「供給の価格弾力性」は、問題でも頻出の分野です。
- 供給の価格弾力性とは?
- 弾力的・非弾力的な状態
- 1のとき
- 水平・垂直のとき
- 価格弾力性の計算方法
供給の価格弾力性に関わる話を、このページに簡単にまとめました。
供給の価格弾力性とは
供給の価格弾力性
価格が変化するとき、どれくらい供給が変化するかを数値化したもの。
供給の価格弾力性は次の式で表されます。
供給の価格弾力性(ε)の式
供給の価格弾力性(ε)=供給の変化率(%)/価格の変化率(%)
※ε=イプシロン
η=イータ(エータ)とする場合もあります。
実際に
価格弾力性の大きさで何が変わってくるのかを見ていきます。
供給の価格弾力性は、1より大きいか、1より小さいかで分類される
ちなみに
供給の価格弾力性の大きさを決める要因
需要の弾力性では「必需品 or 贅沢品」「代替財 or 補完財」かで弾力性が変わるという特徴がありました。供給の価格弾力性でポイントになるのは「固定費用・可変費用の割合」「短期 or 長期」です。
価格が変わっても、すぐに工場を閉じたり、増設するのは難しいことから「短期→非弾力的」と考えるのが一般的です。また、長期間で考えると生産量も調整可能になることから「長期→弾力的」となる傾向があります。※固定費用・可変費用については後程説明
弾力的な状態(ε>1)
価格弾力性(ε)が1よりも大きい(ε>1)
このとき、供給は弾力的という。
※ε=イプシロン
供給の価格弾力性が「弾力的」だと次のことが言えます。
- 価格変化に対して、供給が大きく変化する
- 少しの値上がりで、一気に供給が増える
- 少しの値下がりで、一気に供給が減る
例えば
① アニメ・ドラマのグッズ
流行りのアニメ・ドラマがあると関連グッズの市場価格が上昇します。その結果、企業が関連商品を市場に大量供給し始めます。一方で、人気が過ぎると関連商品はぱたりと見なくなります。
グッズは「供給の価格弾力性が弾力的」だと言えます。
② 動画広告
Youtubeなどの動画広告は「儲かる」と考えて動画投稿を始める人(供給量)がどんどん増えています。例えば、広告の単価がどんどん下がって「儲からない」となったら動画投稿を止める人が続出するはずです。
動画広告市場は「供給の価格弾力性が弾力的」だと言えます。
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もう少し細かく話すと、固定費用が大部分を占めている(可変費用の割合が少ない)と弾力的になる傾向があります。
①の例なら、コラボグッズの多くは「フィギュア」「文房具」など、材料費も安く、既存の施設に少し手を加えればOKです。つまり、工場などの固定費が大半で、可変費用が大きくかかりません。
②なら、個人が動画投稿をするには、スマホのカメラと編集ソフトがあればOKです。つまり、本人の労働時間を除けば可変費用は皆無で、通信費(毎月定額を想定)などの固定費が大半を締めます。
つまり「固定費用の割合が大きい(可変費用の割合が小さい)」と供給の価格弾力性は、弾力的な傾向を持ちます。
※ただし、これも市場全体で見ればそういう傾向がある?程度の話です。
非弾力的な状態(ε<1)
価格弾力性(ε)が1よりも小さい(ε<1)
このとき、供給は非弾力的という。
※ε=イプシロン
供給の価格弾力性が「非弾力的」だと次のことが言えます。
- 価格変化に対して、供給があまり変化しない
- 値上げ(値下げ)しても、供給がさほど変わらない
例えば
① 農作物・家畜
農作物・家畜は、毎日手入れをしたり、エサを上げたりする必要があり、かつ成長するのに時間がかかります。したがって、価格が変動しても生産量を急激に増やしたり減らしたりは出来ません。
農作物・家畜は「供給の価格弾力性が非弾力的」だと言えます。
② 都心部の土地
土地の価格(地価)が上昇しても、都心の場所は限られており、供給量は大きく変りません。そのため、地価が上がっても、供給量は増えづらい傾向にあります。
都心の土地は「供給の価格弾力性が非弾力的」だと言えます。
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可変費用の割合が高すぎると、非弾力的な傾向を持ちます。
新しく野菜を育てようと思っても、土地を耕し、肥料をまいて、農薬をまいて、毎日手入れして‥と生産量を増やすと、それに伴って費用も増加します。つまり、可変費用の割合が大きいと言えます。
ただし、長期で考えると価格に応じて農作物の生産量も調整可能なので、弾力的な傾向を持つと言えます。
土地も数量や大きさに応じて維持管理費が発生します。また、新しく売却できる土地を見つけるのも困難で非常にコストが掛かります。農作物同様に可変費用の割合が大きく、供給量の調整が非常に難しいと考えられます。
1のとき
価格弾力性(ε)が1のとき(ε=1)
弾力性が「1の弾力性を持つ(単位弾力的)」という場合があります。
※ε=イプシロン
供給の価格弾力性が「1」の場合は、弾力的でも、非弾力的でもない状態です。
供給の価格弾力性が綺麗に1となる製品や産業は、基本的には無いと思います(いい例が思いつきませんでした‥。)
完全に弾力的(無限大・水平)
価格弾力性(ε)が無限のとき(ε=∞)
このとき、供給は完全に弾力的という。
※ε=イプシロン
価格が変化すると供給量が物凄く大きく変化する(言い換えると、特定の価格で供給が無限に行われる)。
現実世界にそのような財があるのかと言うと、基本的に存在しないと考えてOKです。限りなく水平に近い生産物はあるかもしれませんが、完全に弾力的とはなりません。
例えば(強いて言えば)
電力・水道等の社会インフラ系の事業は、価格に関係なく供給量を自由自在に調整できる(はず)なので、弾力性は限りなく水平に近い(はず)です。
実際に、社会インフラ系の企業※は初期投資の割合が非常に大きく費用の大半が固定費用となる。生産量に応じて発生する費用(燃料費など)の割合が非常に小さく、一度設備を完成させると際限なく供給を行える。
※いわゆる費用逓減産業が当てはまります。
完全に非弾力的(0のとき・垂直)
価格弾力性(ε)が0のとき(ε=0)
このとき、供給は完全に非弾力的という。
※ε=イプシロン
価格が変化しても供給量が変わらない状態です(言い換えると、価格が変化しても供給量を調整できない)
”完全に弾力的”な場合と同じく、完全に非弾力的な供給というのも、現実世界にはないと考えられます。
例えば(強いて言えば)
原油です。原油は一度採掘を止めると再稼働させるのに物凄いコストが掛かったり、もう採掘できなくなるリスクがあります。
つまり、価格変動しようが必ず一定量を供給し続ける必要があり、短期的には弾力性は垂直に近い(はず)です。
2020年4月20日の原油先物市場で、先物価格(6月限)が一時「マイナス40.32ドル」まで下落しました。価格がマイナスというのは「(売り手が)お金を支払ってでも、原油を引き取って欲しい」という状態。※原油が全く消費されず保管場所が無くなっていた。
感染症の影響で原油需要が消滅したにもかかわらず、各国は「減産しない」と述べていました。
さきほど記載した通り、原油は採掘を止めるわけにはいかず(政治的な理由を含め)、価格変動を無視して、掘り続けるしかないのです。
ちなみに、原油と似た性質のものに「牛乳」があります
価格や需要がどうなろうが、搾乳し続けないと牛が病気になります。2018年9月の北海道胆振地震のときに、停電の影響(牛乳需要が消滅)で牛乳が出荷できなくなり、搾乳した牛乳をそのまま捨てていた農家さんがいました。価格変動に対して供給量をまったく調整できないため、短期的には牛乳も限りなく垂直に近い供給曲線を持っていると言えます。
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ちなみに「完全に弾力的」と「完全に非弾力的」の違いが分かりづらいので補足です。
完全に弾力的⇒価格が変わっても、際限なく供給を行うことが出来る(好きなように調整できる)
完全に非弾力的⇒価格が変わっても、供給量を調整できない(常に一定の供給量を維持する)
「供給の価格弾力性」の求め方(計算)
供給の価格弾力性の計算問題では次の式を使います。
供給の価格弾力性(ε)の式
供給の価格弾力性(ε)=供給の変化率(%)/価格の変化率(%)
=「ΔS/S」/「ΔP/P」
※Δ= (変化後の数字)-(変化前の数字)で求められます。ただし、微分が必要なときは微分して求めます。
「変化率」の求め方が大きく2パターンあり、どのような場面で使い分ければ良いかも簡単に説明していきます。
通常の計算で求める
微分を使わずに、普通に計算するパターンです。
普通に計算できるのは、変化前と変化後の数値が分かる場合です。
例えば
- 価格が1,000円で、生産量(供給量)が250の財がある
- その生産物は、価格が1,100円になり、生産量が300となった。
供給の価格弾力性を求める。
計算方法
変化前と変化後の数値が分かるため、微分をせずに普通に計算します。
- 価格変化:(1,100-1,000)/1,000=0.1
- 供給変化:(300-250/250)=0.2
「供給の変化率=0.2」/「価格の変化率=0.1」=2
供給の価格弾力性が1よりも大きいため、この生産物は弾力的である。
微分で求める
微分を使うのは、変化前と変化後の数値が分からない場合です。
微分を使うときは、さきほどの式を変形します。
供給の価格弾力性(ε)の式
供給の価格弾力性(ε)=供給の変化率(%)/価格の変化率(%)
=「ΔS/S」/「ΔP/P」
⇒「ΔS/ΔP」×「P/S」
「供給の変化量(ΔS)/価格の変化量(ΔP)」×「元の価格(P)/元の供給量(S)」
問題文に「変化前の数字」「変化後の数字」の情報が無ければ、微分をして、変化量を求めることになります。
例えば
- 財Aの需要曲線が「D=-10P+1,000」
- 財Aの供給曲線が「S=40P」
このとき、市場均衡点における供給の価格弾力性はいくらか?
均衡点は「需要曲線と供給曲線が交わる」という事を意味しているので「D=S」として計算します。
- -10P+1,000=40P
次に均衡点における市場価格を計算します。
- 50P=1,000
- P=20
「S=40P」に市場価格のP=20を代入します。
- S=40×20=800
これで、市場均衡点における価格と供給量(生産量)が分かりました。
- P=20
- S=800
次に
変化後の数字を微分で求めます。
「S=40P」をPで微分します。
すると「(ΔS/ΔP)=40」となります。
微分は乗数を1つ減らして手前に持ってくる計算です。40Pは「40×Pの1乗」です。「Pの1乗」の1を手前に持ってきて「40×1=40」とします。また、Pの0乗になりますが「0乗=1」なのでP=1でPが消えます。
以上より
- P=20
- S=800
- (ΔS/ΔP)=40
パーツがそろったので、先ほどの式に当てはめます。
「ΔS/ΔP」×「P/S」
「供給の変化量(ΔS)/価格の変化量(ΔP)」×「元の価格(P)/元の供給量(S)」
- 価格弾力性(ε)=40×(20/800)
- =40×(1/40)
- =1