経済学では有名な登場する『ロビンソン・クルーソー』を使って、完全競争市場のパレート効率性について考察します。
- ロビンソン・クルーソー経済とは
- 消費者の側面で考える
- 生産者の側面で考える
- パレート効率的になるのか
ロビンソン・クルーソー経済とは
はてな
『ロビンソン・クルーソー』は、1719年に刊行された英国のダニエル・デフォーの小説。主人公のロビンソン・クルーソーは船乗りになり、航海中に船が難破してカリブ海の無人島に漂着する。
経済学で『ロビンソン・クルーソー』が登場する理由
ロビンソンは無人島に漂着してから、作物を育てたり家畜を飼ったりするなど、無人島で経済的な生活を広げます。
また、彼は勤勉で、貿易や農場経営に携わっていた経験から、家計のやり取りを複式簿記を使って家計を管理していました。
このような姿を「経済人」として考えて、経済学では『ロビンソン・クルーソー』がたびたび話題になります。
そんな小説の主人公の名前を使って、ある経済状態を分析します。
前提となる経済モデル
- 消費者1人
- 生産者1人
- 2財(消費財・時間)
無人島に漂着したロビンソンのような環境を想定して、経済がどのように循環しているのかを考える。完全競争市場がパレート効率的となる様子を簡単に分析できるため、たびたび登場するモデル。
前提①
- 消費者=労働力を提供する
無人島に漂着したロビンソンのように、時間を持て余している消費者が、生産のために自身の労働力を提供することを想定します。難しく言えば、初期保有量として時間だけを持っている状態です。
前提②
- 生産者=生産要素は労働力のみ
無人島ではロビンソンの労働力以外には生産要素がないため、生産者は労働力のみを使って消費財の生産を行います。
前提③
- 消費者=生産者となる
無人島ではロビンソン以外に人間がいないため、消費者と生産者はイコールです(ロビンソンは消費者であると同時に生産者でもある)。
消費者としてのロビンソン
ポイント
ロビンソンは、消費財(ココナッツ)をどれくらい消費して、余暇の時間をどれくらい楽しむかの選択を行う。
2財(ココナッツ・余暇の時間)を縦軸・横軸に取り、無差別曲線を描きます。
ここで
この後の分析をやりやすくするために「余暇の時間」を「労働の時間」と置き換えます。
このとき「余暇の時間」は消費するほど効用が増えるグッズ(Goods)ですが、「労働の時間」は消費するほど効用が減るバッズ(Bads)になることに注意します。念のためですが、多くの人は働くのが嫌で、遊ぶのが好きだと仮定しています。
すると、無差別曲線はこのようになります‥
横軸がバッズ(Bads)になったので、無差別曲線は右上がりの曲線になりました。
働くほど効用が減るので、同じ効用水準を維持するためには、ココナッツをたくさん消費して効用の減少分を補う必要があります。
もう1つポイント
無人島生活を続けているとココナッツの備蓄ができると考えて、予算制約線は原点を通らないと考える(難しく言えば、企業からの配当(利潤の分配)を受け取っている状態)
グラフのように予算制約線が原点を通らないことで、全く働かなくても、数日位なら備蓄したココナッツを消費できる状態を表しています。
生産者としてのロビンソン
ポイント
ロビンソンは、消費財を生産する(ココナッツを集める)ために自身の労働力を使う。
横軸に労働の投入量、縦軸にココナッツの生産量を取れば生産曲線が描けます。
生産曲線は、次第に緩やかな傾きとなる曲線になります。
これは「限界生産力逓減(収穫逓減)の法則」が働くためです。
働くほど疲れて生産力が落ちる、また、無人島にあるココナッツが減って集めるのが困難になります。そのため、労働時間を増やすほど生産性は落ちていきます(収穫逓減の法則が働いている)。
もう1つポイント
生産者は利潤最大化を目指すため、生産曲線と等利潤線の接点で生産量を決定する。
生産曲線と等利潤線の接点で利潤最大化するため、そのポイントで生産量が決定します。
生産と消費の関係
ポイント
ロビンソンは、消費財(ココナッツ)を自分で消費するために働き、また、どれくらい余暇を楽しむのかを考えつつ日々を生活している。
最後に「消費者としてのロビンソン」と「生産者としてのロビンソン」を合体させて経済の流れを1つのグラフで描く
合体‥!
無差別曲線と生産曲線の接点が最適消費量・最適生産量となる。
ちなみに
- 労働量=L
- 賃金=w
- 利潤=π
- ココナッツ=C
このとき、等利潤線(予算制約線)は‥
利潤(π)=ココナッツ(C)-賃金(w)×労働量(L)
上の「π=C+wL」という式を変形します。
- 利潤(π)=ココナッツ(C)-賃金(w)×労働量(L)
- 利潤(π)+賃金(w)×労働量(L)=ココナッツ(C)
左辺の点線部分に注目します。
仮に、この無人島に貨幣があったとして、ロビンソンは
- 企業を保有しているため利潤(π)を全額配当として受け取ります
- 労働に応じて賃金が支払われた分(wL)も収入になります
以上より、左辺「利潤(π)+賃金(w)×労働量(L)」はロビンソンの収入になります。ここで、右辺にココナッツ(C)だけが残っているのも確認します。
これは「ロビンソンの収入(π+wL)=無人島で入手したココナッツ(C)」を表しています。貨幣があったなら、無人島で手に入れたココナッツを全部購入できる分だけの収入を得ていることが分かります。
というわけで、1消費者・1生産者・2財(消費財・余暇時間)のロビンソン・クルーソー経済を見てきました。
ちなみに
ロビンソン・クルーソー経済がパレート効率的なのか考えるにあたり、そもそも1人しか登場人物がいないと判断のしようがない※ため、次に、この無人島にフライデーが漂着してきたケースを考えます。
※パレート効率的なのかは「誰かの効用水準を下げずに、誰かの効用水準を高めることが出来るのか」を考えます。つまり、比較対象が必要になるので1人だけだと判断できません。
パレート効率性を考える
(英語版Wikipediaより)
前提
- 消費者2人
- 生産者1人
- 生産要素2つ
- 2財(消費財・消費財)
ロビンソンのほかに、フライデーと共同生活を始めてからのケースを考えます。先ほどと違い複数人・複数財となるため、無人島の経済活動を現実経済の縮小版として考えて、完全競争市場のパレート効率性を分析できる。
フライデーは、ロビンソンが漂着した無人島の近くの島にいる原住民です。わけあって無人島で殺されかけていた原住民を助けたロビンソンが、金曜日だったことからフライデー(Man Friday)と名付けて、共同生活を始めます。
はじめに
ロビンソンとフライデーは、ココナッツ(C)と魚(F)の2財を消費すると考えます
実際には羊を飼って牧場を運営したり、麦を育ててパンを作ったりしていました。
2人の無差別曲線からエッジワース・ボックスを作ると‥
次に
2人の労働から生産可能性曲線を描きます
2人で協力したほうが効率的にココナッツと魚を獲得できるように思えますが、実際には2人には得意分野(技術制約)※があります
※魚を取るのが得意・ココナッツを取るのが得意などのこと
なので、実際にはある程度の役割分担を行って働くのが効率的となります(⇒ココナッツと魚をバランスよく取るポイントで生産量が決まっています)。
以上より
エッジワース・ボックスと生産可能性曲線を合体させて
最後に
この状態がパレート効率的なのかを確認します。まず、エッジワース・ボックスの分析から消費と生産を個別に見るとパレート効率的になっていることが分かります。
なので、消費と生産の整合性が取れて、全体的にパレート効率的になっているかを確認するために「2人の限界代替率(MRS)=2財の限界変形率(MRT)」となることを調べます。
【消費と生産のパレート効率性】←こちらの記事を参考にしてください。
確認する
- ココナッツの生産・消費量=C
- ココナッツの価格=Pc
- 魚の生産・消費量=F
- 魚の価格=Pf
- 賃金=w
- ロビンソンの労働量=Lr
- フライデーの労働量=Lf
①2人の限界代替率(MRS)=2財の価格比=(-)Pf/Pc
また
利潤(π)=ココナッツの価格(Pc)×生産量(C)+魚の価格(Pf)×生産量(F)-ロビンソンの賃金(wLr)-フライデーの賃金(wLf)と考えられるので
生産者の利益(π)=(Pc・C+Pf・F)-(wLr+wLf)
グラフでは縦軸にココナッツの生産・消費量を取ってきたので「C=」の形に式を変形する
- π/Pc=C+(Pf・F)/Pc-(wLr+wLf)/Pc
- C=π/Pc-(Pf・F)/Pc+(wLr+wLf)/Pc
- C=(π+wLr+wLf)/Pc-(Pf・F)/Pc
- C=-(Pf・F)/Pc+(π+wLr+wLf)/Pc
- C=-(Pf/Pc)・F+(π+wLr+wLf)/Pc
以上より、生産者の等利潤線は「C=-(Pf/Pc)・F+(π+wLr+wLf)/Pc」
さらに詳しく
ここで、いきなり等利潤線が登場してきましたが、これは傾きを求めるためです。生産者の利潤(π)の式を「(縦軸)=」の形にすれば等利潤線になります。生産者が利潤最大化を目指すとき、等利潤線が生産可能性曲線(生産曲線)と触れるポイントで生産量が決まります。(参考)【等利潤線】意味と求め方・生産関数と利潤最大化の関係
等利潤線と生産可能性曲線
つまり
等利潤線の傾きと限界変形率(MRT)は一致する
②限界変形率(MRT)=(-)Pf/Pc
以上①②より
- ①2人の限界代替率(MRS)=(-)Pf/Pc
- ②2財の限界変形率(MRT)=(-)Pf/Pc
「MRS=MRT」となるため、ロビンソン・クルーソー経済はパレート効率的
簡単にイメージする
数式的にはパレート効率的になりましたが、少し言葉でイメージしてみます。
ロビンソンとフライデーは、自分たちの労働力を提供します。
仮に貨幣があると考えて、生産者(企業)はロビンソンとフライデーに賃金を支払って、ココナッツと魚の生産・販売します。企業の生産活動によって生まれた利潤は、企業の株式を保有するロビンソンとフライデーへ配当として全額分配されます。
また、ロビンソンとフライデーは、賃金と配当から得た貨幣を使って、ココナッツと魚を消費します。
このような経済循環の中で、消費者としてのロビンソンとフライデーの効用が最大化するような消費活動が行われて、同時に生産者が利潤最大化を実現するような生産量が決まります。
消費者としてのロビンソンとフライデーは「ココナッツと魚をバランスよく消費したい」と考えているのに、生産者としてのロビンソンとフライデーが「魚ばかりを取っている」というようなことは起こらずに、無人島の経済は効率的に回っているのです。