政府が価格規制を実施したときの例と余剰分析(余剰・死荷重)を見ていきます。
- 価格規制のメリット・デメリット
- 上限価格規制
- 下限価格規制
- 総余剰・死荷重の求め方
- 計算方法
政府が価格規制を行う理由・メリット
政府の価格規制
政府は、商品・サービスに対して、価格の上限・下限を設定することがある。
ポイント①
- 政府が価格規制を行う理由
市場に任せると、公平性・安定性が損なわれる可能性があるとき、価格規制を行って、消費者・生産者を保護するため。
例えば
市場で決まった価格があまりにも高すぎて消費者が購入できない。逆に、市場価格があまりにも低すぎて生産者が生産を続けることができない。
他にも「伝統や文化を保護したい」「国の政策として特定の産業を保護したい」「その他政治的な問題」などの理由も考えられます。
ポイント②
- 政府が価格規制を行うと死荷重を発生する
価格規制により、市場では経済効率性が失われて総余剰が最大化しません。このとき発生した社会的な損失は死荷重(デッドウェイトロス)となります。
政府の価格規制には
- 上限(最高価格)を設定する場合
- 下限(最低価格)を設定する場合
2つのケースがあるので、順番に見ていきましょう。
上限価格の設定と理由
ポイント
価格の上限が設定されると、市場価格より低い値段で商品・サービスが取引されるため、超過需要が発生する。
グラフで見ると
上限価格を決める理由は、消費者にとって市場価格が高く、生活に悪影響を与える可能性があるためです。したがって、市場価格より低い値段で上限価格が決まると言えます⇒市場価格より安い値段で売買されるため超過需要が発生します。
事例
上限価格の具体例
- 家賃規制(世界的に行われていた)
- 鉄道運賃(主に都市圏)
- 福祉用具
家賃は、値段が高くなりすぎて家に住めない人が出ないよう上限価格が設けられていました(日本では1986年まで実施されていた)
しかし、時間が経つにつれて家を貸す人が減り(供給減少)、結果的に家に住めない人が続出するケースが頻出しました(ベトナム・ハノイでは、街が荒廃したと言われています)。近年ではドイツ・ベルリンやフランス・パリなどで導入化が検討されていますが、長期的に良い結果をもたらすかは不明です。
鉄道運賃は、法律によって距離数に応じた価格設定が行われています。
都市圏の鉄道では、朝ラッシュを見れば分かりますが明らかに超過需要です。しかし、鉄道会社は価格を上げることが出来ないため、実質的に上限価格が設定されている状況です。
車いすなどの福祉用具を貸し出すときにも、上限価格が設けられています。福祉用具が不当な値段で貸し出されないようにする規制です。2018年10月から始まった制度ですが、全国の平均貸与額をもとに上限を設定しているため、市場価格と大きく乖離することはないと考えられます。
ただし、規制導入後は、事業者の7割以上が収益悪化となり、長期的にどのような影響が出てくるのかは不明です。※参照
身近にも上限価格が設けられている例を分かったところで、次に余剰分析を行ってみましょう。
総余剰・死荷重の求め方
需要曲線と供給曲線があります
価格を「P*」とする、上限価格を設定します。すると、生産量は「Q*」となります。
このときの総余剰は?
- 需要曲線の切片となる「P2」
- 点B
- 点A
- 供給曲線の切片となる「P0」
この4つの点からなる台形部分が総余剰となります
総余剰(TS)=「四角形P2・B・A・P0」
死荷重は?
- 点B
- 均衡点E
- 点A
この3つの点からなる三角形部分が死荷重(社会的損失)となります
社会的損失=「三角形B・E・A」
ポイント
上限価格によって、市場価格よりも低い価格で取引が行われることから死荷重が生まれ、経済的に非効率となることが分かる。
ちなみに
総余剰は「消費者余剰(CS)」「生産者余剰(PS)」に分けられます
消費者余剰は
次の四角形で囲まれた部分
- 点P2
- 点B
- 点A
- 点P*
生産者余剰は
次の三角形で囲まれた部分
- 点P*
- 点A
- 点P0
ポイント
市場価格よりも価格が低いので消費者が得をしている(消費者余剰が生産者余剰よりも大きい)。
計算方法
例えば
- 財Aの需要曲線が「D=-20P+500」
- 財Aの供給曲線が「S=30P-150」
政府が10という上限価格規制を実施した場合の消費者余剰・生産者余剰・死荷重はいくらか?
はじめに市場均衡点を求めるために「D=S」として計算します。
- -20P+500=30P-150
次に均衡点における市場価格を計算します。
- 50P=650
- P=13
「S=30P-150」に市場価格のP=13を代入します。
- S=390-150=240
これで、市場均衡点における価格と供給量(生産量)が分かりました。
グラフで見ると
まずは2つの切片(?)の値が必要です。
- ①需要曲線「D=-20P+500」を「P=●●の形(逆需要関数)」にする
20P=-D+500
P=(-D+500)/20
切片なので横軸の需要量(D)は0となります
グラフの横軸は”生産量Q”という表記になっていますが、需要量(D)・供給量(S)と同じ意味です。
P=(-0+500)/20
P=(500)/20
P=25
- ②供給曲線「S=30P-150」を「P=●●の形(逆供給関数)」にする
30P=S+150
P=(S+150)/30
切片なので横軸の供給量(S)は0となります
グラフの横軸は”生産量Q”という表記になっていますが、需要量(D)・供給量(S)と同じ意味です。
P=(0+150)/30
P=(150)/30
P=5
以上より
次に
- 上限価格規制10を考える
「?①」「?②」を求める。
- ①価格規制10のときの供給量を求める
供給曲線「S=30P-150」に「P=10」を代入する
S=30×10-150
S=300-150
S=150
- ②供給量150のときの需要量を求める
需要曲線「D=-20P+500」に「S(Q)=150」を代入する
150=-20P+500
20P=500-150
20P=350
P=17.5
生産量(Q)=需要量(D)・供給量(S)と同じ意味です。
以上より
ポイント
後は「消費者余剰」「生産者余剰」「死荷重」を求めるだけ。
- 消費者余剰=P25・点B・点A・P10
- 生産者余剰=P10・点A・P5
- 死荷重=点B・点E・点A
消費者余剰は台形の面積を求めるだけ
- 縦①(下底)=(25-10)=15
- 縦②(上底)=(17.5-10)=7.5
- 横(高さ)=150
台形の面積=(上底+下底)×高さ÷2
(15+7.5)×150÷2=1687.5
以上より、消費者余剰(CS)=1687.5
生産者余剰は三角形の面積を求めるだけ
- 縦=(10-5)=5
- 横=150
三角形の面積=(縦×横)÷2
(150×5)÷2==375
以上より、生産者余剰(PS)=375
死荷重は三角形の面積を求めるだけ
- 縦=(17.5-10)=7.5
- 横=(240-150)=90
(7.5×90)÷2=337.5
以上より、死荷重=337.5
下限価格の設定と理由
ポイント
価格の下限が設定されると、市場価格より高い値段で商品・サービスが取引されるため、超過供給が発生する。
グラフで見ると
下限価格を決める理由は、生産者にとって市場価格が安く、事業の継続に悪影響を与える可能性があるためです。したがって、市場価格より高い値段で下限価格が決まると言えます⇒市場価格より高い値段で売買されるため超過供給が発生します。
事例
下限価格の具体例
- 最低賃金(最低時給●●円)
- タクシー運賃(初乗り料金)
最低賃金は、労働者を保護する名目で各都道府県ごとに設けられています(時給●●円というやつ)。
日本では問題視されませんが、お隣の韓国では、最低時給を引き上げて企業側がアルバイトを雇えなくなる問題が発生しました。最低賃金は一見すると労働者保護のように見えますが、最低賃金(下限価格規制)によって雇用機会が失われる(失業が発生する=労働の超過供給状態)というトレードオフの関係にあります。
タクシーの初乗り料金は、タクシー業界を保護する目的から最低金額が設定されています。
しかし、料金が高止まりしているため、手軽にタクシーを利用することができません。その分の需要を取りこぼしているため、結果的にタクシー業界に悪影響を及ぼします。
身近にも下限価格が設けられている例を分かったところで、次に余剰分析を行ってみましょう。
総余剰・死荷重の求め方
需要曲線と供給曲線があります
価格を「P*」とする、下限価格を設定します。すると、生産量は「Q*」となります。
このときの総余剰は?
- 需要曲線の切片となる「P2」
- 点B
- 点A
- 供給曲線の切片となる「P0」
この4つの点からなる台形部分が総余剰となります
総余剰(TS)=「四角形P2・B・A・P0」
死荷重は?
- 点B
- 均衡点E
- 点A
この3つの点からなる三角形部分が死荷重(社会的損失)となります
社会的損失=「三角形B・E・A」
ポイント
下限価格によって、市場価格よりも高い価格で取引が行われることから死荷重が生まれ、経済的に非効率となることが分かる。
ちなみに
総余剰は「消費者余剰(CS)」「生産者余剰(PS)」に分けられます
消費者余剰は
次の三角形で囲まれた部分
- 点P2
- 点B
- 点P*
生産者余剰は
次の四角形で囲まれた部分
- 点P*
- 点B
- 点A
- 点P0
ポイント
市場価格よりも価格が高いので生産者が得をしている(生産者余剰が消費者余剰よりも大きい)。
計算方法
例えば
- 財Aの需要曲線が「D=-20P+500」
- 財Aの供給曲線が「S=30P-150」
政府が19という下限価格規制を実施した場合の消費者余剰・生産者余剰・死荷重はいくらか?
はじめに市場均衡点を求めるために「D=S」として計算します。
- -20P+500=30P-150
次に均衡点における市場価格を計算します。
- 50P=650
- P=13
「S=30P-150」に市場価格のP=13を代入します。
- S=390-150=240
これで、市場均衡点における価格と供給量(生産量)が分かりました。
グラフで見ると
まずは2つの切片(?)の値が必要です。
- ①需要曲線「D=-20P+500」を「P=●●の形(逆需要関数)」にする
20P=-D+500
P=(-D+500)/20
切片なので横軸の需要量(D)は0となります
グラフの横軸は”生産量Q”という表記になっていますが、需要量(D)・供給量(S)と同じ意味です。
P=(-0+500)/20
P=(500)/20
P=25
- ②供給曲線「S=30P-150」を「P=●●の形(逆供給関数)」にする
30P=S+150
P=(S+150)/30
切片なので横軸の供給量(S)は0となります
グラフの横軸は”生産量Q”という表記になっていますが、需要量(D)・供給量(S)と同じ意味です。
P=(0+150)/30
P=(150)/30
P=5
以上より
次に
- 下限価格規制19を考える
「?①」「?②」を求める。
- ①価格規制19のときの需要量を求める
需要曲線「D=-20P+500」に「P=19」を代入する
D=-20×19+500
D=-380+500
D=120
- ②需要量120のときの供給量を求める
供給曲線「S=30P-150」に「S(Q)=120」を代入する
生産量(Q)=需要量(D)・供給量(S)と同じ意味です。
120=30P-150
30P=270
P=9
以上より
ポイント
後は「消費者余剰」「生産者余剰」「死荷重」を求めるだけ。
- 消費者余剰=P25・点B・P19
- 生産者余剰=P19・点B・点A・P5
- 死荷重=点B・点E・点A
消費者余剰は三角形の面積を求めるだけ
- 縦=(25-19)=6
- 横=120
三角形の面積=(縦×横)÷2
(6×120)÷2=360
以上より、消費者余剰(CS)=360
生産者余剰は台形の面積を求めるだけ
- 縦①(下底)=(19-5)=14
- 縦②(上底)=(19-9)=10
- 横(高さ)=120
台形の面積=(上底+下底)×高さ÷2
(14+10)×120÷2==1440
以上より、生産者余剰(PS)=1440
死荷重は三角形の面積を求めるだけ
- 縦=(19-9)=10
- 横=(240-120)=120
(10×120)÷2=600
以上より、死荷重=600