生産者理論で登場する6つの費用曲線(=短期費用曲線)
- 総費用(Total Cost)
- 固定費用(Fixed Cost)
- 可変費用(Variable Cost)
- 平均費用(Average Cost)
- 平均可変費用(Average Variable Cost)
- 限界費用(Marginal Cost)
それぞれの費用曲線(短期費用曲線)の要点をまとめています。
短期費用曲線の概要
生産者理論で登場する「費用曲線(短期費用曲線)」には、大きく次の6つがあります。
- 総費用(Total Cost)
- 固定費用(Fixed Cost)
- 可変費用(Variable Cost)
- 平均費用(Average Cost)
- 平均可変費用(Average Variable Cost)
- 限界費用(Marginal Cost)
step
1総費用を理解する
step
2固定費用・可変費用を理解する
step
3平均費用・平均可変費用・限界費用を理解する
step
4それぞれの関係を使って分析をする
ポイント
ステップ3「平均費用・平均可変費用・限界費用を理解する」のが1番重要!
何故なら
3つの費用曲線(平均費用・平均可変費用・限界費用)を使えば、企業の損益分岐点・操業停止点が分かるため
簡単に言えば、3つの費用曲線を見れば「企業が生産活動を続けるか・止めるか」の判断ができる。
簡単なまとめ
費用曲線の種類 | 意味 | 知っておく |
---|---|---|
総費用(TC) | 生産に関わる全ての費用。 総費用=固定費用(FC)+可変費用(VC) |
基本は逆S字型 |
固定費用(FC) | 生産量に関わらず発生する費用。 | ー |
可変費用(VC) | 生産量に応じて発生する費用。 | ー |
平均費用(AC) | 商品1つあたりの費用。 | 損益分岐点を判断 (=利益が出るか) |
平均可変費用(AVC) | 商品1つあたりの費用。 (ただし、固定費用は考えない) |
操業停止点を判断 (=生産を止めるか) |
限界費用(MC) | 追加的な生産を行うことで発生する費用の増加分。 | AC・AVCの交点に注目 |
費用曲線の全体像が分かったところで、それぞれの費用について順番に見ていきましょう!
総費用曲線(TC)
総費用(TC)
生産に関わる全ての費用。総費用=固定費用(FC)+可変費用(VC)
総費用について大事なことは2つあるので、順番に見ていきます。
固定費用・可変費用(FC・VC)
固定費用(FC)・可変費用(VC)
総費用は次の2つの費用に分けられる。
- 固定費用(FC)=生産量に関わらず発生する費用。
- 可変費用(VC)=生産量に応じて発生する費用。
例えば
- 工場での生産を考える
工場で生産を行うためには、地代(家賃)・人件費・原材料費の3つが発生するとします。
可変費用
生産量を増やすと原材料が必要になります。そのため、原材料は生産量に応じて必要になるので可変費用となります。
固定費用
生産量を増やしても減らしても、工場の地代・人件費(正社員を想定)は必ず一定額発生します。そのため、地代・人件費は生産量に関わらず必要になるので固定費用となります。
メモ
人件費を固定費用・可変費用のどちらで考えるかは意見が分かれます。正社員は、生産量を減らしてもすぐには削減できないので、短期的には固定費として扱われることが多いです。外注ですぐに契約を終わらせられるならば可変費用と考えることが出来ます。
さらに詳しく
生産曲線と同じく、費用曲線にも長期・短期の区別があります。ここでは固定費用を考えているので短期費用曲線となります。
経済学での長期・短期の区別は固定的な要素をどう考えるかどうかです。長期的には固定費用も調整可能なので可変費用として考えます。
逆S字型
ポイント
総費用曲線(TC)は、一般的には逆S字型になる。
まず
生産が拡大するにつれて、どんどん効率的に生産が行えるようになります。
しかし
生産を過剰に行うと、徐々に効率性が落ちてくる局面へ突入します。
2つ合わせると
最後に固定費用を考慮したグラフにすると、総費用曲線(TC)の完成です。
まとめ
一般的な総費用曲線では
① 固定費用が発生するため原点は0にはならない。
② 生産を拡大していくと効率が上がっていき、増加する費用が小さくなります(限界費用逓減)。⇒総費用曲線が原点に近ければ緩やかな曲線を描きます。
③ しかし生産を過剰に行うと効率が悪くなり、増加する費用がどんどん大きくなります(限界費用逓増)。⇒総費用曲線が原点から遠ざかると急勾配な曲線を描きます。
総費用曲線は、直線や他の形状になる場合もあります。
平均費用・平均可変費用曲線(AC・AVC)
平均費用(AC)・平均可変費用(AVC)
平均費用(AC)=生産1単位あたりの費用=総費用(TC)÷生産量(Q)
平均可変費用(AVC)=生産1単位あたりの可変費用=可変費用(AVC)÷生産量(Q)
例えば
- 自動車を生産する
自動車を10台生産しました。
総費用(TC)が1000万円掛かった時を考える。
- 固定費用(FC)=200万円
- 可変費用(VC)=800万円
平均費用
- 総費用(TC)1000万円÷10台=100万円
平均可変費用
- 可変費用(VC)800万円÷10台=80万円
総費用曲線(TC)との関係
平均費用と総費用の関係
ポイント
原点から総費用曲線に引いた直線の傾きが一番小さくなるポイントが、平均費用曲線の底部分になる。
ちなみに
総費用曲線と平均費用曲線のグラフを縦に並べた場合「原点から引いた直線⇒平均費用曲線」となります。
どうして原点から直線を引くのか
例えば、次のオレンジ点から平均を表す関数を求めるとします。
原点から線を引けば平均を表す関数(直線)になります。
総費用曲線で考えても同じ
平均と表現しましたが平均費用(AC)と同じです。なので、総費用曲線と平均費用曲線のグラフには、先ほどの関係性があります。
更に
傾きが小さい方が、同じ数量でも平均(平均費用)が小さくなります。そのため、原点から総費用曲線に引いた直線の傾きが一番小さくなるポイントが、平均費用曲線の底部分となります。
平均可変費用と総費用の関係
ポイント
総費用曲線の切片から引いた直線の傾きが一番小さくなるポイントが、平均可変費用曲線の底部分になる(固定費部分を除いて考えるため原点から直線を引かない)。
ちなみに
総費用曲線と平均可変費用曲線のグラフを縦に並べた場合「切片から引いた直線⇒平均可変費用曲線」となります。
平均費用・平均可変費用をまとめて見ると
固定費用を除いているため、平均可変費用(AVC)の方が平均費用(AC)よりも下側の曲線になります。
U字型になる直感的な理解
平均費用・平均可変費用がU字型になる理由は
注意ポイント
前提として、平均費用・平均可変費用曲線がU字型になるのは、総費用曲線(TC)が逆S字型の場合です。
ここからは
一般的な総費用曲線(TC)が逆S字型になることを知っている前提で話を進めていきます。分からない人は確認!⇒戻って確認する
まず
① 生産を拡大すると生産効率が上がっていきます。そのため、生産費用が抑制されていくようになり、平均費用・平均可変費用が小さくなっていきます。
次に
② 生産を拡大しすぎると過剰生産になります。すると、生産効率が悪化して生産費用が増大していきます。平均費用・平均可変費用が大きくなっていきます。
おまけ
③ 平均費用(AC)の方が固定費用を含めているため、平均可変費用(AVC)よりも上側に位置しています。
まとめ
限界費用曲線(MC)
限界費用(MC)
追加的な生産を行うことで発生する費用の増加分のこと。
経済学で登場する「限界」は、「1つ(1単位)変化すると、どうなるか?」という意味合いがある。
ここからは
”限界費用曲線”の話を中心にします。限界費用がそもそも何なのか?が分からない人はこちらで確認してください!
⇒限界費用とは?利益・平均費用との関係も分かりやすく簡単に解説
限界費用と総費用の関係
ポイント
総費用曲線の接線の傾きが0(もしくは最小)になるポイントが、限界費用曲線の底部分になる。
ちなみに
総費用曲線と限界費用曲線のグラフを縦に並べた場合「接線の傾きの大きさ⇒限界費用曲線」となります。
総費用曲線の”接線の傾き”の理由
重要
どうして接線の傾きを使うのか?
ポイント
限界費用は、追加的な生産を行うことで発生する費用の増加分。
例えば
- 生産量を”1”増やしたとき
「傾き=費用の増加分/1」なので、傾きを求めれば限界費用になります。
更に
- ”1”よりも微小で考える
限りなく小さな単位で考えれば点は1つになります。しかし、先ほどと理屈は同じで傾きを求めれば限界費用になります。
通常のミクロ経済学では、この限りなく小さな単位の変化を想定しているため総費用曲線へ接線を引いて傾きを求める(微分する)という方法を取っています。
限界費用と平均費用・平均可変費用との関係
ポイント
限界費用曲線(MC)は、平均費用(AC)・平均可変費用(AVC)曲線の底部分と交わる。
総費用曲線で考える
始めに総費用曲線との関係から見ていきましょう!
思い出す①
平均費用曲線(AC)の底部分=総費用曲線の原点から引いた直線の傾きが一番小さくなる点。⇒戻って確認する
思い出す②
平均可変費用曲線(AVC)の底部分=総費用曲線の切片から引いた直線の傾きが一番小さくなる点。⇒戻って確認する
限界費用曲線は、総費用曲線との接線の傾きで表されます。
①ここで
原点から総費用曲線へ引いた直線の傾きが一番小さくなる点において原点から引いた直線の傾き(AC)=接線の傾き(MC)となる
そのため「平均費用曲線(AC)の底部分=限界費用曲線(MC)」となり両者が交わります。
②ここで
切片から総費用曲線へ引いた直線の傾きが一番小さくなる点において切片から引いた直線の傾き(AVC)=接線の傾き(MC)となる
そのため「平均可変費用曲線(AVC)の底部分=限界費用曲線(MC)」となり両者が交わります。
供給曲線
ポイント
限界費用曲線(MC)は企業の供給曲線になる。
重要
- 企業は販売価格(P)=限界費用(MC)になるまで生産を続ける
話を簡単にするために作ったものが全て売れると仮定します。
思い出す
限界費用は、生産を追加的に行ったときに発生する費用の増加分です。
例えば
車を製造している企業が、もう1台追加で生産を行います。この時に、追加で50万円の費用がかかりました。この50万円が限界費用にあたります。
販売価格と限界費用の関係
- 先ほどの企業が、自動車を100万円で販売していた場合
販売価格=100万円
追加費用(限界費用)=50万円
利益=100万円-50万円=50万円
ここで
車の増産を永遠と繰り返していきます。すると…
- 人材を集めるのに人材紹介料
- 人件費も高騰
- 原材料などの枯渇
- 新たな製造拠点が必要
ポイント
過剰生産になると、費用がかさんでくる。
限界費用が増加し始めると‥?
車もう1台生産するのに50万円の費用だったものが、追加費用60万円70万円…とかさんでいきます。いずれ追加費用が100万円になります。
販売価格=100万円
追加費用(限界費用)=100万円
利益=100万円-100万円=0円
ポイント
追加費用(限界費用)が100万円になると、100万円で売っても利益がでなくなる。
重要
- 逆のことを言えば「販売価格=限界費用」になるまで製造販売を続ければ利益が出る⇒企業は製造を続ける
先ほどの話をグラフで
価格(P)が100万円なので、限界費用が100万円になるまで企業が製造を続ける。
ポイント
企業は「Q1」という生産量まで製造を続けます。つまり「Q1」までの生産物が市場に供給されることになります。そのため「限界費用曲線=供給曲線」となります。
ただし「Q1」より右上は企業の利益が出なくなるので、販売価格100万円という場合においては供給曲線にはなりません。もちろん、販売価格が200万円・300万円と吊り上がれば供給曲線になるので、便宜上は上限無く供給曲線としてグラフで表されることが多いです。
ここで
- ただし、限界費用曲線の全てが供給曲線とはならない
ここからは
平均費用・平均可変費用を含めて考えていきます。
例えば
販売価格を100万円としていましたが、ライバルの登場で値下げをする必要が出てきました。
60万円で販売する
- 価格60万円で200台を販売
- 初期費用に1億円
- 可変費用の累計が2000万円だった場合
総売上=60万円×200台=1億2000万円
原材料などの可変費用総額=2000万円
初期費用(固定費用)=1億円
※1台当たりの平均費用=60万円
200台販売すれば、なんとか収支は±0円になる。
つまり
ポイント
生産量が「Q2(200台)」を下回ると損をするので、企業は「Q2(200台)」より右上の製造販売を目指す。
更にこんなケースを考える
- 価格20万円で100台を販売
- 初期費用に1億円
- 可変費用の累計が2000万円だった場合
総売上=20万円×100台=2000万円
原材料などの可変費用総額=2000万円
初期費用(固定費用)=1億円
※1台当たりの平均可変費用=20万円
初期費用は回収できていない。可変費用の回収がかろうじて出来ているライン。
ポイント
初期費用(固定費)を回収できないので長期的にはアウトですが、短期的には可変費用を回収しているため、企業は一時的に製造販売を続けます。
つまり
ポイント
生産量が「Q3(100台)」を下回るまでは企業を一時的に製造販売を続けるので、「Q3」より右上は短期の供給曲線となる。
また、価格が20万円を下回ると操業が停止されるため、価格20万円より下側は生産量=0として短期の供給曲線が描かれる。
細かな説明がないままで「限界費用曲線=供給曲線」となっている場合があるので、理由とかを知っておくと理解が深まります。
損益分岐点・操業停止点
損益分岐点・操業停止点
- 損益分岐点=平均費用曲線(AC)と限界費用曲線(MC)との交点。
- 操業停止点=平均可変費用(AVC)と限界費用曲線(MC)との交点。
先ほど説明した通り「限界費用曲線(MC)は、平均費用(AC)・平均可変費用(AVC)曲線の底部分と交わります」
その交点をそれぞれ「損益分岐点・操業停止点」と呼びます。
損益分岐点
- 企業が赤字になるポイント
損益分岐点より左下部分で生産を行うと企業は赤字になる。
操業停止点
- 企業が生産を続けるかのポイント
操業停止点より左下部分では、企業は可変費用の回収も出来なくなるため生産活動を停止する。
注意ポイント
損益分岐点・操業停止点の話は、上にまとめた通りで終わりです。
損益分岐点・操業停止点は、別記事でもまとめているのでそちらを確認してください⇒【損益分岐点・操業停止点】求め方や計算方法を分かりやすく簡単に
「限界費用曲線(MC)=供給曲線」を理解しないと、損益分岐点・操業停止点がピンと来ないと思うのでそちらを確認してください。⇒戻って確認する