自分の経済活動が、他人へ影響を与えることがあります。
経済学では必須の「外部性」という現象。
- 「正の外部性」と「負の外部性」
- 外部性からどんな問題が生まれるか
- 外部性の私的費用・社会費用
- 外部性をどうやって解決するか
「外部性」に関わる基礎的な話をこのページに網羅しました
外部性に関連する問題を簡単に分かりやすく解説!
外部性とは?「外部経済と外部不経済」
外部性とは?
ある人の経済活動が、全く関係のない第三者に影響を及ぼすこと。
良い影響を与える場合は「外部経済(正の外部性)」と呼び、悪い影響を与える時は「外部不経済(負の外部性)」と呼ぶ。
例えば
ある女性は、週末の旅行が楽しみでニコニコしていました。
その笑顔を見た男性は、とても幸せな気持ちになり仕事がはかどりました。
この場合、これを「外部経済(正の外部性)」と呼びます。
女性が旅行に行くという経済活動が、関係のない男性の仕事の効率性を高めました。
このように、第三者へ影響を与えるのが「外部性」というものになります。
ここからは
「外部経済(正の外部性)」「外部不経済(負の外部性)」の有名な具体例を紹介していきます。
外部経済(正の外部性)の例
有名な例
- 養蜂家と果樹農家
養蜂家(ようほうか)は、ミツバチを育てて、蜂蜜を取る人のことです。果樹農家は、くだものを育てる農家。
ミツバチは、果樹園から蜜を取りに飛び交います。
その時に、花粉も一緒に運ぶことになるので果樹の受粉も促進されます。すると果樹農家は、生産量が増えて利益を増やすことが出来ます。
養蜂家は、果樹農家へ外部経済(正の外部性)を与えている
他の例
- 予防接種 ⇒ 自分が病気にならないだけではなく、周囲へ病気を広げない
- 都市開発 ⇒近くに住んでいると、地価の上昇や利便性の向上などの恩恵
- 綺麗な庭園 ⇒ 通り過ぎる人が綺麗な庭を楽しむことが出来る
- 教育 ⇒ 本人の能力を上げること以外にも、治安や経済発展に寄与する
外部不経済(負の外部性)の例
(Wikipediaより・スモッグに覆われた台湾)
代表的な例
- 公害
公害とは、企業の活動による騒音・煤煙(ばいえん)・廃液・廃棄物、地下水の大量採取から起こる地盤沈下、また製品中の有毒物などが原因で、一般住民の生活に及ぶ害のこと。
企業は、利益を出すために様々な生産活動を行います。
その過程で、環境に悪影響を与えるなどして、生活環境を破壊することがあります。生活環境を破壊されて困るのは、その企業とは関係のない一般の人々です。
こうした企業は、一般の人々に外部不経済(負の外部性)を与えている
他の例
- 二酸化炭素の排出 ⇒ 生活でCO2を排出すると地球温暖化が進む
- 年末年始・お盆の帰省ラッシュ ⇒ 交通渋滞を引き起こす
- タバコを吸う ⇒ タバコを吸わない人への副流煙
- 海賊版の台頭 ⇒ クリエイターが報酬を手に入れずらくなる
二酸化炭素(CO2)で地球温暖化が進むかは諸説ありますが、世間一般的な認識として。
さらに詳しく
外部性には、市場を経由するもの(金銭的外部性=価格的なモノ)と、しないもの(技術的外部性=価格以外のもの)があります。※技術とは言っていますが、テクノロジー的な話という事ではありません。
ここまで紹介した例では、予防接種・綺麗な庭園・教育・公害・環境問題・交通渋滞・健康問題は「技術的外部性」に当たります。
海賊版により、報酬額に影響を及ぼす場合は「金銭的外部性」に当たります。
都市開発は、地価上昇という恩恵なら土地市場を通して価値が上昇するので「金銭的外部性」で、利便性が増すなどは「技術的外部性」に当たります。
ネットワーク外部性
「ネットワーク外部性」は通常の外部性とは若干意味が異なりますが、一緒に登場することもあるので簡単に抑さえておきましょう!
通信産業でよく見られる
- 電話や連絡ツール
多くの人がスマホなどの連絡手段を持ち歩いているので、相手と連絡をする手間が省けます。
しかし、スマホを持っている人が少なかったら、連絡が取りづらくなり不便さが出ます。つまり、電話やスマホは、使える人が多いほど利便性が増しているわけです。
電話・スマホなどは「ネットワーク外部性」の代表例
正のネットワーク外部性
- モノのインターネット(IoT)
「IoT(モノのインターネット)」とは、様々な「モノ(物)」がインターネットに接続され、情報交換することにより相互に制御する仕組み。
電話などに似ていますが、IoT(モノのインターネット)を例に考えてみましょう。
なんでもインターネットに繋がっている方が、スマホで簡単に利用したり、操作できるので利便性が増します。(正のネットワーク外部性)
負のネットワーク外部性
- 輻輳(ふくそう)
輻輳とは、物が1か所に集中し混雑する状態のことです。
交通渋滞や、ネットの集中アクセスを考えてみます。
みんなが便利さゆえに、車やスマホを持っています。車の場合、みんなが高速道路を利用すると渋滞になります。スマホも、みんなが同じサイトへ一斉アクセスするとサイトが落ちます。
こうしたマイナス面は、規模が車やスマホを利用する人が多くなるほど、影響が大きくなるので「負のネットワーク外部性」だと言えます。
外部性の問題点
ここまでは「外部性」の簡単な例を見てきました。
次に「外部性」によってどのような問題が生じるのかを考えてみます
外部経済(正の外部性)の問題点
ポイント
「正の外部性」があるものは、供給が過小になる(傾向がある)。
公共サービス
- 正の外部性がある「公共サービス」を見てましょう!
警察や消防、町の保全活動などの公共サービスがあります。
町が安全で保全されていれば、一般の人にも良い影響をあたえるので、公共サービスには「正の外部性」があります。
しかし、公共サービスの収入源は、税金・募金などです。
このとき、税金を支払わない人でも、公共サービスを利用することが出来ます
つまり「正の外部性」があるものは、自分がお金を支払わなくても得をするのです。
このように、お金を支払わないけど、そのサービスの恩恵を受けることをタダ乗りと言い、それに関連して発生する問題を「フリーライダー問題」と呼んでいます。
ココがポイント
本当に必要としている人だけにサービスを提供できるなら、その人がお金を支払うことで話は終わります。
しかし、公共サービスのように、みんなが必要としているものは、全員が税金や募金をしているわけではないので、サービスを維持するための収入が100%得られません。
さらに、企業が利益の出ない公共サービスを提供することはないので、サービス自体の供給量が需要よりも少なくなります。
外部不経済(負の外部性)の問題点
ポイント
「負の外部性」があるものは、供給が過剰になる(傾向がある)。
アルミニウムの生産
- 負の外部性がある「アルミニウムの生産」を見てましょう!
アルミニウム工場では、汚い煙を排出しているとします。周辺に住んでいる人の健康に悪影響を与えるので「負の外部性」となります。
健康に悪影響を受けた人は、病院に通うなど、余計に費用を支払うことになります。
しかし、アルミニウムの生産を行っている企業は、病院代を負担することはありません。
そのため、社会全体で考えたコストよりも安い費用でアルミニウムの生産を行うため、生産が過剰になります。⇒ 本当なら、そうした病院代などのコストも企業が負担すべきなのに、負担していないため、割安でアルミニウムの生産が行われている状態。
例えば
- ウナギなどの希少性のある生き物を乱獲する
日本人なら大好きなウナギですが、乱獲すると絶滅してしまいます。
ウナギが絶滅すると、今後ウナギを食べられなくなるので「負の外部性」が発生する。
しかし、絶滅した場合の責任(コスト)を企業が支払わなくていいなら、企業はウナギを乱獲して大量に売り出します。すると、明らかに生産過剰(漁獲量が過大)になります。
このように
共有資源は、規制がないと乱獲されて資源が枯渇する傾向にある(共有地の悲劇)
余剰分析:私的限界費用と社会的限界費用
経済学では、需要と供給のグラフを使って経済現象を分析しています。
大学で経済学を勉強すると登場するはずです。
実際に「外部性」の話をグラフで表現してみましょう
専門的な話になるので、興味がない人は「外部性」の解決策を最後にまとめているので、飛ばして大丈夫です。
外部経済(正の外部性)のグラフ
外部不経済(負の外部性)のグラフ
ちなみに
最適な生産量だった場合、「金額(P)」「需要曲線」「社会的限界費用」に囲まれた三角形が総余剰になります。
そこから社会的な損失分(死荷重)を差し引いた分が、現実の総余剰になります。
そのため「正の外部性」「負の外部性」のどちらも、本来あるべき総余剰から死荷重分がマイナスされているので、非効率的な状態という分析になります。
外部性の解決策「内部化」
最後に「外部性」による問題をどのように解決するのかを考えてみます。
外部性の解決策を内部化と呼びます。
内部化とは、外部性の見えないコストを認識させることを言います。見えないコストを、政府や企業が負担することで効率的な状態を目指すという意味合い。
経済学では、大きく5つの考え方があります
補助金
これは「外部経済(正の外部性)」への対策になります
例えば
- 壊れた道路を補修する
この時、税収が少ない市町村では、壊れた道路がそのままになっていました。しかし、その道路は、主要都市をつなぐ道路だったので、多くの人々に「正の外部性」を与えます。
そこで、国が市町村を助けるために補助金を出します。補助金により「正の外部性を与えるものは供給が過小になる」という問題点を解決するわけです。
ココに注意
国や政府などは、どのくらいの補助金を出せば良いのかを詳細に知ることが出来ない。そのため、補助金が多すぎたり、少なすぎたりする問題が発生する。
「正の外部性」を解決する方法として有名な補助金ですが、効率的に補助金を配ることが難しいのが難点となっています。
ピグー税
(Wikipediaより・アーサー・セシル・ピグー)
これは「外部不経済(負の外部性)」への対策になります
例えば
- 汚染物質に対して課税する
汚染物質を排出する工場には、排出量に応じて税金をかけます。この時の税金のことをピグー税と言います。税金がかけられたことで、汚染物質の排出量は抑えられて最適な生産活動が行われます。
税金により「負の外部性を与えるものは供給が過剰になる」という問題点を解決するわけです。
「負の外部性」を解決する方法として有名な課税(ピグー税)ですが、効率的に課税することが難しいのが難点となっています。
さらに詳しく
補助金や税金(ピグー税)の解決策を考えたのは、アーサー・セシル・ピグーという経済学者です。1900年代前半の人物で、彼の名前からピグー税と呼ばれています。※ちなみに補助金も含めてピグー税と呼ぶことがあります。
詳細はこちら
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排出権取引
先ほどのピグー税と似ているかもしれません。
排出権取引とは?
企業が環境に悪影響を与えるような排出物を排出する際に、排出するための権利を購入する制度や取引のこと。
例えば
温暖化対策のCO2の排出権取引
地球温暖化への対策として、温室効果ガス(二酸化炭素)の排出枠の取引がEUを中心に盛んになっています。
排出権取引も、どのような基準で金額を設定するのがベストなのか不明です。そのため、効率的な金額で取引できない可能性が高いのです。
交渉する(コースの定理)
(Wikipediaより・ロナルド・H・コース)
この解決策は、何かと問題視されるため有名です。
コースの定理
外部性が存在しても所有権さえ分かっていれば、当事者間の交渉で効率的な資源配分が実現する。また、当事者間で交渉するため、政府が介入する必要もない。
交渉が成立する条件
- 所有権がハッキリしている
- 交渉の取引費用は0円
この条件さえ満たしていれば、企業と個人が交渉することが出来るので、費用の負担方法が効率的に決まると考えました。
問題点
そもそも「所有権がハッキリしている」「取引費用が0円」という条件は、現実にほぼ存在していません。
さらに詳しく
仮に、コースの定理が成り立つ世界が現実にあった場合の話です。
公害で苦しんでいる人々は企業に工場の閉鎖を訴えます。この時「企業が住民へ賠償金を支払う」のも、「住民は企業にお金を支払って(利益の補填をして)、工場を閉鎖してもらう」のも社会的には同じ結果になる、と考えています。
つまり・・
公害で苦しんでいる人々は企業に工場の閉鎖を訴えます。しかし、企業は生産を続けたいと考えていました。
そうなった場合、住民は企業にお金を支払って(利益の補填をして)、企業に工場を閉鎖してもらうのが効率的となります。
詳しくはこちら!
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直接規制する(一律規制)
面倒なことは考えず、外部性のあるものを一律で規制してしまうという解決策です。
この解決策も、どのような基準で規制するかの線引きが難しいため、ベストな解決にならないことが多いです。
「外部性」は経済学では、頻出する問題なので、解決策を自分なりに考えてみては?