生産者理論で登場する「等量曲線」について
- 等量曲線(等生産量曲線)とは
- 等量曲線の性質
- 生産関数と等量曲線の関係
- 特殊な等量曲線(直角・直線)
- 無差別曲線との違いは?
勉強を進めていく上で必要な知識をまとめています。
等量曲線(等生産量曲線)とは
等量曲線(等生産量曲線)とは
企業が同じ生産量を維持できる生産要素(資本量・労働量など)の組合わせを結んだ曲線のこと。同一の等量曲線上ならば生産量は同じになる。等生産量曲線・等産出量曲線とも言う。
例えば
- 自動車を100台生産する
車100台には、専用の機械(資本)と、組み立てを行う人(労働力)が必要です。
ここでは、車100台の生産に「機械10台・作業員15人」が必要だと仮定します。
ポイント
ここで、車100台の生産には、機械を1台減らして作業員を10人増やすことでも対応できる場合「機械9台」「作業員25人」とすることが出来ます。
逆に、機械を1台増やして作業員を5人減らすことで、車100台の生産を維持できるならば「機械11台」「作業員10人」と出来ます。
まとめると
車100台を生産するための生産要素の組み合わせは、次の3通りが可能です。
- (機械9台,作業員25人)
- (機械10台,作業員15人)
- (機械11台,作業員10人)
グラフで見ると
ポイント
このように、同じ生産量(産出量)を維持できる生産要素(資本量・労働量など)の組み合わせを結んだ曲線を等量曲線と呼んでいます。(曲線は直線を含みます)。
等量曲線の性質
等量曲線には、大きく4つの性質があります。
等量曲線は
- 右上に位置する方が生産量が多い
- 右下がり
- 交わらない
- 原点に対して凸
この4つの性質について簡単に見ていきます。
① 右上に行くほど生産量が多い
より右上に位置する等量曲線の方が生産量が多い(生産水準が高い)
例えば
- 等量曲線上の点(11, 10)
- 等量曲線上の点(10, 30)
点(11, 10)よりも点(10, 30)の方が右上の等量曲線(Y=150)上に存在している。
そのため、点(10, 30)の方が生産量が多い。
② 右下がりになる
等量曲線は、基本的には右下がりになる。
ココに注意
基本的には右下がりですが、L字型の等量曲線なども存在します。⇒この記事の後半部分を確認する
③ 交わらない
異なる2本の等量曲線は、お互い決して交わりません。
簡単に証明をしてみます。
背理法は「○○だと矛盾が生じるので、○○は正しくない」という証明方法。
最初に
企業の生産活動は
- 単調性(非飽和性)を満たしているとする
ポイント
生産要素を投入した分だけ多く生産物が得られます。これを単調性(非飽和性)と呼びます。
※限界生産力逓減の法則があるので増加率は小さくなります。
ここで
等量曲線(Y=100)と等量曲線(Y=200)が交わっているとします。
- 等量曲線(Y=100)上に点Aと点B
- 等量曲線(Y=200)上に点Aと点C
次に
同じ等量曲線上ならば「どの資本量・労働量の組み合わせ」も同じ生産量となる。
- 等量曲線(Y=100)上にある点Aと点Bは同じ生産量
- 等量曲線(Y=200)上にある点Aと点Cは同じ生産量
推移律※の関係から「点Aの生産量=点Bの生産量=点Cの生産量」となるため、等量曲線(Y=100)と等量曲線(Y=200)は同じ生産量になるはずである。
「a=b」でかつ「b=c」であれば「a=c」が成り立つことを推移律という。
しかし
グラフから、点Cは
- 点Bよりも右上に存在している
- 投入された資本量・労働量が点Bより多い
単調性(非飽和性)を満たしていることから「点Cの生産量」は「点Bの生産量」よりも多くなるはずである。
推移律の関係から「点Cの生産量」と「点Bの生産量」は同じになるはずなので、ここで矛盾が生じる。
以上より
2つの等量曲線が交わることで矛盾が生じるため、2つの異なる等量曲線が交わることはない。
④ 原点から見て内側に膨らむ
一般的な等量曲線は、原点に向かって内側に膨らんだ曲線になります。原点に対して凸とも表現されます。
技術的限界代替率逓減の法則により、等量曲線は原点に対して凸になります。
例えば
- 農作物を作る
もし「土地が4つあるけど、労働者がいないなら」農作物は育てられません。「労働者が4人いるけど、土地が無くても」農作物は育てられません。
そのため、土地と労働者(労働力)がバランスよく必要になります。
人間ではなくロボットが働くと考えた場合も同様です。土地だけあっても、ロボットによる労働力がなければ農作物は育てられません。
ポイント
- 土地=4, 労働者=0
- 土地=0, 労働者=4
- 土地=2, 労働者=2
この3つなら、土地と労働者がバランスよく投入される「土地=2, 労働者=2」が多くの農作物を収穫できます。
もしも
- 等量曲線が原点に凸ではなく、直線だったら
同じ等量曲線上なので、3つの生産量はすべて同じになります。
- 土地=4, 労働者=0
- 土地=0, 労働者=4
- 土地=2, 労働者=2
さきほど記載したように、ふつうは土地と労働者がバランスよく投入される「土地=2, 労働者=2」の方が多くの農作物を収穫できるので、等量曲線は直線にはなりません。
つまり
「土地=2, 労働者=2」の点が他2つよりも右上の等量曲線上に位置するように、原点に対して凸形状の等量曲線が自然となる。
生産関数との関係
生産関数と等量曲線の違いが分からない人がいるかと思います。ここでは、その違いと関係性について解説していきます。
ポイント
長期生産関数を2次元に落とし込んだ曲線が「等量曲線(等産出量曲線)」となる。
生産関数は「労働力(L)」「資本(K)」の両方が産出量に影響を与えるので、3次元のグラフになります。
産出量(生産量)は、空中の縦軸で測定できます。
ここで、赤い点線(Y*)に注目します。
赤線(Y*)は、同じ産出量(生産量)を示しています。
つまり
労働と資本の組み合わせが「L, K」でも「L*, K*」でも、生産物の産出量は「Y*」になります。
ポイント
例えば、100個の製品を作るのに(労働10, 資本30)という組み合わせでも(労働50, 資本10)という組み合わせでもOKという状態です。
どちらの組み合わせでも100個の製品を作れることを赤い線が表してます。
そして
産出量が同じになる労働(L)と資本(K)の組み合わせを結び、2次元に落とし込みます。
生産関数を2次元に落とし込んだ曲線が「等量曲線(等産出量曲線)」となる。
等量曲線のよくある疑問
等量曲線でよくある疑問を簡単に説明していきます。
生産関数がS字でも原点に凸?
S字型の生産関数の場合、等量曲線の形状はどのようになるか。
生産要素の投入が少ない段階では生産が効率化していきます。一方で、投入しすぎると生産効率が悪くなります。それを表したのがS字型の生産関数です。
ポイント
等量曲線は、生産関数を2次元に落とし込んだ曲線。⇒1つ前の段落で確認する
グラフで見る
生産要素がS字型でも、等量曲線は原点に対して凸の曲線になる。
さらに詳しく
通常は生産要素(資本・労働力)を投入し続ければ、生産量は増え続けるので生産関数は右上がりになります。(収穫が逓減(逓増)するため、生産量の増加率は変わります。これはS字のようにカーブの緩やかさで表現されます。)
つまり、ふつうの生産関数は右上がりになるので、等量曲線は原点に対して凸の曲線にしかなりません。
生産要素を投入すると、どんどん生産量が減少する物理法則に反したような場合では、生産関数は右下がりになります。この場合は、原点に対して凹の等量曲線になります。
等量曲線が直角になるのは?
等量曲線がL字(直角)になるケースはある?
ポイント
等量曲線が直角になるのは、2つの生産要素が揃わないと生産できないことを表している。ちなみに、このような生産関数はレオンチェフ型と言います。
例えば
- ヴァイオリンの演奏会を開く
演奏会を開くには、ヴァイオリンと演奏者の1セットが必要です。
他にも
- 航空会社が航空サービスを提供する
通常、飛行機1台につき操縦士が2人位います。
そのため、飛行機1台と操縦士2人がいないとサービスを提供できません。これも等量曲線が直角になる例です。
もしも
飛行機が100台あった場合でも、操縦士が2人しかいなければ、飛ばせる飛行機は1つです。
無差別曲線とは何が違うの?
「等量曲線」と似たものに「無差別曲線」があります。
ポイント
- 無差別曲線は「序数」
- 等量曲線は「基数」
「序数」は順番を示し、基数は「数量」を示す。
もともと、消費者理論で登場する「効用(無差別曲線)」は「AよりもBが好き(序数)」という考え方です。
ココに注意
便宜上で「満足度70」とか「満足度100」を使うことはありますが、そもそも人の満足度(効用)を数字で表すことは出来ないので、あくまで「AよりBの方が好き(序数)」という順番をもとに効用水準を判断しています。
一方で
企業の生産活動では、具体的に生産量がいくつかを考えています。つまり、数量という考え方がベースにあるので、等量曲線は基数に基づいています。