限界費用(MC)」の差額を固定料金とするのが一般的とされています。
自然独占を知らないと理由が分からないと思いますので、ここでは「どれくらい固定料金を取るのか?」には、とりあえずの答えがあることだけ知っておけばOKです。詳しくはこちらで⇒自然独占とは?例を交えて「市場の失敗」が起こる理由・規制方法をわかりやすく
二部料金制って奥が深いんだね。
固定料金の金額設定は企業も悩みどころです。
第三種価格差別(第三次価格戦略)
はてな
消費者の年齢・性別・所在地・所得などの条件をもとに、消費者をグループ分け(市場を分割)して、グループごとに販売価格を設定する価格差別のこと。「第三級価格差別」や「第三次価格戦略」と呼ばれることもある。学生割引や国別(地域別)に価格を設定するなどの価格差別が当てはまる。
第3種価格差別(グループ別価格差別)の例はこんな感じです。
- 学生割引
- シニア割引
- レディースデイ
- 家族割引
- タクシーの深夜割増
- 日本と米国のマクドナルド
マクドナルドは日本と米国で価格が異なります。日本のビッグマックは約400円ですが米国では約600円です。
日常生活でも見かける価格差別の話だね。
うん。まずは特徴を知っておこう!
ポイント
第3種価格差別は、企業が消費者をグループ分けをして、グループごとに価格設定をする(消費者側はそれを受け入れる)。企業が消費者の性質をある程度見分けることが出来るときに用いられる。
ちなみに、第2種価格差別では消費者が自己選択できるが、第3種価格差別は企業側が線引きする点が異なる。
第三種価格差別について触れると必ず登場する例があるのでグラフを交えながら見ていきましょう。
例えば
映画館の一般料金と学生料金の区分け
- 一般料金:1800円
- 学生料金:1000円
ポイント
お金に余裕がある社会人と、お金に余裕がない学生の価格弾力性を考える。
第三種価格差別で重要となるのは、消費者の消費行動の違いによって、市場を分割(グループ分け)することです。
はじめに
一般に、商品の価格が変わったときに次のことが言えます。
- 学生=価格変化に敏感(需要の価格弾力性が高い)
- 社会人=あまり反応しない(需要の価格弾力性が低い)
学生は、お金に余裕がないため少しでも安く消費をおさえようとします。そのため、価格が少しでも安くなれば需要が大きく増えると考えられます。一方で社会人は、お金に余裕があるため価格が少し変わったくらいでは、学生ほどは消費行動は変わりません。
グラフで見ると
- 価格弾力性が高いと需要曲線が水平に(横に平べったく)なります
- 価格弾力性が低いと需要曲線は垂直になります。
補足
価格「P1」のとき、社会人・学生の消費量は「Q1」でした。価格が「P2」へ下落したとき、社会人(Q1→Q2)よりも学生(Q1→Q3)の消費量が大きく増えていることが分かります。
というわけで、社会人と学生の需要の価格弾力性が異なることを前提に、第三種価格差別を実施します。
市場を分割(グループ分け)して異なる価格設定をします
1つにまとめると見ずらくなるので、左右対称のグラフで描きます。たびたび登場する記載方法です。
このときの余剰は
- 黄色部分=消費者余剰(CS)
- 青色部分=生産者余剰(CS)
- 赤色部分=死荷重(社会的損失)
何となく分かりました。
市場を分割しない場合と比べてみよう!
例えば
第三種価格差別をしなかったら
価格は学生料金1000円と一般料金1800円の間をとって1500円としました。
仮に1000円に設定した場合、社会人にはもっと高い価格で販売できたはずなので独占企業は損します。
1800円に設定した場合は、学生の需要を取りこぼすので独占企業は損します。そのため、1000円や1800円という価格設定では分析せずに、あいだを取った1500円という価格なら、独占企業は得をするのか損をするのかという視点で考えてみます。
余剰は・・
価格差別をしている時と比べる
〇第三種価格差別を実施
〇価格差別をしない
価格差別をしないと
- 消費者余剰は小さくなる
- 生産者余剰は小さくなる
- 死荷重は大きくなる
ちなみに、第三種価格差別で「価格弾力性が大きい市場では安い価格」を「価格弾力性が小さい市場では高い価格」を設定するというのは、ラーナーの独占度からも同様の結論が得られます。ラーナーの独占度より、価格弾力性が小さいほど市場で独占が進んでいることが分かりますが、独占が進んでいるということは、独占企業が高い価格を設定しても需要が変わりづらいことを意味しており、第三種価格差別で「価格弾力性が小さい市場には高い価格を設定する」ことは理にかなっている(需要が変わりづらいので高い価格を設定しても問題ない)ことが分かります。
なんか凄く違いが出ているようには見えないね。
計算問題で実際の数字を確認する方が分かりやすいです。
計算問題
映画館で映画を見る需要について、学生と社会人の需要関数が次の通りだとする。
- 学生の需要関数:Da=950-0.5Pa
- 社会人の需要関数:Db=1600-0.4Pb
また、独占企業の費用関数は「C=100Q」である。
- 第三種価格差別を導入した場合の独占企業の利潤はいくらになるか
- 価格差別を実施しない場合は、独占企業の利潤はいくらになるか
- 独占企業は第三種価格差別を実施すべきか
はじめに
需要関数を「P=」の形にする(これを逆需要関数という)
- 学生の需要関数:Da=950-0.5Pa
- 社会人の需要関数:Db=1600-0.4Pb
- 学生の逆需要関数:Pa=1900-2Da
- 社会人の逆需要関数:Pb=4000-2.5Db
グラフだとこんな状態
(学生市場)
(社会人市場)
- 学生の限界収入:MR=1900-4Da
- 社会人の限界収入:MR=4000-5Db
独占市場における限界収入は、逆需要関数の傾きを2倍にすればOKです。
独占企業の限界費用:MC=100
限界費用は、費用関数を微分すればOKです。「C=100Q」なので、Qの1乗なので、1を手前に持ってきて乗数を-1する。0乗は1になるので無視する。
独占市場の利潤最大化条件「MC=MR」より
学生:100=1900-4Da
社会人:100=4000-5Db
学生:4Da=1800
社会人:5Db=3900
学生の消費量:Da=450
社会人の消費量:Db=780
計算結果を逆需要関数へ代入する
学生の逆需要関数:Pa=1900-2Da
社会人の逆需要関数:Pb=4000-2.5Db
学生:Pa=1900-2×450
社会人:Pb=4000-2.5×780
- 学生の価格:Pa=1000
- 社会人の価格:Pb=2050
グラフだとこんな状態
(学生市場)
(社会人市場)
学生市場では「価格(Pa)=1000・生産消費量(Da)=450」&社会人市場では「価格(Pa)=2050・生産消費量(Da)=780」のとき、独占企業の利潤が最大化する。
独占企業の利潤は・・
「利潤(π)=価格×生産消費量-費用(C=100Q)」より
学生市場:1000×450-100×450=405000(40万5千)
社会人市場:2050×780-100×780=1521000(152万1千)
(1)の答え:405000+1521000=1,926,000円
価格差別を撤廃すると
2パターンを考える
学生の逆需要関数「Pa=1900-2Da」より、切片の「1900」よりも価格が高いと学生は消費しなくなる。
そのため「1900≧P」「1900<P」という2パターンを考える。
はじめに
「1900≧P」だった場合、学生は消費しないので社会人のみを考えればよい。
(1)で計算した通り、価格が2050円のときに利潤が最大化する。社会人市場:2050×780-100×780=1,521,000円が独占企業の利潤になる・・①
次に
「1900<P」だった場合、独占企業の利潤が最大化する価格設定を求める。
独占企業の利潤(π)は「価格(P)×消費量(x)-費用(C)」で求められることを思い出す。
- 学生の需要関数:Da=950-0.5Pa
- 社会人の需要関数:Db=1600-0.4Pb
上記の2つの需要関数より
P×消費量(950-0.5P+1600-0.4P)-費用(100×(950-0.5P+1600-0.4P))
=-0.9Pの2乗+2550P-255,000+90P
=-0.9Pの2乗+2640P-255,000
これで「-(P- ●● )の2乗+▲▲▲」という形に持っていき
「-(P-●●)の2乗」を0にするPの値を求める
-がついているので、0のときが最大値になる。
「-(P-●●)の2乗」が0のとき
「+▲▲▲」部分を利潤と考える(「▲▲▲」が独占利潤となる)
ここで、問題の作り方が悪くて答えが綺麗に出ません。。ふつうの問題ならここからすぐに答えが出るような形になっているはずです。
- -0.9Pの2乗+2640P-255,000
- -0.9(Pの2乗-約2933P)-255,000
- -0.9(Pの2乗-2933P+2,150,622)+約1,680,560
- -0.9(P-1,466.5)の2乗+約1,680,560
P=約1466円のとき、独占企業の利潤は約1,680,560円・・②
①と②を比べる
①「1900≧P」だった場合
価格=2050円のとき
独占企業の利潤=1,521,000円
②「1900<P」だった場合
価格=約1466円のとき
独占企業の利潤=約1,680,560円
というわけで②の約1466円のとき、独占企業の利潤が最大化する。
(2)の答え:約1,680,560円
独占企業の利潤は
- 価格差別を実施したとき:1,926,000円
- 価格差別を実施しないとき:約1,680,560円
なので、価格差別を実施したほうが独占企業の利潤は大きくなる。
(3)の答え:価格差別を実施すると独占企業は利潤を増やせるため、価格差別を実施すべき。