経済学では必ず登場する「情報の非対称性」
- 就職活動で発生する問題
- 中古市場での逆選択
- 保険市場でのモラルハザード
これを読めば「情報の非対称性」で発生する問題が一覧で分かります。
「情報の非対称性」とは?
情報の非対称性とは
商品やサービスに関する情報に関して、「売り手」と「買い手」で情報格差が生まれる現象。
この情報格差により「売り手」も「買い手」も、損を被(こうむ)る。(パレート最適が実現しない・市場の失敗が引き起こる。)
代表的な話
- 就活生の採用市場を見てみる
学生は就職を希望しています。
そんな学生を採用すべく、企業は採用活動を行います。
どちらも相手のことが分からない
就活生
この会社で働いても大丈夫なのかな?
就活生側
- 企業で活躍できるのか?
- ブラック企業じゃないのか?
企業の採用担当
この学生、仕事できるのかな?
企業側
- 学生の能力が分からない
- うちの会社に合うのか?
ポイント
就活市場では、就活性も企業も、相手のことが分からないため「情報の非対称性」が発生しています。
問題点
- ミスマッチが発生する
学生・企業は、相手の情報が良く分からないので、就職後に問題が発生します。
学生・企業「あれ?こんなはずじゃなかった。」
ミスマッチを無くすためにも「情報の非対称性」に対処する必要があります。
「情報の非対称性」の対処 ①シグナリング
シグナリングとは?
情報をたくさん持っている側が、情報を持っていない側へ、情報の開示を行うこと。
例えば
就活生が送るシグナリングを見てみましょう。
就活生
○○大学卒業、英検1級、国連でインターンを行い・・
就活生のシグナリング
- 学歴
- 資格
- 研究内容
どのような学歴・資格を持っているかは、重要なシグナリング(情報の開示)となります。
高学歴や国家資格を持っている方が、その学生が優秀である確率が高いと判断できるためです。
企業は、その学生がどれくらい仕事が出来るのか分かりません。そこで、学生側が「自分は仕事が出来ます」という情報を提示します。
実際に仕事をしているわけではないので、その代わりとなる「学歴・資格」などを開示します。
企業側は・・
企業がシグナリングを行う場合もあります。
- 福利厚生の充実
- 週休完全2日制
- 平均残業時間
などの情報を開示して、就活生向けに「私たちはブラック企業ではありません」というシグナルを送るのです。
「情報の非対称性」の対処 ②スクリーニング
シグナリングは「情報を持っている側が、自分の情報を開示する」ものです。
逆に、情報を持っていない側が、情報の開示を求める場合もあります。
スクリーニング
情報を持っていない側が、情報を持っている側に、情報の開示を求める行為のこと。
就活市場の話なら、スクリーニングを行うのは企業側です。
企業側
今回の求人では、TOEICが800点以上ないと応募できません。
学生側のシグナリング(情報開示)を待たずに、応募の段階で、条件に合っているかの情報を求めています。
「シグナリング」「スクリーニング」の問題点
「シグナリング」や「スクリーニング」には問題点もあります。
先ほどの就活の話で見ていきましょう。
例えば
- 高学歴だけど、全く仕事が出来ない人
企業側
高学歴で、面接の対応も文句なし、きっと優秀な人材だ!
学歴という「シグナル」は、絶対に仕事が出来ることを保証しているわけではありません。
ココに注意
学生が送るシグナリングは、あくまで、仕事と関係しそうな情報です。働いたことがない学生は、そもそも仕事が出来ることを証明するのは不可能です。
学生が送るシグナリングが不完全である以上、情報の非対称性が解消されません
その結果
企業側
仕事が出来ない高学歴を採用してしまった・・・・。
学歴・面接での受け答え以外で、学生を判断する材料はほぼありません。
過去50年以上にわたり、大学新卒の3年以内の離職率が30%程度で推移している原因かもしれません。
就職市場で発生する「情報の非対称性」は、ミスマッチという形で問題になります。
しかし
他の市場では、別の問題を生み出すこともあります。
有名な例が2つあるので、見ていきましょう。
情報の非対称性の例① 中古市場と「逆選択」
逆選択とは
情報を持っていない側が、品質の悪い商品やサービスを掴まされる現象。
中古車市場
- 中古車を買う人が損する
そもそも車を買うことに慣れている人はいません。さらに中古車市場になると、車の劣化具合などは、初心者には分かりません。
ポイント
つまり、中古車市場では、売り手側が車の情報をたくさん持っていることになります。
中古車の品質について判断のしようがない買い手は、売り手の言うがままに購入してしまいます。
買い手
お店の人が言っているし、これを買おう。
この時、売り手が粗悪な中古車を、売りつけて儲ける場合があります
さらに詳しく
中古市場では、買い手の無知に付け込んで、粗悪品ばかり売りつける業者が増えていきます。そうすると、中古市場では粗悪品しか出回らなくなっていき、買い手が損をします。これを「逆選択」と言います。
中古市場では、情報の非対称性に対処しないと、粗悪品ばかりが出回り、買い手が損を被る「逆選択」が発生します。
ちなみに
アメリカでは、見た目では分からない粗悪な中古車を「レモン」と言います。いい中古車は「ピーチ」と呼びます。
※レモンは皮が厚くて外見から中身の見分けがつかない。
レモン市場
そのため、中古車市場のような、見た目だけでは品質を評価できない商品が出回る市場を「レモン市場」と言います。
レモン市場では、情報の非対称性により、見た目では分からない粗悪品が流通する傾向にあります。
情報の非対称性の例② 保険市場と「モラル・ハザード」
モラル・ハザードとは
相手の行動を完全に知ることが出来ない場合、情報のない側が不利益を被る現象。
自動車保険
- 保険会社が損する
運転手が事故を起こした場合に、保険金が支払われます。この時、運転手がどんな運転をしていたのかが分かりません。
運転手が不注意で事故を起こしても、それがバレなければ保険金が払われます。
保険会社も、保険を結んだあとに、車の運転手が慎重に運転しているのかなど完ぺきに知ることなど出来ません。(情報の非対称性)
保険に加入後
男性
保険に入ったし、少しくらい雑に運転しても大丈夫か。
ポイント
こうして、保険に加入したことがきっかけで、逆にリスクのある行動に出やすくなることを「モラル・ハザード」と呼びます。
他にも
- 上司の目を盗んでサボる
- 医者が無駄に薬を処方する
上司は、部下の行動を100%把握しきれませんし、患者は医学のことは分かりません。このような情報の非対称性がある場合に「モラル・ハザード」が発生します。
さらに詳しく
情報の非対称性が改善するように、監視(モニタリング)する必要がありますが、監視することが困難な場合ほど「モラルハザード」が発生しやすくなります。
インセンティブを与える
例えば
- 無事故を2年間継続すれば、保険料が安くなる
- 仕事で成果が出ればボーナス
医師が無駄に薬を出すような「モラル・ハザード」は、今も解決できていません。
まとめ
「情報の非対称性」が発生すると、様々な問題が引き起こる。
- 取引を開始する前なら「逆選択」
- 取引を開始した後なら「モラル・ハザード」
「隠された情報」「隠された行動」
・「逆選択」は商品を購入する前に発生するため「隠された情報」が問題になる。
・「モラルハザード」は保険を結んだあと、働き始めてから発生するため「隠された行動」が問題になる。
解決のために
- シグナリング
- スクリーニング
- モニタリング
- インセンティブ