政府が参入規制を実施したときの例と余剰分析(余剰・死荷重)を見ていきます。
- 参入規制と規制緩和
- 現実の例
- 参入規制の余剰分析
参入規制・規制緩和とは
参入規制・規制緩和
政府は、ある特定の市場へ新規の生産者が参入することを規制することがある。一方で、このような規制を緩めていくことを規制緩和と言う。
ポイント①
- 政府が参入規制を行う理由
市場競争を避けて生産者を保護したい場合、その他国の政策上の問題から、政府は市場への参入規制を行う。
例えば
- 航空産業のケース
航空機が空を飛ぶというのは危険と隣り合わせです。競争が激しくなり安全性が失われる可能性があります。市場競争に任せるよりも社会全体の安全性を重視したいため、政府は航空産業へ参入規制を行っていました。
現在では航空産業への参入規制は徐々に緩和(規制緩和)されている。
ポイント②
- 政府が参入規制を行うと死荷重を発生する
参入規制により、市場では経済効率性が失われて総余剰が最大化しません。このとき発生した社会的な損失は死荷重(デッドウェイトロス)となります。
そのため、一般的には総余剰が大きくなるように規制緩和していくことが望まれます。
参入規制・規制緩和の例
参入規制は、身近な産業でもたくさんあります。
参入規制の具体例
- 航空事業
- テレビ・通信事業
- タクシー規制
- 医療機器規制
- 日本酒製造
- 農業規制
- その他外資の出資制限
航空産業では、就航路線や航空会社設立に一定の条件が課されています。また、外国資本(外資)が航空会社を設立するのも一定の規制が設けられています。
日本の空を飛ぶため、安全性や軍事的な観点から、単純に自由競争を促進すれば良いわけではありません。そのための参入規制でしたが、近年では格安航空(LCC)などが登場してきたように、平成以降は航空業界への規制緩和の流れが続いています(参照)
テレビ放送を行うための電波は割当制となっています。新規参入には総務省の認可が必要ですが、電波を割り当ててもらうことは困難で参入規制と言えます。
ちなみに外国では電波オークションによって電波の配分が決まっています。それに比べ、電波の利用を独占的に行っている日本の放送業界は、格安な電波利用料で莫大な広告収入を得ています。新規参入がない市場であるため競争が生まれず、広告料なども高止まりしていると言えます。また、テレビ以外でも電波は割当制となっており、NTTやKDDIなどに代表される通信産業でも同様の事象が生じています。ただし、テレビよりは規制緩和が進んでおり、近年では格安でサービスを提供する通信事業者や、新たに楽天が通信事業に参入してきたことも話題になりました。
電波には限りがあるため希少性が高く、さらに軍事的にも問題になるようなジャンルなので、単純に自由競争とすることが出来ないジレンマがあります。
タクシー業界には、ドライバーなどの保護の観点から参入規制が敷かれていました。しかし、近年では規制緩和の流れが続いています(参照)
また、最近注目されいてる配車サービスやライドシェアなども、実質的には参入規制が敷かれていると言って問題ありません。国が意図的に参入規制を行っているというよりは、現行の法律が参入障壁となっていると言えます※(もちろん、安全性の観点から、国がOKサインを出すとも考えられませんが‥)
日本では、個人ドライバーがお客を乗せるという形でのサービス展開は、実質的に断念?されています。
※道路運送法~お客さんを乗せて、運賃を取るサービスには認可が必要(参照)。いわゆる配車サービスは、認可を持っていない個人などがタクシーのようなサービスを提供していることから、道路輸送法に違反しているという国土交通省の主張があります。そのため日本では、配車サービスとして使えるのはタクシーだけとなっています。ライドシェアも同様の流れになると考えられます。
医療機器を製造販売するには、高い参入障壁があります。実質的な参入規制と考えて問題ないと思います。医療機器は患者の命に関わるものが多いため、多くの場面で国の認可が必要です(参照)
医療機器市場は参入障壁が高いため、他の市場に比べれば激しい競争からは外れているのでは?と考えられます。
日本酒を製造することも規制されています。そのため、日本市場には新たなプレイヤーが参入できない状態が続いていました。これは日本の酒蔵を守ることや、とくに酒税の確保に影響を及ぼす可能性があるため※です。
しかしながら、2020年度の税制改正大綱では外国での日本酒などの人気(輸出増)もあり、国内の需要には影響を与えないと判断した政府が、外国へ輸出する日本酒に限って製造販売を行うことを許可しました(参照)
※需給調整要件~酒税法第十条第一項より「酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要があるため酒類の製造免許又は酒類の販売業免許を与えることが適当でないと認められる場合」は新規参入を認めないことが出来ます。これを需給調整要件と言います。簡単に言うと、お酒市場で競争が激化して、価格が下がり過ぎると酒税(税金)の確保が難しくなるので、需給の調整を目的に新規参入を認めないことが出来る、というものです。この法律は日本酒以外のビール・ワインなども含まれますが、現状では日本酒とみりんが、新規参入を認められていません。※参照
一般的な企業は、農業法人への出資・農地を保有することも禁止されています。そのため、農業法人と関係があるJA(全国農業協同組合)が大きな影響を及ぼした特殊な産業です。
そのため、農産業は参入規制により、既存の農業従事者(または法人)が守られている特殊な市場となっています。今後は、規制緩和やTPPにより、自由競争の促進が期待されています。
特定の産業への外国資本(外資)の出資には制限が設けられています。「航空機、武器、原子力、宇宙開発、エネルギー、上水道、通信、放送、鉄道、路線バス、内航海運、石油、皮革、履物、農業、林業、水産業、警備業等の産業に対する投資(Wikipediaより)」
これらの業種に関連する企業(参照)への投資は、財務大臣への事前届け出が必要です。
ポイント
●日本の参入規制と規制緩和の流れ
基本的に国の都合(軍事・税金・食糧・その他政治的な問題)で実施されているものが多い。ただし、一度規制すると既得権益が生まれて、規制緩和を実施したいときに抵抗勢力となるケースも多い。
総余剰と死荷重の決まり方
ポイント
参入規制が行われると供給曲線の傾きが急勾配になり、市場価格より高い値段で商品・サービスが取引される。
グラフで見ると
参入規制により、供給曲線の傾きが変わった結果、価格は「P*」で高止まりして、均衡取引量よりも少ない数量「Q*」で取引が行われます。
さらに詳しく
参入規制により供給曲線の傾きが急勾配になる理由は、供給量が減少するためです。供給量が減少するので、商品・サービスの希少価値が高くなるので価格が高止まりします。
もしくは、新規参入がなければ価格競争が限定的になるので、企業は高価格帯を維持しすることが出来るとも考えられます。
死荷重
参入規制によって市場均衡点から外れたところで価格と数量が決まるため死荷重が発生します。
- 価格P0
- 点A
- 均衡点E
この3つの点からなる三角形部分が死荷重(社会的損失)となります
社会的損失=「三角形P0・A・E」
ポイント
参入規制によって供給曲線の傾きが変化するため、均衡取引量よりも少ない取引量しか実現せず(価格も高止まりして)死荷重が生まれ、経済的に非効率となることが分かる。
ちなみに
消費者余剰(CS)と生産者余剰(PS)は‥
消費者余剰は
次の三角形で囲まれた部分
- 点P2
- 点A
- 点P*
生産者余剰は
次の四角形で囲まれた部分
- 点P*
- 点A
- 点P0
ポイント
市場価格よりも価格が高いところで取引されるので生産者が得をしている(生産者余剰が消費者余剰よりも大きい)。
規制緩和すると‥
規制緩和が実施されて完全競争に近づくほど、供給曲線の傾きは緩やかになっていき均衡点に近づいていきます。