市場に任せると必然的に独占状態が発生することがあります。
- 自然独占の概要と例
- 何故そのようなことが起こるのか?
- 費用の劣加法性
- 自然独占の解決方法
身近に存在する「市場の失敗」の1つである「自然独占」を分かりやすく解説!
自然独占とは?
自然独占とは
「規模の経済」「範囲の経済」「資源の希少性」がある産業分野では、競争が生まれず、必然的に独占状態となること。市場の失敗の1つ。
例えば
「自然独占」に該当していそうな業種
- 電気
- ガス
- 水道
- 通信
- 鉄道
- 航空
地域によりますが、このような産業では、1社~3社程度の会社が市場を独占(寡占)しています。
ポイント
自然独占が引き起る原因は大きく2つ。
- 規模の経済
- 範囲の経済
この2つの特性がある場合、市場は自然と独占状態に陥ります。
※資源の希少性も原因の1つになりますが、経済学では「規模の経済」「範囲の経済」がメインで取り上げられます。なので「資源の希少性」は飛ばします。
step
1規模の経済
生産すればするほど効率的になる状態のこと。厳密には「生産規模を拡大することで、単位当たりの生産コストが低減する状態」
例えば
自動車を作る場合
- 1台生産する
- 1000台生産する
1台だけ生産するよりも、1000台生産する方が設備をフル稼働して効率的に生産できるので、1000台生産した方が1台あたりの生産コストが安くなる。
step
2範囲の経済
「製品の種類を拡大をする場合、別個に生産するよりも、まとめて生産する方が費用が安くなる状態。(もしくは、事業を多角化する時に、各事業が相乗効果を生み出し効率的になる状態)」
例えば
ポテトチップスを作る場合
- 塩味のポテチを作る会社
- のり塩のポテチを作る会社
- コンソメ味のポテチを作る会社
上記のように分かれているよりも、「塩・のり塩・コンソメ」を1社で生産する方が、全体の費用が安く済みます。(各社で設備を揃えるよりも、1社でまとめて管理した方が効率的になる)
重要(最近の経済学では)
- 規模の経済
- 範囲の経済
この2つの言葉の意味を含んだ「費用の劣加法性」という単語が注目されています。
例えば
- 航空産業
(雪の中の新千歳空港)
日本には「全日本空輸(ANA)」「日本航空(JAL)」という2つの航空会社が有名です。
この2社は、全国に空路があり人・荷物を運んでいます。
- 規模の経済
飛行機なら、全国に空港があれば利便性が増して乗客も増えていきます。つまり、航空網が確立さえすれば、輸送力を強化すればするほど利益を出しやすくなります。
- 範囲の経済
飛行機は人だけではなく貨物も運びます。この場合、同じ航空会社のグループで飛行機を管理して、人と荷物を輸送することで効率的に経営が出来ます。
航空産業は、「費用の劣加法性(規模の経済・範囲の経済)」の2つが働いている。
さらに詳しく
「費用の劣加法性(規模の経済・範囲の経済)」が働いている代表例が「費用逓減産業」です。
多額の初期投資が必要だけど、一度設備が完成すれば、その後の生産コストがあまりかからない産業のこと。電気・水道・通信・電鉄など、社会インフラを担う産業に多い。航空業界も費用逓減産業に該当します。
経済学的には、初期の固定費(FC)が大きく、生産量が増加すると平均費用(AC)が減少していく産業のことを言う。
-
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まとめると
自然独占が発生するのは「費用の劣加法性(規模の経済・範囲の経済)」がある市場。「費用の劣加法性」が働いている業種は「費用逓減産業」に多く「市場の失敗」を伴う。
自然独占になる原因
ここでは「費用逓減産業※」に注目します
※多額の初期投資が必要だけど、一度設備が完成すれば、その後の生産コストがあまりかからない産業のこと。電気・水道・通信・電鉄など、社会インフラを担う産業に多い。
初期投資が多額にかかる
初期投資が莫大にかかるので、一般的な企業では市場に参入するのが困難です。
その結果、費用逓減産業ではライバル企業が限りになく減ります。
1社で生産した方が効率的になる
一度設備が完成すれば、その設備を活かして関連ビジネスを展開できます。
ANAグループで「旅客」「貨物運輸」を行ったほうが効率的。仮に「旅客だけの会社」「貨物運輸だけの会社」とすると、それぞれで航空機を契約して、それぞれで空路を確保するなど、非効率的になります。
ココがポイント
費用逓減産業では、初期投資が莫大にかかるため市場へ参入しづらい。最初に市場シェアを獲得した企業は、ライバル企業が少ないため大きな影響力を持ちます。
さらに、1社で生産したほうが効率的なので、自然の流れで、独占的に市場を支配する企業が誕生します(自然独占)。
自然独占の問題点
価格が高止まりする理由
そもそも
費用逓減産業では、あるべき価格でサービスが提供されると、企業は赤字になる
ポイント
費用逓減産業は莫大な初期投資が必要になるため、効率的な経営をするめには、たくさんの顧客が必要。
一般的に、企業が一番効率的にサービスを提供する段階に到達する前(平均費用が一番低くなる前)に、需要が頭打ちになる。
グラフで見ると
費用逓減産業 の特徴の1つ。
赤字を回避するために
需要が足りないと、普通の値段でサービスを提供していると赤字になります。
したがって、普通の値段よりも高い値段でサービスを提供して赤字を回避するのです。
注意ポイント
企業逓減産業ではライバル企業がいないため、赤字回避など理由から価格が必然的に高くなる。
自然独占の余剰分析
自然独占になると「価格が高止まりする」ということをグラフを使って分析していきます。
経済学の勉強では重要な項目ですが、不要な人は飛ばしてください。
まずは前提
平均費用曲線と限界費用曲線が交わる理由がわからない人は、こちらで確認してください⇒ 限界費用とは?
価格の決まり方
先ほど話したように、自然独占になる費用逓減産業では、需要が足りないことが普通です。上のグラフでは、平均費用が一番安くなる(効率的になる)ところよりも、需要は少ないことを表現しています。
次に
需要と限界費用曲線(MC)の交点で決まった価格が市場で1番効率的な価格水準になる。
しかし
市場で1番効率的な価格水準で取引すると、企業側が生産コスト(平均費用)を回収できない。
そのため
限界収入曲線(MR)を用いて独占価格が形成される。企業は独占価格を採用することで赤字を回避する。限界収入が分からない人はこちら⇒ 限界収入とは?
補足
独占価格で取引すれば、企業側が生産コスト(平均費用)よりも高い金額を回収できるため黒字になる。
ここに注目
自然独占の解決方法
最後に、自然独占になった場合の対象方法を考えてみます。
経済学で登場する対処方法は大きく3つあるので順番に紹介!
- 限界費用価格規制
- 平均費用価格規制
- 二部料金規制
① 限界費用価格規制
問題点
企業は赤字になるため、政府が補助金で補填する必要がある
このように、限界費用価格規制で生じた赤字は、補助金で補填されるべきだという考え方を「限界費用価格形成原理」と呼びます。
そもそも
政府が、企業の限界費用を測定するのが困難なため、実現がほぼ不可能です。
ポイント
メリット:効率的な資源配分が実現する
デメリット:企業は赤字(固定費部分)が生じるため補助金が必要・限界費用の測定が困難(ほぼ実現不可能)
② 平均費用価格規制
問題点
市場全体で見ると、限界費用価格規制よりは非効率な資源配分となる
平均費用価格規制は、企業に赤字が生じない一方で、限界費用価格規制よりも資源配分が非効率になります。
ポイント
メリット:企業側は赤字にならない(独立採算)
デメリット:資源配分が非効率的になる・平均費用の測定が難しい
先ほどと同じく
政府が、企業の平均費用を測定するのが困難なため、実現がほぼ不可能です。限界費用価格規制・平均費用価格規制どちらも、政府が正しく費用を把握する必要がありますが、現実的には不可能です。
規制の問題点をさらに詳しく
企業の内部要因が原因で、効率的な行動をとらない現象を「X(エックス)非効率性」と言います。規制のせいで企業が利益出そうとする意欲が薄れて、非効率的な経営を行う可能性が高まります (X非効率)。
また、企業が都合よく規制を設定してもらうように政府へ働きかける場合もあります。このように、超過利潤(レント)を探し求めること(シーキング)を「レントシーキング活動」と言います。働きかけが成功すると市場が非効率的になります。
そのため、現実では限界費用価格規制・平均費用価格規制ではなく、二部料金制が採用されているケースが多いです。
③ 二部料金制
限界費用価格規制で政府が補助金を出していた分を、企業が固定料金(基本料金)を設定して赤字を回避しているイメージ。
ポイント
① 平均費用価格規制の時よりも、全体の供給量が増える
② 政府の補助金がなくなることで、経営努力を怠るインセンティブを弱めることが出来る
更に
消費者の不利益にならないように、国は、公共料金の設定に対して次のような規制を行います。
- 総括原価方式(適正な原価と利益率になっているか)
- プライスキャップ方式(料金の上昇率に上限を設定)
- ヤードスティック方式(同種の他企業と料金が離れていないか)
二部料金制の詳しい話は、自然独占で取り上げられることは少ないので、これくらいにしておきます。