巨大なインフラ設備を必要とするビジネスは、費用逓減産業と呼ばれます。
- 費用逓減産業の概要
- 費用逓減産業の問題点
費用逓減産業について、経済学で頻出する話をまとめています。
費用逓減産業とは?
費用逓減産業とは
多額の初期投資が必要だけど、一度設備が完成すれば、その後の生産コストがあまりかからない産業のこと。電気・水道・通信・電鉄など、社会インフラを担う産業に多い。
経済学的には、初期の固定費(FC)が大きく、生産量が増加すると平均費用(AC)が減少していく産業のことを言う。
「逓減(ていげん)」とは、段々と減っていくこと。逆に「逓増(ていぞう)」は、段々と増えていくこと。
「費用逓減」は費用が段々と減っていく、という意味
例えば
- 鉄道を例に考えてみる
鉄道を走らせるためには、土地の権利関係をまとめる必要があります。次に、線路を敷いて、駅を作ります。
既にお分かりかもしれませんが、この段階で、1000億円単位でお金がかかります。
つまり、鉄道事業を開業するには、とてつもない初期投資が必要なのです。
しかし
線路を敷いて駅まで完成すれば、その後に発生する費用は、初期投資に比べれば小さいことが分かります。
土地の買収費用・線路を敷く費用 > 日々の営業で発生する費用
顧客1人あたりの費用で考えてみる
費用逓減産業では、初期投資が終われば、顧客が増え続けることで顧客1人あたりの平均費用が減少していきます。
グラフで見てみる
ポイント
費用逓減産業では、莫大な初期投資が必要な一方で、一度設備投資が終わると、顧客を増やし続けることで、顧客1人あたりの平均費用は減少する。
市場で顧客を獲得すればするほど平均費用が減少するため、初期投資を乗り越えた企業は、規模を拡大させて市場での優位性を一気に高める。
また、莫大な初期投資が必要なため、参入障壁が高く、ライバル企業が生まれにくい。
費用逓減産業で発生する問題
費用逓減産業で発生する問題点は、大きく2つあります。
- 自然独占
- 料金設定(価格設定)
この2つを順番に解説していきます。
自然独占
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「規模の経済」は生産すればするほど効率的になる状態のこと。初期投資が終われば、顧客が増えるほど平均費用が減少していくため、費用逓減産業は規模の経済に該当する。「範囲の経済」は経営学の言葉で、事業を多角化した時に、これまでのノウハウが他の事業でも活きること。「資源の希少性」は、資源に限りがあり、全ての需要を見当たすことが出来ないものを言う。
メモ(最近の経済学では)
- 規模の経済
- 範囲の経済
この2つの言葉の意味を含んだ「費用の劣加法性」という単語が注目されています。
費用の劣加法性
- 2社以上よりも、1社で生産する方が効率的
ある生産量を生産するのに2社以上の企業が生産するよりも、1社の企業が生産した方が総費用が小さくなる時、費用の劣加法性があるという。
最近では、自然独占の1番の原因として扱われることがある。
例えば
- JR東日本
JR関東・JR北陸・JR東北など、複数社で市場を分け合うよりも「JR東日本」とした方が平均費用が安く済みます。つまり、JR東日本とした方が、線路の管理や、運営コストが効率的になっていると言えます(費用の劣加法性)。
「規模の経済」が働いて生産効率が高まっている、「範囲の経済」が働いて経営効率が高まっている。この2つが同時に働いているのが「費用の劣加法性」というわけです。
注意ポイント
このように、1社で生産したほうが効率的なので、自然の流れで、独占的に市場を支配する企業が誕生します(自然独占)。
最初に市場シェアを獲得した企業は、大きな影響力を持つため、市場が非効率的になっていきます。これが費用逓減産業の大きな問題点です。
費用逓減産業は赤字になる
費用逓減産業は、自然独占になるため価格競争に巻き込まれません。その結果、本来あるべき価格水準よりも、高い価格でサービスが提供される傾向にあります。
仮に
本来あるべき価格水準でサービスを提供すると、費用逓減産業では赤字になります。
ポイント
費用逓減産業は、莫大な初期投資が必要になる。更に、効率的な経営をするめには、たくさんの顧客が必要になる。
例えば
- JR北海道
最初に登場したこの列車は、JR北海道の「スーパーカムイ」です。
JR北海道は「本来あるべき価格水準でサービスを提供すると、費用逓減産業では赤字になる」という特徴を説明するには、分かりやすい例です。
ご存知かは分かりませんが、JR北海道は道内で運営している全路線が赤字です
ちなみに、新千歳空港は、羽田空港の次に売上をあげているドル箱空港です。その新千歳空港と札幌を結ぶ路線ですら赤字になっています。
この原因が鉄道需要が少ないためです。北海道の人口は関東圏よりも少なく、車社会で鉄道の利用数も高くありません。
ココに注意
費用逓減産業では、企業が一番効率的にサービスを提供する段階に到達する前(平均費用が一番低くなる前)に、需要が頭打ちになる。
JR北海道で考えると
北海道全体に鉄道網を走らせて、駅をたくさん作った方が効率的に運営(1人あたりの平均費用を低くすること)が出来ます。
しかし、鉄道網を作ったところで利用者数が遥かに少ないため、採算が取れないのです
北海道の人口は約500万人。ちなみに新宿・池袋・東京・横浜・品川・渋谷の1日の平均乗車数を合わせると軽く200万人くらいです。北海道では、ほとんど自動車で移動するので、はるかに鉄道需要がないことが分かります。
詳しくはこちら
料金設定
費用逓減産業では自然独占になる一方で、あるべき価格水準でサービスを提供すると需要が足りずに赤字になる。
しかし
現実の費用逓減産業では、赤字の企業はそこまで多くありません。
その理由が、料金設定にあります。
費用逓減産業では、自然独占のため価格を自由に決められる
普通の競争市場では、ライバル会社がたくさんいます。そのため、高い価格設定だとお客さんが他社へ流れてしまいます。
しかし、費用逓減産業では、自然独占になるため、ライバル企業がいません。ライバル企業を意識せずに、自由に価格水準を決められます。
ポイント
また、費用逓減産業では、社会インフラに関するサービスが大半を締めます。利用者は、インフラとなるサービスを必要としているため、高い価格設定でも利用せざるを得ないのです。
このように、費用逓減産業では、あるべき価格水準でサービスを提供をすると赤字になります。しかし、自然独占という状態を活かして、割高に価格設定をすることで、赤字を回避しているのです。
JR北海道は、それを凌駕するほど鉄道需要が少ないため赤字に陥っています。
政府が規制する場合も
- 社会的に必要とされる産業は、国が価格規制を行う場合がある
企業側が高い価格設定をするのではなく、政府が料金制度を提示することがあります。
例えば「このサービスは○○円で販売する」のようなもの。鉄道なら1キロあたり○○円と運賃が決まっている。
電力・水道・鉄道・通信などは、生活には必須の社会インフラです。そのようなサービスは、政府が無理やりにでも、価格規制を行って企業を存続させる必要があります。
国の政策的の1つとして、費用逓減産業が赤字に陥らないように対応しているのです
どちらにせよ
企業が高い価格設定で赤字を回避したり、政府が価格規制を行うなど、費用逓減産業では赤字を回避するために、あるべき価格水準よりも高い料金設定がされています。
注意ポイント
つまり、効率的な価格水準にならない。価格水準が効率的ではないので、市場では社会的な損失が発生しています。
費用逓減産業では、社会が必要とするサービスが多いため、何らかの形で企業を存続させる必要があります。しかし、規制のやり方次第では、市場の非効率さが増していくので注意が必要です。