ミクロ経済学 社会選択論

【ケイパビリティ・アプローチを簡単に】センが注目した潜在能力を分かりやすく

2019年7月28日

社会はどう評価されるべきなのか?

貧困問題を考える時に、何が必要なのか?

経済学者 アマルティア・センの「ケイパビリティ・アプローチ(潜在能力アプローチ)」を簡単に分かりやすく解説!

ケイパビリティ・アプローチ (潜在能力アプローチ)とは?

 

ケイパビリティ・アプローチ

ノーベル経済学者 アマルティア・センが主張した考え方。

社会を評価する時に、富ではなく、ケイパビリティ(潜在能力)が重要だと指摘した。

 

北国宗太郎
北国宗太郎
「ケイパビリティ」って何ですか?
けいpびりてぃ。簡単に解説するね
牛さん
牛さん
北国宗太郎
北国宗太郎
(牛さん分かるよ、言いづらいよね・・)

 

ケイパビリティ(潜在能力)とは?

みんなが自由な価値観で行動できる状態のこと。

選択肢の幅や、自由な生き方が、どれくらい実現できるのか?に注目した言葉。

 

ちなみに

センは、ケイパビリティ(潜在能力)を次のように表現しています。

(Wikipediaより・アマルティア・セン)

ある人が価値を見出し選択できる「機能」の集合のことであり、その人に何ができるかという可能性。

 

この言葉の意味がよく分からずに、混乱する人がたくさんいます。

分かる人は飛ばして大丈夫です。

 

北国宗太郎
北国宗太郎
牛さん、全く分からないです (ガクブル)
もっと簡単な言葉に置き換えるね。
牛さん
牛さん

 

ここで登場する機能という言葉は、「何かをすること」や「ある状態になること」という意味です。

 

重要

  • 「何かをすること」と「それをする自由」を区別する。

センは、この「何かをすること」を”機能”と呼びました。しかし、本当に重要なのは、それを自由に出来ることです。

あなたが走ることは出来ても、法律で禁止されたら走れません

 

「機能 (何かをすること) を、自由に価値判断して選択できること (やらない自由も含めて)」

アマルティア・センは、これを「ケイパビリティ (潜在能力)」と呼んでいるのです。

 

話を戻します

つまり

ケイパビリティ・アプローチ(潜在能力アプローチ)は、次の意味になります。

社会の良しあしは、経済的な豊かさ(富・基本財)では評価できない

各個人が、どれだけ自由な生き方を追求できるのか?その可能性がきちんと開かれているか?が社会を評価する指標である。

ケイパビリティ(潜在能力)の拡大が、社会の真の発展・豊かさにつながる。

 

北国宗太郎
北国宗太郎
なるほど、何となく分かりました。
うん。それじゃ更に話を進めるよ。
牛さん
牛さん

 

貧困問題の解決に向けて

  • 所得や富の増やすのではなく、人々が享受する自由を増大させるべき

アマルティア・センが、「ケイパビリティ・アプローチ (潜在能力アプローチ)」を主張した理由の1つが、貧困問題です。

従来の経済学では「貧困問題の解決策=経済的な豊かさの追求」でした。

 

センは、この考えに対して、それが本当の意味で貧困問題を解決することはないと指摘したのです。

国の経済成長はもちろん重要だけど、財や収入の多さでは、社会の豊かさ、発展度は測定できないし、国民が幸福であるとも限らない。

人々の幸福こそが、かけがいのない最大の目的で、経済発展や効率性、資産や富はその単なる手段にすぎない。だが現実には、この目的と手段が往々にして逆に誤解されている

(アマルティア・セン)

引用元:http://social-issues.org/community/ケイパビリティ・アプローチ

ケイパビリティ・アプローチが注目されている理由

センの「ケイパビリティアプローチ (潜在能力アプローチ)」が有名なのには理由があります。

 

潜在能力アプローチが登場したのが1980年代

自由経済が主流の中で、アジアなどの途上国の開発について、どのような目標を掲げるのが良いか?が議論になっていた時期があります。

 

これまでの経済学

従来の経済学 (厚生経済学)では、功利主義が採用されていたので、普通に考えると、経済的な豊かさを追求することが、重要な目標になります。

 

功利主義とは?

社会にいる人の”満足の総和”が最大となっていれば、その社会は望ましい (正義である)という考え方のこと。経済学(厚生経済学)では、この考えをもとに理論が作られている。

 

問題点

「満足の総和を拡大させること」を重要視していたので、1人の経済的な利益を拡大させれば、他の人が貧困でも問題はありません。

あくまで「総和」が最大になればいいのです。

極端な話ですが、1人が100億円持っていて、他の100万人が0円でも問題ないのです

 

例えば

  • 1人に100億円渡す
  • 100万人に1万円を配る

この時、100万人に1万円を配ると手間がかかり、費用が1万円発生します。

  • 1人に100億円渡す(総和=100億円
  • 100万人に1万円を配る(総和=99億9,999万円)

こうなるので、1人に100億円を渡す方が正しいことになります

 

ポイント

潜在能力アプローチは、経済学の問題点を浮き彫りにしつつ、途上国の開発に向けて、新しい指標を示したのです。

 

北国宗太郎
北国宗太郎
自由経済が主流の中で、新しい価値観を示したんだね。
うん。こうした背景から、この話が有名になったんだ。
牛さん
牛さん

 

今では「経済的な豊かさ以外」の重要性も浸透しています。

しかし1980年代は違います。「経済的な豊かさ」がすべての時代でした。

そんな時代に「ケイパビリティ・アプローチ(潜在能力アプローチ)」として新しい価値観を主張したので有名になったわけです。

 

ケイパビリティ・アプローチの問題点

 

最後に、ケイパビリティ・アプローチ(潜在能力アプローチ)の問題点に触れておきます。

 

センの「潜在能力アプローチ」は、理論ではなくアプローチです。

注意ポイント

具体性にどうすれば良いのか?は示されていません

社会が真に豊かになるため(目標に近づくため)には、「ケイパビリティ」を拡大するのが良い、という考えを主張しただけです。

 

これは問題点というか「今を生きる私たちが、この考えを持って何をするか?」という課題と捉える方が自然です。

 

財は、それを使って何が出来るか?は教えてくれない

例えば、ある人が、寄生虫性の病気に侵されて栄養失調になっているとき。財を使って、大量の食物を購入しても、その人の栄養失調は治らない。

(略)

私たちは、人の「機能」(functionings)にまで考えを広げる必要があるのだ。

(アマルティア・セン)『福祉の経済学−財と潜在能力』より

 

私の解釈:経済的に豊かになっても、貧困は解決しない。みんなが本当の意味で豊かになるためには、もっと深い考察が必要です。

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